愛は枯葉のごとく静寂に散りゆくへき地での教育支援活動を終え、南都に戻って三年目のこと。
私は病院で元夫と偶然再会した。
簡単な挨拶を交わす間、彼の視線が私の手にある処方箋を捉え、何かを悟ったように言った。
「まだ胃の具合が悪いのか?」
私は礼儀正しく頷いた。
「ええ、いつものことで」
「そうか。じゃあ、この保温ポットを持って行きな。チキンスープが入っている。本来なら玲奈に精をつけさせてやろうと思って……」
彼がなおも言葉を続けようとするのを、私は反射的に断った。
「結構よ」
彼の声がピタリと止まり、一瞬の間を置いて、深いため息に変わった。
「あの時、お前がもっと早く折れていれば、今頃こうして一人でいることもなかったのにな」
私は笑って、何も答えなかった。
その時、少し離れたところから小さな姿が、おぼつかない足取りで走ってきた。頬には涙の跡が残っている。
私は両手を広げて翔太を抱き上げた。彼の視線が何気なくそちらに向けられる。
「どうしたの?」
「ママ、優子さんがチョコ食べちゃダメって言うんだ」
その瞬間、保温ポットを持っていた彼の手から力が抜けた。
「アン、お前……もう子供がいたのか?」