魔道AI〈ゼロ〉と落第生

魔道AI〈ゼロ〉と落第生

last updateLast Updated : 2025-08-26
By:  吟色Updated just now
Language: Japanese
goodnovel12goodnovel
Not enough ratings
44Chapters
483views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

かつて都市を消し飛ばした“禁忌のAI”ゼロ── それを偶然起動させてしまったのは、学園最底辺の落第生・クロだった。 魔法もテストも何ひとつできない彼は、唯一ゼロを制御できる存在だった。 「俺にだって、やれるはずだ──!」 演算と才能が支配する魔法学園で、常識外れのバディが世界を揺るがす! AI×魔法の熱血バトルファンタジー、ここに開幕!

View More

Chapter 1

落ちこぼれとゼロ

魔法が上手いやつは、褒められる。

演算が早いやつは、憧れられる。

成績がいいやつは、未来を選べる。

じゃあ、落第し続けてる俺には、何が残る?

……たぶん、なにもない。

「クロ、また赤点四つって……さすがにヤバくない?」

「でもさ、そのうち二つは寝てて受けてないだけだから、実質セーフじゃね?」

「……ポジティブ通り越してバカだろ、それ」

周りに笑われても、バカにされても、

俺は笑うしかない。

折れたら、終わりだ。

誰かに何かを期待されてるわけじゃない。

でも、自分で終わったと思ったら、本当に終わる。

黒髪にわずかに青が差す、夜の炎みたいな髪色。

鋭い目元に、どこか飄々とした余裕をまとっている。

制服は少し着崩してるが、不思議と清潔感はある。

右手の火傷痕だけが──俺の過去を物語っていた。

……あの時、命を救われた。

炎の中で、すべてを切り裂くような魔法の閃き。

現れたのは──たった一人の英雄。

世界最高位の魔導士、《マギナリスト》。

若き日の魔導騎士団総帥だった。

あの日、焼けた施設の瓦礫の中で俺に言ったんだ。

「この世界には、守れる者が必要だ。

いずれ、お前がそうなることを願おう」

その背中を、俺はずっと追い続けてる。

でも、現実は甘くなかった。

俺の名前は、クロ・アーカディア。

《セントレア魔術学院》で有名な──最底辺の落第生だ。

《セントレア魔術学院》。

国家直属、魔導騎士団の人材育成機関。

世界七大演算機関のひとつにして、演算魔導士の登竜門。

魔力量よりも魔術構築力を重視する、実力主義の名門だ。

この時代、魔法は“感覚”では使えない。

式を組み、魔素を流し、演算して初めて発動できる。

魔術は頭脳の時代の論理技術なのだ。

生徒たちは実力ごとにランク分けされ、SからFまでのクラスに振り分けられる。

当然、俺はFクラス。単位ギリギリ、退学寸前の常連だ。

魔法もダメ、テストもダメ、実戦演習も最下位。

それでも──諦めれなかった。

授業中。俺が質問された時、教室に笑いが起きた。

