愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

last updateLast Updated : 2025-07-08
By:  霜月イヅミCompleted
Language: Japanese
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公爵令嬢セリーナは、冷徹なアシュトン・ヴァルター公爵との政略結婚を受け入れていた。「愛は与えない」と言い放つ彼に、愛を求めるつもりはないと答えたセリーナ。しかし、公爵は彼女に干渉せず、まるで邪魔者扱い。愛のない関係に次第に心が摩耗したセリーナは、ある日「愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?」と、自ら婚約破棄を決意。これで自由になれるはずが、冷徹だった公爵はなぜかセリーナに異常な執着を見せ始め……? 契約をあっさり手放した令嬢が、逆に溺愛されることに困惑する逆転ラブストーリー。

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Chapter 1

1.冷徹な契約

I was so wet in the rain that my face hurt but  I didn’t care, I just wanted to get home.

I opened the door and the roof was leaking again. 

The floor was wet and my little sister, Mia, sat in the corner, she hugged her stomach.

“I am  hungry,” she whispered.

I ran to her and knelt down on the wet floor.

“I know, baby. I know.” I brushed her wet hair from her face. “I will get something soon, okay? I promise.”

She nodded slowly, but she did not smile. 

My phone buzzed in my pocket and I froze.

It was the hospital.

I stood up fast and pressed the phone to my ear. My heart beat faster.

“Hello?” I said and my voice was shaking.

“Miss Alina,” a nurse said and her voice was cold and sharp. 

“Your mother’s condition is worse. She needs the injection tonight or…”

“I know,” I cut her off. “Please. Just give it to her. I will bring the money tomorrow. I swear…”

“We can’t do that anymore,” the nurse said and there was no emotion in her voice. 

“No money, no medicine.”

She hung up.

Just like that.

I stared at the phone and my hand dropped. It fell from my fingers and hit the floor with a soft sound.

I had nothing, no money, no food, no job, and no hope.

And I just lost the only thing keeping us alive.

Two hours ago...

I stood behind the counter of the bakery and my hands were covered in flour. My feet hurt from standing all day and the room was hot. The ovens were on and sweat dripped down my back.

Then I felt it.

A hand on my waist.

I froze.

“Get your filthy hands off me!” I screamed and pushed him away hard.

My boss took a step back, shocked. “You hit me.”

“You touched me!” I shouted, loud enough for the other workers to hear. “I’m not your toy!”

He narrowed his eyes. “You are fired,” he growled. “Get out.”

I grabbed my bag and stormed out of the bakery. My legs shook, but I kept walking. 

That job was all I had and no one else will hire me now, not with a sick mother and a starving sister.

Back in the room, I sat in the dark, and Mia closed. Her small body fit perfectly in my arms, she was warm, but too still.

The door slammed open and I jumped.

It was my cousin, Lila.

She walked in wearing high heels and bright lipstick. Her eyes scanned me from head to toe and she frowned.

“You look like trash,” she said and her voice was sharp. “But you want to save your mom, right?”

I didn't answer, she tossed something on the bed.

It was a red dress.

It was short and tight and the fabric was shiny. It looked expensive and not made for girls like me.

“Wear that,” Lila said. “There’s a party tonight. Rich men. You just have to serve drinks. No one will touch you.”

I stared at the dress and my hands stayed in my lap.

“I can’t leave Mia alone,” I whispered.

Lila rolled her eyes. “I will watch her. Do you want your mom to die or not?”

My lips pressed into a line and I looked at Mia. She was still curled up and so small and quiet.

I looked at the dress again.

“Fine,” I whispered.

The hotel smelt like roses and money, I walked behind Lila, and my head was down. 

I didn’t belong here.

“Just go to the top floor,” Lila said. “Room 707. They are waiting.”

“Who are they?”

She rolled her eyes. “Rich men. Just smile and do your job.”

The elevator was gold and it glowed.

My hands wouldn’t stop shaking.

I pressed the button for the top floor and when the doors opened, I stepped out slowly.

A man stood outside Room 707. He wore a black suit and didn’t smile. He just opened the door.

I walked in.

There was one man sitting on the edge of the bed.

He looked up.

And I froze.

He was tall, broad shoulders and his black suit looked like it was made for him. His hair was dark and his eyes were darker.

