離婚を切り出した翌日、慰謝料10億円の書類にサインをし妻は消えたて。失踪後、双子の妊娠、父親は別人説、謎の海外送金疑惑が発覚。妻が今まであんなに尽くしてくれたのは嘘だったのか?もう一度、結婚していた頃に戻りたい御曹司社長の後悔
Lihat lebih banyak「おめでとう、妊娠してる!……双子だよ!一条くん、きっと驚くね!」
専属医の三上先生の言葉が何度も頭の中で復唱されている。
「信じられない!嘘?本当に私のお腹に子どもが?しかも二人も!?」
嬉しいというよりも頭の中が真っ白だ。結婚して三年。妊活に励み子どもを授かることを待ちわびていた。ずっと、ずっと待ち望んでいた瞬間が今日、いきなり二倍になってやってきた。
病院からの帰り道、窓の景色を眺めながら私は夫の瑛斗に報告する場面を何度も想像した。彼のくしゃっと笑った顔。少し照れたような心の底から嬉しそうな顔。早くその顔が見たかった。
長年仕えている運転手が私の変化に気づき話しかけてきた。
「華お嬢様、何か良いことでもあったのですか?さきほどからとても幸せそうなお顔で微笑んでいらっしゃいますね。」
「ええ、とっても素敵で幸せなことがあったの。」
夫の一条瑛斗は、一条グループの若きCEO。切れ長の瞳、通った鼻筋、そしていつも自信に満ちた佇まい。初めて見た時、私はその完璧なまでのルックスに息を呑んだ。瑛斗のことを高校の時からずっと好きで初恋の人だった。
神宮寺家の令嬢である私は、父や祖父が決めた相手と結婚をしなくてはいけなかった。いわゆる「政略結婚」だ。家のために自分の気持ちとは関係なく結婚することは絶望的な未来に思えた。しかし、運命は残酷なだけではなかった。
お見合いの席で、一条家の御曹司として瑛斗が現れた時は信じられなくて言葉を失った。まさか初恋の相手が夫になるなんて想像もしていなかった。その夜、喜びと幸せで胸がいっぱいになり興奮して眠れなかった。こうして私たちは夫婦になった。
あれから三年。瑛斗は社長に就任して多忙な毎日を送っているが、私は初恋の相手瑛斗の妻になれたことに幸せを感じながら毎日を過ごしている。
(念願の妊娠だもん。こんな嬉しいニュースは直接伝えて瑛斗の喜ぶ顔が見たい)
病院を出てすぐに電話で報告しようと思ったが直接伝えることにした。
病院から帰ってきてすぐに瑛斗が好きなラザニアを作って帰りを待つことにした。もちろんソースは一から手作りだ。料理長の作るご飯も美味しいが、こんな特別な日は自分で作って瑛斗を喜ばせたかった。
(どんな顔をするだろう。どんな言葉をくれるだろう。)
ソースを煮込みながら、彼の喜ぶ姿とこれから始まる家族4人の生活を想像しながら彼の帰りを待っていた。出来立てを食べて欲しくて帰りが何時になるか連絡したが返事は来ない。ソファで待っているうちにうたた寝をしてしまい、車のエンジン音で目を覚ました時には既に22時を過ぎていた。
瑛斗を出迎えるため慌てて玄関へ向かう。
「おかえりなさい」
「ただいま。」
「なんだか疲れているみたいだけど大丈夫?」
「ああ。……話があるんだ。少しいいかな」
いつもより冷たく沈んだ声で瑛斗が静かに言った。疲れ切った様子の瑛斗だが、大人の男の色香をまとい、疲れた顔さえも魅力的だった。3年たった今でも瑛斗と目が合うとドキドキして胸が高鳴る。
表情がどこか硬い瑛斗の後ろを歩きリビングへ入った。
(仕事で疲れているのかもしれない。でも妊娠のことが分かったら気持ちも変わるかも!)
