偽りの貧乏、真実の絶望娘が白血病を患ってから、私・藤原千鶴(ふじわら ちづる)は一日五つも仕事を掛け持ちし、死に物狂いで治療費を稼いでいる。
その日の夜勤中、私はオーダーメイドの高級スーツを着た男が、プリンセスドレスの娘を連れているのを見た。
向かいの席には、天女のように美しい人気女優が座っている。
三人が注文したのは、総額1000万円のコース料理だった。
食事が終わると、男は娘に尋ねた。「家に帰ったら、なんて言うか分かってるな?」
娘は答える。「ママには、一晩中不用品拾いをしていたけど、売ったお金ではパン半分しか買えなかったって言うの」
男は満足そうに頷き、女優も微笑んで、娘に金のジュエリーセットを贈った。
帰り際、男は気前よく、従業員一人一人に10万円のチップを配った。
同僚は、なぜ泣いているのかと私に尋ねた。
私は、10万円もらったからだと答えた。
――ただ、それがベッドで寝たきりであるはずの夫からでさえなければ、もっと良かったのに。