He stared at me and said nothing.

“I… I think I’m in the wrong room,” I whispered.

There was still nothing.

I turned to leave. Then the door slammed shut.

I jumped and I grabbed the handle.

Locked. I pulled out my phone.

Dead.

“No… no, no…” I whispered and I was scared.

“You knew what this was,” he said suddenly.

His voice was deep and cold.

“Take the money and do your job.”

I spinned around. “What? No… I think you have the wrong girl.”

He stood, he was taller than I thought and he walked closer.

“Don’t pretend,” he said 

“I’m not! I swear! I’m just here to serve drinks.”

He didn’t stop walking.

“Then why are you dressed like that?” he asked.

I pressed my back against the wall.

“My cousin said I just had to serve drinks,” I whispered. “Please. Let me go.”

He stopped a few steps away.

“You want to leave?” he said and his voice was calm, but sharp. “Fine. Give the money back.”

“I didn’t take any money!”

“Then you are here for free?” He tilted his head. “Interesting.”

My body shook and my legs felt weak. I think I might faint.

“Please…” I beg. “My mother was dying. I need help. I don’t want this.”

He stepped closer.

“One night,” he said. “That’s all. Then you will never see me again.”

Tears slipped down my cheeks. I looked away and my throat hurt. I wanted to scream.

“I don't want this…” I cried.

But I thought of Mia.

Her soft voice, her empty stomach and her dried lips.

I thought of my mother, coughing in that hospital bed.

And slowly…

I stopped fighting.

I closed my eyes and I let the silence took me.

Morning came and I opened my eyes and my body ached. My throat was dry and the sheets were cold.

He was gone. I sat up slowly and I wrapped the blanket around me.

On the table, something shune.

A gold bracelet.

I walked to it and my hands shook as I picked it up.

On the inside, there are words.

S. Blackwell.

My breath stopped and I held the bracelet to my chest. My heart beat so fast, it hurt.

Who is he?

And what have I done?

