夜風に醒める心
山城彩花(やましろ あやか)と藤原翔真(ふじわら しょうま)が交際を始めて六年。ようやく結婚を控えた矢先、二十年前に行方不明になっていた妹・美月(みづき)が山城家に戻ってきた。
彩花は必死に埋め合わせをしようとしたが、美月はそれを受け入れず、逆に「嫉妬深い」と決めつけ、両親の愛情を横取りしたうえ、翔真にまで目を向けた。
気づけば周囲は皆、美月の肩を持っていた。翔真でさえも。
「美月ちゃんはこれから佐伯家に嫁ぐんだ。だからこそ、できる限り償ってやるべきだろう」
そう言い、翔真は彩花を置き去りにして美月のために動いた。
美月と並んで家族写真を撮り、彼女が欲しがった一点物のネックレスを買い与え、さらには彩花を人里離れた道路に置き去りにし、狼に襲われかける危険に晒された。
それでも翔真は、美月に負い目を抱き続けていた。
――そして迎えた結婚式当日。
翔真が知ったのは、佐伯家に嫁ぐ花嫁が美月ではなく、彩花だったという事実だった。
彼は狂ったように迎えの車列を止めに走ったが、彩花は一度も振り返ることなく、冷ややかに前を向いたまま去っていった。