Chapter: みんなでお花見 永い永い夢の中をまどろんでいたアヒルさん。でもずっとずっとずっと、だれかに呼ばれている気がしました。だからアヒルさんはがんばって目を開きました。するとそこには泣きながらも笑う、カラスの子とこっこちゃんがいました。「どうして……」 泣いているんくわ? という言葉は声になりませんでした。カラスの子とこっこちゃんに抱き着かれたからです。2人に抱き着かれたアヒルさんは、そのぬくもりにほほえみました。 優しいものがたりは、これからも続きます。 というわけで、カラスの子とコッコちゃんはアヒルさんの回復祝いをすることにしました。 アヒルさんのおうちの庭には、唯一人間界から持ち込みアヒルさんが育てた大きな桜の木がありました。 その木の下にレジャーシートを敷いて、コッコちゃんががんばって用意したごちそうを並べます。 いつもは料理をするアヒルさんも今日はお祝いされる側、しずかに桜の木の下でさくら色をしたジュースを飲んでいました。 アヒルさんにカラスの子が質問します。「アヒルさん、アヒルさん、この桜の木にはどんな想い出があるんですかあ?」「くわ? そうくわなあ。この木はくわが人間界から逃げるとき、助けてくれた存在からもらった小さな木から育てたのくわ。いつの間にかおっきくなったがなあ。くわくわ」「……人間界、やっぱり怖い場所なのかあ?」「……人間にもいろいろいるくわが、凶悪なのが多いくわな」「そうなのかあ」 人間とお友達になってみたいカラスの子はざんねんそうです。「まあまあこけこけ、とりあえずたべましょうこけ」 コッコちゃんがお通夜ムードを盛り上げます。 新鮮な卵を使った野菜の揚げ物をカラスの子に勧めます。「いただきます。……おいしいかあ!」「こういった「料理」をつくったのも人間くわあ」「かあ? 人間って不思議かあ」 カラスの子が首をかしげる中、お花見は続きました。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-12
Chapter: 永い夢 それからカラスの子と白カラスの盛大な結婚式が開かれました。お后様をえたカラスの子は成長し、立派な王様になりました。そしてたくさんの子宝にも恵まれました。 カラスの子はアヒルさんへの今までの感謝の気持ちを込めて、彼にナイトの称号を与えました。なんとカラス以外がカラスの国のナイトになったのは初めてのことでした。そしてナイトになったアヒルさんはいつまでもカラスの子と一緒にいて、公私ともにカラスの子を支えました。 さてひよこのコッコちゃんも立派なにわとりになりました。そして熱烈な求婚をへてアヒルさんと結婚しました。にわとりになったコッコちゃんは毎日カラスの国に朝を伝えるお仕事をすることになりました。 そんなたいへんながらも楽しい日々は過ぎていき、アヒルさんはかつてカラスの子と過ごしたアヒル帝国の家に帰ってきていました。アヒルさんは重い重い病気になってしまったからです。 アヒルさんはかつてカラスの子と一緒に寝た思い出のベッドで、ぐったりと横になっていました。その周りにはカラスの子とコッコちゃん、そしてアヒルさんとコッコちゃんの子どもがいました。「かあ……死なないでアヒルさん……」「……もう、おまえはひとりぼっちじゃないからだいじょうぶくわ」「そんなこと言わないでかあ……父さん……」 カラスの子はずっと呼びたかった呼び方でアヒルを呼びました。「父さん」と呼ばれたアヒルは少しだけ微笑みました。「……ノワール、コッコ、そしてくわが子よ。楽しかったぞ」 そういってアヒルさんは目を閉じました。カラスの子やコッコちゃんたちが泣いているような気がしましたが、アヒルさんにはもうどうすることもできませんでした。 そしてアヒルさんは永い永い夢をみるのでした。生まれてから、今日までのことを。 カラスの子と過ごした日々。 コッコちゃんと過ごした日々。 すべてがアヒルさんの大切な思い出です。 優しい眠りの中でアヒルさんはとても、幸せでした。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-11
Chapter: カラスの子の嫁とり「こほこほ」 にわとりの里からカラスの国の宮殿に帰ってきたアヒルさんは、1人自室で咳をしていました。もともとヒナの頃にひどい環境でそだったアヒルさんはあまり身体が丈夫ではありませんでした。そんな折、部屋の扉がノックされました。「どうぞくわ」「失礼しますか。アヒルさん、相談があるかあ」「どうした?」「実は……」 カラスの子は1枚の写真をアヒルさんに見せました。そこには珍しい白いカラスが写っていました。「かあ、この子にひとめぼれしてしまいましたか! どうすればいいか?」「くわあ?」 アヒルさんもあまり恋愛関係は得意ではありませんでした。とはいえカラスの子の悩みをむげにもできません。「とりあえずラブレターを書くわあ」「かあ!」 さっそくつくえにむかったカラスの子は、アヒルさんの添削を受けながらラブレターを書きました。そうしてラブレターを送ったカラスの子ですが作戦は見事に成功。愛しの白カラスと文通にこぎつけました。しばらくは手紙のやり取りをつづけていましたが、カラスの子はアヒルさんのアドバイスで、お城で開かれる舞踏会に誘ってみることにしました。そして今日は舞踏会の日、カラスの子は朝から緊張していました。「そんなに固くなるなくわあ」「でもおでもおかあ」 そんな状態で舞踏会は始まりました。カラスの子がきょろきょろと白カラスを探すと、舞踏会のはじっこにちょこんといるのを見つけました。カラスの子は急いで駆け寄ります。「か、かあ! はじめましてか!」「はじめまして。カラス王様。この度はお招きいただき誠にありがとうございます」「あ、あの! かあと1曲踊っていただけませんか!」「もちろんです」 2人はしっとりとした曲が流れる中、ゆっくりとダンスを楽しみました。でもカラスの子は白カラスの羽を握ったことでドッキドキでした。2人の長くて短いダンスはやがて終わりを迎えました。でもカラスの子は白カラスの羽を離しません。白カラスは不思議そうにしましたが、カラスの子は意を決したように口を開きました。「……かあと、かあの、お后様になってくれませんかあ」 白カラスは驚きましたが、すぐに優しく微笑みました。「わたくしでよろしければよろこんで」「……え? ほんとにいいかあ?」「はい」「……やったかあ!」 カラスの子はうれしくて白カラスを抱きしめました。そ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-10
