登場の瞬間をつくるには、まず舞台全体の“空気”をコントロールすることが肝心だと考えている。
狙った効果を出すために、照明は単に明るくする道具ではなく、視線を導く道具だと思っている。背後からのバックライトでシルエットを浮かび上がらせ、前方を薄く抑えておくと人物の輪郭だけが際立って神秘性が生まれる。色味は温度差で心理を誘導する。冷色で緊張を作り、アクセントとして短く暖色を差すと一瞬で感情が変わる。
音響は照明と呼吸を合わせると強力だ。低域で体感を揺さぶり、中高域でキャラクターの足音や衣擦れを強めて存在感を与える。沈黙を意識的に使い、音が入るタイミングで強いパンチを与えると、観客の集中は一気にその一点に集まる。リハーサルでスポットオペレーターと合わせて“呼吸”の刻みを数えることが、成功の鍵になると僕は思う。こうして照明と音の位相を揃えると、
真打ち登場は単なる出現ではなく、劇場全体の記憶に残る一瞬になる。