愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

last updateLast Updated : 2025-07-02
By:  霜月イヅミUpdated just now
Language: Japanese
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公爵令嬢セリーナは、冷徹なアシュトン・ヴァルター公爵との政略結婚を受け入れていた。「愛は与えない」と言い放つ彼に、愛を求めるつもりはないと答えたセリーナ。しかし、公爵は彼女に干渉せず、まるで邪魔者扱い。愛のない関係に次第に心が摩耗したセリーナは、ある日「愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?」と、自ら婚約破棄を決意。これで自由になれるはずが、冷徹だった公爵はなぜかセリーナに異常な執着を見せ始め……? 契約をあっさり手放した令嬢が、逆に溺愛されることに困惑する逆転ラブストーリー。

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Chapter 1

1.冷徹な契約

 私の名前はセリーナ・フェルティア。公爵令嬢である。

 由緒正しきフェルティア公爵家の一人娘として生まれた私は、物心ついた頃から「政略結婚」という二文字を運命として受け入れていた。それが貴族というものだ。特に不自由なく暮らしているのだから、その程度の覚悟はとうに決めていた。

 けれど、まさか相手が彼だとは。

「お前に、愛は与えない」

 冷たく言い放ったのは、私の婚約者となるアシュトン・ヴァルター公爵。黒曜石のような瞳と、彫刻のように整った顔立ちを持つ彼は、まさに絵画から抜け出してきたような美しさだった。だが、その美しさとは裏腹に、感情の欠片も感じさせない冷徹な雰囲気を纏っている。〝氷の公爵〟と呼ばれる所以だ。

「……承知しております」

 私の返答は、きっと誰もが予想したものだっただろう。政略結婚なのだから、愛などなくとも構わない。そう教えられてきたのだから。

 王家からの圧力により、急遽決まったヴァルター公爵との婚約。名門同士とはいえ、ヴァルター公爵家は代々、王家と距離を置くことで知られていた。そんな彼が、どうして私との結婚を受け入れたのか、周囲は誰もが首を傾げたものだ。

 公爵邸での顔合わせの日、私はヴァルター公爵の執務室に招かれた。

「初めまして、セリーナ・フェルティアです。この度は、大変光栄なご縁を賜り――」

 私が型通りの挨拶を述べようとすると、彼は私の言葉を遮った。

「無駄だ」

 その一言に、私はぴくりと眉を上げた。けれど、すぐに表情を取り繕う。

「……はい」

「単刀直入に言う」

 彼の声は、まるで凍てつく冬の風のようだった。

「この結婚は、純粋な政略だ。貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」

「愛を求めるつもりはございません」

 間髪入れずに答える。彼の言葉に、ほんの少し苛立ちを覚えたのは事実だ。私だって、望んでこの結婚を選んだわけではない。けれど、フェルティア公爵家の娘として、与えられた役目を果たすのが私の使命だと思っていたから。

「そうか」

 彼はつまらなさそうに頷いた。

「ならば良い。俺は、貴様に愛など与えぬ。求めるな。そして、俺に余計な干渉もするな」

 彼の言葉は、まるで私に釘を刺すようだった。これほどまでに、露骨に愛がないことを宣言されるとは。もちろん、政略結婚に愛を期待していたわけではない。けれど、ここまで言い切られると、胸の奥がチクチクと痛むのを感じた。

