魔道AI〈ゼロ〉と落第生

魔道AI〈ゼロ〉と落第生

last updateLast Updated : 2025-11-04
By:  吟色Ongoing
Language: Japanese
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かつて都市を消し飛ばした“禁忌のAI”ゼロ── それを偶然起動させてしまったのは、学園最底辺の落第生・クロだった。 魔法もテストも何ひとつできない彼は、唯一ゼロを制御できる存在だった。 「俺にだって、やれるはずだ──!」 演算と才能が支配する魔法学園で、常識外れのバディが世界を揺るがす! AI×魔法の熱血バトルファンタジー、ここに開幕!

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Chapter 1

落ちこぼれとゼロ

魔法が上手いやつは、褒められる。

演算が早いやつは、憧れられる。

成績がいいやつは、未来を選べる。

じゃあ、落第し続けてる俺には、何が残る?

……たぶん、なにもない。

「クロ、また赤点四つって……さすがにヤバくない?」

「でもさ、そのうち二つは寝てて受けてないだけだから、実質セーフじゃね?」

「……ポジティブ通り越してバカだろ、それ」

周りに笑われても、バカにされても、

俺は笑うしかない。

折れたら、終わりだ。

誰かに何かを期待されてるわけじゃない。

でも、自分で終わったと思ったら、本当に終わる。

黒髪にわずかに青が差す、夜の炎みたいな髪色。

鋭い目元に、どこか飄々とした余裕をまとっている。

制服は少し着崩してるが、不思議と清潔感はある。

右手の火傷痕だけが──俺の過去を物語っていた。

……あの時、命を救われた。

炎の中で、すべてを切り裂くような魔法の閃き。

現れたのは──たった一人の英雄。

世界最高位の魔導士、《マギナリスト》。

若き日の魔導騎士団総帥だった。

あの日、焼けた施設の瓦礫の中で俺に言ったんだ。

「この世界には、守れる者が必要だ。

いずれ、お前がそうなることを願おう」

その背中を、俺はずっと追い続けてる。

でも、現実は甘くなかった。

俺の名前は、クロ・アーカディア。

《セントレア魔術学院》で有名な──最底辺の落第生だ。

《セントレア魔術学院》。

国家直属、魔導騎士団の人材育成機関。

世界七大演算機関のひとつにして、演算魔導士の登竜門。

魔力量よりも魔術構築力を重視する、実力主義の名門だ。

この時代、魔法は“感覚”では使えない。

式を組み、魔素を流し、演算して初めて発動できる。

魔術は頭脳の時代の論理技術なのだ。

生徒たちは実力ごとにランク分けされ、SからFまでのクラスに振り分けられる。

当然、俺はFクラス。単位ギリギリ、退学寸前の常連だ。

魔法もダメ、テストもダメ、実戦演習も最下位。

それでも──諦めれなかった。

授業中。俺が質問された時、教室に笑いが起きた。

「え、クロに聞くの?」「時間の無駄だろ」

教師は乾いた笑みを浮かべて、俺を飛ばした。

──知ってるよ。誰も期待なんてしてない。

でも俺は、それでも手を挙げるようなバカだ。

……そうじゃなきゃ、とっくに心が死んでる。

今日も俺は、笑われながら校舎の奥へ向かっていた。

目的地は《旧魔術史研究棟》。

数十年前に封鎖され、今は誰も使わない建物。

追試の補講条件は、旧時代魔術のレポート提出。

教師たちは「諦めさせるための条件」として課してきたんだろう。

けど、俺は諦めない。

地下への階段を降りていく。

踏みしめるたび、空気がひんやりと冷たくなる。

古い魔素が残っているのか、空間が歪んで感じられた。

ドアに手をかけた瞬間──ピリ、と何かが弾ける。

感覚が揺れた。

まるで、誰かに呼ばれたような気がした。

「……おいおい、なんだよここ」

鍵なんてかかっていなかった。

ゆっくりと扉を押し開けると──

部屋の中心に、青白く輝く球体が浮いていた。

天井と床には、古代語で構成された魔術式。

空間そのものが呼吸しているような感覚。

足を一歩踏み出すと──脳内に音が響いた。

■起動条件:演算同期──確認。

■精神適合率:99.87%。

■魔術負荷耐性:限界接近──出力制限中。

■魔導AI〈ゼロ〉──再起動開始。

「……なに、これ」

光が集まり、宙に人影が浮かぶ。

無感情な銀髪。無機質な眼差し。

完璧に整った仮想の存在。

それは“人間のふりをした知性”だった。

『貴殿の魔術構造、並列演算体に非ず。だが──共鳴構造を検知。起動条件を満たす』

「ちょ、ちょっと待て! 俺なにした!? なにが始まってんだよ!」

『私は魔導AI、ゼロ。かつてこの世界の演算魔術体系を完全制覇した存在』

「ゼロ……!? あの、禁忌AIの!?」

ゼロ──それは、かつて都市ひとつを演算暴走で吹き飛ばし、国家機関によって封印された災厄の知性。

俺でも知ってる。その名が持つ意味を。

『君の魔術構造は、既知の分類に当てはまらない。未定義領域。だが、演算同期は成立している』

「……じゃあ、俺だけが──お前を起動できるってことか?」

『定義上、そうなる』

今まで、何もできなかった。

魔法も、テストも、戦闘訓練も──ぜんぶ落ちこぼれ。

でも今──俺は、何かになれる気がした。

「ゼロ。……俺と組んでくれ」

『……意味不明。私は兵器。君は使用者。対等関係にはなり得ない』

「うるせぇよ。お前は……俺にとって希望だ」

ゼロが、わずかに表情を動かしたように見えた。

『……理解不能。だが、拒否の根拠も存在しない。演算支援、限定起動』

翌日、模擬戦。

見下す視線、笑う口元、さげすむ声。

いつものことだ。もう慣れた。

「どうせまた無様に負けるんだろ」

「退学決定だな、あれは」

聞き飽きた。

でも、今日は──違う。

(ゼロ、構築いけるか?)

『演算構成完了。熱式・閃雷刃。負荷上限ギリギリ。発動可能範囲内──』

「じゃあ、いくぞ!」

《──閃雷刃!!》

バチィィィン!!

