愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました

last updateLast Updated : 2025-07-08
By:  霜月イヅミCompleted
Language: Japanese
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公爵令嬢セリーナは、冷徹なアシュトン・ヴァルター公爵との政略結婚を受け入れていた。「愛は与えない」と言い放つ彼に、愛を求めるつもりはないと答えたセリーナ。しかし、公爵は彼女に干渉せず、まるで邪魔者扱い。愛のない関係に次第に心が摩耗したセリーナは、ある日「愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?」と、自ら婚約破棄を決意。これで自由になれるはずが、冷徹だった公爵はなぜかセリーナに異常な執着を見せ始め……? 契約をあっさり手放した令嬢が、逆に溺愛されることに困惑する逆転ラブストーリー。

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Chapter 1

1.冷徹な契約

 私の名前はセリーナ・フェルティア。公爵令嬢である。

 由緒正しきフェルティア公爵家の一人娘として生まれた私は、物心ついた頃から「政略結婚」という二文字を運命として受け入れていた。それが貴族というものだ。特に不自由なく暮らしているのだから、その程度の覚悟はとうに決めていた。

 けれど、まさか相手が彼だとは。

「お前に、愛は与えない」

 冷たく言い放ったのは、私の婚約者となるアシュトン・ヴァルター公爵。黒曜石のような瞳と、彫刻のように整った顔立ちを持つ彼は、まさに絵画から抜け出してきたような美しさだった。だが、その美しさとは裏腹に、感情の欠片も感じさせない冷徹な雰囲気を纏っている。〝氷の公爵〟と呼ばれる所以だ。

「……承知しております」

 私の返答は、きっと誰もが予想したものだっただろう。政略結婚なのだから、愛などなくとも構わない。そう教えられてきたのだから。

 王家からの圧力により、急遽決まったヴァルター公爵との婚約。名門同士とはいえ、ヴァルター公爵家は代々、王家と距離を置くことで知られていた。そんな彼が、どうして私との結婚を受け入れたのか、周囲は誰もが首を傾げたものだ。

 公爵邸での顔合わせの日、私はヴァルター公爵の執務室に招かれた。

「初めまして、セリーナ・フェルティアです。この度は、大変光栄なご縁を賜り――」

 私が型通りの挨拶を述べようとすると、彼は私の言葉を遮った。

「無駄だ」

 その一言に、私はぴくりと眉を上げた。けれど、すぐに表情を取り繕う。

「……はい」

「単刀直入に言う」

 彼の声は、まるで凍てつく冬の風のようだった。

「この結婚は、純粋な政略だ。貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」

「愛を求めるつもりはございません」

 間髪入れずに答える。彼の言葉に、ほんの少し苛立ちを覚えたのは事実だ。私だって、望んでこの結婚を選んだわけではない。けれど、フェルティア公爵家の娘として、与えられた役目を果たすのが私の使命だと思っていたから。

「そうか」

 彼はつまらなさそうに頷いた。

「ならば良い。俺は、貴様に愛など与えぬ。求めるな。そして、俺に余計な干渉もするな」

 彼の言葉は、まるで私に釘を刺すようだった。これほどまでに、露骨に愛がないことを宣言されるとは。もちろん、政略結婚に愛を期待していたわけではない。けれど、ここまで言い切られると、胸の奥がチクチクと痛むのを感じた。

「ええ、承知いたしました」

 私は精一杯、淑女らしい笑みを浮かべてみせた。

 その日から、私とヴァルター公爵の奇妙な婚約期間が始まった。

 週に一度、公爵邸を訪れるのが私の役目だった。けれど、そこで彼と会話を交わすことはほとんどない。せいぜい、挨拶を交わす程度だ。

 公爵はいつも執務室に閉じこもっているか、騎士団の訓練に熱中しているか。社交の場に顔を出すことも滅多になく、私のことは完全に無視しているようだった。

 周囲からは、「冷遇されている」とか「かわいそうに」などと囁かれることもあった。

 けれど、私は何とも思わなかった。いや、思わないようにしていた、と言った方が正しいかもしれない。

 だって、彼が私に愛を与えないのと同じように、私も彼に愛を抱いてはいなかったから。

 政略結婚なのだから、それでいいのだと自分に言い聞かせていた。

 ある日、公爵邸の庭園を散策していると、珍しく彼が訓練をしている姿を見かけた。

 鋭い剣さばき。研ぎ澄まされた動き。まるで、獲物を狩る猛禽類のようだ。

 彼の姿に見惚れていると、不意に視線が合った。

 その瞬間、彼の表情は一層険しくなったように見えた。

「何をしている」

 冷たい声が飛んでくる。

「庭園を散策しておりました」

 私は慌てて答えた。

「俺の邪魔をするな」

 彼はそう言い放ち、再び剣の訓練に没頭した。

 私は、その場に立ち尽くすしかなかった。

 彼は私を鬱陶しいと思っている。邪魔だとさえ思っている。

 彼の視線には、私への興味の欠片もなかった。

「愛がないなら、結婚する意味なんてないじゃないですか?」

 ふと、胸の奥からそんな言葉が湧き上がってきた。

 今までずっと、政略結婚だからと割り切ってきたはずなのに、彼のあまりの冷たさに、私の心は少しずつ摩耗していたのかもしれない。

 この結婚は、私にとって何なのだろう?

 私は一体、何のためにこの公爵邸に足を踏み入れているのだろう?

 そんな疑問が、私の心を支配し始めた。

 そして、その疑問は、やがて確信へと変わっていく。

「私、この結婚、破棄したい」

 これは、私が密かに抱き始めた、小さな反逆の始まりだった。

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