「栩兄!ちょっと、力抜いてよ!桜子、息ができないじゃない!」
彬は栩が桜子を強く抱きしめているのを見て、慌ててその腕を引き剥がした。
「おお、これは新しい発見だな。殉情なら聞いたことがあるけど、兄妹で命を懸けてる話は初めてだ。面白いな」
椿は、栩をからかいながら、肉を口に運んだ。
「ふふっ!」
綾子は、小さな口を手で押さえ、思わず笑いを漏らしていた。
普段は兄たちの前で大人しい彼女も、この言葉にはつい笑いをこぼしそうになった。
樹は、綾子がむせないように背中を優しく叩きながら、栩を軽くからかった。「栩、桜子は無事だったんだから、もう『死ぬかもしれない』とか『命が危ない』なんて、そんな不吉なこと言わないで縁起のいい話をしてよ」
「心配しすぎてつい」
栩は、彬に妹を取られたことが納得いかず、手を強く握って桜子の手を離さなかった。
最初は和やかな兄妹の集まりだったが、なんだか後宮の争いのような感じになってしまった。
「それにしても桜子、必死に命を救ったんだから感謝の品くらいもらったんじゃないか?」
椿は興味津々で聞いた。
「その時、私は彼女を救った後そのまま倒れたから、後で何があったのか全然知らないわ」
桜子は、肩をすくめながら、彬が剥いてくれたエビを一つずつ食べ続けた。
「感謝の品はもらったよ」
樹は満足げに食事を終え、ナプキンでゆっくり口を拭いながら言った。
一同:「えっ?」
桜子は驚きの表情で、「え、何?」と聞き返した。
「森林公園の警備員の丸山恭平隊長に連絡先を渡しておいたんだ。後日、彼から連絡があって、お前が救ったあの登山者が、車椅子で家族と一緒に来て、感謝の品を持ってきたんだって。お前にお礼を言いたかったらしいんだけど、残念ながらお前が誰だか知らなかったから、『親切な女性』って呼ばれてたみたいだ」
「え......丸山隊長に連絡したって、まさか......」
桜子は目を大きく見開き、驚きとともに聞き返した。
「うん、そうだよ。丸山隊長と、お前がずっと尊敬している佐原先生も、お前の正体を知っているよ」
樹は少し寂しそうに桜子を見ながら続けた。「佐原先生も丸山隊長も、お前が高城家のお嬢様だと知っていたけど、あまり驚くことはなかったよ。ただ、俺にこれからはお前をしっかり守るようにって言われた。
それと、お前が崎楽山公園