読者の反応を長年見てきた経験は、こうした主人公に対する賛否の傾向をよく示している。
横柄な主人公が人気を得るかどうかは、単純に性格の一面だけで決まるわけではなく、物語の設計と読者に提示される“理由づけ”によって大きく変わる。私が注目するのは、傲慢さが単なる悪役属性に留まらず、物語上のエネルギーや緊張感を生むかどうかだ。例えば『デスノート』のライトは倫理的には問題のある人物だが、目的の明確さと頭脳の切れ味が読者側の好奇心を刺激し、嫌悪と共感が入り混じる複雑な魅力を生んでいる。
横柄さを軸にしたプロットを編集が勧める場面は確かにある。ただし条件がつく。まず、主人公の傲慢さに“説得力のある原因”を持たせること。家庭環境、過去の挫折、あるいは達成感を求める空白が理由になれば、読者は単なる意地悪を耐えるだけでなくその裏側を探りたくなる。次に、才能や有能さが同居していること。無意味に悪いだけだと読者は
離れるが、有能で結果を出す人物だとリスペクトと嫉妬が混ざる。『ジョジョの奇妙な冒険』に見られるような強いカリスマ性や独特の美学は、横柄さを魅力に変える典型だ。
実務的には、編集側はリスク管理を好む。横柄な主人公を勧めるとしたら、早い段階で読者の“救い”となる要素を挟むことを要求するだろう。具体案としては、序盤は主人公の勝利で読者の興奮を得つつ、中盤以降で”傲慢の代償”を描き、成長か破滅かを選ばせる構成が有効だ。あるいは対立する魅力的なライバルや、静かに影響を与える脇役を配置して、主人公の行動が周囲にどう影響するかを鮮明にする。私ならこうしたバランスを整えられるプロットであれば、編集に自信を持って提案する。最終的には読者が「なぜこの人物を追いかけたいのか」を常に感じられるかどうかが勝負だと思う。