「ええ、承知いたしました」

 私は精一杯、淑女らしい笑みを浮かべてみせた。

 その日から、私とヴァルター公爵の奇妙な婚約期間が始まった。

 週に一度、公爵邸を訪れるのが私の役目だった。けれど、そこで彼と会話を交わすことはほとんどない。せいぜい、挨拶を交わす程度だ。

 公爵はいつも執務室に閉じこもっているか、騎士団の訓練に熱中しているか。社交の場に顔を出すことも滅多になく、私のことは完全に無視しているようだった。

 周囲からは、「冷遇されている」とか「かわいそうに」などと囁かれることもあった。

 けれど、私は何とも思わなかった。いや、思わないようにしていた、と言った方が正しいかもしれない。

 だって、彼が私に愛を与えないのと同じように、私も彼に愛を抱いてはいなかったから。

 政略結婚なのだから、それでいいのだと自分に言い聞かせていた。

 ある日、公爵邸の庭園を散策していると、珍しく彼が訓練をしている姿を見かけた。

 鋭い剣さばき。研ぎ澄まされた動き。まるで、獲物を狩る猛禽類のようだ。

 彼の姿に見惚れていると、不意に視線が合った。

 その瞬間、彼の表情は一層険しくなったように見えた。

「何をしている」

 冷たい声が飛んでくる。

「庭園を散策しておりました」

 私は慌てて答えた。

「俺の邪魔をするな」

 彼はそう言い放ち、再び剣の訓練に没頭した。

 私は、その場に立ち尽くすしかなかった。

 彼は私を鬱陶しいと思っている。邪魔だとさえ思っている。

 彼の視線には、私への興味の欠片もなかった。

「愛がないなら、結婚する意味なんてないじゃないですか?」

 ふと、胸の奥からそんな言葉が湧き上がってきた。

 今までずっと、政略結婚だからと割り切ってきたはずなのに、彼のあまりの冷たさに、私の心は少しずつ摩耗していたのかもしれない。

 この結婚は、私にとって何なのだろう?

 私は一体、何のためにこの公爵邸に足を踏み入れているのだろう?

