曲の系譜を辿るのがまず楽しい。『
二人静』について語るとき、私の頭に真っ先に浮かぶのは伝承と写本の関係だ。楽曲がどの文脈で歌われ、誰が書き残したかを示す一次資料が散逸している場合、言葉遣いや旋律の断片、地域差に注目して系統を組み立てるしかない。歌詞の語彙や句構造を複数の写本で照合すると、後世の補作や改作の痕跡が見えてくることがある。
旋律面では、音階の使い方や反復句のパターンを比較対象曲と並べて解析する。たとえば、雅楽の断片である'越天楽'のフレーズと比べると、共通する演奏習慣や留意点が浮かび上がることがある。また、譜記の有無が判定に大きく影響するため、録音資料や口承記録も重要だ。演奏者の訛りや装飾音の入り方から、地域的起源や時代の流行が推測できる。
最終的には「誰が書いたか」を断定することが目的ではなく、作詞・作曲がどのような社会的・文化的プロセスで成立し、受容されてきたかを説明することを優先する。複数の要因を並列に検討して、作者像を慎重に描き出すのが私のアプローチだ。