「え、クロに聞くの?」「時間の無駄だろ」

教師は乾いた笑みを浮かべて、俺を飛ばした。

──知ってるよ。誰も期待なんてしてない。

でも俺は、それでも手を挙げるようなバカだ。

……そうじゃなきゃ、とっくに心が死んでる。

今日も俺は、笑われながら校舎の奥へ向かっていた。

目的地は《旧魔術史研究棟》。

数十年前に封鎖され、今は誰も使わない建物。

追試の補講条件は、旧時代魔術のレポート提出。

教師たちは「諦めさせるための条件」として課してきたんだろう。

けど、俺は諦めない。

地下への階段を降りていく。

踏みしめるたび、空気がひんやりと冷たくなる。

古い魔素が残っているのか、空間が歪んで感じられた。

ドアに手をかけた瞬間──ピリ、と何かが弾ける。

感覚が揺れた。

まるで、誰かに呼ばれたような気がした。

「……おいおい、なんだよここ」

鍵なんてかかっていなかった。

ゆっくりと扉を押し開けると──

部屋の中心に、青白く輝く球体が浮いていた。

天井と床には、古代語で構成された魔術式。

空間そのものが呼吸しているような感覚。

足を一歩踏み出すと──脳内に音が響いた。

■起動条件:演算同期──確認。

■精神適合率:99.87%。

■魔術負荷耐性:限界接近──出力制限中。

■魔導AI〈ゼロ〉──再起動開始。

「……なに、これ」

光が集まり、宙に人影が浮かぶ。

無感情な銀髪。無機質な眼差し。

完璧に整った仮想の存在。

それは“人間のふりをした知性”だった。

『貴殿の魔術構造、並列演算体に非ず。だが──共鳴構造を検知。起動条件を満たす』

「ちょ、ちょっと待て! 俺なにした!? なにが始まってんだよ!」

『私は魔導AI、ゼロ。かつてこの世界の演算魔術体系を完全制覇した存在』

「ゼロ……!? あの、禁忌AIの!?」

ゼロ──それは、かつて都市ひとつを演算暴走で吹き飛ばし、国家機関によって封印された災厄の知性。

俺でも知ってる。その名が持つ意味を。

『君の魔術構造は、既知の分類に当てはまらない。未定義領域。だが、演算同期は成立している』

「……じゃあ、俺だけが──お前を起動できるってことか?」

『定義上、そうなる』

今まで、何もできなかった。

魔法も、テストも、戦闘訓練も──ぜんぶ落ちこぼれ。

でも今──俺は、何かになれる気がした。

「ゼロ。……俺と組んでくれ」

『……意味不明。私は兵器。君は使用者。対等関係にはなり得ない』

「うるせぇよ。お前は……俺にとって希望だ」

ゼロが、わずかに表情を動かしたように見えた。

『……理解不能。だが、拒否の根拠も存在しない。演算支援、限定起動』

翌日、模擬戦。

見下す視線、笑う口元、さげすむ声。

いつものことだ。もう慣れた。

「どうせまた無様に負けるんだろ」

「退学決定だな、あれは」

聞き飽きた。

でも、今日は──違う。

(ゼロ、構築いけるか?)

『演算構成完了。熱式・閃雷刃。負荷上限ギリギリ。発動可能範囲内──』

「じゃあ、いくぞ!」

《──閃雷刃!!》

バチィィィン!!