 そんな疑問が、私の心を支配し始めた。

 そして、その疑問は、やがて確信へと変わっていく。

「私、この結婚、破棄したい」

 これは、私が密かに抱き始めた、小さな反逆の始まりだった。

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1.冷徹な契約
 私の名前はセリーナ・フェルティア。公爵令嬢である。 由緒正しきフェルティア公爵家の一人娘として生まれた私は、物心ついた頃から「政略結婚」という二文字を運命として受け入れていた。それが貴族というものだ。特に不自由なく暮らしているのだから、その程度の覚悟はとうに決めていた。 けれど、まさか相手が彼だとは。「お前に、愛は与えない」 冷たく言い放ったのは、私の婚約者となるアシュトン・ヴァルター公爵。黒曜石のような瞳と、彫刻のように整った顔立ちを持つ彼は、まさに絵画から抜け出してきたような美しさだった。だが、その美しさとは裏腹に、感情の欠片も感じさせない冷徹な雰囲気を纏っている。〝氷の公爵〟と呼ばれる所以だ。「……承知しております」 私の返答は、きっと誰もが予想したものだっただろう。政略結婚なのだから、愛などなくとも構わない。そう教えられてきたのだから。 王家からの圧力により、急遽決まったヴァルター公爵との婚約。名門同士とはいえ、ヴァルター公爵家は代々、王家と距離を置くことで知られていた。そんな彼が、どうして私との結婚を受け入れたのか、周囲は誰もが首を傾げたものだ。 公爵邸での顔合わせの日、私はヴァルター公爵の執務室に招かれた。「初めまして、セリーナ・フェルティアです。この度は、大変光栄なご縁を賜り――」 私が型通りの挨拶を述べようとすると、彼は私の言葉を遮った。「無駄だ」 その一言に、私はぴくりと眉を上げた。けれど、すぐに表情を取り繕う。「……はい」「単刀直入に言う」 彼の声は、まるで凍てつく冬の風のようだった。「この結婚は、純粋な政略だ。貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」「愛を求めるつもりはございません」 間髪入れずに答える。彼の言葉に、ほんの少し苛立ちを覚えたのは事実だ。私だって、望んでこの結婚を選んだわけではない。けれど、フェルティア公爵家の娘として、与えられた役目を果たすのが私の使命だと思っていたから。「そうか」 彼はつまらなさそうに頷いた。「ならば良い。俺は、貴様に愛など与えぬ。求めるな。そして、俺に余計な干渉もするな」 彼の言葉は、まるで私に釘を刺すようだった。これほどまでに、露骨に愛がないことを宣言されるとは。もちろん、政略結婚に愛を期待していたわけではない。けれど、ここまで言い切られると、胸の
last updateLast Updated : 2025-07-01
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2.決意の破棄
 その日、私は公爵邸の図書室にいた。 普段は滅多に人が訪れない、静かで落ち着く場所だ。埃一つない書架には、貴重な書物がずらりと並んでいた。 そこで私は、とある一冊の恋愛小説を読んでいた。身分違いの二人が、数々の困難を乗り越え、真実の愛を育んでいく物語。登場人物たちの情熱的な言葉や、互いを想い合う気持ちが、私の心を強く揺さぶった。「馬鹿げている」 読み終えた時、そう呟いたのは自分自身だった。 愛なんて、貴族の政略結婚には必要ない。そんなことは、頭では十分に理解している。けれど、心はどうだろう? 毎日のように突きつけられる彼の冷淡な態度。まるで空気のように扱われる日々に、私の心は悲鳴を上げていた。 私は、愛を求めてはいけないのだろうか? たとえ政略結婚であっても、少しの優しさや、人間らしい温かさくらいは期待しても良いのではないか? そんなことを考えていると、ふと、彼の言葉が脳裏をよぎった。「貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」 そうだ。彼は、そう言った。 つまり、破談の選択肢は、私にも与えられているのだ。 私は、ゆっくりと立ち上がった。 今まで、私はフェルティア公爵家の娘として、与えられた役割を果たすことだけを考えてきた。それが義務であり、貴族としての矜持だと思っていた。 けれど、もう、限界だった。このまま彼の隣で、心まで凍えさせるような人生を送るなんて、私にはできない。 私は、決意した。 この結婚を、私から破棄する。 それから数日後。 私は公爵邸に赴き、アシュトン様との面会を求めた。執務室で彼と向き合うのは、婚約が決まって以来、数えるほどしかない。 彼の執務室は、相変わらず冷たい空気が張り詰めていた。窓から差し込む陽光さえも、どこか凍りついているように見える。 アシュトン様は、書類に目を通したまま、私に視線を向けることもなく言った。「何の用だ」 その冷たい声に、私の決意は揺るぎないものとなった。「アシュトン様にお伝えしたいことがございます」 私は深呼吸をし、背筋を伸ばした。「私、セリーナ・フェルティアは、アシュトン・ヴァルター公爵様との婚約を、本日をもって破棄させていただきたく、参りました」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私にその黒曜石の瞳を向けた。
last updateLast Updated : 2025-07-01
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3.動き出す執着