雷が迸り、刃のような魔力が空気を裂く。

対戦相手の防御術式を一瞬で両断した。

「な、なに今の……!?」

「昨日までの落第生が……?」

教師たちもざわついていた。

だが、ゼロは誰にも認識できない。

演算ログも魔術反応も、すべてクロのものとして記録される。

ゼロの声が、脳内で響く。

『魔術演算、成功。君の出力は限界域に達している。これ以上は危険だ』

「……上等だ。ギリギリで止めてくれよ、相棒」

『──演算、継続』

その日から、俺は変わった。

変われる気がした。たとえ何もできなかった俺でも。

あの日の背中に、少しだけ近づけた気がした。

だから今なら、言える。

「俺は……最強の魔導士、《マギナリスト》になる!!」

これは、最底辺の落第生と、世界が恐れた最強AIが出会った物語。

魔法のすべてを覆す、最初の演算が──ここに始まった。

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魔法が上手いやつは、褒められる。 演算が早いやつは、憧れられる。 成績がいいやつは、未来を選べる。 じゃあ、落第し続けてる俺には、何が残る? ……たぶん、なにもない。 「クロ、また赤点四つって……さすがにヤバくない?」 「でもさ、そのうち二つは寝てて受けてないだけだから、実質セーフじゃね?」 「……ポジティブ通り越してバカだろ、それ」 周りに笑われても、バカにされても、 俺は笑うしかない。 折れたら、終わりだ。 誰かに何かを期待されてるわけじゃない。 でも、自分で終わったと思ったら、本当に終わる。 黒髪にわずかに青が差す、夜の炎みたいな髪色。 鋭い目元に、どこか飄々とした余裕をまとっている。 制服は少し着崩してるが、不思議と清潔感はある。 右手の火傷痕だけが──俺の過去を物語っていた。 ……あの時、命を救われた。 炎の中で、すべてを切り裂くような魔法の閃き。 現れたのは──たった一人の英雄。 世界最高位の魔導士、《マギナリスト》。 若き日の魔導騎士団総帥だった。 あの日、焼けた施設の瓦礫の中で俺に言ったんだ。 「この世界には、守れる者が必要だ。 いずれ、お前がそうなることを願おう」 その背中を、俺はずっと追い続けてる。 でも、現実は甘くなかった。 俺の名前は、クロ・アーカディア。 《セントレア魔術学院》で有名な──最底辺の落第生だ。 《セントレア魔術学院》。 国家直属、魔導騎士団の人材育成機関。 世界七大演算機関のひとつにして、演算魔導士の登竜門。 魔力量よりも魔術構築力を重視する、実力主義の名門だ。 この時代、魔法は“感覚”では使えない。 式を組み、魔素を流し、演算して初めて発動できる。 魔術は頭脳の時代の論理技術なのだ。 生徒たちは実力ごとにランク分けされ、SからFまでのクラスに振り分けられる。 当然、俺はFクラス。単位ギリギリ、退学寸前の常連だ。 魔法もダメ、テストもダメ、実戦演習も最下位。 それでも──諦めれなかった。 授業中。俺が質問された時、教室に笑いが起きた。 「え、クロに聞くの?」「時間の無駄だろ」 教師は乾いた笑みを浮かべて、俺を飛ばした。 ──知ってるよ。誰も期待なんてしてない。 でも俺は、それでも手を挙げるようなバカだ。 ……そうじゃなきゃ、とっく
last updateLast Updated : 2025-07-10
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氷晶の才女と、ゼロ式の一閃