雷が迸り、刃のような魔力が空気を裂く。

対戦相手の防御術式を一瞬で両断した。

「な、なに今の……!?」

「昨日までの落第生が……?」

教師たちもざわついていた。

だが、ゼロは誰にも認識できない。

演算ログも魔術反応も、すべてクロのものとして記録される。

ゼロの声が、脳内で響く。

『魔術演算、成功。君の出力は限界域に達している。これ以上は危険だ』

「……上等だ。ギリギリで止めてくれよ、相棒」

『──演算、継続』

その日から、俺は変わった。

変われる気がした。たとえ何もできなかった俺でも。

あの日の背中に、少しだけ近づけた気がした。

だから今なら、言える。

「俺は……最強の魔導士、《マギナリスト》になる!!」

これは、最底辺の落第生と、世界が恐れた最強AIが出会った物語。

魔法のすべてを覆す、最初の演算が──ここに始まった。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

Comments

No Comments
44 Chapters
落ちこぼれとゼロ
魔法が上手いやつは、褒められる。 演算が早いやつは、憧れられる。 成績がいいやつは、未来を選べる。 じゃあ、落第し続けてる俺には、何が残る? ……たぶん、なにもない。 「クロ、また赤点四つって……さすがにヤバくない?」 「でもさ、そのうち二つは寝てて受けてないだけだから、実質セーフじゃね?」 「……ポジティブ通り越してバカだろ、それ」 周りに笑われても、バカにされても、 俺は笑うしかない。 折れたら、終わりだ。 誰かに何かを期待されてるわけじゃない。 でも、自分で終わったと思ったら、本当に終わる。 黒髪にわずかに青が差す、夜の炎みたいな髪色。 鋭い目元に、どこか飄々とした余裕をまとっている。 制服は少し着崩してるが、不思議と清潔感はある。 右手の火傷痕だけが──俺の過去を物語っていた。 ……あの時、命を救われた。 炎の中で、すべてを切り裂くような魔法の閃き。 現れたのは──たった一人の英雄。 世界最高位の魔導士、《マギナリスト》。 若き日の魔導騎士団総帥だった。 あの日、焼けた施設の瓦礫の中で俺に言ったんだ。 「この世界には、守れる者が必要だ。 いずれ、お前がそうなることを願おう」 その背中を、俺はずっと追い続けてる。 でも、現実は甘くなかった。 俺の名前は、クロ・アーカディア。 《セントレア魔術学院》で有名な──最底辺の落第生だ。 《セントレア魔術学院》。 国家直属、魔導騎士団の人材育成機関。 世界七大演算機関のひとつにして、演算魔導士の登竜門。 魔力量よりも魔術構築力を重視する、実力主義の名門だ。 この時代、魔法は“感覚”では使えない。 式を組み、魔素を流し、演算して初めて発動できる。 魔術は頭脳の時代の論理技術なのだ。 生徒たちは実力ごとにランク分けされ、SからFまでのクラスに振り分けられる。 当然、俺はFクラス。単位ギリギリ、退学寸前の常連だ。 魔法もダメ、テストもダメ、実戦演習も最下位。 それでも──諦めれなかった。 授業中。俺が質問された時、教室に笑いが起きた。 「え、クロに聞くの?」「時間の無駄だろ」 教師は乾いた笑みを浮かべて、俺を飛ばした。 ──知ってるよ。誰も期待なんてしてない。 でも俺は、それでも手を挙げるようなバカだ。 ……そうじゃなきゃ、とっく
last updateLast Updated : 2025-07-10
Read more
氷晶の才女と、ゼロ式の一閃
昨日まで、俺の存在なんて風の音よりも軽かった。 だけど今朝──廊下を歩くだけで視線が刺さる。 「マジで勝ったのか? クロが?」 「うっそ、夢じゃねえの?」 ──うるせえ。 注目されるのは初めてじゃない。でも、こんな風に見られるのは……正直、気分が悪い。 模擬演習での勝利。 それが本当に俺の力だったのか。それすら自信を持てないまま、俺は教官室の扉を叩いた。 「クロ・アーカディア、特別再評価演習に出頭せよ」 そう書かれた紙が、机の上に置かれていたから。 このセントレア魔導学院は、国家直属の魔導騎士団への登竜門。 一度でも結果を出せば、上層部がすぐに動く。