Chapter: アヒルさんとコッコちゃんの出会い コッコちゃんの部屋で一行は、ジュースで乾杯をすると、お菓子を開けてプチパーティーを始めます。おいしいジュースとお菓子、そして楽しい会話に花を咲かせていると、ふとカラスの子が思いついたように尋ねました。「そういえばコッコちゃんとアヒルさんはどんなふうに出会ったのかあ?」「ぴよ? そうあれはアヒル帝国で夜ごはんをさがしていたとき……」◆◆◆ その日、コッコちゃんは森を歩いていたぴよ。 そうしたらおいしそうなにおいがしたのぴよ! コッコちゃん走ったぴよ! そうしたらアヒルさんのおうちがあったぴよ! アヒルさんがお庭でカレー作ってたのぴよ!「おいしそうなカレーぴよね!」 アヒルさんはコッコちゃんに見向きもしなかったぴよ。だからアヒルさんの周囲をぐるぐる回ってやったぴよ。「なんの用ぐわ」「そのカレーわけてぴよ!」「いやぐわ」「わけてぴよ!!」 コッコちゃんはまたアヒルさんの周りで騒ぎまくったぴよ。「……っ。わかったくわ。皿をもってくるくわ」「わーいぴよ」 コッコちゃんはさっそくアヒルさんの家から皿をもってきて一緒にカレーをたべたのぴよ。◆◆◆「これがコッコちゃんとアヒルさんの出会いぴよー。なつかしぴよー」 そのとき部屋の扉がノックされ、扉が小さく開きました。「こけ……カラス王様、一応夕飯を用意いたしましたこけが……」「かあ。それはありがたいかあ。ごちそうになってもよいのかあ?」「こけ……。粗末なものしかありませんこけがどうぞこちらにこけ」「ぴよー! ごはんぴよー! いくぴよ!」 コッコちゃんは2人を引っ張って食卓に向かいます。食卓にはホカホカのパンケーキが1人10枚重ねで用意されおり、たっぷりのバターとメープルシロップがかけられておりました。さらにベーコンとポテトも添えてあります。「わーい! いただきますぴよ! うん、うまい!」 コッコちゃんがガツガツ食べるのを見て、カラスの子とアヒルもフォークとナイフを持ち、「いただきます」をしました。そして一口。「甘くておいしいかあ」「くわ!」 3人は美味しくパンケーキを食べるのでした。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-09
Chapter: にわとりの里「ぴよの故郷にいこーよぴよ!」 カラスの子が王様の仕事にすこしなれたころ、とつぜんコッコちゃんが言い出しました。カラスの子もアヒルさんも困惑しましたが、コッコちゃんが言い出したら聞かない性格なのを理解しているため、次のお休みの日にお忍びでコッコちゃんの故郷である〝にわとりの里〟に向かうことにしました。 にわとりの里はアヒル帝国から見て東にあり、朝日とともに大きな鳴き声がとどろくことから、朝の里とも呼ばれています。「ついたよついたよ! ここがぴよの故郷!」 コッコちゃんは里の入り口で楽しそうに踊りだします。「くわあ。ここに来るのはひさしぶりくわあ」「アヒルさんはここに来たことがかあ?」「くわ。まあ入り口までだがなあ」「さあ! いくぴよ!」 コッコちゃんはしゃべる二人の羽をつかんでずんずん進みます。まずは商店街をぶらりと散策です。「ここは里でいちばんの商店街ぴよ! そしてこれがあーー!」 コッコちゃんは三人分の飲み物を買ってきます。「ひよこの里名物! 生みたて卵のミルクセーキぴよ!」 ひよこから受け取ったアヒルさんとカラスの子は顔を見合わせてからストローを口にします。「あまい!」 二人は同時に言いました。「ぴよぴよ。それがいーのぴよー!」 コッコちゃんはおいしそうにごくごく飲むのでした。 そうしてひよこたちが歩いていると、ひときわ大きなにわとりに守られた、おしゃれなにわとりの一団をみかけました。「あ、あのにわとりたちはこの里で一番偉いうこっけーさんたちぴよな。ぼでーがーどをしているのは、里で一番つよいしゃもさんぴよ。ぴよもうこっけーさんみたいにきれーなにわとりになりたいぴよ!」 コッコちゃんの説明を聞きながら、アヒルさんとカラスの子は一団を眺めるのでした。◆◆◆ そしてコッコちゃんは自分の巣へ2人を案内しました。元気よく巣の扉を開けます。「ぱぱー! ままー! ただいまぴよー!」「あらあらこけこけコッコちゃん。おかえりなさい。……あら、そちらはこけ?」「ブランとノワールぴよ!」「こけ? ノワール? そういえば最近即位されたカラスの国の王様がそんな名前だったような?」「ぴよ? カラス王本人ぴよよ?」「こ、こ、こけえええええええ!?」「ぴよよ、今日ぴよの巣に泊めるからー」 コッコちゃんはいつでもどこでもマイペースな
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-08
Chapter: カラスとアヒルのお祭り「カラス王様。最初のお仕事はいかがいたしましょうか」 おじいさんカラスが聞きました。「かあ。かあはアヒル帝国に大変お世話になったかあ。まずは皇帝アヒルさんにお礼をしにいかあと思うかあ」「わかりました。会談の準備をすすめます」「かあ、アヒルさんもついてきてくれるかあ?」 アヒルさんはうなずきました。「ぴよ! コッコちゃんもいくぴよ! 皇帝アヒルさんがくれる食べ物はおいしいって聞くし!」 コッコちゃんも行く気まんまんです。「わかりました。ではアポイントメントをお取りします」◆◆◆ それから数日後、アヒルさん、カラスの子、コッコちゃん、おじいさんカラスはアヒル帝国の宮殿の前にやってきました。大きな門が開かれると、皇帝アヒル自らお出迎えしてくれました。「カラス王殿、ようこそくわ!」 皇帝アヒルは挨拶としてカラスの子にハグをしました。それからアヒルさんに声をかけます。「おぬしがカラス王殿を助けてくれたらしいな。大儀くわ!」「もったいないお言葉ですくわ」 アヒルさんはぺこりとお辞儀しました。「では応接間まで案内するくわあ」 気さくな皇帝アヒルに連れられて、一行は宮殿に入りました。きらびやかで立派な宮殿にカラスの子とコッコちゃんはあちこちきょろきょろきょろ。そうしている間にメイドアヒルの手によって応接間の扉が開かれました。先を歩く皇帝アヒルが上座に座ります。「よいしょくわ。さあ、みなさんお座りくださいくわ」 コッコちゃん、カラスの子、アヒルさんの順番で手近な椅子に座りました。おじいさんカラスはカラスの子の斜め後ろに立ちました。「かあかあ。この度はお目通り?いただけてうれしいです皇帝アヒルさま。改めまして20代目カラス王ですかあ」 カラスの子がたどたどしく挨拶します。「くわくわ。くわこそ初めての訪問先にくわが国を選んでくれてうれしく思うくわ」「アヒルさんやこの国にはたくさんお世話になりましたかあ。故郷と思ってますかあ」「くわ、くわが国と民はカラス王殿にどううつりましたかな」「みんないい人かあ。カラスとアヒル、もっと仲良くなりたいですかあ」「くわ。くわもみんな仲良くがいいと思うくわ。みんな兄弟姉妹くわ。そうくわ!」 皇帝アヒルは羽をぽんと打ちました。「20代目カラス王の就任のお祝いとして盛大なお祭りを両国合同でやろうく
