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第60話

作者: 山本 星河
彼の隣に立てる歩美を見て、由佳の胸が痛かった。彼女は速やかに視線を逸らして、高村の肩をポンと叩いた。

高村も近くに立っている二人を見て、笑顔を引っ込め、無関心な表情になった。

二人が挨拶し、「山口社長」と言った。

清次は頷いた。

実は今日、由佳の約束相手は彼女の恋人ではなく、高村だった。

「由佳ちゃん、高村さん」歩美は二人を見て非常に驚き、急いで言い訳をし始めた。「由佳ちゃん、私と清くんは...」

清次は歩美が緊張している様子を見て、、少し心配しているようだった。

歩美が彼が結婚していることを知ってから、すごく敏感になっていた。

彼女は彼と別れたくないが、自分が「愛人」だと気づいて苦しんでいたその結果、病気がひどくなった。

「もういい。全部知ってるから。二人で楽しんでて、私たちは帰る」

由佳は高村の手を引いて帰ろうとしたが、高村は動かず、笑って歩美に尋ねた。「歩美さん、今日のメイクは誰がしたの?とても素敵」

歩美は怪訝そうな顔で高村を見て答えた。「自分でやったの」

「歩美さん、すごいね。自分でメイクするのが上手。ミラさんよりも上手だと思う」

歩美の顔がこわばり、無理やり笑った。

「でもね歩美さん、自分のセンスに自信ないなら、人の意見も聞いたほうがいいよ。そうすればうまくいかなかったときに人のせいにできるからね」

歩美の顔が真っ青になり、唇を噛んだ。

「行こう、由佳ちゃん」高村は由佳の手を引いて振り返り、立ち去った。

歩美は振り返って清次に抱きついて泣きだした。「清くん、私本当に何も知らなかったの。その時にそんなことが起こるとは思わなかったの。今すぐにでも由佳ちゃんに謝るから。あなたから離れろって言われてもいい!私が悪いんだ私はなぜ帰ってきたのか分からない。帰ってくるべきじゃなかったの...」

歩美はイライラして混乱した言葉を言った。

清次は彼女を抱きしめ、肩をポンポンと叩いて慰めた。「歩美ちゃんのせいではない。自分を責めないで。俺は彼女が好きではないからもう離婚するんだ。歩美ちゃんとは関係ない。最初からおじいちゃんに無理やり結婚させられただけだよ」

横にいるショップアシスタントは戸惑っていた。

次の店に行くと、由佳はポケットにあった黒いカードがなくなっていることに気づいた。

。さっきの宝石屋でなくしたのかも?戻って探すと、
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コメント (3)
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長野美智代
好きになると裏切られても裏切られてもちょっとした優しさで許してしまう事があるよね。 愛人を優先する旦那とは早く別かれましょう。 別れてもご縁が有れば再婚する事も有ります。 前向きにね。応援してます。
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和田智子
何回もこんな目に遭ったら即離婚だーとブチ切れて暴れるけど、なぜこんな男をいつまでも好きで居られるのか意味がわからなくなってきた
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YUKA (yu)
あと加波ちゃんて苗字呼びになってる…初めは歩美ちゃんて呼んでたよね?
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