その旋律は海面に映る光の揺れを切り取ったようで、聴くたびに心が引き締まる。'
浜千鳥'の伝統的な演奏スタイルは、音の余白と節回しの細やかさが肝心で、ただ速く歌えばよいというものではない。基本的にゆったりとしたテンポ感を保ちつつ、拍の中で自由に息を使い、語るようにフレーズを伸ばしたり縮めたりする。音階は西洋の長短調とは違う日本的な響きを持ち、五音音階に近い構成が多く、部分的な半音の揺らぎやスライドが哀感を生む。
僕は民謡を学んだ経験から、声の「こぶし」や音の「泣き」を重要視する演奏が多いことを指摘したい。具体的には一つの音をそのまま保持するのではなく、微妙に振幅をつけたり、前後の音へ滑らかにつなげることで感情を伝える。伴奏は一般に三味線や篠笛、時に尺八が用いられ、楽器自体も装飾音や擦れるようなアタックを加えることで、歌の抑制された悲しみや海の
寂寥感を際立たせる。
地域差も面白く、漁村で伝承されてきた演奏はより素朴で直線的、都市部で整理された舞台の演奏は装飾が増してドラマチックになる。歌詞の語りかた、息の入れ方、三味線の撥の強さなど細部の違いが曲の色合いを大きく変えるのが面白いところで、だからこそ同じ'浜千鳥'でも歌い手によってまったく別物に聴こえる。