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-07
Chapter: 第7話 凱旋「まったく」 盗られるものもないと普段から鍵のしていない隠れ家に入って行くマリアの自由気ままさにため息をつく。 アルファはチースを監視しながら右手を握りこみ、そして開いた。するとその手のひらに、1羽の小鳥が生み出されていた。宮廷魔術師に習った簡単な魔術だった。魔力の少ない彼にとっては1羽生み出すだけでも普段ならかなり疲れるものなのだが、まだマリアの魔力が残っているらしく、身体に倦怠感はなかった。「鳥よ、陛下の下へ」 簡単な手紙をしたためて小鳥に託すと、アルファは近衛騎士団の到着を待つことにした。◆◆◆ その後の皇帝ローゼスの動きは早かった。 すぐさまチースを大規模騒乱罪で逮捕させ、アルファにはマリアを連れて“堂々と”宮殿に戻るよう命令をくだした。 アルファからすればマリアの存在は秘匿すべきとは思ったが、ローゼスになにか考えがあるのだろうと、近衛騎士団と共に宮殿への道を歩んだ。 彼らの“凱旋”を、民たちは熱狂をもって迎えた。 アルファと同じ馬に乗るマリアに至ってはすでに未来が視えているのか、民に手を振る始末だった。魔王の子孫という噂の流されていたマリアに対して好意的な民の姿に、アルファは首をひねりながら、宮殿への帰還を果たした。 すぐに会いたいとのローゼスの意向を受け、アルファとマリアは人払いされた玉座の間に通される。「陛下、騎士アルファ、ただいま帰還いたしました」 片膝をつき、へりくだるアルファのとなりに立ったまま、マリアはただニコニコとしていた。「おい……」 小さな声で「不敬だぞ」と言おうとして、ローゼスが先に口を開いた。「ご苦労、2人とも楽にしてよいぞ。事の顛末はチースからの尋問で知っておる。そこでアルファ、今回の一件を丸く収めるため、お前に新たな命令をくだす」「なんなりと」「マリアと結婚せよ」「……は?」 とうとう乱心しましたか、と嫌味をアルファが言うよりも早く、マリアが行動を起こした。今の状況に追いついていない彼に抱き着いたのだ。「よろしくね、アルファ」 ニコニコと笑うマリアと、それと同じ意味なのかはわからないがニヤニヤと笑うローゼスの姿に、アルファは頭を抱えたくなった。言われたことの意味すら、ある意味ちゃんとわかり切れていないこともあって、アルファは聞き返すしか選択肢がなかった。「……陛下、なにを企んでいるの
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-28
Chapter: 第6話 リエゾン「そ、その眼は……」立ち上がり、閉じていた瞼を開いたアルファの右目は、マリア同様赤く光っていた。◆◆◆ マリアに魔力を流し込まれたとき、アルファは心地よさを感じていた。(なんだ、このかんじ。あたたかくて、きもち……っ) 不意にアルファは右目の痛みに襲われ、両目の瞼を閉じた。その時だった、狼が飛び掛かってくるビジョンが視えたのは。彼は咄嗟にマリアを左手で抱き、上半身を起こすと右手の剣を振るった。するとまるで狼が剣に吸い寄せられるように飛び込んできて、きれいに両断された。手にする剣はマリアの赤い魔力をまとい、輝いていた。アルファは目の痛みをこらえながら立ち上がる。恐る恐る目を開いてみると、不思議な光景が広がっていた。それもそうだ。彼は右目で未来を、左目で現在を視ていたからだ。だが困惑している暇はなかった。「どんな手品を……!」 混乱しながらも長年の戦闘経験から冷静さを失わないアルファは、魔術師がそれを言うかと思いながら、不思議なビジョンの導くまま、襲い掛かってくる狼を切り裂いていった。赤く輝いた剣は魔力によって力を増幅させているらしく、あれほど苦戦していた狼たちを片手で屠っていく。「そんな、ばかな……」 狼たちが倒れていくことに脅威を感じたチースは逃げ出そうとアルファに背中を向ける。しかし狼たちを処理していくアルファにはそれすら“視えて”いた。そして身体能力に関して教祖として君臨してきたチースより、前線で戦ってきたアルファの方が圧倒的に上だ。狼たちがいなくなり安全が確認できるとマリアから手を放し、左手で鞘を引き抜いた。それで逃げるチースの頭を強めに叩くと、そのたった一撃だけで彼はいとも簡単に気絶してしまうのだった。「やれやれ、片付いたか」 荷物の中からロープを取り出してチースを縛り上げると、アルファはマリアを振り返った。「……それで、なにをしたんだ?」 アルファは自分の右目が赤から黒に戻っていることには気づかなかったが、ビジョンが視えなくなっていることには気づいていた。「“リエゾン”」「はあ?」「ぼくと君は、“リエゾン”したんだ」「だからそれはなんだと……」「ぼくと君のキズナの勝利さ。さて、ぼくは疲れたから休ませてもらうよ」 そういってマリアは小屋の中に入っていった。扉を閉めた彼女は、這うようにベッドに向かう。(うう、他人に魔力
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-27
Chapter: 第5話 対決「……アルファ、アルファ」「……なんだ」 マリアが自分のことを名前で呼ぶのは珍しいな、なんて思いながら、アルファはベッドから身体を起ここした。元々浅い睡眠でもフルにパフォーマンスを発揮できる彼は、マリアの監視中ゆえすぐに起きられる状態で寝ていた。だから同じ部屋で寝ているマリアが急に声をかけて来てもすぐに反応できたのだ。「未来が視えた。ここにぼくを探して人々が押し寄せてくる」「……」 マリアの存在を隠すために一日中締め切られているカーテンの隙間から窓の外を見てみる。ほんの僅かの隙間だが、その遠くには松明の火が集まっているかのように、灯りが見える。「……仕方ない。逃げるか」「え?」 クローゼットを開けたアルファは、そこから自身の私服と、フード付きのローブを取り出した。「ほれ、これをかぶって目と髪を隠せ」「い、いやしかし」「いいから早く。陛下の許可なく僕は臣民を切ることはできない。乗り込まれては面倒だ」 すばやく黒いワイシャツと同色のズボンに着替えたアルファは、ローブをマリアに着せ、頭にフードをかぶせる。「僕が良いと言うまで顔を伏せていろよ」「あ、ああ……」 マリアの手をアルファは掴んで歩き出す。マリアはそんなアルファを呆けたように見ていた。