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鈴木沙世
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Novel-novel oleh 鈴木沙世

変わり者令嬢がやさぐれ勇者の嫁になりまして

変わり者令嬢がやさぐれ勇者の嫁になりまして

 色恋沙汰に興味なく冒険者に憧れる貴族令嬢のミオ。ある日美しい妹の身代わりに異世界から転移してきた勇者の嫁として勇者が住む幽霊島に行くことになったが、勇者レイの態度は思った以上に冷たくて、挙句嫁なのだからと服を脱ぐよう強要されて……。    主人公が居場所を見つけたり少しずつ愛を深めていく純愛系のお話です。
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Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 8
 結局あれから就寝までレイと顔を合わすことはなかった。 自分は外交の窓口になることは難しい。けれど、その他のことなら何でもする。だからこの島にいさせてくれないかと頼み込んで了承を得るしかないのである。 そうしなければミオは本当に野垂れ死にする以外なくなってしまう。 そのためにミオは夜にレイの部屋を訪れていた。 ノックをして名を名乗ると、長い沈黙の後でレイは部屋のドアを開けてくれた。ドア越しにレイは開口一番こう言った。「王国に帰る?」 恐らくさっさと帰ってほしいと言うのがレイの願いなのだろう。「……いえ、帰りません」 本当は「帰りません」ではなく「帰れません」だがあえてミオはそう言った。「いや、だから何しに来たんだって話なんだけどさ」 大袈裟に呆れた顔をしてレイはそう返す。「私に出来ることでしたらなんでも言いつけてください」 それはミオの心からの言葉だった。勇者の嫁としてこの島で暮らすために自分はここに来たのである。 父から無理矢理に送り込まれた政略結婚ではあるが、それでもレイはミオが尊敬する勇者、レイ・シュタインなのだから、ちゃんと前向きに頑張りたい。 自分に何が出来るのか全く分からないけど。「何でも? じゃあ今裸になれと言ったら?」 しかしレイの言葉は嘲笑混じりの冷ややかものである。その言葉の意図を察してミオは息を呑んでしまう。「まあまあ無理しなくていいから。今日のところは部屋で寝たら?」 優しい言葉とは裏腹に冷笑を向けるレイにミオは一度下唇を噛む。「……なります」「は?」 ぐいとレイの胸元を手で押して、ミオは半ば無理矢理レイの部屋へと入った。 生まれて初めて入った男の人の部屋は、男性特有の匂いがしてその違和感に思わずミオはごくりと息を呑んだ。 しかし決意したように無言で着ていた夜着に手をかける。「おい、」 レイが驚きの声を上げる。 それに構わずにミオはえいと内心で気合いを入れると、シュミーズドレスの背中のリボンを解いて、パサリと足元に脱ぎ捨てた。「……いかがでしょうか」 両手を胸を隠してミオはレイの目を見てそう告げた。貴方の嫁なのだから恥ずかしくないのだ。と言いたげになるべく凛とした言い方をしたかったのだが、情けないことに全身どころか声まで羞恥に震えてしまう。「……まだ一枚残ってるだろ」 そんな恥じら
Terakhir Diperbarui: 2025-06-06
Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 7
 しかし冒険は決して楽しい時間だけではない。 勇者の屋敷に辿り着いたミオは与えられた部屋で荷物を片付けている内に日は暮れる。見せてもらったが、洞窟上部の巨大シャンデリアがゆっくりと暗くなっていく光景はなんとも幻想的で美しいものであった。 勇者はまだ海竜の回収に時間がかかっているらしい。 なので彼を待たずに先に夕食の時間となった。 しかし自分の席に置かれた夕食を見てミオは我が目を疑ってしまう。「……え」 夕食は小さなパン一つに野菜クズと言うよりは野菜の欠片をかき集めて煮たようなスープ。そして小さな肉が一切れと言うメニューであった。ミオが今まで見たどんな夕食よりも質素いや粗末な食事である。 驚き言葉を失うミオの隣りで、しかしアルマは嬉しそうな声を上げた。「おっ今日は肉がある、豪華だな!」「これが……豪華」 アルマの歓喜の声に唸るようにミオが呟く。そんなミオに向かいの眼鏡の青年が苦笑いした。「フロード王国の貴族階級では考えられないかも知れないけどね、我々の食生活はいつもこんなものさ」 眼鏡の青年、グリモワールがミオにそう告げる。彼はハーフエルフの青年で、アルマと同じく勇者と共に旅をした魔法使いだ。どんな魔法も使いこなす万能の魔法師と聞いている。「そう……ですか」 確かに家ではこんな質素な食事をしたことがない。