永遠の桜の恋物語

永遠の桜の恋物語

last updateLast Updated : 2025-04-27
By:  スナオOngoing
Language: Japanese
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 時は大正時代。とある日不思議な笛の音色に導かれた青年、宮森司は、満開の桜の下で天女のような絶世の美女に出逢う。どうやらその美女は桜の精霊らしくて……。  これは桜の精霊と優しい青年が送る、切なくて儚いラブストーリーである。散りゆく桜のような一瞬の恋物語を楽しんでいただけたら幸いである。 ※表紙イラストはイラストレーター「ヨリ」氏からご提供いただいた。ヨリ氏は保育士をしながら作品制作を行っている。 氏のInstagramアカウントは@ganga_ze

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Chapter 1

第一話 出逢い

 しとしとと、雨が降っていた。

 そんな中、番傘を差して歩く青年がいた。

 青年の名は宮森司。とあるお屋敷に下宿しているいわゆる書生である。

 スタンドカラーの白い書生シャツの上から茶色の着物を身に着け、紺色の袴を着つけている。

 足元は白い足袋に黒い鼻緒の塗りの下駄だった。

 白い足袋をからかわれることもあったが、彼は白い足袋を使い続けた。

 二枚の歯がカランコロンと小気味よい音を奏でる。

 彼の髪は短い黒色をしていて、丸眼鏡をかけた姿はどこにでもいる書生だった。

 しかしその瞳は黒曜石のように輝いており、彼の学問に邁進する心を表しているようだった。

 ふと彼の耳に、美しい笛の音が聴こえてきた。

 その音色はあまりにも美しく、そして儚げだった。

 一瞬で虜になってしまった司は、キョロキョロと辺りを見回し、音色の出どころを探した。

 すると山に続く石の階段を見つけ、その上から音色が聴こえていることに気付いた。

 そして音色に導かれるように、彼は階段を一段飛ばしに上っていったのである。

◆◆◆

 階段を駆け上ると、そこには大輪の花を咲かせる一本の桜の木があった。

 その桜のあまりの美しさに、司は息を飲んだ。

 その間も桜は雨に打たれ、ひらひらとその花びらを散らしていく。

 司が再び息をできるようになるころ、桜の木の根元に一人の女性がいることに気が付いた。

 まるで天女のような女性だった。

 長くつややかな黒髪は腰まで伸び、その肌は透き通るように白い。

 その白い肌に薄紅色の着物が映えていた。

 そんな天女を、司はただ黙って見ていた。

 見とれていた、といってもいい。

 天女は司の視線に気づき、吹いていた笛から口を離した。そして彼を見つめる。

 司と同じようで違う、吸い込まれるような黒い瞳が彼を捉えたのだ。

 次いで天女はにこりと微笑んだ。その微笑みが司の金縛りを解いてくれた。

「う、美しい音色でした」

 絞りだすように司が言った。

「ありがとう。あなたはこの笛の音色を聴くことができるのですね」

 笛の音色くらい、誰でも聴けるだろう。司は頭に疑問符を浮かべた。

「……? それはもちろん。あまりに綺麗な音色でしたので、聴き入ってしまいました」

「この音色を美しく感じたのなら、きっとあなたの心は美しいのでしょうね」

「そ、そんなことは……」

 天女との会話はどこか不自然な部分もあったが、司はそんなことも気にならないほど気分が高揚し、舞い上がっていた。

そんな彼に、天女は尋ねた。

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「え? 司です。宮森司」

「司様……。よいお名前ですね」

「あの、あなたのお名前もお聞きしても?」

「そうですね……」

 天女はゆったりとした動作で桜の木を見上げてから、再び司を見てにこりと微笑んだ。

「……〝桜〟とお呼びください」

「桜、さん。あなたにぴったりなお名前ですね」

「そうでしょうか?」

「ええ……。あなたは桜のように……」

〝美しい〟

 思わずそう言いそうになり、咄嗟に司は自身の口を押えた。

 そんな司に天女……桜は優し気に微笑み続けてくれた。

 だから司は高鳴る胸を軽く押さえながら、また声が上ずらないようにしながら、尋ねた。

「あの、またここに来たらあなたに会えますか?」

「あなたがここに来られるなら、きっとまた会えるでしょう」

 やはり桜の答えは変わっていた。

 しかしこうして二人は出逢ったのだ。

 それが楽しくも切ない、儚き日々の始まりだと気づかぬままに……。

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