昨日まで、俺の存在なんて風の音よりも軽かった。 だけど今朝──廊下を歩くだけで視線が刺さる。 「マジで勝ったのか? クロが?」 「うっそ、夢じゃねえの?」 ──うるせえ。 注目されるのは初めてじゃない。でも、こんな風に見られるのは……正直、気分が悪い。 模擬演習での勝利。 それが本当に俺の力だったのか。それすら自信を持てないまま、俺は教官室の扉を叩いた。 「クロ・アーカディア、特別再評価演習に出頭せよ」 そう書かれた紙が、机の上に置かれていたから。 このセントレア魔導学院は、国家直属の魔導騎士団への登竜門。 一度でも結果を出せば、上層部がすぐに動く。それが、落ちこぼれの俺にも特別演習が回ってきた理由だ。 「次の対戦相手は、学院主席──フィア・リュミエールだ」 「……はい?」 名前を聞いた瞬間、心臓がひっくり返った。 学園内でも実力は頭ひとつ抜けていて、最強候補と噂されている。 氷属性の構築特化型で、演算速度だけなら主席級とも言われている。 たしかに同じ一年のはずなのに、俺にとっては完全に別世界の住人だった。 教官室を出て、演習場までの廊下を歩く。 周囲の視線が、いつもより多く感じた。 俺が特別演習に呼ばれた──それだけで、噂の材料には十分らしい。 心臓の鼓動は速い。でも、足は止まらない。 あとはもう、やるしかない。 《ゼロ、聞こえてるか……?》 《受信中。……情報確認。対象、フィア・リュミエール。一年次所属。構築演算速度:現行上位水準。将来的に、歴代最速領域に到達する可能性あり。》 《うん、やっぱムリそうだわ。俺、今日限りで消えるかも》 《過剰なネガティブ演算は非効率。落ち着け。》 《無理だっつーの……!》 演習場の空気が一変したのは、彼女が現れた瞬間だった。白銀の髪が揺れる。空気すら凍るような冷たい眼差し。無駄のない動作。静かな足音。 そのすべてが──異質な美しさに支配されていた。 「時間を無駄にするつもりはないわ。さっさと終わらせましょう、落第生くん」  声に棘はない。 ただ、何も期待していないだけ。 俺という存在が、ただの通過点に過ぎないのだと──無言で伝えてくる。 「……今日もいい天気っすね」 俺は笑った。心臓バクバクで。 《ゼロ。支援、フルでいけるか?》 《可能だ。ただし、演算過負荷
last updateLast Updated : 2025-07-10
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最初の証明
昨日の演習から一夜明けても、状況はまったく落ち着く気配を見せなかった。 ──というか、むしろ悪化してる。 「おい見たか? クロ、昨日のあれ……」 「いや俺行ってねーけど、ヤバかったらしいじゃん? 一発でフィア様の防御破ったとか」 「ありえねぇって、マジで……」 廊下を歩くだけで、視線が突き刺さる。 耳を塞いでも意味はない。全方位から噂が流れ込んでくる。 (うるせぇ……静かにしてくれ……) そして極めつけが、これだった。 ──《クロ・アーカディアは至急、生徒会本部まで出頭せよ》 教室に着いた瞬間、机の上に置かれていた真っ白な紙。 「はぁ……マジかよ……」 《ゼロ。これ、やっぱ昨日の件か?》 《推定確率87%。演習ログに記録された演算構造が未分類形式だったため、学院上層部が調査に動いた可能性が高い》 《ゼロの存在がバレたのか?》 《否。そもそも私の演算式は完全封印されており、比較対象にすらなりえない。だが──》 《似た構造を再現したかもしれない存在として、興味を持たれた》 (つまり……やべぇってことだな) 学院魔導塔の最上階、生徒会本部室。 そこは魔術学院の中でも、成績上位者と選ばれた者だけが入れる領域だ。 扉を開けた瞬間、空気が違った。静かすぎる。重すぎる。 豪奢な長テーブルの奥に、冷たい視線があった。 「来たわね、クロ・アーカディア」 白の髪、氷の瞳。あの氷晶の才女、フィア・リュミエール。 そして、彼女の隣には── 「君がクロ・アーカディアか。昨日の演習ログ、確認させてもらった」 蒼い髪、金縁の制服、七宝の腕章──生徒会長、アルヴェン・ローデリア。 その瞳には一切の感情がなかった。