「先にご飯にする?今日ね、話をしたいことがあって瑛斗の好きなラザニアを作って待っていたんだ。」
「……そうやって機嫌でも取っているつもりなのか。」
「え……?」
瑛斗の言葉に耳を疑った。普段はそんなことを言う人ではない。頭の回転が早く、いつも冷静で落ち着いて、人が不快に思うような台詞は今まで一度も言ったことがないので信じられなかった。
「瑛斗、仕事で何か嫌なことや問題でもあったの?何か疲れている?私に出来ることがあるなら……」
ソファに座る瑛斗に近寄り、膝をついて手を重ねると怪訝そうな顔をしてすぐさま振り払った。
「触るな。もう放っておいてくれ。それよりここにサインをしてくれないか?」
彼は深くため息をついた後、鞄から一枚の白い封筒を取り出した。
何の書類か分からず受け取ったがタイトルを見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
(なにこれ……)
【離婚協議書】 彼から渡された書類にはこう記されてあった。
玲の本性が露わになるにつれて、俺の後悔は日ごとに膨れ上がっていった。玲から見せられた、華が自身の海外口座へ大金を送金している画像。そして、華が産んだ子が俺との血縁関係が認められなかったとされたDNA鑑定の結果。かつては疑う余地のない「物的証拠」だと思い込んでいたそれらが、玲の冷酷な支配を目の当たりにした今となっては、なぜか胡散臭く思えて仕方なかった。あの完璧すぎるまでの証拠がかえって不自然に見えて、実は何者かによって巧妙に作られたものではないかと勘ぐってしまうのだ。(玲ならば裏でどんな手も使うだろう。華を追い出すためにどんな嘘もつき通すかもしれない。)その思考が一度芽生えるともう止まらなかった。探偵に再依頼しても華の行方は依然として掴めない。その報告を聞くたびに、俺の自責の念をより一層強くするばかりだった。(俺のせいで華はどこか分からない場所で一人で苦しんでいるのかもしれない……。俺のせいで……。華は孤独の中で俺に助けを求めているかもしれない。)その想像が俺を蝕んでいた。そんなある日だった。一条グループの新規事業視察のため、俺は長野へ訪れていた。
特集:一条グループ初の女性幹部 一条 玲さん玲は、副社長としてメディア露出を増やし華々しく改革を謳っていた。しかし、玲に脚光が当たるほど、その裏で俺の実権は巧妙に削られていく。重要なプロジェクトの責任者は次々と外部の人間や玲の息のかかった者にすり替わり、俺の承認なしに大規模な組織改編が断行されることもあった。会議で意見を述べても、玲は冷静な顔で「瑛斗さんのご意見ももっともですが、現状にはふさわしくないかと」と切り返し、最終的な決定権は彼女が握っていた。俺は、会社でお飾りの社長になりつつあった。家庭でも状況は変わらなかった。父とは華との一件依頼確執が生まれ、その空気を察した玲が上手く父の懐へと入っていった。父と母は、玲の献身的な態度にすっかり心酔していた。「玲さんがいてくれるから助かるよ」という父の声を聞くたび、俺の胸には冷たい風が吹き抜けた。「お父様、瑛斗さんはこのところずっと疲れているようで最近は顔色も優れません。私が会社でのサポートをより深めるようにしたいのですが……」「そんなことはない、大丈夫だ」「瑛斗さん、無理をしないでください。本人が気がついていない状態が一番危険なのよ。夜中、いつもうなされているんです。」玲は俺を庇うような体裁を取りながら、あたかも事実のように話をしている。実際は不眠に悩まされており玲の横でまともに寝ることが出来ず悪戯に時間ばかりが過ぎている。玲のいない時間が俺がゆっくりと休める時間だった。
訪問のたびに貰う、可愛らしいお菓子。控えめな甘さで過度なラッピングがされていないその姿は、謙虚で健気な彼女の姿を映し出しているようだった。(彼女が私のためにお菓子を作ってくれていたらいいのに。)しかし、その希望はあっけなく打ち砕かれた。私のためではなく、別に思いを寄せる相手のために作ったと教えてくれた。作った中で一番うまくできたものを好きな人用にラッピングをし、残りをいつも私にくれたのだろう。そして、数年後に華の結婚が決まってから、学生時代にお菓子を渡していた相手が夫となる一条瑛斗だということを知った。彼女には言えなかったが、長年、神宮寺家の専属医として仕え、父の件もあったため、私は密かに華と縁談の話が私の元へ来ることを願っていた。神宮寺家と一条家、この二つの名家が結ばれることは、政略結婚の意味合いが強いことは承知していた。政略結婚という形は好きではなかったが、華が初恋の人と結ばれ、幸せそうに笑っている姿を見て、私は無理に自分自身を納得させて祝福することにしたのだ。結婚後も、華はつらい妊活にも笑顔で耐え、三年もの間、決して弱音を吐