ちらりと屋敷の食堂を見渡す。食堂はお世辞にも広くて立派なものとは呼べないが、隅々まで掃除が行き届いておりテーブルクロスも汚れ一つなく清潔である。 安物の花瓶に可愛らい野花が活けられており、カトラリーもけっして高級な品ではないがピカピカに磨かれていた。 貧しくはあるが決して不潔でもだらしない訳でもなく、まさに清貧と言葉が相応しい。 ミオが恐る恐るスプーンを手にしてスープに手をつけようとした時である。「文句があるなら食べなくていいぞ」 その時だ。 よく通る、しかし底冷えのする声が食堂に響く。 ミオが声の方、食堂の入り口を見るとそこには一人の青年がいた。 肩まで伸びた漆黒の髪、中肉中背と言うよりはもう少し細身の肉体が質素な青いブリオーチュニックに包まれている。 幼さと精悍さを合わせ持ったような顔立ち。そして何より火焔鷲よりも鋭い眼光の漆黒の瞳がミオを射抜いていた。 目の前にいる男こそ、勇者、レイ・シュタインである。「勇者様
Terakhir Diperbarui: 2025-06-06
Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 6
「探したんだぞ……わぶっ」「うわーい! アルマさーん!」 ミオが近付くより早くピラートが緑の髪をぴょんと揺らしながらアルマのドラゴンの皮で出来た胸当ての下、もふもふとしたブルーグレーと白の毛並みの腹目掛けて抱きついた。「な、なんだピラートか……」 勢いよく力加減なしで突撃するように抱きついてきたピラートにアルマが驚く。しかし彼女の受難はそれだけではなかった。「あらー?良い匂いがすると思ったらアルマじゃないのー?」 緑色の旋風が一陣、ミオ達の周囲を囲むように吹いたかと思うとそれは緑色に淡く輝く人型になったかと思うとピラートと同じ緑色の髪の色白の人になった。 これは一体どう言うことだろう。 予想だにしない事態にミオが固まっている内に話は続いていく。「ママ!」「げっヴァラール」「ゲッてなによー?そうやって邪
Terakhir Diperbarui: 2025-06-05
Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 5
 見知らぬ土地で一人きりになってしまった。 途端にそれまでのワクワク感が一気に萎れてその代わりに不安感で胸がいっぱいになってしまう。 異国の食べ物らしき不思議な匂いと、聞き慣れない生活音は今のミオには心細さを倍増させるだけである。「どうしよう……」 心細さのあまり頭を抱えてそう一人ごちた時であった。「お姉さん、困っているの?」 そう言って背後からミオの袖を引いたのは緑色の髪をサイドで二つに結んだ少女だ。 どことなく不思議な雰囲気をした十歳位の少女が人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてくる。「もしかして外の世界からきたの? 迷子?」 一瞬どう言おうか迷ったが取り繕っても始まらないためミオは正直に頷いた。「……そうみたい」「あはは、ダメな人だなー」 ミオの返答にケラケラと少女は快活そうに笑う。「勇者様にお会いしたいのだけど、勇者様のお家を教えてくれる?」「ゆうしゃー? あ、レイ様のこと? レイ様はねー海竜を倒しに行ったよ」「知ってるわ、海竜をやっつけるところ私見てたもの」 光線しか見てないけど、と言う事実は伏せてミオは少女に自慢げに告げる。「えーいいなー」 少女の予想以上に羨ましそうな顔にちょっと大人気なかったかなとミオは内心少し反省した。そして少女と目線を合わせるようにその場にしゃがみ込む。「私はミオって言うの。あなたの名前聞いてもいい?」「ピラートだよ」「ピラート。可愛い名前ね」「えへへ」 ピラートは屈託なく笑う。その無邪気さにミオもつられて微笑んだ時である。「どうしたピラート」 そう言ってミオたちの前に現れたのは体格の良い大人の男性である。男性はその若さの割に老人のように杖をついて歩いていた。片足を引き摺っている。平然とした表情や歩みの速さからして生まれつきか、古い怪我の後遺症なのかも知れない。「あっパパ! この人ミオさんって言って迷子なんだって!」「はは……こんにちは」 ピラートがパパと言うからには彼はピラートの父親なんだろうか。元から得意ではない愛想笑いをぎこちなく浮かべてミオは軽く彼に会釈する。「勇者様にお会いしたくてアルマ様と行動を共にしていたのですが、島の物珍しさにあちこち見回っている内にはぐれてしまって……」「なんだ、レイ様のお客か。大通りまで行けばすぐだが、ここらは道が入り組んでいるからな。
Terakhir Diperbarui: 2025-06-05
Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 4