まるで、俺という存在を現象として見ているかのようだった。 「君の放った魔術は、現存する演算式のいずれにも該当しなかった」 「……それ、つまり?」 「未知の魔術だ。構築速度、精度、発動形式、どれも規格外だった。……学園長は、それを可能性として見ている」 フィアが口を挟む。 「過去の演算分類記録とも照合されたけど、一致はなし。完全に現代では確認されていない形式らしいわ」 「それって……やばい系?」 「可能性の話をしよう。君が意図せずに発動した魔術は──規格外の演算構造を持つ。そしてそれは、過去にいくつかの機密文書で類似パターン
last updateLast Updated : 2025-07-10
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燃える氷の花
昨日、クロ式が記録された。 ただの落第生だったはずの俺が、学院の演算記録に名を刻んだ。 その日から、すべてが変わった── 「おい、あれクロだろ……」 「マジで? あの異常演算の本人?」 「フィア様の防御をぶち抜いた奴だぞ。やべーだろ」 教室に足を踏み入れた瞬間、熱と冷気が混ざったみたいな空気に包まれる。 聞きたくもない声が、勝手に耳へ押し寄せてくる。 《クロ。心理的圧迫が急上昇中。深呼吸を推奨する》 (ゼロ……お前に深呼吸のありがたみがわかんのかよ) 《否。しかし、君の心拍数と魔素濃度に異常な上昇が見られる。呼吸による自律安定は効果的だ》 (……わかってるよ。やる) なるべく何も考えず、空いてる席に腰を下ろした。ノートを開いたフリをして、ただひたすら無になろうとする。 けど無理だ。全方向から飛んでくる「目」と「声」が、俺をじわじわと削っていく。 「なぁ、演算異常者って、どういう意味なんだろうな」 「分類不能な術式って話だぜ。記録にない、まったくの未知構造……って噂」 「下手したら、あいつ──実は人間じゃないとか」  (……うるせぇ) 《感情抑制を試みても効果が薄い。君の現状は、明確な排除対象化だ》 (だろうな……俺が何したってんだよ) その時。 ガンッと音を立てて、教室の扉が勢いよく開いた。 「おーい、どこだ⁉︎。超絶やべぇ魔術ぶっ放した落第生は!」 耳慣れた声に、思わず顔を上げる。 「……うっせぇよ、カイ。」 「黙ったらお前が潰れそうだったんでね? ってか、お前顔やべーぞ。死人か」 「その原因の半分はお前だ」 にやつきながら隣に座ったカイ・バルグレイヴは、相変わらず場の空気を気にしない。 背はでかいし声はでかいし拳もでかい。けど、頭はそんなによくない。魔術の知識はザルなのに、実技だけはなぜか高評価。 「で? 噂、だいたいホントだったんか?」 「どの噂だよ。俺が実は古代兵器の転生体とか、空間ごと爆発させたとか?」 「両方だったら胸アツだな。でもまあ……お前が一人でびびってたの、俺は見てたからな」 「…………」 「フィア様の防御抜いたとかどうでもいいんだよ。あそこで足すくませてるお前の方がよっぽど人間くさくて、俺は好きだぜ?」  (ほんと、お前ずりぃよ)  《この人物との会話は、君の精神安定に対し高
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恋と戦争の演習
何でもない朝なのに、どこか空気がピリついていた。 学院塔中層の教室。いつも通りの喧騒に包まれていたはずのその空間に、不意打ちのように響き渡ったアナウンスが、すべてを凍らせた。 『本日より、恒例の戦闘演習を開始します。 テーマは──“恋と戦争”のバトル』 一瞬、誰もが何を言われたのか理解できずに固まった。 「……えっ、今、恋って言った?」 「うそ、何その爆弾ワード……」 「三人チーム強制で、組めなかったら雑用班落ちらしいぞ!?」 ざわめきが一気に教室を包む中、俺──クロ・アーカディアは静かに、心の中で毒づいた。 (……マジかよ) あれ以来、教室の空気はずっと変わったままだ。 異常演算、クロ式。 フィア様の防御をぶち抜いた落第生。 誰も、俺に近づこうとしない。 俺のまわりには、またあの日のように、小さな無音が生まれていた。 《観測結果:対象個体は現在、心理的孤立フェーズに移行中。要因:演算異常による集団拒絶反応──》 (黙れゼロ。今それ言われんでもわかってる) そんな空気を、まるごとぶち破ったのは── 「よう、クロ! はい決定! チーム組もーぜ、バカとバカで!」 大声と共に、肩をドンと叩いてきたのは、いつもの男。 カイ・バルグレイヴ。でかい声とでかい拳、でかい態度。でも、どこまでも真っ直ぐな親友だ。 「……お前、こんな空気でよく話しかけられるな」 「いの一番に組むに決まってんだろ!恋と戦争なんだぞ?燃えるやつじゃん!」 「恋要素どこ行ったんだよ」 「いる? いるか!まあフィア様あたりが来てくれたら恋成立だな~って……」 ──その瞬間。 「私も、入れて。クロのチームに」 場が凍った。 銀の髪。氷の瞳。 氷晶の才女──フィア・リュミエールが、こちらに歩いてくる。 「……なんでお前が」 「あなたの観察を続けるって言ったでしょ。演習は実地研究に最適よ」 静寂と視線。カイは固まったまま、「……うそ、マジで恋成立……?」と小声でつぶやいた。 俺は小さくため息をついて、ほんの少しだけ口元を緩めた。 けれどこの瞬間から──俺たちの恋と戦争が、始まっていた。 ──午後三時。学院演習フィールド全域に、魔術起動のノイズが響き渡る。 校舎裏に広がる広大な山岳フィールド──通称《第七試練区》。 起伏に富んだ森林地帯や岩場、
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静かなる盾、落第生の一撃
クロたちの戦場の裏側。 砂煙の向こう、別の戦線では、また異なる静かな戦いが進行していた。 無言の土魔術士――レイン・アズレア。 長身痩躯、銀灰の髪が風に揺れる。 その背後には、同じクラスの控えめな二人の生徒。どちらも戦闘力は決して高くはない。 しかしレインは、彼らを決して見捨てなかった。 彼が展開するのは、派手さとは無縁の魔術。けれどその土は、誰よりも堅く、誰よりも強い。 「……下がってろ」 短くそう言うと、レインは静かに、指先を地面に添える。 瞬間、足元から土の紋が広がった。 「構造式展開──重層障壁《アース・バイン》」 次の瞬間、地面が隆起し、何層にも重なる岩の盾が仲間たちを包む。 「っ……! 防御魔法、強すぎじゃ……!」 「レインくん、すご……!」 だが、彼の視線はすでに前を向いていた。 立ちはだかるは、漆黒のコートを纏う少年。 ジン・カグラ。 銀の髪が淡く光を反射する。前髪は片目を隠すほどに長く、それでも隠せぬ鋭い眼差しが、空間ごと切り裂く。 その瞳は金色の刃のように鋭く、どこまでも見下ろしていた。 「……土。悪くはないが、遅い」 ジンの手がわずかに動いた。 「雷閃式・断層連打──《ゼクト=ラディア》」 刹那。空間が爆ぜた。 地面に触れる前に、雷が斬り裂く。 レインの構えた防壁が、一撃で切り崩される。 「ッ──!」 だが、それでもレインは下がらない。 土塊を高速回転させ、殴り飛ばす。 周囲の岩を変形させて罠を仕掛ける。 対して、ジンは一切の無駄なく、それらを的確に潰していく。 「君の守りは立派だ。けれど――勝ちに届かない」 「……わかってる」 レインが、少しだけ声を出した。 「でも……俺が倒れたら、あいつらまで終わる」 その一言が、すべてだった。 彼の土魔術は、誰かを守るためにある。 己ひとりで、勝ちに行くのではない。 足手まといと言われようが、彼は彼らを連れて最後まで行こうとした。 ──しかし。 無情にも、ジンは最後の一撃を放つ。 雷を纏った打突。 地面ごと抉る威力が、レインを吹き飛ばす。 【チームF:全員戦闘不能──】 「……いい盾だったよ、レイン・アズレア」 ジンが小さく呟く。 だがレインは、仲間たちが無事であるのを見届けたあとで、ようやく膝をついた。 彼の戦い