すぐに彼は馬小屋まで向かい、小型の黒馬に乗り込んだ。マリアを自分の後ろにひっぱりあげていると、アリスが慌てて屋敷から出て来た。「閣下! お荷物です!」 いつの間にかアリスの持ってきたリュックサックと鞘に入った諸刃の剣を受け取る――アリスはいつもアルファの必要としているものやことに気づいてくれる――と、馬を走らせた。向かうは1つ、アルファとローゼスの隠れ家だ。◆◆◆ 昏い森の奥深く、そこには小さな山小屋があった。そこはローゼスとアルファの隠れ家。アルファは山小屋の前で馬から降りると手綱を木の杭に結びつける。そしてごく自然にマリアが馬から降りやすいよう手を差し出した。マリアはしばらくその手を見つめ、目をぱちくりとさせた。「どうした?」「……いや、こういう時の君はずいぶん紳士的だなと思ってさ」「うるさい」「照れるなよ。ぼくはうれしいんだ」 マリアはアルファの手をつかみ、馬から降りる。そのときだったマリアに未来が視えたのは。同時にアルファも気配に気づき、マリアを後ろにかばった。「誰だ!」「
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-26
Chapter: 第4話 天使 それからしばらくの間、マリアはアルファの屋敷で匿われる形となった。ローゼスへの謁見の件こそ表に出ていないが、箱舟教団から彼女が姿を消した事実は上層部に知れ渡っていた。それでも教団は予言者の存在を明かすことはできず、“魔王”の血を引く悪魔だと人相書きをばらまき、彼女を探させていた。それは皇帝ローゼスにとっては都合の良い話だった。「大洪水が来るなどという馬鹿馬鹿しい話に加えて、虚偽の魔王の子孫などと戯言を触れ回り、臣民を混乱に陥れている。早急に排除せよ」 ローゼスはそう兵に命じ、教団の排除に乗り出した。教団が排除されるのが先か、伝説の中の魔王と同じ瞳の色をした少女を誰かが見つけて騒ぎ出すのが先か、そんな状況の中、アルファは暇そうにしていた。「暇そうだね」 同じ部屋で本を読んでいたマリアがそう声をかけてくる。「お前を監視しないといけないからな」 今回“皇帝の犬”たるアルファが出てこないことに、臣民も教団も疑いの目を向けていた。だから表に出たいのだが、マリアの監視を他人に任せるのは躊躇われた。魔王の子孫という戯言や大洪水が来るという話を信じている者は兵の中にもいる。代わりは簡単には立てられない。そんな状況だった。 アルファにとって今信頼できるのはローゼスと、メイドのアリスだけだった。どちらも魔王の子孫や洪水などという話ではなく、自分の見たものを信じる人間だった。その点は信頼できる。「なら尋問をしたら? そのつもりでぼくもここにいるんだけど」「なにを聞いてもふわっとしか答えないではないか」「だって、なんでこんな力があるかも、出自もぼくにはわからないんだもの。でも予言はたくさんしてあげただろう?」 確かにこの家に来てからマリアは多くの予言を行った。大きなものから小さなものまで、すべて的中させている。「ならお前は未来をどう“視る”? お前には未来を確定させる力があるのか?」「なんども言っているだろう? そんな力はない。ぼくにできるのは“視る”だけだ。それとせっかく名付けてくれたんだ、マリアと……」 少女の要望を無視しながら、アルファは考える。未来を確定する力はない、いつでも未来を視ているわけでもない。ならば……。「なんでそんなに余裕なんだ? 自分がひどい目に合わない未来が視えているのではないのか?」「違うよ。ぼくはぼくの聖騎士(ナイト)様を信じ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-17
Chapter: 第3話 カーネーションの旗印「なに、このアルファがかね」 皇帝ローゼスは目を瞬かせる。「はい、彼はあなたの死を阻止するために箱舟を作るのです。陛下」「まだ僕はお前の予言を信じたわけでは……」 少女はにこりと笑う、どこか寒気のする笑みだった。「では信じさせてみせましょう。今からわたくしが3つ数えたら、賊がこの部屋に侵入します」「だから……」「1つ」 そこでアルファは気配を感じ取った。誰かがこの謁見の間に走ってくる。「2つ」 謁見の間の扉の方からくぐもった声が聞こえてくる。門番がやられたか? そう判断してすぐにアルファは扉にむかってかけた。腰に差した剣を鞘から引き抜く。瞬間扉が乱暴に開かれ、2人の武装した男が入ってきた。「3つ」「ローゼス! お前の首を……」「遅い!」 男たちが言い終わらぬうちに1人目を切り倒し、勢いを殺さず2人目を逆袈裟に切った。命は奪わない。聞き出さなければならないことはたくさんある。「近衛兵!」 アルファが呼ぶと次の間から出てきた6人の兵――まるでおもちゃの兵隊のように真っ赤な上着と帽子をかぶっている――が男たちを縛り上げ、連行していく。「お見事です。聖騎士(ナイト)様」「おまえ……」「フハハハハハ、良い余興だったぞ。その眼の力、余のために使うがよい」 ローゼスは高々と笑いそう命じ、少女――マリアもそれをひれ伏して受けた。「まだ予言の力が本物かわからないではないですか」、そう言おうとしたアルファをローゼスは目線で制した。その眼は語っていた「見極めよ」と。アルファはため息を吐きたくなった。「マリア、そなたにも護衛がいるだろう。しばらくはアルファと共にいるとよい。その男なら教団が手を出してきても相手にならんだろう。……下がってよし」◆◆◆ アリスが用意している馬車に向かう道を歩きながら、アルファはマリアに尋ねた。「お前は未来をその眼で“視る”のか」「ああ、さっき皇帝がそんなことも言っていたね」「こら……」「不敬だぞ、かい? それも視えているよ」「はあ……。その眼は」「生まれつきさ。“魔王”のようで気味が悪いとあちこちたらい回しにされた。でもぼくにはわかっていた。ぼくを助けてくれる聖騎士様が現れると!」 芝居がかった態度をとるマリアを軽くにらみつつも、アルファは馬車に乗り込んだ。マリアも当然とばかりに乗り込んでくる。アリ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-16