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1.冷徹な契約
 私の名前はセリーナ・フェルティア。公爵令嬢である。 由緒正しきフェルティア公爵家の一人娘として生まれた私は、物心ついた頃から「政略結婚」という二文字を運命として受け入れていた。それが貴族というものだ。特に不自由なく暮らしているのだから、その程度の覚悟はとうに決めていた。 けれど、まさか相手が彼だとは。「お前に、愛は与えない」 冷たく言い放ったのは、私の婚約者となるアシュトン・ヴァルター公爵。黒曜石のような瞳と、彫刻のように整った顔立ちを持つ彼は、まさに絵画から抜け出してきたような美しさだった。だが、その美しさとは裏腹に、感情の欠片も感じさせない冷徹な雰囲気を纏っている。〝氷の公爵〟と呼ばれる所以だ。「……承知しております」 私の返答は、きっと誰もが予想したものだっただろう。政略結婚なのだから、愛などなくとも構わない。そう教えられてきたのだから。 王家からの圧力により、急遽決まったヴァルター公爵との婚約。名門同士とはいえ、ヴァルター公爵家は代々、王家と距離を置くことで知られていた。そんな彼が、どうして私との結婚を受け入れたのか、周囲は誰もが首を傾げたものだ。 公爵邸での顔合わせの日、私はヴァルター公爵の執務室に招かれた。「初めまして、セリーナ・フェルティアです。この度は、大変光栄なご縁を賜り――」 私が型通りの挨拶を述べようとすると、彼は私の言葉を遮った。「無駄だ」 その一言に、私はぴくりと眉を上げた。けれど、すぐに表情を取り繕う。「……はい」「単刀直入に言う」 彼の声は、まるで凍てつく冬の風のようだった。「この結婚は、純粋な政略だ。貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」「愛を求めるつもりはございません」 間髪入れずに答える。彼の言葉に、ほんの少し苛立ちを覚えたのは事実だ。私だって、望んでこの結婚を選んだわけではない。けれど、フェルティア公爵家の娘として、与えられた役目を果たすのが私の使命だと思っていたから。「そうか」 彼はつまらなさそうに頷いた。「ならば良い。俺は、貴様に愛など与えぬ。求めるな。そして、俺に余計な干渉もするな」 彼の言葉は、まるで私に釘を刺すようだった。これほどまでに、露骨に愛がないことを宣言されるとは。もちろん、政略結婚に愛を期待していたわけではない。けれど、ここまで言い切られると、胸の
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2.決意の破棄
 その日、私は公爵邸の図書室にいた。 普段は滅多に人が訪れない、静かで落ち着く場所だ。埃一つない書架には、貴重な書物がずらりと並んでいた。 そこで私は、とある一冊の恋愛小説を読んでいた。身分違いの二人が、数々の困難を乗り越え、真実の愛を育んでいく物語。登場人物たちの情熱的な言葉や、互いを想い合う気持ちが、私の心を強く揺さぶった。「馬鹿げている」 読み終えた時、そう呟いたのは自分自身だった。 愛なんて、貴族の政略結婚には必要ない。そんなことは、頭では十分に理解している。けれど、心はどうだろう? 毎日のように突きつけられる彼の冷淡な態度。まるで空気のように扱われる日々に、私の心は悲鳴を上げていた。 私は、愛を求めてはいけないのだろうか? たとえ政略結婚であっても、少しの優しさや、人間らしい温かさくらいは期待しても良いのではないか? そんなことを考えていると、ふと、彼の言葉が脳裏をよぎった。「貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」 そうだ。彼は、そう言った。 つまり、破談の選択肢は、私にも与えられているのだ。 私は、ゆっくりと立ち上がった。 今まで、私はフェルティア公爵家の娘として、与えられた役割を果たすことだけを考えてきた。それが義務であり、貴族としての矜持だと思っていた。 けれど、もう、限界だった。このまま彼の隣で、心まで凍えさせるような人生を送るなんて、私にはできない。 私は、決意した。 この結婚を、私から破棄する。 それから数日後。 私は公爵邸に赴き、アシュトン様との面会を求めた。執務室で彼と向き合うのは、婚約が決まって以来、数えるほどしかない。 彼の執務室は、相変わらず冷たい空気が張り詰めていた。窓から差し込む陽光さえも、どこか凍りついているように見える。 アシュトン様は、書類に目を通したまま、私に視線を向けることもなく言った。「何の用だ」 その冷たい声に、私の決意は揺るぎないものとなった。「アシュトン様にお伝えしたいことがございます」 私は深呼吸をし、背筋を伸ばした。「私、セリーナ・フェルティアは、アシュトン・ヴァルター公爵様との婚約を、本日をもって破棄させていただきたく、参りました」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私にその黒曜石の瞳を向けた。
