共に蝶となり、風と舞う
高校三年の時、両親が亡くなり、私――佐鳥意知子(さとり いちこ)に残されたのはみすぼらしい家だけだった。
けれど私は、ごみ箱の中から一人の弟を拾った。
彼――菅原辰海(すがわら たつみ)はうちの学校で二年生の学年一位だった。
だが誰からも見下され、学校でいじめられても教師は見て見ぬふりをしていた。
なぜなら、たとえ他人に殴られなくても、酒に溺れた父親に毎日殴られ、気弱な母親は決して逆らおうとしなかったからだ。
私は必死に彼を家まで引きずって帰り、手当てをして、何日もかくまった。
やがて彼の母は殴り殺され、私は警察を呼び、彼の父親を捕まえさせた。
「ねえ、これからは一緒に住もう。私にはもう家族はいない。だから、姉さんって呼んで。私があなたの学費を出してあげる!」
彼は名門大学に進みたいと言った。私は学校を辞め、露店を出し、血を売り、日雇いの危険な仕事もした。
卒業後、彼は起業したいと言い、私は全ての貯金を差し出した。
そしてあの日、彼は輝く舞台の上で、若々しく美しい少女――小林庭子(こばやし ていこ)と並び、青年起業家のトロフィーを受け取った。
私はうつむき、手の中のがんの診断書を見つめ、苦く笑った。
結局、私は彼を、自分では到底釣り合わない人間に育ててしまったのか。
……退場の時が来たのだ。