第865話 あんたの為にそんなことをしている

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• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1449話 番外編九十七

  ゆみは心配そうに紗子を見つめた。「もう一度、頑張ってみたら？」「いいの」紗子は淡々と答えた。「あの人は恋愛に興味がないみたい。どれだけ努力しても無駄だわ」まさか佑樹が恋愛にまったく興味がないなんて思ってもみなかった。それに、紗子をそんなふうに拒絶するなんて……──なのに、なぜだろう。心のどこかで、ほんの少しだけホッとしている自分がいた。……念江お兄ちゃんが傷つかずに済んで、ある意味よかったのかもしれない。少し考えてから、ゆみは口を開いた。「紗子、念江お兄ちゃんのこと……考えてみたことある？」「やめてよ」紗子はたしなめるように言った。「知ってるでしょ。私は、念江のことはただの友達としか見てないわ」「でも……友達から恋人になることもあるじゃない？」ゆみは気まずそうに笑いながら説得しようとした。紗子は真剣な目でしばらく彼女を見つめてから口を開いた。「ねえ、自分でも無理って思ってるんでしょ？その表情でわかるわ」ゆみは言葉に詰まった。紗子はゆっくりと立ち上がった。「ゆみ、私、父さんのところに戻って住むことにしたから」「今から！？」ゆみは驚いて問い返した。「なんでそんなに急に？」「これ以上ここにいても、気まずくなるだけだし……」紗子は静かに微笑んだ。「でも、私たちはこれからもずっと会えるよね？」ゆみは寂しさを噛みしめながらも、紗子の気持ちを尊重することにした。「もちろんよ、紗子。だから引き止めない。いつでも帰ってきてね。待ってるから」「うん、じゃあ荷物まとめてくるね」「うん」ほどなくして、紗子の家の運転手が迎えに来て、彼女は去っていった。紗子を見送ったあと、ゆみは澈に会いに出かけようとした。ところがそのとき、思いがけず佑樹が帰ってきた。ゆみが出かけようとしているのを見た佑樹は、車から降りて彼女の前に立ちふさがった。「また澈のところに行くのか？」ゆみはむっとしたように唇を尖らせて彼を見つめた。「紗子を追い出したくせに、私のことに口出す権利はない！」「ゆみ」佑樹はため息をついた。「好きでもない奴に告白されて、受け入れるのか？」「無理」ゆみは不機嫌そうに答えた。「そうだろ？好きでもない人と、ずっと一緒にはいられ

• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1448話 番外編九十六

  「でも」佑樹は彼女をじっと見つめて言った。「僕はお前のことが好きじゃない」その言葉を聞いた瞬間、紗子は身体がズシンと重くなった。心拍数があがり、胸が痛んだ。「分かってるよ……あなたが私を好きじゃないことくらい」紗子は小さく、しかしはっきりとした口調で言った。「私は……あなたが好き。でも、あなたが私を好きになってくれることなんて、最初から望んでなかった」「それなら、僕を好きでいることに意味があるのか？」佑樹は淡々と続けた。「念江はとてもいい奴だ。性格も穏やかで、僕なんかよりずっとマシだ。お前と彼なら、きっと理想的なカップルになれるはずだ」「私の気持ちをあなたが指図しないで」紗子は顔を上げ、きっぱりと答えた。「あなたにはあなたの考えがあるように、私にも私の気持ちがある。あなたは念江のためにそう言ってるようだけど、私は何も感じないわ」佑樹は口元に冷たい笑みを浮かべた。「そんなに熱くならなくていい。ただの意見だ」「そういうのいらない」佑樹は肩をすくめた。「好きにしろ。ただし、僕に幻想を抱くのはやめた方がいい。僕は一生結婚しない主義なんだ」「結婚しない……？」紗子は彼の言葉の意味がよく分からなかった。「ああ」佑樹は静かに言った。「僕の人生はゆみを守るためにある」その言葉を聞いた瞬間、紗子は嫌な予感がした。「佑樹、あなた……」佑樹は紗子に視線を真っ直ぐ向けた。「まさか、僕が自分の妹を好きなんじゃないかって、思ってる？」紗子は動揺を隠すことなく、ぎこちなく頷いた。「……ああ、そうだよ」佑樹は躊躇なく言い切った。「たぶん僕は、妹のことが好きなんだ。間違ってないと思う」「それって……男女の意味で、ってこと！？」紗子の声が震えた。「そう思ってくれても構わない」「でもそれ……倫理に反してるわ！」紗子は声を上げた。「佑樹……あなた、正気じゃない！」ゆみの友人として、これは絶対にあってはならないことだった。佑樹は嘲笑うように笑った。「馬鹿だな、お前は」「……どういう意味？」「僕が妹を愛してるって、本気で思ったのか？」佑樹は口元に冷たい笑みを浮かべた。「悪いけど、僕は普通の人間だ。そんなこと、あるわけないだろ？」「で

• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1447話 番外編九十五

  紗子と佑樹が出かけた後、念江の表情は徐々に曇っていった。目には寂しさを浮かべ、彼は唇を噛みながら階段を上った。一方のゆみは既に目を覚ましており、階段の上からその一部始終を見ていた。彼女は眉をひそめ、念江を呼び止めた。「念江お兄ちゃん」念江は、顔を上げるといつもの笑みを浮かべた。「やあ、ゆみ。もう起きていたのか？」「部屋に来て。話があるの」「……わかった」部屋に入ると、ゆみはソファに座る念江をじっと見据えた。「お兄ちゃん、紗子のこと好きなんでしょ？」ゆみは単刀直入に尋ねた。念江は驚いて目を見開いたが、ゆみは構わず続けた。「ごまかさないで。私にはわかるんだから」念江は目を伏せた。「……どうして気づいたんだ？」「さっき階段で全部見てたの。お兄ちゃん、寂しそうな顔してたもん」「彼女は佑樹のことが好きだ。割り込むつもりはない」念江は苦笑した。ゆみは深いため息をついた。「いつから好きだったの？」念江は迷いなく答えた。「小さい頃、初めて会った時からだ……とても静かな子だった」「複雑すぎる……」「ん？」念江はきょとんとした。「紗子は佑樹お兄ちゃんが好きだけど、彼は彼女に冷たい。でも念江お兄ちゃんは紗子が好き……これって完全に三角関係じゃん！マンガみたい！」「確かに複雑だな……だが、僕からは何も言わない。彼女に余計なプレッシャーをかけたくないから」「……片想いって、すごく苦しいものだよ」ゆみは真剣に言った。「一度だけでも気持ちを伝えるのか、それとも何も言わずそばで見守るのか。ちゃんと考えた方がいいよ」「そばにいれるだけで、十分だよ」念江の声には確固たる決意が込められていた。「念江お兄ちゃんも佑樹お兄ちゃんも、どっちも私の家族だから、私はどっちにも味方できない。私は紗子の立場に立って、彼女の選択を全力で応援するだけ。でも……お兄ちゃんが本当に心配」「心配いらないよ。これは僕が選んだ道だ。大人なんだから、自分の選択には責任を持たないとね」ゆみは頬杖をついた。「今はなんでか……佑樹お兄ちゃんと紗子がうまくいかないといいのに、って思っちゃう」「なんで？」「念江お兄ちゃんに傷ついてほしくないもん。でも、これはどうにもできない」「バカだな……

• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1446話 番外編九十四

  ゆみが興味津々な様子で食いついてきた。「なんの話？私にも教えてよ！」紗子は佑樹の言葉をゆみに伝えた。「マジで！？」ゆみは興奮して飛び上がりそうになった。「佑樹兄ちゃんが食事に誘ってくれたの？二人きりで？」「そ、それはまだわからないわ……」紗子は恥ずかしく言った。「お兄ちゃんって実は照れ屋なんだよ」ゆみは言った。「二人きりになりたくて誘ったんでしょ。間違いなく初デートよ！」「デ、デート……」紗子の顔はさらに赤くなり、手で頬を覆った。「そんなの、デートだなんて考えたことなかった……」ゆみは焼き鳥を頬張りながら言った。「今すぐ明日着る服を選びましょ。それから早めにお風呂入って、ゆっくり寝なさい。最高の状態で佑樹お兄ちゃんと会わなくちゃ」「い、一緒に来てよ、ゆみ……」紗子が懇願するように見上げた。「えー！？デートの邪魔はできないよ！」ゆみは慌てて手を振りながら食べ物を飲み込んだ。「私まで行ったら、佑樹お兄ちゃんに殺されちゃうわ」紗子はがっかりしたように俯いた。「でも佑樹と二人きりだと緊張して……」「そりゃ仕方ないわよ」ゆみがふんわり笑った。「恋に堕ちてるんだから」からかわれた紗子は居たたまれなくなった。「わ、私服を選びに行くわ！」そう言って部屋を飛び出した。ゆみは腹を抱えて大笑いしながら、紀美子が用意してくれた料理を次から次に口に運んだ。……翌日、土曜日。佑樹はカジュアルな服を着てリビングで待っていた。紗子もシンプルな装いだった。ジーンズに清楚なシャツという組み合わせは、素朴ながらも爽やかなイメージを与えていた。階段を降りソファで雑誌を読んでいる佑樹の姿を見つけると、紗子は何度も深呼吸して気持ちを整え、それから近づいていった。「お待たせ」紗子もソファに腰掛けた。佑樹は顔も上げずに軽く頷いた。「ああ、念江を待ってくれ。すぐ降りてくるはずだ」「念江も……？」紗子の笑顔が少し曇った。佑樹はわずかに眉を寄せ、彼女を見上げた。「どうしたんだ？」「い、いえ……なんでもない」紗子は慌てて首を振った。てっきり、佑樹が自分ひとりを食事に誘ってくれたのだと思い込んでいたが、違ったのか。まさか、念江も一緒だなんて

• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1445話 番外編九十三

  「そうよ、すごいでしょ？」ゆみは頷いた。「閻魔様って、見た目どんな感じだった？」臨が目を輝かせて尋ねた。「寿命を迎えたら会えるわよ。今聞いてどうするの？」ゆみは呆れたように弟を見た。「だって気になるじゃん？」臨は唇を尖らせた。「そんなことはあまり聞かない方がいいよ」「ところでこの数日、何か変なものは来なかった？」ゆみは思い出したように尋ねた。「来てたけど……」臨は紗子の方を見た。「中までは入って来なかったわ。外から覗いてただけ」紗子が説明を続けた。「でも死に方が酷いのがいて、臨くんは驚いて何度も気絶しそうになってたわ」「しょうがないね。彼は紗子ちゃんほどの度胸がないんだから」ゆみは顔をしかめ、恥ずかしそうに頬を赤らめる臨を見た。「紗子姉さんは本当に強いよ。幽霊たちと話すことまでできたんだ」臨は頭を掻きながら苦笑した。「よし、用事がもう全部済んだし、そろそろ帰ろう」「お二人とも、今回はずっと付き合ってくれてありがとう。おかげでうまくいったわ」「いいのよ。無事に帰って来れて良かった」夜明け前、三人は家に戻った。森川家の大人たちはまだ起きていた。家中の明かりがついていて、彼女たちの帰りを待っていたようだった。「ただいま！」臨が真っ先に駆け込んで叫んだ。それを聞いて皆が立ち上がった。「どうだった？ゆみは無事なの？」紀美子が慌てて聞いた。「自分たちで確認して」そう言って臨が道を空けると、ゆみと紗子がちょうど靴を脱いで入ってきた。たちまち全員でゆみたちを取り囲んで状況を尋ねた。約1時間後、ゆみはようやく解放され、2階の自分の部屋に戻った。ゆみがお風呂に入ったため、紗子は紀美子が準備する夜食を運びに1階に降りようとした。ちょうどドアを閉めた瞬間、向かいの部屋のドアが開いた。佑樹だった。佑樹が顔を上げると、紗子と視線が合った。「まだ起きてたの？」紗子はどぎまぎしながら下を向いた。「ああ」佑樹はドアを閉め、少し躊躇ってから返事をした。「ゆみの件、苦労をかけたな」「いいえ」紗子は慌てて笑顔を作った。「だって親友だもの。怖いからって逃げ出すようじゃ、話にならないわ」佑樹はうなずいた。「明日、一緒に食

• 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1444話 番外編九十二

  「お前の願いは聞き入れたが、地獄の規則は無視してはならん」閻魔様は言った。「罰を受けます。どんな罰でしょうか？」ゆみはそう言いながら頭を下げた。「お前は、これからの輪廻転生すべてで、魂を捕らえる者となれ」それを聞いて、小林の目は大きく見開かれた。輪廻転生すべてで？あまりにも刑が重すぎる！しかし、ゆみは確かに地獄の規則に触れているため、小林は口を挟まずに小さくため息をついた。「不公平です！」ゆみが突然背筋を伸ばして抗議した。「お前、自ら冥府に来たくせに、己の罪を認めないと？」閻魔様は眉を寄せた。「はい！」ゆみは言い返した。「閻魔様は私が来るのを知っていたくせに、呼び寄せておいて今さら規則違反だなんて。私の条件を呑むために輪廻転生すべてで魂狩りをさせようとするなんて、閻魔様ご自身は規則違反にならないんですか？」閻魔様はゆみを驚いた表情で見つめた。「役人だけが許されるなんて、不公平なのでは？」ゆみはさらに食い下がった。「閻魔様は親切で公正なお方だとお聞きしましたが、違うようですね」「ハハハハ、実にいいことを言うな！小林、お前の教え子は面白い！」そして閻魔様は小林の方を見て言った。「900年以上生きてきたが、わしにこうも堂々と物申す者は初めてだ。面白い」閻魔様の声が次第に明るくなっていくのを感じ、小林は驚いて顔を上げた。「今回は重罰は免じてやろう。冥府のために働き、功徳を積めば、輪廻転生すべての罰は解いてやる」「はい！」小林が何か言う前に、ゆみが即座に承諾した。「寛大な閻魔様の小さな罰、喜んで受けます！」「この小娘は……」閻魔様は大笑いした。「さあ、帰るがいい。もう三日近く経っている」ゆみは驚いた。そんなに時間が経っていたのか？「おじいちゃん、早く帰りましょう！閻魔様、失礼します！」ゆみは急いで立ち上がって言った。閻魔様は手を振り、帰ることを許可してくれた。小林はゆみを連れて冥府を後にし、養豚場の傍に戻った。「ゆみ、ますます図太くなったな」ゆみは舌を出した。「ただ思ったことを言っただけ」「しかし閻魔様で良かった。他の冥王様なら、もう二度と現世に戻れなかったぞ」「だから、閻魔様のために魂を捕まえる。小林おじいちゃん