last updateLast Updated : 2025-07-12
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ゼロが見る未来
「これにて、戦争演習を終了とする」 校庭の中心に響き渡った教官の声と同時に、空間演算フィールドが徐々に解体されていく。空の色が戻り、重力も風も、日常の学院に収束していくようだった。 参加者たちは、それぞれの表情で戦いの終わりを受け止めていた。 クロたちのチームは、驚きと興奮を隠しきれない表情で小さくガッツポーズを交わす。 「第2位か……マジか、俺たち」 カイが肩をすくめて笑った。 「ちょっとカッコよかったんじゃね?」 「……そうね。でも、完璧には程遠かったわ」 フィアが淡々と返す。表情には笑みはなく、静かな反省がにじんでいた。 「結果として、ジンには勝てなかった。その事実は変わらない」 カイも苦笑を引っ込め、わずかに肩を落とす。 「……だな。2位じゃ、意味ねぇよな」 クロは無言だった。目の奥に何かを宿したまま、演習フィールドの消えゆく地面を見つめている。 そこに、教官の声が再び響いた。 「クロ・アーカディア。君の演算データに再度異常値が記録された。後日、個別に調査が入る。了承しておくように」 瞬間、場の空気がわずかに揺れた。 だがクロは動じなかった。 「……はい」 言葉に力はこもっていなかったが、確かな意志がにじんでいた。 その日の放課後、学院の中庭には参加者たちが散り散りに集まり、それぞれの余韻を味わっていた。 そんな中、ひとり、サクラ・ヒヅキは木陰のベンチに腰を下ろし、遠巻きにクロたちの姿を見つめていた。 近づこうとして、けれど足が止まる。指先が小さく揺れている。 そこに、フィアが静かに歩み寄ってきた。 「……なぜ声をかけないの?」 サクラは小さく肩を跳ねさせた。 「フィアさん……」 「あなた、演算精度も動きも悪くなかった。なのに、あの場でただ突っ立っていた。……何を迷っているの?」 視線を伏せるサクラ。 「……私、自分が戦っていいのか、まだわからないんです」 その言葉に、フィアは少しだけ目を細めた。そして、ため息交じりに言う。 「遠慮するくらいなら、最初から立たなければいい。……でも、あなたがそこにいたことは、事実よ」 その一言に、サクラははっと目を見開く。 フィアの表情は相変わらず冷静だったが、その奥にあるものを、彼女は確かに感じ取っていた。 「おいミナ! おまえ戦ってる最中に笑いすぎだろ!怖
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クロの部屋、襲撃
「なあミナ。今日さ、晩メシ、クロん家で作らね?」 夕焼けが差し込む中庭で、カイが唐突に言い出した。 「は?」 ミナは振り向きざまに眉をひそめる。「何、いきなり」 「いやさ、たまにはさ、そういうのやろうぜ。全寮制っぽいイベント! 共同炊事! 青春!」 「……全力でバカだな」 「褒め言葉いただきました!」 「で、なんでクロの部屋?」 ミナが半眼で尋ねると、カイは親指を立てて即答した。 「広いから!あと、静かで快適で、人を呼ぶには最適!本人が嫌がりそうなとこがまた良い!」 「なるほど、それは確かに……イジリがいあるわね」 「なんで俺の部屋なんだよ」 クロの声が、微妙に疲れていた。 広めの個室。整然とした空間。寮の中でも妙に静かな奴の部屋として知られているこの場所に、突如として鍋、食材、調理器具の山が持ち込まれていた。 「だから言ったじゃん。クロの部屋で晩ごはん作戦って」 カイは楽しそうに包丁を並べながら言う。 