Chapter: 第2話 予言「この小娘を陛下の御前に出せるようなんとかしてくれ」「はい、閣下!」 アルファ付きのメイドであるアリスは、クリーム色の三つ編みを揺らしながら、銀髪の少女を宮殿にあるアルファの私室に備え付けられているシャワー室へとつれていった。「はあ……」 騎士としての礼装に着替えたアルファはため息をついた。 そして昨夜のことを思い出していく。すると少しの頭痛を覚えた。◆◆◆『な、なにをする!』 突然キスをしてきた少女を突き放す。変な力が入ったのだろう、認識疎外のためのキセルがポケットから落ちた。『ああ、ようやく顔を見せてくれたね。“視ていた”とおりの顔だ。ぼくはすきだぞ。君の顔』『何を言って……ちっ』 キセルを慌てて拾い上げたが間に合わなかったらしい。誰かが牢屋に近づく足音が聞こえた。ふわりと少女は抱き着いてきた。『おい……!』『さあ、連れて行ってくれ。見たいんだ。再び外の世界を……』 アルファは舌打ちをすると、少女を抱えて教団から脱出してしまった。そう、してしまったのだ。してしまったからには最良の手を打とうと、いざというときの隠れ家に向かおうとしたのだが……。『そっちじゃない。宮殿にむかえ。ぼくは皇帝と会うことになる』『……陛下だ』 少女のローゼスに対する呼び方に不敬だと感じながらも、確かにあのローゼスの性格からして、自分と予言者が一夜にして消えたらおもしろがって隠れ家まで来てしまいそうだとアルファは思った。 ならば少女の言うとおり、早めに会わせてしまおう。アルファはそう決めた。宮殿なら守りは厚いし、見たところ少女には未来を視る以外の力は無さそうだ。自分が殺される未来を変えるだけの力がなければ未来予知に意味はない、もしものときは自分が切る。そう決意した上での判断だった。 とはいえボロ雑巾同然のままローゼスの前に引き出すのは気が引ける。仕方なくこっそり宮殿に用意されているアルファ用の部屋に連れ帰り、自分付の唯一のメイドにあとを任せた次第だった。 ため息が出そうになるのをこらえると、朝の陽ざし差し込む庭を窓から眺める。ローゼスの名前から各地から献上されることになった色とりどりのバラが庭を埋め尽くしていた。◆◆◆「閣下」 その呼び方に、アリスかと思い振り返ったそこには、見違えた姿のあの少女がいた。「このような、わたくしにはもったいないド
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-15
Chapter: 第4話 神殺し 四方院家の壊された正門前では、玄武と槍をもった中華服の男の戦いが続いていた。四方院家の屋敷は龍穴の上に建てられている。ゆえに玄武はこの星の持つ力を借り受け、背丈に合わせた短い刀に乗せて男を攻撃していたのだが……。(この暖簾に腕押しの感覚、まるで桜吹雪とやり合っているときのようじゃ……) この地球(星)の清らかな力すら切り捨てる男の槍の禍々しい力。2つの力の余波は屋敷の建物を壊し、力なきものたちは2人のそばに近づくことさえできなかった。「その槍、神殺しじゃな?」「そうだ。ゆえに神でもない貴様に勝ち目はない」「それはどうかの? そう決めつけるものでは、ない!」 玄武は小柄な身体と機敏な動きを生かして、槍では戦いにくい超近距離戦に持ち込むと、男を逆袈裟に切った。男の服が破け、肌と肉を切り、出血する。「さすがは四方院家宗主。あの人の直系だけはある」 男は関心したようにそう言うと、後ろに飛びのき、その勢いも活かして槍を突き出した。やりの先端から飛び出す負のフォースは玄武を吹き飛ばした。「ぐ……」 玄武ががれきの中に倒れこむなか、男はどこかに逃げていった。逃げ道には男の血が道しるべのように落ちていた。「追うのじゃ!」 玄武は命じるが、四方院の兵たちは動けなかった。日常は崩れ始める。to be continued
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-30
Chapter: 第3話 日常の歪み ホムラとたっぷりじゃれあった後、桜夜はお昼を兼ねて少女たちと出掛けることにした。「いやあ、お出掛けなんて久しぶりだね! 本当は二人で来たかったな……」 最後の方は小声で桜夜にだけ聞こえるように言ったつもりだったが、リオには聞こえていたらしい。リオは恐ろしい笑顔を浮かべながらサイカにいった。「これ以上抜け駆けは許しませんわよ。サイカちゃん……」「ひいっ」 そんな二人を無視し、ホムラがハンバーガーショップを指差す。「なあオレあれ食いたい!」「身体鍛えてるならジャンクフードは……」「いいだろー、食いたいんだよー」 珍しく甘えた声を出すホムラに、桜夜は折れた。「サイカとリオはハンバーガーでいい?」「はい 桜夜さんさえよければ」「わたくしもです」 にこやかに笑う姉妹だったが、背後でお互いをつねり合っていた。◆◆◆ そんな和気あいあいとする桜夜一行とは裏腹に、四方院家宗主、四方院玄武は重大な脅威を感じていた。気配を読み、未来を占うは四方院家が先祖代々継いできた力だった。その脅威を感じているのは玄武だけらしく、屋敷は不気味なほど静寂に包まれていた。(まさか……) 仕込み杖を掴むと、黒の作務衣に陣羽織という格好のまま、本邸正門に玄武は急いだ。◆◆◆ 玄武が走り出した頃、本邸正門の前に中華服を着た男が槍を片手に立っていた。男の回りには倒された門番たち。男は傷1つ負うどころか汗もかいていないようだった。男が門に向かって槍を振るうと本邸を守る結界もろとも門が崩れおちた。そんな男を、玄武は静かに出迎えた。「お主、いんたーふぉんを知らんのかの?」 玄武はおどけるように言う。しかし男はニコリともしなかった。「不死者を出せ」「出すわけなかろう。貴様こそ門の修理代を出すがよいわ」 金持ちのくせにケチなことを言う玄武にかまわず、男は槍を振るった。玄武はその小さき身体に迫る死の刃を悠々と杖で受け止め、激しい殺陣が始まった……。to be continued
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-27
Chapter: 第2話 焔の日常 桜夜からキスをしてもらったサイカはご機嫌で朝食を作っていた。「ふっふふ、ふふふーん♪」 鼻歌混じりに料理をするサイカの姿を、ホムラはいぶかしげに見ていた。「なあ、リオねえ。さーねえの奴なんであんなにご機嫌なんだ?」 リオは顎に人差し指を置いて考えるポーズを取る。「そうねえ……きっとサイカちゃんは「大人」になったのよ」「はあ?」 意味わかんねえと言わんばかりのホムラを尻目に、リオは新聞を読んでいる“ふり”をしている桜夜を見た。「次はわたくしもお願いいたしますね?」「だめだぞリオねえ! 今日の桜夜はオレのトレーニングに付き合うんだ!」「ふふ、もちろん。あなたの大切な時間を奪ったりしないわ」「た、大切なんかじゃねえよ!」 いつの間にか新聞を読むふりを止めた桜夜は、賑やかな姉妹を見て、これが家族ってやつなのかな、と少しだけ寂しげな顔をした。◆◆◆ 朝食のあと、桜夜とホムラは外に庭にいた。桜夜は白い着物に紺の袴という剣士なのか神主なのかわからない服装で、両手を後ろで組んでいた。