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3.動き出す執着
 アシュトン様の呟きは、重い沈黙となって執務室に広がった。 その間、私は彼から視線を逸らさなかった。彼の言葉に動揺を見せないように、という私の最後の意地だった。 契約破棄の同意書に目を落としたままの彼は、まるで時が止まったかのように微動だにしなかった。その横顔は、普段と変わらない冷徹さを保っているように見えたが、私には確信があった。彼の内側で、何かが確かに動き出している。「……セリーナ」 やがて、アシュトン様が、私の名を呼んだ。 それは、今まで聞いたことがないような、少しだけ掠れた声だった。「貴様が、本当にこの婚約を破棄したいと?」「はい。私の意思は固うございます」 私は、きっぱりと答えた。もう後戻りはしない。「王家との関係や、フェルティア公爵家の体面は、私の父と母が然るべき対応を取るでしょう。ご心配には及びません」 そこまで言い切ると、彼の視線がゆっくりと書類から私へと移った。 その黒曜石のような瞳が、先ほどよりも鋭く、そして、何かを試すかのように私を見つめてくる。「……愛など、いずれ消え去るまやかしだ。政略結婚に、そのような不確かなものを求めること自体が愚かではないか?」 アシュトン様の声には、わずかながらの動揺が含まれているように聞こえた。今まで私を無視し続けた彼が、私に語りかけている。その事実が、私の心をほんの少しだけ揺さぶった。「たしかに、アシュトン様のおっしゃる通りかもしれません。愛は、いつか形を変え、あるいは消え去るものかもしれません」 私は静かに答えた。「ですが、私は、人生を共に歩む上で、互いへの尊敬や、少なくとも相手を人として気遣う心がなければ、共にいる意味はないと考えております。アシュトン様は、私にそのような心をお見せになったことは一度もございません」 私の言葉に、アシュトン様の表情が、さらに硬くなった。 彼は私から視線を外し、デスクに置かれたペンに手を伸ばした。「同意書、か」 彼は、ゆっくりとペンを手に取り、同意書に署名する体勢に入った。 私は、息を詰めてその様子を見守った。 ああ、これで終わる。この冷たい結婚から、私は解放されるのだ。 安堵と、ほんの少しの寂しさがない交ぜになった感情が、私の胸に去来した。 ――カツン。 ペン先が、紙に触れる寸前で止まった。 アシュトン様は、顔を上げ、再び私
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4.突然の転換
 アシュトン様の言葉は、まるで雷鳴のように私の頭の中を駆け巡った。「俺は、貴様を、手に入れたいと思った。それだけだ」「貴様は、俺のモノだ。この契約が破棄されようと、俺は貴様を手放すつもりはない」。 今まで私を完全に無視し、まるで空気のように扱ってきた彼が、一体何を言っているのだろう?混乱と、わずかな恐怖、そして理解できない感情がない交ぜになり、私はその場に立ち尽くすしかなかった。「……アシュトン様、それは、一体どういう意味でございますか?」 声が震えるのを自覚しながら、私は問い返した。 アシュトン様は、私の顎を掴んだまま、ゆっくりと顔を近づけてきた。彼の黒曜石のような瞳が、私の顔をじっと見つめる。その深淵を覗き込むような視線に、私は身動きが取れなくなった。「言葉の通りだ、セリーナ」 彼の低い声が、私の耳元で囁かれる。「貴様は、俺のモノだ。これまで、俺の隣に置かれることを当然だと思っていた貴様が、初めて自分の意思で俺から離れようとした。それが、俺の心を捕らえた」 彼の言葉は、まるで獲物を追い詰める捕食者のようだった。「愛などという不確かなものではない。貴様が俺に背を向けたことで、この俺が、貴様を――」 彼はそこで言葉を切ると、私の頬を包み込むように手を滑らせた。彼の指先が、私の肌をゆっくりと撫でる。その冷たさと、微かな熱が、私の心をざわつかせた。「――貴様を、欲するようになったのだ」 その言葉に、私の全身を電流が走ったかのような衝撃が襲った。「欲する……?」 私が呆然と呟くと、アシュトン様は満足げな笑みを浮かべた。それは、先ほどの底が見えない笑みとは違い、確かな支配欲を含んだ、傲慢な笑みだった。「そうだ。貴様は俺の好奇心を刺激した。この俺が、これほどまでに興味を抱いた女は、貴様が初めてだ」 彼の言葉は、私にとっては全く理解できないものだった。 興味?好奇心? 彼は私を、まるで珍しい玩具か何かのように見ているのだろうか。「アシュトン様、私は……」 私が何かを言おうとすると、彼は私の言葉を遮った。「良いか、セリーナ。この同意書に、俺は署名しない。貴様との婚約は、継続する」 アシュトン様は、同意書をデスクの隅に押しやると、私をぐっと引き寄せた。 予想外の力に、私の体は彼の胸に吸い寄せられる。彼の硬い胸板に、私の顔が埋もれた。 
