冬真の胸が激しく動悸した。夕月は自分のことを考えて言っているのか?
離婚した今になって、夕月がまだ彼のことを……
ハンマーで受信器を叩き潰す夕月の姿が脳裏に蘇る。記憶の中の温雅で静謐な女性が、一瞬にして生き生きとした存在感を放っていた。
そんな想いに耽っていると、綾子が夕月に食ってかかる声が聞こえてきた。
「私がやったことは全て量子科学のためよ!一年の工期を三ヶ月に短縮したのはあなたでしょう。この三ヶ月で、知能システムとセンサーの適合をどうやって完成させろって言うの?無人運転トラックの実験を台無しにして、これだけ多くの人の前で量子科学の面目を潰して、あなたにリーダーの資格があるの?」
夕月の声が氷のように冷たくなった。「実験場での失敗は恐ろしくないの。でもあなたがずっと隠蔽を続けて、実験のたびに細工を施していたら、大量の無人トラックが実際に運用開始された時、事故が起きたら誰が責任を取るのよ?」
綾子の表情も凍りついた。「それだってあなたが工期を短縮しすぎたせいでしょう」
夕月が言い返す。「それはあなたたちが遅すぎるからよ!通常のペースなら、無人運転トラックの実用化は三ヶ月で完了できるはず。なのにあなたは会社でバカンス気分で過ごしてるじゃない。
朝十時に出社して、午後三時には帰宅。その間ランチタイムは二時間。コーヒーと甘いものを持って、ノートパソコンをテラスに置いて日光浴しながらアフタヌーンティー。二十ページの資料一つ、一日かかっても処理できないくせに」
綾子が一瞬たじろいだ。唇を尖らせながら反論する。「何よ、私に朝から晩まで死ぬほど働けって言うの?そんなブラック企業みたいな勤務体系で過ごせと?量子科学は楼座国際グループの一部なのよ。社員としてM国式のワークライフバランスで働いて何が悪いのよ?」
「M国金輝キャピタルは年間340億円かけて、何も生み出さない寄生虫の群れを養ってるわね。老舗資本は衰退の一途で、三十年前に築き上げた栄光にすがって生きてる状況よ。
あなたが金輝で働いてた時、所属チームでまともな製品を一つでも作ったことがあるの?金輝に申請した研究資金、ゴルフセット購入に使ってたじゃない。
安井さん、仕事をサボることは能力不足の言い訳にはならないのよ!」
綾子の胸が激しく上下し、顔色が完全に青ざめた。「私を調査したの?」
「部下の顧問