対するホムラは赤いシャツに赤いハーフパンツ、手に赤いグローブをしている。「今日こそぶん殴ってやる」「お手柔らかに頼むよ。ホムラちゃん」「ちゃん付けで、呼ぶなあ!」 それが試合開始のゴングとなった。ホムラは桜夜の顔面目掛けて拳を振るう。しかし桜夜はそれを絶妙にギリギリのタイミングで回避してみせる。それからも殴るホムラ、かわす桜夜という構図が続いた。先に膠着を崩したのは桜夜だった。「ねーねー、ホムラちゃん」「うっせえなんだよ!」 攻撃をかわしながら、桜夜はニコニコ笑って言う。「乳首透けてるよ」「え? なっ」 ホムラの注意が一瞬自分の胸元に移る。その隙を逃さず、桜夜はホムラの頭を手刀でぽこりと叩いた。「はい、僕の勝ち」「はあ?! 今のは卑怯だろ!」「戦いに卑怯なんてありませーん」「うるっせえ! ふざけんな!」 ホムラが炎を放ちながら、桜夜を追いかけ回す。彼は彼で楽しげに逃げ出した。おいかけっこの始まりである。この過激なじゃれあい、もといトレーニングはホムラから言い出し、習慣化したものだった。もしホムラが桜夜に一発いれることができれば、遊びに連れていってもらえるという約束付きで。 そう、これはホムラなりのアプローチだったのだが、桜夜は知ってか知らず
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-26
Chapter: 第1話 コスモスの神託 その夜、桜夜は夢を見た。夢の中で彼は宇宙にいた。《神殺しの騎士よ。もう1人の神殺しが現れた。秩序の名の下に排除せよ》(……あなたは?)《我が名はコスモス。秩序を守りし者》◆◆◆ 桜夜はそこで目を覚ました。まだ夜明け前だった。ぐっすりと眠る少女たちを起こさないようにしながらスーツに着替えると、公式任務中のバッジを付けた。そして静かに屋敷を出ると、庭にある桜の木が見えた。(……そういえば、あの日もこうして桜を……) ノスタルジックに浸りそうな頭を振ると、桜夜は目的に向かって歩を進めた。彼が向かったのはこの本邸の敷地内でももっとも大きい、玄武邸の宗主の私室だった。公式任務中のバッジがあれば、どこにでも出入りできる。それが相談役の特権だった。私室のふすまが使用人によって開けられるとその部屋の主と目があった。部屋の主たる小柄な老人は優しく笑った。「どうした? こんなに朝早く、なにか任務を与えたかの?」「いえ……」 使用人が立ち去るのを待ってから、老人の前に文机を挟んで座った。そして桜夜は夢の内容を話した。「ふむ……コスモス、秩序、か」「はい」「ふぅむ」 老人は少しだけ考えてから答えた。「しかし、神殺しが1人増えたとて、それがなんの脅威になる? ワシにはそれがわからん」「はあ……」「根本的に人間は神には勝てん。お前のその刃とて神に届くのは稀じゃろて」「それは、そうですが……」 神殺しとは伊達や酔狂ではなく、本当に神と戦うために作られた武器を刺す。それは一見すると強力な武器だが、実はそうでもない。本質的に神と人間は格が違う。神に近づき切ることなどまずできない。それが桜夜のもつ神殺しの刀――桜吹雪――の限界だった。「お主はなんでも気にし過ぎじゃ。今は余計なことを考えず休みなさい。そうそう、嫁取りについてもちゃんと考えるのじゃぞ。お主の血とあの魔女の血が混ざったらどんな子どもになるのか今から楽しみなのじゃからな」 にっと笑った老人の言葉は、少しだけ桜夜の心を軽くしてくれた。◆◆◆ 自分の屋敷に戻った桜夜だったが、もう一度眠る気にもなれず、縁側に腰かけて桜を眺めていた。しばらくそうしてぼんやりしているとパジャマ姿のサイカが姿を見せた。「ここにいたんだ。姿が見えないから心配しちゃった」 息を切らすサイカに桜夜は困ったように笑った。「
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-25
Chapter: 第2章 黒の騎士の死 プロローグ 新たなる日常「さあみんな! 朝御飯だよ!」 四方院本邸の敷地内にある桜夜の私邸に、少女サイカの声が響き渡る。本来この私邸はすぐに任務につけるようにと用意されたものだった。しかし今や桜夜の私邸というよりは、彼の押し掛け妻たちの家と化してしまった。不死身の魔女の討伐に実質成功した段階で彼女たちは自由の身となった。どこでもすきなところにいけるようになり、当初の契約も破棄されるはずだった。 しかし彼女たちには行く宛がなかった。もちろん桜夜を頼れば、寮のある四方院学園に入れるくらいはしてくれたかもしれない。とはいえそんな知識のない3人が思い立ったのは、このまま桜夜のお嫁さんになろうというものだった。そうしてハウスキーパーがやるはずの家事を3人で分担し、甲斐甲斐しく桜夜の世話を焼いた。 桜夜もなれない環境に最初は戸惑ったが、もうなれてしまった。だが、だからこそ思う。このまま彼女たちを自分の懐に入れてよいものかと。どこかで突き放すべきではないのかと。食卓につきながら、数日前に兄と慕う四方院家次期宗主候補の1人である若き天才、四方院 一(しほういんはじめ)との会話を思い出す。◆◆◆「いったいなにを悩んでいるんだい?」「それは……」 紅茶の入ったカップを桜夜の前に置きながら、一は微笑む。「あんなにかわいい子たちなんだ。受け入れてあげればいいじゃないか。それともタイプじゃないのかい?」「兄さんでもそんな下世話なことを言うんですね」「そりゃあ私だって人間だからね。そして君も人間だ」「僕は……」「大丈夫。君は人間だよ。確かに、おばあさまは君の瞳の中には化け物がいるといった。確かに、君は鳳凰と契約して病弱な身体を捨てた。だけどやっぱり人間だ。血も涙もながれ、そして失うことを恐れるちっぽけな人間だ」「兄さん……」 一は笑う。「だからね、桜夜。あの子たちが大切だと思うなら、失いたくないと思うなら、中途半端はやめて自分の心と向き合いなさいな」◆◆◆(自分の心、ねえ) スープを飲みながら難しい顔をしていたのだろう。サイカが不安そうに尋ねてきた。「あのお口に合いませんか? やはり和食の方が……」「ああ、いやいや、おいしいよ。ただ……」「ただ?」「いや、なぜ君たちがここまでするのかなって。君たちを助けるという契約は終わっただろう?」 サイカは少し怯んだが、ホムラとリオ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-24