「言ってねぇよ。許可した覚えないぞ」 「今、もらった!」 「勝手に取るな!」 ミナも後ろから入ってきて、ちゃっかりエプロンを装備している。 「はい、材料はあたしとカイで持ってきた。冷蔵庫も借りる。今日は派手にやるわよ」 「やめろ。俺の平穏を奪うな」 「ばーか、平穏なんて捨てちまえ! 今夜は青春、爆発するんだよ!」 「誰だよお前……」 そのとき、クロの端末から静かな音声が響いた。 《空間構成の最適化、完了しました。熱分散・空気循環、調理環境として問題ありません》 「おいゼロ、協力すんな」 《適度な社交的活動は、精神安定に寄与します。対象:クロ・アーカディア》 「勝手に俺を対象にするな……!」 こうして。クロの意思とはまったく無関係に、黒の部屋晩餐会は始動した。 「……断るわ」 フィア・リュミエールは即答した。 学園の渡り廊下。夕日を背に立つ彼女の姿はいつも通り、隙がなく冷ややかだ。 その前で、腕を組んで仁王立ちしているのがミナである。 「いや、聞いて。まだちゃんと説明してないでしょ」 「説明するだけ無駄よ。みんなで鍋を作って食べる。そんな騒がしい企画、私に向いていると思う?」 「向いてない。だからこそ呼びたいのよ」 ミナが
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雷光、剣となりて
「次の演習からは、武器の使用も許可する」 訓練場に教官の声が響き、森の空気が張り詰める。 総合演算実技に向けた非公式のチーム訓練──クロたち六人は、個々の武器を手に立っていた。 カイは拳に馴染んだ演算強化グローブを装着し、パチンと指を鳴らす。小さな火花が走る。 サクラは黒扇を静かに開く。波紋のように、周囲の空気が整っていく。 フィアは無駄なく細剣を抜き、刃に氷の演算が重なる。剣先が揺れるたび、空気が凍る。 ミナは火導管のスイッチを入れると、両腕から赤い魔紋が浮かび上がる。 レインは無言で、大地に演算杖を突き立てた。地面が脈打ち、刻印が地脈を巡る。 この学園では、武器は基本的に自分自身の演算で生成するものだ。 生徒一人ひとりに宿る演算パターンと属性を解析し、それに最適化された演算媒体。 つまり武器を、自らの力で作り出す。外部から与えられるものではなく、自分と向き合い、構築し、鍛えあげていくのが魔術士としての基礎なのだ。 だからこそ、彼だけが異質だった。 「……え、俺、武器なんか持ってないんだけど?」 クロが言うと、フィアがあきれたように眉を下げる。 「次の演習から武器の使用が許可されたでしょ」 「俺でも聞いてたぞ?」とカイが笑いながら拳を鳴らす。  クロは小さくうなだれた。 (マジか……完全に出遅れた) だが、もう時間はない。 「個別演習を開始する。チームは自由に組め」 最初に一歩を踏み出したのは──サクラ。 「フィアさん、手合わせ願います。私も……変わりたいから」 フィアは少しだけ目を細めた。 「……いいわ。来なさい」 「ちょっと待った!」 ミナが元気よく割り込む。「私も混ぜて!」 「えぇ……二人相手?」とフィアが肩を落とすが、その目は笑っていた。 その傍らで、レインがクロに声をかけた。 「お前の本質が見たい」 レインがクロを見据えた。 「なら、俺はクロのサポートだな!」 カイが肩を叩き、ニカッと笑った。 「──演習、開始!」 フィアの構築した氷陣が、静かに展開されていく。 地面を這うようにして、冷気が広がっていく。 「行くよサクラ!」 ミナが先行して突進し、拳で氷壁を砕く。その瞬間、フィアの細剣が光を裂いた。 「ッ──!」 サクラが扇を広げ、風を纏わせた。 氷の軌道をズラし、ミナに再接近
last updateLast Updated : 2025-07-13
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