それが、落ちこぼれの俺にも特別演習が回ってきた理由だ。 「次の対戦相手は、学院主席──フィア・リュミエールだ」 「……はい?」 名前を聞いた瞬間、心臓がひっくり返った。 学園内でも実力は頭ひとつ抜けていて、最強候補と噂されている。 氷属性の構築特化型で、演算速度だけなら主席級とも言われている。 たしかに同じ一年のはずなのに、俺にとっては完全に別世界の住人だった。 教官室を出て、演習場までの廊下を歩く。 周囲の視線が、いつもより多く感じた。 俺が特別演習に呼ばれた──それだけで、噂の材料には十分らしい。 心臓の鼓動は速い。でも、足は止まらない。 あとはもう、やるしかない。 《ゼロ、聞こえてるか……?》 《受信中。……情報確認。対象、フィア・リュミエール。一年次所属。構築演算速度:現行上位水準。将来的に、歴代最速領域に到達する可能性あり。》 《うん、やっぱムリそうだわ。俺、今日限りで消えるかも》 《過剰なネガティブ演算は非効率。落ち着け。》 《無理だっつーの……!》 演習場の空気が一変したのは、彼女が現れた瞬間だった。白銀の髪が揺れる。空気すら凍るような冷たい眼差し。無駄のない動作。静かな足音。 そのすべてが──異質な美しさに支配されていた。 「時間を無駄にするつもりはないわ。さっさと終わらせましょう、落第生くん」  声に棘はない。 ただ、何も期待していないだけ。 俺という存在が、ただの通過点に過ぎないのだと──無言で伝えてくる。 「……今日もいい天気っすね」 俺は笑った。心臓バクバクで。 《ゼロ。支援、フルでいけるか?》 《可能だ。ただし、演算過負荷
last updateLast Updated : 2025-07-10
Read more
最初の証明
昨日の演習から一夜明けても、状況はまったく落ち着く気配を見せなかった。 ──というか、むしろ悪化してる。 「おい見たか? クロ、昨日のあれ……」 「いや俺行ってねーけど、ヤバかったらしいじゃん? 一発でフィア様の防御破ったとか」 「ありえねぇって、マジで……」 廊下を歩くだけで、視線が突き刺さる。 耳を塞いでも意味はない。全方位から噂が流れ込んでくる。 (うるせぇ……静かにしてくれ……) そして極めつけが、これだった。 ──《クロ・アーカディアは至急、生徒会本部まで出頭せよ》 教室に着いた瞬間、机の上に置かれていた真っ白な紙。 「はぁ……マジかよ……」 《ゼロ。これ、やっぱ昨日の件か?》 《推定確率87%。演習ログに記録された演算構造が未分類形式だったため、学院上層部が調査に動いた可能性が高い》 《ゼロの存在がバレたのか?》 《否。そもそも私の演算式は完全封印されており、比較対象にすらなりえない。だが──》 《似た構造を再現したかもしれない存在として、興味を持たれた》 (つまり……やべぇってことだな) 学院魔導塔の最上階、生徒会本部室。 そこは魔術学院の中でも、成績上位者と選ばれた者だけが入れる領域だ。 扉を開けた瞬間、空気が違った。静かすぎる。重すぎる。 豪奢な長テーブルの奥に、冷たい視線があった。 「来たわね、クロ・アーカディア」 白の髪、氷の瞳。あの氷晶の才女、フィア・リュミエール。 そして、彼女の隣には── 「君がクロ・アーカディアか。昨日の演習ログ、確認させてもらった」 蒼い髪、金縁の制服、七宝の腕章──生徒会長、アルヴェン・ローデリア。 その瞳には一切の感情がなかった。まるで、俺という存在を現象として見ているかのようだった。 「君の放った魔術は、現存する演算式のいずれにも該当しなかった」 「……それ、つまり?」 「未知の魔術だ。構築速度、精度、発動形式、どれも規格外だった。……学園長は、それを可能性として見ている」 フィアが口を挟む。 「過去の演算分類記録とも照合されたけど、一致はなし。完全に現代では確認されていない形式らしいわ」 「それって……やばい系?」 「可能性の話をしよう。君が意図せずに発動した魔術は──規格外の演算構造を持つ。そしてそれは、過去にいくつかの機密文書で類似パターン
last updateLast Updated : 2025-07-10
Read more
燃える氷の花