 そうして数時間後、船は港とはけして呼べぬような簡素ないや粗末と言った方が相応しい船着場へと到着した。「……」 トランクを持って下船したミオは辺りを見渡し、その光景に困惑を隠せない表情を浮かべてしまう。 到着した幽霊島は「災厄」と呼ばれた赤竜が棲処としていた時と恐らくは全く変わらない様子で荒れ果てており、まさに未開の地そのものであった。上空は今にも雷雨が襲ってきそうな程曇った鉛色の空である。気温は低く吹きつける風も冷たい。何せ客船の中で引っ張り出した真冬用のコートを着ていても体の芯から凍えていきそうなのだ。 そして地上は赤竜の全身から放たれていたと言われる毒霧の影響だろうか草木一本生えない、まさに岩だらけの荒野であった。 そんな島の悲惨な様子にミオは先程微かに見えたような希望の光が消えてしまうような気がした。(一体こんなところにどうやって住んでいるの?)「何してんだ、下に行くぞ」 荷物が入った大きな木箱を二つ抱えたアルマに促されてミオは慌ててトランクを引き摺って着いていく。舗装もされていない道では引き摺るよりも持ち上げた方が早かった。 荒野の中でもまだ歩けるマシな獣道をスタスタと歩いていくアルマに暫くえっちらおっちらと追いかけていく。アルマがミオの棘鎧亀の如くノロマな歩みに合わせて歩いてくれているのが分かった。そうして歩いている内にやがて岩山の中に重厚な鉄門があるのが見えた。 門番に二人に見張られたやたら真新しくピカピカに磨かれた鉄の門である。アルマが声を掛けると門番たちがその錆一つない重たげな門を開いた。「わあっ……!」 門の中、洞窟の中へと連れていかれたミオはその広大さに思わず呆気に取られてしまう。 広大、なんてものではない。正にフロード王国の王都一つ分の面積の都市が丸々その洞窟の中に広がっていたのである。 洞窟都市である。 その雄大な光景をミオは興奮した面持ちで見渡す。 地上はどんよりと重々しく曇っていたのに洞窟は何故か明るい。地上よりも明るいのはどう言うことだろう。 所々に松明の灯りがあるが、それだけではこの明るさは説明できない。 ミオは洞窟の上を見る。 するとそこには空中を浮かぶ美しい巨大なクリスタルの城があった。 いや城と見まごうばかりの巨大なシャンデリアが下がっている。そのシャンデリアが太陽のように眩く輝き、洞
Terakhir Diperbarui: 2025-06-05
Chapter: 第2話・幽霊島へ行きまして 3
 その刹那凄まじい黄金の光線が一条、荒波を切り裂き、そしてそのまま巨大な海竜の身体をも真っ二つに斬ったのである。「は……?」 これにはミオどころか荒事に慣れているはずの船員たちでさえ呆気に取られてしまったようだ。 ただ一人獣人だけがふうと溜め息を吐く。「全くレイの奴、いいとこだけ奪っていくんだもんなー」 レイとはまさか勇者レイ・シュタインのことだろうか。確かにあの海竜を倒した光線はあの日城壁を破壊した光線にとてもよく似ていた。「おおい、海竜の回収は任せていいのか?」 獣人は甲板から身を乗り出して何言か会話を交わす。 そして、くるりと振り向くと今の今までずっと甲板でへたり込んでいたミオに肉球のついた手を差し伸べた。「大丈夫か?」 よく見れば獣人は女性らしい。ブルーグレーの艶やかな毛並みに覆われている為、遠目からではよく分からなかった。しかしこうして近付いてよく見てみると、快活な表情に彩られた柔和そうな顔立ちは狼型の女性のそれであった。 目を丸くしてそれからミオは礼を言いながら獣人の手を取った。「はい、ありがとうございます」「アンタの心配じゃないよ、こっちは積荷の心配をしていただけ」 ミオの礼にニヤリと狼の牙を見せて彼女は意地悪そうな笑みを浮かべた。返答に窮したミオは一瞬固まるが、すぐにアルマはプッと吹き出して破顔する。「なんてね、冗談だよ。あんたがフロード王国からの押しかけ女房ってやつかい?」 その人懐っこい狼の笑みにミオは彼女は恐い人ではなさそうだと内心安心した。「……私のことが分かるんですか?」 まさか彼女は勇者の関係者なのだろうか。 問いかけながらも、ミオは初めて魔物に襲われたことで動揺していた心をなんとか落ち着かせてじっと彼女を見つめる。 彼女の特徴はよく知っている気がする。 ブルーグレーの毛並みをした狼型の獣人。 そして勇者の関係者の女性。「あなたもしかして、アルマ……さん? 勇者レイ・シュタインのパーティの獣人アルマ?」 名前を思い出したミオはハッとした顔でそう問いかける。 その問いかけに彼女は少し意外そうな顔を見せた。「へぇアタシを知ってるの?」 肯定と取れる言い方にそれまで恐怖に蒼ざめていたミオの表情がパアッと明るくなる。「知ってます、女性なのに冒険者やってて、すっごく強くて竜もみんな棍棒と爪で
Terakhir Diperbarui: 2025-06-05
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