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5.歪んだ執着と小さな綻び
 アシュトン様の執着は、日を追うごとにその度合いを増していった。 彼は、私の行動すべてを把握しようとするかのように、公爵邸での私の滞在時間を延ばし、私がどこへ行くにも、誰と会うにも、常に彼の許可を求めるようになった。 初めは、彼の唐突な変貌に戸惑いと警戒心を抱いていた私だが、彼の執着は、どこか幼稚な独占欲にも似ていて、妙な居心地の悪さを感じていた。「セリーナ、今日の社交会には参加するのか?」 朝食の席で、彼は唐突に尋ねた。「はい。叔母様からお誘いを受けておりますので」 私が答えると、アシュトン様は眉をひそめた。「誰と会うのだ?」「……ただの社交です。特に意味はございません」 私の返答に、彼は不満げな表情を浮かべた。「無意味な社交は必要ない。俺の許可なく、公爵邸を離れることは許さない」 彼の言葉に、私は思わず反論した。「アシュトン様!私はまだフェルティア公爵家の娘です。社交の場に出ることは、貴族としての務めでもございます」 私の言葉に、アシュトン様の瞳が鋭く光った。「務め、か。貴様はもうすぐ俺の妻となるのだ。フェルティア公爵家の務めよりも、ヴァルター公爵家、ひいては俺の隣にいることが貴様の務めとなる」 彼の言葉は、まるで私を囲い込もうとするかのような響きだった。 私は、彼の執着に息が詰まる思いだった。 以前は私に興味すら示さなかった彼が、今では私のすべてを支配しようとしている。それは、私を尊重する「愛」とは程遠い、ただの「独占欲」でしかなかった。 しかし、彼の執着は、時に私を驚かせるような行動にも表れた。 ある日、私が公爵邸の庭園で、足を滑らせて転びそうになった時、アシュトン様が信じられないほどの速さで駆け寄り、私を支えてくれたのだ。 彼の腕の中に抱きとめられた時、私は彼の体温と、かすかに聞こえる彼の心臓の音を感じた。「……大丈夫か、セリーナ」 彼の声には、今まで聞いたことのないような、微かな焦りが含まれているように聞こえた。「はい、アシュトン様。ありがとうございます」 私が礼を述べると、彼は私の腕を掴み、その指先が私の脈を測るかのように触れてきた。「怪我はないか? どこか痛む場所は?」 彼の視線は、私の全身を細かく確認するように見ていた。 彼の行動に、私は戸惑った。これは、単なる心配なのだろうか? それとも、や
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6.秘められた過去
 アシュトン様の、私への歪んだ執着は、日を追うごとに巧妙になっていった。 彼は私に「自由」を与えると宣言しながらも、その実は、見えない鎖で私を縛りつけようとしていたのだ。 社交の場には、彼の護衛が必ず同行するようになった。彼らは私を影のように見守り、私が誰かと長く話し込めば、さりげなく会話を遮り、私を彼の元へと連れ戻そうとする。 友人たちも、私の変化に気づき始めていた。「セリーナ、最近、ヴァルター公爵の執着が噂になっているわ。大丈夫なの?」 親友であるリーゼロッテが、心配そうに尋ねてきた。「ええ、大丈夫よ。アシュトン様は、私に興味を持ってくださっただけだから」 私は努めて明るく振る舞ったが、リーゼロッテの心配そうな視線が、私の心に突き刺さった。 アシュトン様は、私を常に彼の視界の中に置きたがった。 私が公爵邸のどこにいようと、彼は必ず私を見つけ出し、隣に座るか、あるいは私を執務室に連れて行って、彼の執務の傍らに置いた。 執務室で彼が書類に目を通す音、ペンを走らせる音、そして時折聞こえる彼の低い咳払いの音。それらは、私にとって日常の音となりつつあった。 ある日の夕食の席でのことだった。 テーブルには、私の好きな甘いデザートが並んでいた。「セリーナ、これを食べろ」 アシュトン様が、私の皿にデザートを盛りつけた。「ありがとうございます、アシュトン様」 私が一口食べると、彼は満足そうに頷いた。「俺は、貴様が喜ぶ顔を見るのが好きだ。だから、遠慮なく望みを言え」 彼の言葉は、一見すると優しさのように聞こえる。けれど、その裏には、私を完全に手中に収めたいという、彼の強い支配欲が透けて見えた。 私は彼の執着に息苦しさを感じながらも、同時に、今まで誰からも向けられたことのないような、彼の強い「特別扱い」に、どこか抗えない魅力を感じている自分に気づき、戸惑っていた。 そして、彼の執着は、私の過去にまで及ぶようになった。 ある日、私は公爵邸の庭園で、幼い頃に父から贈られた小さなオルゴールを手にしていた。 それは、私が心を許せる唯一の宝物だった。 そのオルゴールを眺めていると、アシュトン様が静かに私の隣に座った。「それは、何だ?」 彼は、私の手の中のオルゴールに視線を向けた。「幼い頃に、父からいただいたものです。私にとっては、大切な思い