昨日、クロ式が記録された。 ただの落第生だったはずの俺が、学院の演算記録に名を刻んだ。 その日から、すべてが変わった── 「おい、あれクロだろ……」 「マジで? あの異常演算の本人?」 「フィア様の防御をぶち抜いた奴だぞ。やべーだろ」 教室に足を踏み入れた瞬間、熱と冷気が混ざったみたいな空気に包まれる。 聞きたくもない声が、勝手に耳へ押し寄せてくる。 《クロ。心理的圧迫が急上昇中。深呼吸を推奨する》 (ゼロ……お前に深呼吸のありがたみがわかんのかよ) 《否。しかし、君の心拍数と魔素濃度に異常な上昇が見られる。呼吸による自律安定は効果的だ》 (……わかってるよ。やる) なるべく何も考えず、空いてる席に腰を下ろした。ノートを開いたフリをして、ただひたすら無になろうとする。 けど無理だ。全方向から飛んでくる「目」と「声」が、俺をじわじわと削っていく。 「なぁ、演算異常者って、どういう意味なんだろうな」 「分類不能な術式って話だぜ。記録にない、まったくの未知構造……って噂」 「下手したら、あいつ──実は人間じゃないとか」  (……うるせぇ) 《感情抑制を試みても効果が薄い。君の現状は、明確な排除対象化だ》 (だろうな……俺が何したってんだよ) その時。 ガンッと音を立てて、教室の扉が勢いよく開いた。 「おーい、どこだ⁉︎。超絶やべぇ魔術ぶっ放した落第生は!」 耳慣れた声に、思わず顔を上げる。 「……うっせぇよ、カイ。」 「黙ったらお前が潰れそうだったんでね? ってか、お前顔やべーぞ。死人か」 「その原因の半分はお前だ」 にやつきながら隣に座ったカイ・バルグレイヴは、相変わらず場の空気を気にしない。 背はでかいし声はでかいし拳もでかい。けど、頭はそんなによくない。魔術の知識はザルなのに、実技だけはなぜか高評価。 「で? 噂、だいたいホントだったんか?」 「どの噂だよ。俺が実は古代兵器の転生体とか、空間ごと爆発させたとか?」 「両方だったら胸アツだな。でもまあ……お前が一人でびびってたの、俺は見てたからな」 「…………」 「フィア様の防御抜いたとかどうでもいいんだよ。あそこで足すくませてるお前の方がよっぽど人間くさくて、俺は好きだぜ?」  (ほんと、お前ずりぃよ)  《この人物との会話は、君の精神安定に対し高
last updateLast Updated : 2025-07-10
Read more
恋と戦争の演習
何でもない朝なのに、どこか空気がピリついていた。 学院塔中層の教室。いつも通りの喧騒に包まれていたはずのその空間に、不意打ちのように響き渡ったアナウンスが、すべてを凍らせた。 『本日より、恒例の戦闘演習を開始します。 テーマは──“恋と戦争”のバトル』 一瞬、誰もが何を言われたのか理解できずに固まった。 「……えっ、今、恋って言った?」 「うそ、何その爆弾ワード……」 「三人チーム強制で、組めなかったら雑用班落ちらしいぞ!?」 ざわめきが一気に教室を包む中、俺──クロ・アーカディアは静かに、心の中で毒づいた。 (……マジかよ) あれ以来、教室の空気はずっと変わったままだ。 異常演算、クロ式。 フィア様の防御をぶち抜いた落第生。 誰も、俺に近づこうとしない。 俺のまわりには、またあの日のように、小さな無音が生まれていた。 《観測結果:対象個体は現在、心理的孤立フェーズに移行中。要因:演算異常による集団拒絶反応──》 (黙れゼロ。今それ言われんでもわかってる) そんな空気を、まるごとぶち破ったのは── 「よう、クロ! はい決定! チーム組もーぜ、バカとバカで!」 大声と共に、肩をドンと叩いてきたのは、いつもの男。 カイ・バルグレイヴ。でかい声とでかい拳、でかい態度。でも、どこまでも真っ直ぐな親友だ。 「……お前、こんな空気でよく話しかけられるな」 「いの一番に組むに決まってんだろ!恋と戦争なんだぞ?燃えるやつじゃん!」 「恋要素どこ行ったんだよ」 「いる? いるか!まあフィア様あたりが来てくれたら恋成立だな~って……」 ──その瞬間。 「私も、入れて。クロのチームに」 場が凍った。 銀の髪。氷の瞳。 氷晶の才女──フィア・リュミエールが、こちらに歩いてくる。 「……なんでお前が」 「あなたの観察を続けるって言ったでしょ。演習は実地研究に最適よ」 静寂と視線。カイは固まったまま、「……うそ、マジで恋成立……?」と小声でつぶやいた。 俺は小さくため息をついて、ほんの少しだけ口元を緩めた。 けれどこの瞬間から──俺たちの恋と戦争が、始まっていた。 ──午後三時。学院演習フィールド全域に、魔術起動のノイズが響き渡る。 校舎裏に広がる広大な山岳フィールド──通称《第七試練区》。 起伏に富んだ森林地帯や岩場、