Chapter: エピローグ わたしたちを…… 魔女の身体は永い眠りについた。本来ならば二度と蘇らないように燃やすべきだったが、少女たちの嘆願により、その身体は故郷に安置されることになった。この決定に、四方院四当主家の1つ白虎家の当主は門反対したが、宗主である四方院玄武の「死者を辱めてはならぬ」という鶴の一声で決まったのだった。 こうして桜夜は少女、サイカとの契約を果たし、少女たちを魔女の支配から解放した。そんな少女たちはというと……。 横浜にある桜夜の屋敷に居座っていた「キミたち、なんでここにいるの?」 母親の身体の安置のために一度は桜夜のそばを離れた少女たち。桜夜は自由に生きてくれと見送った。はずなのに彼女たちは再び来日し、桜夜を訪ねてきたのだ。「えへへ、それはね?」「わたくしたち、桜夜様にお伝えしたいことがあって」「いいか? 一回しか言わないからちゃんと聞いとけよ?」「わたしを」「わたくしを」「オレを」「お嫁さんにしてください!」「は?」 桜夜が面を食らっていると、少女たちが抱き着いてくる。その甘くてやわらかい身体は気持ちよく、桜夜は苦笑する。(結婚か……)『いつかぼくとけっこんしてくれる?』『あんたが立派なナイトになったらね、わんこ』 桜夜がさみしそうに笑ったのを、少女たちは気づかなかった。to be continued
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-23
Chapter: 第七話 祝言(前編) 桜の父が神官であることもあって、祝言の準備はすぐに始められた。儀式の日まで桜の実家、しかも桜の部屋に泊まることになったことは帝国男児たる司を緊張させたが、それ以上に気になったのは食事のことだった。桜と枕を共にしながら、司は聞いてみた。「なあ、この世界の食べ物を食べても大丈夫なのか?」「……? どうしてそんなことを聞くのですか?」「ヨモツヘグイというものがあるだろう? この世界の食べ物を口にしたら何かあるのかと思ってな」「ああ……」 桜はくすりと微笑む。妖艶というよりは童女のような純粋な笑みだった。「大丈夫です。同じ釜の飯を食った仲になるだけです」 それは家族として認められるということだろうか。 家族のいない司にはわからなかった。◆◆◆ そうこうしている間に祝言のときが来た。舞台は司がはじめてあやかしの国を訪れたときの神社だった。木花開耶姫命(コノハナサクヤヒメノミコト)を祀るその神社は、大日本帝国と同じく「浅間神社」と呼ばれているようだ。 白無垢に着替えた桜と用意してきていた黒紋付袴に白鼻緒の雪駄という礼装に着替えた司は、桜の親族や神官たちとともに浅間神社に向けてゆっくりと歩いた。 やがて神社のふもとまでたどり着くと、桜と司は着物の裾を踏まないよう慎重に階段を上っていく。 二人が本当の夫婦になるまで、あと少し。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-27
Chapter: 第六話 結納 あやかしの国の下町を桜と歩く司。街並みは長屋や賑やかな商店街が中心で、江戸時代にタイムスリップしたような感覚だ。あやかしたちの中には先ほどの狐とタヌキのような人間ばなれした獣人だけでなく、人間と変わらない見た目の住人もいた。だから桜と司も目立たずにいられた。 わけではなかった。司の着て来た背広はあやかしの国では珍しすぎたらしい。変わった着物だとじろじろ見られてしまった。人の視線がすきではない司には少々居心地の悪い時間が続いた。そんな司を、桜は気づかわしげに見る。「大丈夫ですか? 司様」「ああ……」「もうすぐ着きますからね」 神社から長屋と商店街を通り抜け、着いたのは司の家の三倍はあるお屋敷だった。屋敷の門の前でその武家屋敷のような建物を見上げていると、白銀の狐らしき獣人が声をかけてきた。「あらあら桜お嬢様。おかえりなさいませ。……おや、そちらの方は?」「梅さん、こちらは司様。わたくしの旦那様です」 黒いハットを脱ぎ、司が頭を下げる。「まあまあ、奥様! 奥様ー!」 梅がばたばたと屋敷に入ると、すぐに奥から落ち着いた薄紅色の着物を着た女性が出て来た。桜とは違い幼い感じのしない気品にあふれた立ち居振る舞いは、司に緊張感を与えた。「母様……」「……まさかあなたが人間を夫にするとは……嘆かわしい」 その言葉に司はむっとした。人間だからなんだというのだ。「人間など取るに足らない存在です。これから神になろうというあなたにはふさわしくありません」 司が何かを言うまえに桜は強い意志を感じさせる声でいった。「いいえ、人間は取るに足りない存在なんかではありません。儚い命だからこその輝きがあるんです」 桜と母親がにらみ合う。やがて苦笑した。「まったく、こんな頑固な女のどこがいいの? 人間さん?」「すべてです」 司ははっきり言い切った。それに機嫌を良くしたのか母親はカラカラと笑った。「お前さん、良い男だね」 司にはよくわからなかったが、どうやら桜の母親は彼を気に入ったようだ。司と桜は、屋敷の敷居をまたぐことを許された。◆◆◆ 居間に通された、司と桜の二人は並んで座り、その対面ににこにこしている桜の母親が座った。梅がお茶を用意すると、司は桜の母親に深々と頭を下げてからいった。「改めまして、宮森司と申します。遅くなってしまい申し訳ございません
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-20
Chapter: 第五話 あやかしの国 桜も少し散り始めた頃。普段なら桜との別れを悲しむ時期だが、今回は違った。「あやかしの国」という未知の場所に行き、愛する人を産んでくれた人に挨拶するのだ。昨夜は緊張でよく眠れなかったが、桜は熱心にあやしてくれた。「では参りましょう」 桜柄の薄紅色の着物に少し化粧をした桜はいつもよりさらに美しかった。着なれない背広姿の司は隣にならんで違和感はないかと心配だった。そんな司の心配をよそに、桜は彼を庭に植樹された桜の木の方へといざなう。「目を閉じてください。ゆっくり呼吸をして。次に瞼を開いたときには、そこはあやかしの国です」 司は言われるがまま、目を閉じる。深呼吸をしながらゆっくりと瞼を開くと、そこは桜と出逢ったあの桜の木の下だった。いや、少し違う。広い空き地になっていた場所に、小さく古いが神社がの社殿があった。住民に愛されているのだろう。綺麗に掃除がされていて、子どもたちが遊んで……。「!?」 野良着で遊ぶ子どもたちは、狐やタヌキの顔をしていた。「妖怪……」。司はそう思った。「あー、おねえちゃんだー」 狐やタヌキの顔をした子どもたちが桜に気づいて寄ってくる。そして隣にいる背広姿の司にも視線を向ける。「この人だあれ?」狐の女の子(女児の着物を着ていたからおそらく)は桜に聞いた。桜は幸せそうに微笑む。「わたくしの……旦那様ですよ」「へえ……」 狐の女の子は興味津々といった様子だが、タヌキの男の子のほうはまだよくわからないようだ。「さて、ようこそ司様。あやかしの国へ。歓迎いたしますよ」 桜が手を握ってくる。これから本を読むのとは違った冒険が待ち構えていると思いながら、司も手を握り返した。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-14