 アシュトン様の呟きは、重い沈黙となって執務室に広がった。 その間、私は彼から視線を逸らさなかった。彼の言葉に動揺を見せないように、という私の最後の意地だった。 契約破棄の同意書に目を落としたままの彼は、まるで時が止まったかのように微動だにしなかった。その横顔は、普段と変わらない冷徹さを保っているように見えたが、私には確信があった。彼の内側で、何かが確かに動き出している。「……セリーナ」 やがて、アシュトン様が、私の名を呼んだ。 それは、今まで聞いたことがないような、少しだけ掠れた声だった。「貴様が、本当にこの婚約を破棄したいと?」「はい。私の意思は固うございます」 私は、きっぱりと答えた。もう後戻りはしない。「王家との関係や、フェルティア公爵家の体面は、私の父と母が然るべき対応を取るでしょう。ご心配には及びません」 そこまで言い切ると、彼の視線がゆっくりと書類から私へと移った。 その黒曜石のような瞳が、先ほどよりも鋭く、そして、何かを試すかのように私を見つめてくる。「……愛など、いずれ消え去るまやかしだ。政略結婚に、そのような不確かなものを求めること自体が愚かではないか?」 アシュトン様の声には、わずかながらの動揺が含まれているように聞こえた。今まで私を無視し続けた彼が、私に語りかけている。その事実が、私の心をほんの少しだけ揺さぶった。「たしかに、アシュトン様のおっしゃる通りかもしれません。愛は、いつか形を変え、あるいは消え去るものかもしれません」 私は静かに答えた。「ですが、私は、人生を共に歩む上で、互いへの尊敬や、少なくとも相手を人として気遣う心がなければ、共にいる意味はないと考えております。アシュトン様は、私にそのような心をお見せになったことは一度もございません」 私の言葉に、アシュトン様の表情が、さらに硬くなった。 彼は私から視線を外し、デスクに置かれたペンに手を伸ばした。「同意書、か」 彼は、ゆっくりとペンを手に取り、同意書に署名する体勢に入った。 私は、息を詰めてその様子を見守った。 ああ、これで終わる。この冷たい結婚から、私は解放されるのだ。 安堵と、ほんの少しの寂しさがない交ぜになった感情が、私の胸に去来した。 ――カツン。 ペン先が、紙に触れる寸前で止まった。 アシュトン様は、顔を上げ、再び私
last updateLast Updated : 2025-07-01
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4.突然の転換
 アシュトン様の言葉は、まるで雷鳴のように私の頭の中を駆け巡った。「俺は、貴様を、手に入れたいと思った。それだけだ」「貴様は、俺のモノだ。この契約が破棄されようと、俺は貴様を手放すつもりはない」。 今まで私を完全に無視し、まるで空気のように扱ってきた彼が、一体何を言っているのだろう?混乱と、わずかな恐怖、そして理解できない感情がない交ぜになり、私はその場に立ち尽くすしかなかった。「……アシュトン様、それは、一体どういう意味でございますか?」 声が震えるのを自覚しながら、私は問い返した。 アシュトン様は、私の顎を掴んだまま、ゆっくりと顔を近づけてきた。彼の黒曜石のような瞳が、私の顔をじっと見つめる。その深淵を覗き込むような視線に、私は身動きが取れなくなった。「言葉の通りだ、セリーナ」 彼の低い声が、私の耳元で囁かれる。「貴様は、俺のモノだ。これまで、俺の隣に置かれることを当然だと思っていた貴様が、初めて自分の意思で俺から離れようとした。それが、俺の心を捕らえた」 彼の言葉は、まるで獲物を追い詰める捕食者のようだった。「愛などという不確かなものではない。貴様が俺に背を向けたことで、この俺が、貴様を――」 彼はそこで言葉を切ると、私の頬を包み込むように手を滑らせた。彼の指先が、私の肌をゆっくりと撫でる。その冷たさと、微かな熱が、私の心をざわつかせた。「――貴様を、欲するようになったのだ」 その言葉に、私の全身を電流が走ったかのような衝撃が襲った。「欲する……?」 私が呆然と呟くと、アシュトン様は満足げな笑みを浮かべた。それは、先ほどの底が見えない笑みとは違い、確かな支配欲を含んだ、傲慢な笑みだった。「そうだ。貴様は俺の好奇心を刺激した。この俺が、これほどまでに興味を抱いた女は、貴様が初めてだ」 彼の言葉は、私にとっては全く理解できないものだった。 興味?好奇心? 彼は私を、まるで珍しい玩具か何かのように見ているのだろうか。「アシュトン様、私は……」 私が何かを言おうとすると、彼は私の言葉を遮った。「良いか、セリーナ。この同意書に、俺は署名しない。貴様との婚約は、継続する」 アシュトン様は、同意書をデスクの隅に押しやると、私をぐっと引き寄せた。 予想外の力に、私の体は彼の胸に吸い寄せられる。彼の硬い胸板に、私の顔が埋もれた。 
last updateLast Updated : 2025-07-01
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5.歪んだ執着と小さな綻び
 アシュトン様の執着は、日を追うごとにその度合いを増していった。 彼は、私の行動すべてを把握しようとするかのように、公爵邸での私の滞在時間を延ばし、私がどこへ行くにも、誰と会うにも、常に彼の許可を求めるようになった。 初めは、彼の唐突な変貌に戸惑いと警戒心を抱いていた私だが、彼の執着は、どこか幼稚な独占欲にも似ていて、妙な居心地の悪さを感じていた。「セリーナ、今日の社交会には参加するのか?」 朝食の席で、彼は唐突に尋ねた。「はい。叔母様からお誘いを受けておりますので」 私が答えると、アシュトン様は眉をひそめた。「誰と会うのだ?」「……ただの社交です。特に意味はございません」 私の返答に、彼は不満げな表情を浮かべた。「無意味な社交は必要ない。俺の許可なく、公爵邸を離れることは許さない」 彼の言葉に、私は思わず反論した。「アシュトン様!私はまだフェルティア公爵家の娘です。社交の場に出ることは、貴族としての務めでもございます」 私の言葉に、アシュトン様の瞳が鋭く光った。「務め、か。貴様はもうすぐ俺の妻となるのだ。フェルティア公爵家の務めよりも、ヴァルター公爵家、ひいては俺の隣にいることが貴様の務めとなる」 彼の言葉は、まるで私を囲い込もうとするかのような響きだった。 私は、彼の執着に息が詰まる思いだった。 以前は私に興味すら示さなかった彼が、今では私のすべてを支配しようとしている。それは、私を尊重する「愛」とは程遠い、ただの「独占欲」でしかなかった。 しかし、彼の執着は、時に私を驚かせるような行動にも表れた。 ある日、私が公爵邸の庭園で、足を滑らせて転びそうになった時、アシュトン様が信じられないほどの速さで駆け寄り、私を支えてくれたのだ。 彼の腕の中に抱きとめられた時、私は彼の体温と、かすかに聞こえる彼の心臓の音を感じた。「……大丈夫か、セリーナ」 彼の声には、今まで聞いたことのないような、微かな焦りが含まれているように聞こえた。「はい、アシュトン様。ありがとうございます」 私が礼を述べると、彼は私の腕を掴み、その指先が私の脈を測るかのように触れてきた。「怪我はないか? どこか痛む場所は?」 彼の視線は、私の全身を細かく確認するように見ていた。 彼の行動に、私は戸惑った。これは、単なる心配なのだろうか? それとも、や
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