last updateLast Updated : 2025-07-11
Read more
静かなる盾、落第生の一撃
クロたちの戦場の裏側。 砂煙の向こう、別の戦線では、また異なる静かな戦いが進行していた。 無言の土魔術士――レイン・アズレア。 長身痩躯、銀灰の髪が風に揺れる。 その背後には、同じクラスの控えめな二人の生徒。どちらも戦闘力は決して高くはない。 しかしレインは、彼らを決して見捨てなかった。 彼が展開するのは、派手さとは無縁の魔術。けれどその土は、誰よりも堅く、誰よりも強い。 「……下がってろ」 短くそう言うと、レインは静かに、指先を地面に添える。 瞬間、足元から土の紋が広がった。 「構造式展開──重層障壁《アース・バイン》」 次の瞬間、地面が隆起し、何層にも重なる岩の盾が仲間たちを包む。 「っ……! 防御魔法、強すぎじゃ……!」 「レインくん、すご……!」 だが、彼の視線はすでに前を向いていた。 立ちはだかるは、漆黒のコートを纏う少年。 ジン・カグラ。 銀の髪が淡く光を反射する。前髪は片目を隠すほどに長く、それでも隠せぬ鋭い眼差しが、空間ごと切り裂く。 その瞳は金色の刃のように鋭く、どこまでも見下ろしていた。 「……土。悪くはないが、遅い」 ジンの手がわずかに動いた。 「雷閃式・断層連打──《ゼクト=ラディア》」 刹那。空間が爆ぜた。 地面に触れる前に、雷が斬り裂く。 レインの構えた防壁が、一撃で切り崩される。 「ッ──!」 だが、それでもレインは下がらない。 土塊を高速回転させ、殴り飛ばす。 周囲の岩を変形させて罠を仕掛ける。 対して、ジンは一切の無駄なく、それらを的確に潰していく。 「君の守りは立派だ。けれど――勝ちに届かない」 「……わかってる」 レインが、少しだけ声を出した。 「でも……俺が倒れたら、あいつらまで終わる」 その一言が、すべてだった。 彼の土魔術は、誰かを守るためにある。 己ひとりで、勝ちに行くのではない。 足手まといと言われようが、彼は彼らを連れて最後まで行こうとした。 ──しかし。 無情にも、ジンは最後の一撃を放つ。 雷を纏った打突。 地面ごと抉る威力が、レインを吹き飛ばす。 【チームF:全員戦闘不能──】 「……いい盾だったよ、レイン・アズレア」 ジンが小さく呟く。 だがレインは、仲間たちが無事であるのを見届けたあとで、ようやく膝をついた。 彼の戦い
last updateLast Updated : 2025-07-12
Read more
ゼロが見る未来
「これにて、戦争演習を終了とする」 校庭の中心に響き渡った教官の声と同時に、空間演算フィールドが徐々に解体されていく。空の色が戻り、重力も風も、日常の学院に収束していくようだった。 参加者たちは、それぞれの表情で戦いの終わりを受け止めていた。 クロたちのチームは、驚きと興奮を隠しきれない表情で小さくガッツポーズを交わす。 「第2位か……マジか、俺たち」 カイが肩をすくめて笑った。 「ちょっとカッコよかったんじゃね?」 「……そうね。でも、完璧には程遠かったわ」 フィアが淡々と返す。表情には笑みはなく、静かな反省がにじんでいた。 「結果として、ジンには勝てなかった。その事実は変わらない」 カイも苦笑を引っ込め、わずかに肩を落とす。 「……だな。2位じゃ、意味ねぇよな」 クロは無言だった。目の奥に何かを宿したまま、演習フィールドの消えゆく地面を見つめている。 そこに、教官の声が再び響いた。 「クロ・アーカディア。君の演算データに再度異常値が記録された。後日、個別に調査が入る。了承しておくように」 瞬間、場の空気がわずかに揺れた。 だがクロは動じなかった。 「……はい」 言葉に力はこもっていなかったが、確かな意志がにじんでいた。 