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7.秘密の部屋
 アシュトン様が私に見せる歪んだ執着は、公爵邸での私の生活を大きく変えた。 私は彼の監視下にあるような息苦しさを感じつつも、彼が私にだけ見せる、微かな人間らしい感情の片鱗に、抗えない興味を抱き始めていた。 そんな中、私はある日、公爵邸の裏庭にある古びた離れに、ふと足を踏み入れた。普段は立ち入り禁止になっている場所で、使用人たちも近づかない不気味な雰囲気の場所だった。 好奇心に駆られ、私がその扉を開けると、そこには思いがけない光景が広がっていた。 埃を被った家具の数々、古びた肖像画。そして、壁にはびっしりと、色とりどりの植物の押し花が飾られていた。 それは、まるで時が止まったかのような、忘れ去られた部屋だった。 その中で、ひときわ目を引いたのは、部屋の隅に置かれた年代物のピアノだ。鍵盤には埃が積もり、音を奏でることはもうないだろう。「……誰の部屋だろう?」 私は、思わず呟いた。 その時、背後から冷たい声が聞こえた。「何をしている、セリーナ」 振り返ると、アシュトン様が、いつの間にかそこに立っていた。 彼の顔には、普段の冷徹さに加えて、微かな怒りのような感情が浮かんでいるように見えた。「アシュトン様!ここは……」 私が言い訳をしようとすると、彼は私の言葉を遮り、冷たい視線で部屋全体を見回した。「ここは、立ち入り禁止だ。知っていたはずだろう」 彼の声には、私を責めるような響きがあった。「申し訳ございません……好奇心に駆られて、つい」 私が謝罪すると、彼はゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた。 彼の視線は、部屋の中の物すべてをなぞるように動き、やがて、壁に飾られた押し花に止まった。 アシュトン様の表情が、わずかに揺らいだように見えた。 その瞳の奥に、深い悲しみのような感情が浮かんだのを、私は見逃さなかった。「この部屋は……」 彼の声は、いつもの冷徹な響きではなく、どこか感傷的な響きを帯びていた。「……俺の、母の部屋だ」 その言葉に、私は息を飲んだ。 アシュトン様の母親。彼が幼い頃に亡くなったと聞いている。 私は、壁に飾られた押し花を見上げた。どれも、繊細で美しい花々だ。「お母様は、植物がお好きだったのですね」 私がそう言うと、アシュトン様は何も言わずに、押し花に手を伸ばした。 彼の指先が、押し花の表面をそっと撫で
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8.陛下の思惑
 王宮からの予期せぬ陛下の来訪は、公爵邸に緊張感をもたらした。 アシュトン様は、陛下と執務室で面会している。私は、その間、公爵邸の図書室で、不安な気持ちで過ごしていた。 一体、陛下は何の用でアシュトン様を訪ねてきたのだろう? そして――この来訪が、私とアシュトン様の関係に、どのような影響を及ぼすのだろうか。 数時間後、アシュトン様が図書室に姿を現した。 彼の表情は、いつも以上に険しく、その瞳には、深い怒りのような感情が宿っているように見えた。「アシュトン様……」 私が声をかけると、彼は私に視線を向けた。その視線は、まるで獲物を睨みつける猛禽類のようだった。「陛下は、一体……」 私が尋ねようとすると、彼は私の言葉を遮った。「余計な詮索はするな、セリーナ」 彼の声には、強い拒絶の響きがあった。 しかし、その夜の夕食の席で、私は陛下の来訪の理由を知ることになった。 アシュトン様は、いつも以上に無口で、食事もほとんど進んでいないようだった。 私が不安に思っていると、彼は突然、口を開いた。「陛下は、俺に、貴様との婚約を破棄しろと命じてきた」 その言葉に、私は息を飲んだ。 婚約破棄? 陛下が? なぜ今になって。「……どういうことでございますか?」 私が震える声で尋ねると、アシュトン様は私を冷たく見つめた。「陛下は、貴様を、次期王妃候補として考えているらしい」 彼の言葉は、私の頭を真っ白にした。 次期王妃候補……? 私が?「そのような……まさか」 私は信じられない思いで、アシュトン様を見た。「俺は、拒否した」 アシュトン様は、きっぱりと言い放った。「貴様は俺のモノだ。誰にも渡すつもりはない」 彼の言葉には、今まで以上に強い執着が込められているように聞こえた。 私は、彼の言葉に、戸
