記録を辿ると、
浜千鳥という題名が指す曲は少なくとも二系統あることに気づく。もっともよく知られている一つは
詩人・北原白秋の詩に曲をつけたもので、作曲者は山田耕筰だ。大正期の日本歌曲ブームの流れで生まれたこの作品は、抒情的でありながら日本語の詩情を巧みに音に移した点が魅力だと感じる。
僕が当時の音楽史を調べた限りでは、こうした歌曲は個人のサロンや学内の演奏会から世に出る例が多かった。『浜千鳥』も例外ではなく、東京の音楽関係のリサイタルで初めて公に歌われ、徐々にレパートリーとして広まった記録がある。正確な初演日時や奏者名が資料によってばらつくことから、口伝的に広がった面もあると推測している。
作風を比較すると、山田耕筰の他の歌曲、例えば『からたちの花』の扱いと同様に、ピアノ伴奏を基本に詩の行間を丁寧に表現するタイプだ。演奏史としては当初はリサイタル路線で普及し、その後SP盤やラジオ、合唱・オーケストラ版などに展開していった点が面白い。