Chapter: 第四話 月のしずくある月の綺麗な夜。 司は月に照らされた桜の花を眺めながら、酒を飲んでいた。お酌をしてくれる美しい女性の名も「桜」、桜の咲いているときだけ姿を見せる司の妻だった。司はふと気になったことを聞いてみた。「なあ桜」「はい?」「桜が咲いていないとき、お前はどうしているんだ?」「そうですね……」 桜は少し考えたあと、いたずらっぽく笑った。「あやかしたちの住む世界に行っている、と言ったら信じてくださいますか?」 司は一口また酒を飲むと、月に目を移す。「月がきれいですね」という勇気はなかったので、別のことを言った。「あやかしの世界、行ってみたいものだ」 哲学が専門だが妖怪の話が司は好きだった。だからこの言葉は本当だ。桜は少し考えたあと、やはり微笑んだ。「では行ってみますか? 母に会ってほしいですし」 その言葉に司はびくりとする。彼女の母親に会う。それは結婚してしまってからの挨拶ということで順番がおかしい。何事も礼儀作法を守りたい司としては気になるところだった。しかしこのまま挨拶しないわけにもいかない。司は、桜のついでくれた酒を一気に飲み干すと、覚悟を決めた。「わかった。会わせてくれ。お前の母に」「はい」 桜はうれしそうに微笑んだ。二人だけの静かな宴は、司に緊張感を与えたまま続いた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-13
Chapter: 第三話 切なき別れ それからというもの、司は毎日のように桜の下へ通った。 そしていろんなことを話した。 司の通う大学のこと。 おいしい菓子のこと。 遠い異国の地のこと。 司が旅をした街のこと。 どんな話をしても、桜はいつも楽しそうにしてくれた。 それがうれしくて司はいろいろな話をした。 そうしている内に季節は移ろい、桜が散り始めた頃。 その日桜はどこか上の空だった。 司の話は聞いているようだったが、いつものように楽し気でかわいらしい笑みを浮かべてはくれなかった。 それが気になって、司は尋ねた。「その、どうかしましたか? なんだか元気がないようですが?」「いえ、その……」 桜は何かを迷うように言いよどみ、司の目を見ないまま告げた。「司様」「なんですか?」「もうここへは来ないでください」「え? どうして……」「ここへ来ても、もう会えないでしょうから」「なぜ」そう問いかけようとした司の目の前で驚くべきことが起こった。 桜の身体が半透明になり、後ろの景色が透けて見えたのだ。「これは、どういう……」「さようなら。司様。楽しい日々をありがとう」 消えていく桜を捕まえようと、司は腕を伸ばした。しかしその腕はただ虚空を掴んだだけだった……。◆◆◆ 桜が突然消えてしまった次の日。 司は再び桜の大木の下を訪れた。 しかしそこに桜の姿はなく、美しかった桜もすっかり散ってしまっていた。 司の胸がぎゅっと締め付けられた。(もう桜には会えないのだろうか?) 司は痛む自身の胸を左手で強く掴んだ。そして透き通るような青空を見上げた。 まるで何かを誓うように……。◆◆◆ それからも毎日、司は桜の大木の下を訪れた。しかし桜と会うことはできなかった。それでも、それでも毎日通い続けた。 雨の降りしきる梅雨の日も。 太陽の照り付ける夏の日も。 木々を揺らす嵐の日も。 切なさを誘う秋の日も。 雪積もる冬の日も。 そして桜のつぼみが芽吹いた新春の日も。 毎日、毎日通い詰めた。 そんなある日、司の研究が認められる日が来た。研究の内容は「愛の比較研究――日本と西洋の違い」だった。司はそのことを報告するため、桜の大木の下を訪れた。もちろんそこに、桜の姿はなかった。それでも司は報告したかった。「桜さん。ようやく僕の研究が認められました。全
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-27
Chapter: 第二話 儚き日々 天女のような女性、桜と出逢った次の日、司は胸の高鳴りと共に目を覚ました。 夢の中でも桜に会っていたような気がした。 そう、あの美しくも切ない瞳が彼を射貫き、また金縛りにあってしまいそうだった。 それでも心臓だけはうるさく早鐘を鳴らしていた。 ふと司は思った。昨日の出逢いは現実だったのだろうか、と。 まるで白昼夢を見ていたかのようだった。 それくらい桜という女性は儚げで、とてもこの世のものとは思えなかったのだ。 その日は結局桜のことが気になって勉学にも集中できなかった。 大学で愛について研究している司だったが、この桜への気持ちと胸の高鳴りはどんな偉人の言葉でも説明がつかないように思えた。 そんな大学からの帰り道、司は行きつけの和菓子店に寄った。 桜にもう一度会うのに、手ぶらではいけないと思ったからだ。 ガラスケースの向こう側に並べられた色とりどりの菓子たちの中に、桜を思わせる小さく美しい練り切りがあった。 司は迷わずそれを購入した。 そして桜並木を通って、昨日上った石の階段のある場所に向かった。 果たしてそこに山に上るための階段はあるのだろうかと、一抹の不安を抱えながら。 結局、そこに階段はあった。 昨日のことが夢ではなかった証拠を一つ得て、司は足取りも軽く階段を上って行った。 彼の耳に、昨日と同じ美しい音色が届き、彼の胸を高鳴らせた。 急いで階段を上りきると、そこには美しい桜の大木と天女のような女性がいた。「桜……さん」 司は小さな声で声をかけた。邪魔をしていいものか悩んだからだ。 それでも桜は気づいたようで、笛を吹くのをやめ、瞼を開いた。そして司を認識するとふんわりと、しかし儚げに微笑んだ。「司様。また来てくださったのですね」「ええ。約束しましたから。そうだ。今日はお土産があるんです」 どこまで近づいていいものかと恐る恐る桜に近づくと、司は和菓子店の包みを開いてみせた。「まあ。とてもきれいですね。これをわたくしに?」「はい。この菓子を見たとき、あなたを思い出して……」 そこまで言ってから司は、遠回しに桜が美しいと言ってしまったような気がして、顔を紅くした。「ありがとう。とてもうれしいです」 桜は愛するものを見るような優しい瞳で練り切りを見つめた。「いただいてもよろしいですか?」「ええ。もちろん」
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-27