その日の放課後、学院の中庭には参加者たちが散り散りに集まり、それぞれの余韻を味わっていた。 そんな中、ひとり、サクラ・ヒヅキは木陰のベンチに腰を下ろし、遠巻きにクロたちの姿を見つめていた。 近づこうとして、けれど足が止まる。指先が小さく揺れている。 そこに、フィアが静かに歩み寄ってきた。 「……なぜ声をかけないの?」 サクラは小さく肩を跳ねさせた。 「フィアさん……」 「あなた、演算精度も動きも悪くなかった。なのに、あの場でただ突っ立っていた。……何を迷っているの?」 視線を伏せるサクラ。 「……私、自分が戦っていいのか、まだわからないんです」 その言葉に、フィアは少しだけ目を細めた。そして、ため息交じりに言う。 「遠慮するくらいなら、最初から立たなければいい。……でも、あなたがそこにいたことは、事実よ」 その一言に、サクラははっと目を見開く。 フィアの表情は相変わらず冷静だったが、その奥にあるものを、彼女は確かに感じ取っていた。 「おいミナ! おまえ戦ってる最中に笑いすぎだろ!怖
last updateLast Updated : 2025-07-12
Read more
クロの部屋、襲撃
「なあミナ。今日さ、晩メシ、クロん家で作らね?」 夕焼けが差し込む中庭で、カイが唐突に言い出した。 「は?」 ミナは振り向きざまに眉をひそめる。「何、いきなり」 「いやさ、たまにはさ、そういうのやろうぜ。全寮制っぽいイベント! 共同炊事! 青春!」 「……全力でバカだな」 「褒め言葉いただきました!」 「で、なんでクロの部屋?」 ミナが半眼で尋ねると、カイは親指を立てて即答した。 「広いから!あと、静かで快適で、人を呼ぶには最適!本人が嫌がりそうなとこがまた良い!」 「なるほど、それは確かに……イジリがいあるわね」 「なんで俺の部屋なんだよ」 クロの声が、微妙に疲れていた。 広めの個室。整然とした空間。寮の中でも妙に静かな奴の部屋として知られているこの場所に、突如として鍋、食材、調理器具の山が持ち込まれていた。 「だから言ったじゃん。クロの部屋で晩ごはん作戦って」 カイは楽しそうに包丁を並べながら言う。 「言ってねぇよ。許可した覚えないぞ」 「今、もらった!」 「勝手に取るな!」 ミナも後ろから入ってきて、ちゃっかりエプロンを装備している。 「はい、材料はあたしとカイで持ってきた。冷蔵庫も借りる。今日は派手にやるわよ」 「やめろ。俺の平穏を奪うな」 「ばーか、平穏なんて捨てちまえ! 今夜は青春、爆発するんだよ!」 「誰だよお前……」 そのとき、クロの端末から静かな音声が響いた。 《空間構成の最適化、完了しました。熱分散・空気循環、調理環境として問題ありません》 「おいゼロ、協力すんな」 《適度な社交的活動は、精神安定に寄与します。対象:クロ・アーカディア》 「勝手に俺を対象にするな……!」 こうして。クロの意思とはまったく無関係に、黒の部屋晩餐会は始動した。 「……断るわ」 フィア・リュミエールは即答した。 学園の渡り廊下。夕日を背に立つ彼女の姿はいつも通り、隙がなく冷ややかだ。 その前で、腕を組んで仁王立ちしているのがミナである。 「いや、聞いて。まだちゃんと説明してないでしょ」 「説明するだけ無駄よ。みんなで鍋を作って食べる。そんな騒がしい企画、私に向いていると思う?」 「向いてない。だからこそ呼びたいのよ」 ミナが
last updateLast Updated : 2025-07-12
Read more
この場所に、光がある
「まてっ! そっちは俺のキノコだ!」 「うっさい! 早い者勝ちよっ!」 取り分けの段階から、戦争は始まっていた。 鍋の真ん中で、しいたけが煮えていく。 火の術式の加減も絶妙、土鍋の温度も安定し、調味料はフィアとサクラがバランスよく整えている。 のに、なぜここまで殺伐とするのか。 「よこせカイ! それあたしが先に狙ってたの!」 「早い者勝ちって言ったの誰だっけなー!」 「わたしじゃない! 」 「ルール変わっとるー!」 騒がしいやり取りをよそに、フィアは静かに鶏団子をすくっていた。具材は美しく整えられ、器の中も無駄がない。 レインは黙々と箸を動かしていた。早い。妙に早い。