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9.王妃選定試験
 陛下の突然の来訪、そして私を次期王妃候補とする命令は、私の日常に大きな波紋を投げかけた。 アシュトン様は、私を王妃選定試験に参加させまいと、ますますその執着を強めた。公爵邸は、まるで私を閉じ込めるための厳重な檻と化したかのようだった。「セリーナ、今日は外出しないのか?」 朝食の席で、アシュトン様が私に尋ねた。彼の視線は、私の行動を常に探っているかのようだった。「はい。今日は、公爵邸の図書室で過ごそうかと」 私がそう答えると、彼は満足げに頷いた。「賢明な判断だ。外は騒がしい」 彼の言葉に、私は息苦しさを感じた。彼は、私が自主的に公爵邸に留まっていると思っているのだろうが、実際は彼の監視下から逃れることができないだけだ。 しかし、王妃選定試験への参加は、王命である。私が拒否すれば、フェルティア公爵家が危うくなる。 私は、アシュトン様の目を盗んで、父に手紙を送った。王命に背くことはできない、と。 数日後、父からの返信が届いた。そこには、王妃選定試験には必ず参加するように、という指示が書かれていた。そして、アシュトン様には、私が王妃選定試験に参加せざるを得ない状況であることを、それとなく伝えるように、とも。 私は、手紙を読み終えると、覚悟を決めた。 私は、王妃選定試験に参加する。それが、私の使命だ。 その夜、私はアシュトン様に、王妃選定試験に参加する旨を伝えようとした。 夕食の席で、彼がデザートに手を伸ばした時、私は意を決して口を開いた。「アシュトン様。私、王妃選定試験に参加させていただきます」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 彼の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのが見えた。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私を射抜くような視線で睨みつけた。「……何を言っている?」 彼の声は、低く、そして怒りに満ちていた。「陛下からの命令でございます。フェルティア公爵家として、王命に背くことはできません」 私がそう言うと、アシュトン様は立ち上がり、テーブルを
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10.私の決意
 王妃選定試験は、予想以上に熾烈なものだった。 私を含め、選ばれた令嬢たちは皆、それぞれの家柄と教養を背景に、王妃の座を巡って静かに火花を散らしていた。 私は、アシュトン様の視線を感じながらも、試験に集中しようと努めた。彼の執着は、私にとって重圧であると同時に、どこか奇妙な安心感を与えていることに、私自身が困惑していた。 試験の一環として、各令嬢は王族の前で自身の才覚を披露することになった。 私は、幼い頃から学んできたピアノを披露することにした。それは、私にとって、唯一の自己表現の場だった。 演奏の順番を待っている間、私は控え室で最後の練習をしていた。 その時、扉がノックされ、アシュトン様が姿を現した。「セリーナ。貴様は、ピアノを弾くのか」 彼の声には、僅かな驚きが混じっているように聞こえた。「はい。幼い頃から習っておりましたので」 私が答えると、アシュトン様は私の隣に立ち、私の手元にある楽譜に視線を落とした。「……貴様は、まだ私に何も明かしていないことがあったのだな」 彼の言葉には、どこか不満げな響きがあったが、その瞳の奥には、私への好奇心のような光が揺らめいているように見えた。「アシュトン様は、音楽がお好きではないと伺っておりましたが……」 私がそう言うと、彼は私に視線を向けた。「俺は、貴様の奏でる音ならば、聞いてやっても良い」 彼の言葉は、彼なりの精一杯の譲歩なのかもしれない。私は、彼の意外な言葉に、少しだけ心が温かくなった。 そして、私の番が来た。 私は、緊張しながら舞台へと向かった。客席には、国王陛下を始め、王族の方々、そして数多くの貴族たちが座っていた。 その中に、アシュトン様の姿もあった。彼の視線は、私を真っ直ぐに捉えていた。 私は、深呼吸をし、鍵盤に指を置いた。 私が演奏したのは、幼い頃から好きだった、故郷の風景を思い起こさせるような、穏やかな曲だった。 私の指が鍵盤の上を滑るたびに、澄んだ音色が広間に響き渡った。
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