(父の代わりに神宮寺家の専属医として仕え、どれほどの歳月が流れただろうかーー)幼い頃に父を亡くした私は、父の背中を追い医師になることを決意した。もっとも、先祖代々医者の家系だったので、それ以外の選択肢はなかった。しかし、父のことを心から尊敬していた私は、一般的な内科医の道だけでなく繊細な命と向き合う産婦人科医としての道も選んだ。父が亡くなったあの時、神宮寺家との間に生じた言葉にはできないわだかまりは、私の心に深く刻まれていた。神宮寺家に仕えたばかりの頃、華はまだ高校生だった。目を見張るような美少女だったが、家柄や年頃なのか、男性への免疫が低いようだった。訪問時に私が笑顔で挨拶をすると、華は顔を赤らめ視線を逸らし恥ずかしそうに言葉を返してくる。しかし、何度か訪問して会話を交わすようになるといつからか華は手作りのお菓子をプレゼントしてくれるようになった。「三上先生、もしよかったら少しですが……。」そう言ってラッピングが施された可愛らしいカップケーキをもらった。最初はたまたまかと思ったが、頻繁に受け取るようになり、もしかしたら、という微かな期待が胸に芽生え始めた。(もしかしたら、私に恋心を抱いているのではないか。)
この春から子どもたちが私立の幼稚園に通い始めたことで、平日昼間は私と護さんの二人きりの時間が増えた。「華ちゃん、今度、慶くんと碧ちゃんたちが幼稚園に行っている間に二人でランチしない?この近くに隠れ家風のフレンチレストランができたんだって」護さんは、私の表情を覗き込むように優しく提案してくれた。彼の気遣いが、私を少しずつ閉じこもった殻から解放してくれていた。「本当?行ってみたい!」私は思わず声を弾ませた。子育てに追われ自分自身のことは二の次だった私が、護さんのおかげで少しずつ「私」という一人の女性を取り戻しつつあった。「良かった。じゃあ、来週の昼は華ちゃんとデートだね。楽しみにしているよ」護さんの言葉に小さく微笑んだ。護さんもそんな私の顔を見て、優しく微笑み返しそっと手を握りキスをする。瑛斗とは政略結婚で結婚し、結婚後すぐに社長になり多忙を極め、恋人同士の時間を楽しむ時間があまりなかった。そんな私は、「デート」という言葉や、護さんからもらう一つ一つの優しい仕草も、私には新鮮で、そして何よりも心ときめくものだった。子どもたちと一緒の賑やかな時間も大好きだが、護さんと二人でゆっくりと食事をしたり、買い物に行ったりする時間は私にとってかけがえのないものだった。この穏やかで満たされた幸福感が、ずっと続くようにと願わずにはいられなかった。「私も護さんと二人で出かけられるの
私にとって、玲の帰国と瑛斗からの離婚協議書は天国から地獄に転落したかのような悪夢の始まりだった。身に覚えのない不貞や金銭の疑いをかけられ、身の危険を感じるほどの出来事にも見舞われた。見えない場所から、誰かからの強い憎しみが向けられていることに、私の心は音を立てて崩れていくようだった。夜は眠れず、人への不信感に苛まれ、精神的にボロボロになっていた。それから四年。私は、愛しい双子の慶と碧に囲まれて穏やかな日々を取り戻しつつあった。子どもたちから向けられるまっすぐで温かい眼差しと溢れんばかりの愛情が、私の心にある深い傷を癒してくれる。この春から、子どもたちは新しく私立幼稚園に通い始めた。朝、小さな手を引いて見送り、笑顔で手を振って教室に入っていく姿を見ると胸いっぱいの喜びが込み上げてくる。子どもたちの成長が、私の生きる希望そのものだった。そして、その穏やかな日々を迎えられるようになったのは護さんがいてくれたからこそだった。私の隣には、いつも護(まもる)さんがいる。三上先生との交際は続き、いつの間にか呼び方も「護さん」へと変わっていた。彼は、私が最も辛かった妊娠発覚時からずっとそばにいてくれた。一度は、戸惑いから彼の想いを断ってしまったけれど、それでも私や子どもたちのことを献身的に支え、守ってくれる護さんの姿に、私は次第に心惹かれていった。慶と碧が「まま」と言った次に覚えた言葉は「みみ(護さん)」だった。子どもたちが「みみ」と呼んで護さんを見てから、満面の笑みを浮かべた時、家族のいない私にとって彼がどれほど大きな存在になったかを実感した。私たち家族と護さんの間に、温かく新しい家族の絆が確かに育まれていた。
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