咀嚼音すらほとんどない。 「……火加減、ちょうど」 ぽつりと呟いて、また一口。 それに気づいたミナが唖然とした。 「レインくん、もう三杯目……!?」 「はええな!」 「どんな胃袋してんだ……」 クロは少し離れた椅子に腰かけて、湯気の向こうの喧騒を眺めていた。 目の前で繰り広げられる光景は、どこか遠くの夢のようで──けれど確かに、今ここにある。 (……にぎやかすぎだろ) そう思いつつ、心は不思議と重くない。 「クロ。ほら」 差し出されたのは、小鉢だった。 中には煮込みすぎず、絶妙な加減で仕上げられた具材たち。 差し出してきたのはフィアだ。 「……食べないの?」 「いや、食うけど……なんでお前が?」 「私が取り分けた方が、全員分の配分が効率的でしょ」 「合理主義すぎんだろ……」 そう言いながらも、クロは受け取る。一口食べて、思わず目を細めた。 「……うまいな」 「当然よ」 そっけない返事。けれど、その横顔はどこか穏やかだった。 「なあ、次は焼肉だな!」 カイが肉を頬張りながら叫んだ。 即座に、クロがスプーンを置く。 「部屋が死ぬわ」 「ええー、いいじゃん。炭とか!」 「火災フラグ立てるな」 「……クロの部屋、燃えるの、ちょっと見たい」 ミナが悪戯っぽく笑う。 「やめろ」 「じゃあ……おにぎりパーティ、とかは?」 サクラが微笑みながら提案する。 そのとき、ぽつりとレインが呟いた。 「炭水化物の塊……」 微妙な間。全員が振り返る。 次の瞬間、なぜか笑いが起きた。 「レインの言葉、なんかじわるな!」 「地味にパンチ
last updateLast Updated : 2025-07-12
Read more
雷光、剣となりて
「次の演習からは、武器の使用も許可する」 訓練場に教官の声が響き、森の空気が張り詰める。 総合演算実技に向けた非公式のチーム訓練──クロたち六人は、個々の武器を手に立っていた。 カイは拳に馴染んだ演算強化グローブを装着し、パチンと指を鳴らす。小さな火花が走る。 サクラは黒扇を静かに開く。波紋のように、周囲の空気が整っていく。 フィアは無駄なく細剣を抜き、刃に氷の演算が重なる。剣先が揺れるたび、空気が凍る。 ミナは火導管のスイッチを入れると、両腕から赤い魔紋が浮かび上がる。 レインは無言で、大地に演算杖を突き立てた。地面が脈打ち、刻印が地脈を巡る。 この学園では、武器は基本的に自分自身の演算で生成するものだ。 生徒一人ひとりに宿る演算パターンと属性を解析し、それに最適化された演算媒体。 つまり武器を、自らの力で作り出す。外部から与えられるものではなく、自分と向き合い、構築し、鍛えあげていくのが魔術士としての基礎なのだ。 だからこそ、彼だけが異質だった。 「……え、俺、武器なんか持ってないんだけど?」 クロが言うと、フィアがあきれたように眉を下げる。 「次の演習から武器の使用が許可されたでしょ」 「俺でも聞いてたぞ?」とカイが笑いながら拳を鳴らす。  クロは小さくうなだれた。 (マジか……完全に出遅れた) だが、もう時間はない。 「個別演習を開始する。チームは自由に組め」 最初に一歩を踏み出したのは──サクラ。 「フィアさん、手合わせ願います。私も……変わりたいから」 フィアは少しだけ目を細めた。 「……いいわ。来なさい」 「ちょっと待った!」 ミナが元気よく割り込む。「私も混ぜて!」 「えぇ……二人相手?」とフィアが肩を落とすが、その目は笑っていた。 その傍らで、レインがクロに声をかけた。 「お前の本質が見たい」 レインがクロを見据えた。 「なら、俺はクロのサポートだな!」 カイが肩を叩き、ニカッと笑った。 「──演習、開始!」 フィアの構築した氷陣が、静かに展開されていく。 地面を這うようにして、冷気が広がっていく。 「行くよサクラ!」 ミナが先行して突進し、拳で氷壁を砕く。その瞬間、フィアの細剣が光を裂いた。 「ッ──!」 サクラが扇を広げ、風を纏わせた。 氷の軌道をズラし、ミナに再接近
last updateLast Updated : 2025-07-13
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status