Chapter: 第56話 魔族になった男 ~マリーサイド~「儂は魔族になったぞ。 この湧き出る力…… 儂の力に皆ひれ伏すがいい」あのデブ……もといふくよかな魔族になった男は大声でそう言い放っていますわ。あれぐらいの力でよくもあそこまで大きな態度になりますわね。ねえさまの相手ではないんだから。魔族になった男を追ってねえさまと私とあいつと共に鉱山の外へ出てきましたわ。ねえさまはやる気がみなぎっていますわ。これからどのようにあのデブ……もといふくよかな魔族を倒すのかしら。「おい、デブ! 待て、止まるのじゃ。 ワシを無視するな」ねえさまは浮遊しながらもといふくよかな魔族を追いかけていきます。そのためか、あいつやマリーとの距離が離れてしまいます。その距離があるところまで達すると、フッとねえさまが消えてしまいました。「あれ? ねえさまは……」飛んでいた辺りを見回しますが、ねえさまは見当たりません。「ワシはここじゃ、ここ」なんとあいつの近くに立っているではないですか。「ねえさま、どうしたのですか」「封印の影響じゃ。 あやつと遠くなると、近くに戻ってしまうのじゃ。 これじゃ、追いかけられんのぅ」ねえさまは頭を抱えています。「それに、こやつときたら浮遊魔法が使えんときた。 飛ぶやつを追いかけるのは至難の業じゃ」ねえさまはあいつの顔を見ると、ふぅーっとため息をつかれました。「仕方ないじゃん。 なかなか覚えないんだから」あいつもちょっと不貞腐れています。「じゃあ、マリーがこいつを持って、ねえさまの後ろをついて行きますわ」近くにいればいいのであれば、マリーが持っていけばいいだけのことですわ。「マリー、さすがじゃのぅ」ねえさまはマリーの頭を撫でてよしよししてくれましたわ。ねえさまに喜んでもらえて嬉しいわ。「改めて、あのデブを追うぞ」ねえさまはそう言うと、また飛び立ちました。マリーもあいつを捕まえて、ねえさまの後を追います。「ねぇ、マリー。 俺の扱い、雑じゃない?」あいつは首元の服を持ってぶら下げて飛んでいるせいか、揺れが激しく気持ち悪いらしいですわ。そんなことは関係ないので、無視してさっさとねえさまを追います。そしてようやくふくよかな魔族の近くまで追いつきました。「おい、デブ! お前じゃ、お前。 さっさと止まれと言っておろう」ねえさまは前に立ちふさがりふく
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Chapter: 第55話 生贄の儀式 ~ソフィアサイド~どうやらあのデブが生贄の儀式をしておるようじゃ。昔から永遠とは言わないが長い寿命を持つワシらに憧れる人はようおった。人とは弱く儚いものじゃからのぅ。気持ちはわからんでもないが、この儀式は危険度が高すぎる。もっと他の方法もあるはずじゃがのぅ……目の前に広がる儀式の光景を見ながらワシはそう考えていた。ただ手っ取り早いといういか簡単な方なのではあるのは確かじゃ。人がこの方法を選択するのはあり得ん。たぶん裏で何者かが手引きをしておるな。「よし、俺が止めてくる」あやつが目の色を変えて敵陣へ突っ込もうとして息巻いておる。「もう半ば儀式は終わっておる。 今から行っても儀式は止められんのぅ。 諦めろ、おぬし」集められた人々は生気がなくなり、ぐったりと倒れこんでおるものも多い。あそこまでいくと、もうほぼほぼ魂の類は持っていかれているのぅ。まだ耐えておる奴らもおるが時間の問題じゃ。「でも……」あやつは何か言いたげにワシの方を見てくる。「今からおぬしが言っても、多くを助けられんぞ。 良くて数人じゃ。 そんなことより、どんな魔物になるか、まずはここで見届けようぞ」そうじゃ。たかが数人の命じゃ。さしたる違いはないのぅ。「…… いや、それでも俺は行く。 全員が無理でも、少しでも助けられるなら。 それが命の重みってことだよ。 魔王のお前からすれば、無力な命かもしれないけど」あやつはそう言うと、戦闘態勢を整えはじめた。この世は弱肉強食じゃ。強くなければ生き残れん。弱い奴らは強い奴の糧になるのじゃ。この生贄の儀式だって、そういうことじゃ。助かるものも少ないなかで、危険を背負ってでも助けに行く。あやつの行動は理解できぬ。そんなことを考えておったのじゃが、それに気づいたのか、あやつがワシにこう言ってきおった。「ゾルダが俺の考えを理解しなくてもいい。 わかってくれとも言わない。 たぶん、多くの人も、この状況なら、こんな無謀なことはしない」人としてもそう思うなら、なぜおぬしは助けに行くのじゃ……「でも、俺には少しだけど助けられる力がある。 その力で助けられるなら助けたい。 一人でも多く助けられるのなら」その弱き一人のために力が強い者が全力で臨むなんてどういうことじゃ。おぬしの考えは本当にわからん。頭の中にグルグル
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Chapter: 第54話 鉱山の中へ ~アグリサイド~フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
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Chapter: 第53話 陽動作戦 ~フォルトナサイド~宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
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Chapter: 第52話 監獄街 ~ソフィアサイド~鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
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Chapter: 第51話 街の様子は… ~アグリサイド~ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
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