捨てられた蒔絵職人は、氷のCEOと世界一のブランドを作ります

捨てられた蒔絵職人は、氷のCEOと世界一のブランドを作ります

last updateÚltima actualización : 2025-09-23
Por:  黒兎みかづきCompletado
Idioma: Japanese
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「お前の工房は古臭いガラクタだ」 婚約者に裏切られ、伝統工芸の家業も土地も全てを奪われた桜。 けれど桜は諦めなかった。絶望の底で彼女が創りだしたアクセサリーは、やがて世界を魅了していく。 「君こそが、誰にも奪えない宝だ」 そう言って手を差し伸べたのは、氷の皇帝と恐れられるラグジュアリーブランドの若きCEOだった。 パリの舞台で大成功を収めた桜の元に、破産寸前の元婚約者が「僕が間違っていた!」と泣きついてくるが――。 これは全てを失った女性の、痛快逆転シンデレラストーリー。

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Capítulo 1

01

 夕暮れの光が、大きな窓から斜めに差し込んでいた。金沢、ひがし茶屋街の路地裏にひっそりと佇む『西園寺工房』。その広い仕事場は、ひとけがなくがらんとして静まり返っていた。

 西園寺桜は、作業台に向かい、息を詰めて一本の古い蒔絵筆を手入れしている。祖父の指の形に馴染んだ黒漆の軸を、柔らかな鹿の皮で丁寧に磨き上げる。かつて人間国宝にまで上り詰めた祖父が、生涯手放さなかった筆だ。

 部屋には、漆の甘く深い匂いだけが満ちている。

(おじいちゃん、この筆の感覚、まだ指が覚えているよ)

 祖父から受け継いだ技術と、この工房に宿る魂。それだけが桜の誇りだった。

 しかし、誇りだけでは人の腹は満たされない。最盛期には十人以上いた職人たちも、今では三人だけ。その彼らに、来月の給金を払えるあてさえないのだ。

 伝統工芸の分野は、年を追うごとに厳しさを増している。

 人々は便利な大量生産の工業製品に目を奪われて、古臭い技術に見向きもしない。

(私のせいで、みんなの生活が駄目になってしまう)

 桜の胸に、ずしりと重い責任がのしかかった。

 仕事場の静寂を破ったのは、不釣り合いなほど軽快な着信メロディ。作業台の隅に置かれたスマートフォンが、ぶるぶると震えている。画面には【東山 健斗】という名前と、白い歯を見せて笑う彼の写真が映し出されていた。

 桜は一瞬ためらい、それからおそるおそる通話ボタンに触れた。声が、自分でも驚くほど弱々しかった。

「もしもし……健斗さん」

『もしもし、桜さん? やっぱり声が暗いよ。心配しなくていいって言ってるだろ? 僕がついているんだから』

 電話の向こうから婚約者の声が聞こえてくる。いつも通り明るく力強い自身に満ちた声だった。

 その声を聞くと、不安で張り詰めていた心が少しだけ和らぐ。

『工房のこと、もう悩まなくていい。僕が君と、君の大切な工房の未来を、必ず守るから。信じて』

 彼の言葉は、桜には救いのように感じられた。ITベンチャーを一代で築き上げた彼の手腕は、メディアでも度々取り上げられている。時代の寵児と言われていた。

 そんな彼が言うのだから、きっと大丈夫。桜は、自分に言い聞かせるように、その光を手繰り寄せた。

「はい。信じています」

(この人しかいない。この人がいれば、きっと工房を立て直せる)

 もう他に手はない。すがりつくような思いが、桜の冷静な判断を少しずつ曇らせていた。

 電話を切ると、桜の視線は自然と壁に掛けられた額へと向かった。祖父が残した、力強い筆跡。

『本物の仕事は、時代を超える』

(おじいちゃん……。今の私には、この言葉を守る力がありません)

 時代の流れは残酷だ。どれほど魂を込めても、売れなければ伝統は続かない。お金がなければ立ち行かないのだ。

 そんな重い事実に打ちひしがれそうになった時、再びスマートフォンの画面が光った。健斗からのメッセージだ。

『そうだ、明日のパーティのことだけど』

 桜がメッセージを開くと、胸が高鳴るような言葉が目に飛び込んできた。

『僕の会社の創業記念パーティで、僕たちの未来について、重大な発表をするつもりなんだ。だから、桜さんには世界で一番綺麗な姿で、僕の隣にいてほしい。とびきりお洒落してくるんだよ』

(私たちの、未来……)

 その言葉が、桜の心に温かい希望の火を灯した。

 結婚の発表だろうか。それとも、工房の革新的な再建計画の発表だろうか。

 どちらにせよ、それは暗闇の先に見えた確かな光だった。

 桜はスマートフォンをそっと胸に抱きしめて、もう一度、祖父の額を見上げた。不安と期待が入り混じった瞳が、潤んでいる。

「おじいちゃん、見ていてね」

 桜は立ち上がると、工房の奥にある私室へ向かった。桐箪笥の引き出しをゆっくりと開ける。中から現れたのは、白地に繊細な四季の花々が描かれた、加賀友禅の訪問着だった。祖母が桜の成人を祝うためにと、大切にしまってくれていたものだ。職人一家の娘である彼女にとって、それは数えるほどしかない、とっておきの晴れ着だった。

 明日の夜、自分は人生で最も輝くのだ。桜はそう信じて疑わなかった。

 その輝かしい一夜が、奈落への入り口だとは知る由もなく。

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