父母に言われ、無理矢理夜会に参加することになったメロライン。 壁の花に徹していると…突然女性が誰かを糾弾し始めた。 「私、貴方のようなデブで吹き出物だらけの豚とは結婚できませんわ!」 「そ、そんな…そんなこと言わないでくれ…」 女性に縋り付く男性をもう1人の男が勢いよく蹴り上げる。 「残念だったな…オルラフィオ王太子殿下。お前とパルサティラの婚約は今日この日を持って破棄させてもらおう。」 一人の男が鼻血を出しながら膝から崩れ落ちた。 「フッ…なんだ。あんな性根の腐ったヤツらなんて放っておけ。オルラフィオ王太子殿下いいことを考えたぞ。私と婚約するのはどうだろうか。」 閃いたとばかりにメロラインは求婚したのだった
View More「なぁ、マーヤ。やっぱり夜会に参加しないと行けないのか?」
「そうですね。メロライン姫様には夜会が似合わないことは重々承知しておりますが、そろそろ婚約者を作らなくては、旦那様も奥様も悲しまれますよ。」 この1年、嫌というほど夜会に参加してきた。 理由は簡単。婚約者を作るためだ…。この国では不思議な事に16歳から18歳までに婚約者ができなければ売れ残りというレッテルを貼られる事になる。
そうなると更に婚期は遠のき、訳あり貴族やお金持ちの商家に嫁ぐか…平民となるか。最悪ずっと独身で終えるなんてこともある。 私的にはずっと独身でも構わないと思っているんだけど…どうやらそうは行かないらしい。母様は「結婚こそ女性の夢よ。」と言っているくらいだ。
余っ程騎士団に所属して戦地に赴いている方が性にに合っているというのに…。
「そうだけどさぁ…私的にはその令嬢の嗜みがよく分からないんだよな…お茶会に行ってはお互いを牽制しあって、表では仲良さそうにしていても裏では陰口を言い合う…。魔物達の方が裏表なくて可愛げあるぞ?」「確かに、メロライン姫様の仰ることはよく分かります。私も一応男爵家出身ですから。その関わりが嫌で侍女になったのです。」
マーヤが以前話していたことを思い出す。 確かマーヤには婚約者も居たと言っていたはずだ。その婚約者が他の女と駆け落ちしてしまった…とかで結婚を諦めたんだったはず…しかも相手の女はマーヤの友人で、前日まで一緒に出かけたりしていた仲だったそうだ。 「すまない…嫌なことを思い出させたな。今日の夜会は確か…」 「過ぎたことですのでお気にならさず…今日はスロット公爵家の夜会です。テッサリーニ国の王太子であるオルラフィオ様も来られているようですよ。」 スロット公爵家か…ランドルと父上は昔からの親友だと言っていたし、参加しないといけないのは分かるのだが、どうもランドルの奥方、エレイラの事はあまりに好きになれない…。 「そうか。テッサリーニ国から態々参加するとは珍しいこともあるんだな…。」 「そうですね。オルラフィオ王太子殿下の婚約者がパルサティラ様だったはずですから他の方々への紹介も兼ねてこられたのでしょう。」 パルサティラ・ドレッド。 モルガン・ドレッド公爵の一人娘で昔からあまりいい話を聞かないし、幼い頃に母親を亡くしているからか、我儘で気位が高い娘だ。 今までに何人の令嬢が泣かされてきただろうか。 そんな女と婚約なんて、恐らくドラゴウン国との縁を作りたかったのだろうが、少し可哀想になってくるな。 相手が相手なだけにこのままで済めばいいのだが… 「パルサティラか…昔からあいつとはウマが合わないんだよな…今日は何事もなくこの夜会が終わればいいが。」 「そうですね。昔から本当に反りが合わず、しょっちゅう喧嘩をされていましたしね…。さて、出来ましたよ。一応見た目は女性らしくなっていると思います。」 鏡を覗くと確かにいつもとは違う自分が現れた。母上がピンクのドレスと持ってきた時は、それを着るくらいであれば絶対に夜会には参加しないと断固拒否したものだ。 青いドレスであればそこまで目立ちもしないし大丈夫だろう。 「青いドレスにして正解だったな…マーヤ。恩に着る。」 「本当ですよ。急な変更で準備が大変だったのですから。いいですか?メロライン姫様は「わ、わかった。今回は何もしないで静かにじっとしているから安心してくれ。そ、それに…だ。もし何かあれば今度こそ母上がピンクのドレスを着させると言っていた…それだけは何としてでも阻止しなければならん。」
首がもげるのではないかと言うくらい縦に首を振ると、分かってくれたようで、「約束ですからね!」と一言言ってから手を下ろした。ドレス選びから始まり、装飾選び、身支度、全ての準備を終える頃に明るかった空も暗くなり始めていた…。
今回の夜会には父上や母上、兄上も参加するようで、馬車が何台も準備されている。 「あら、メルちゃん。ドレス似合っているわね。」 母上が笑顔でこちらに近付いてくる。 母上が、メルちゃんと言う時は何かしら含みがある時だ。絶対ピンクのドレスを着なかったことを根に持っている…。「そ、そうでしょうか。このドレス。母上が選んでくれたとお聞きしました。さすが母上のセンスはバッチリですね。」
ドレスの裾を摘みながらくるりと回ると、母上はため息を着いて。
「本当に…どうしてこんな子に育っちゃったのかしら…」とぼそりと呟いた。 聞こえてますよ…母上。そしてこんな子に育ったのは…母上と父上。そして兄上たちを見て育ったからです。 そう!私だけが原因では無いのです! と、言いたいところだけど、言い返すとあとが大変になるため、グッと言葉を飲み込んだ。「皆揃ったようだし、出発しよう。」
母上と話している間に、兄上達も皆馬車に乗り込んだようだ。父上の言葉に馬車がゆっくりと進み出した。
「では、話が逸れてしまいましたし話を戻しましょうか。それで、薬草の内容は分かったかい?」暗い雰囲気をぶった切るように話し始めたのはボァトルト兄様だ。ボァ兄様に薬草の書類を渡すと、マリウスと一緒になって一度調べることがあると言って部屋から出て行ってしまった。まるで嵐が一瞬で過ぎ去ったようなそんな感じだ。師弟だからか、動きがとても似ている。きっとしばらくしたら戻ってくるつもりだろう。扉から二人が出て行った姿を見ていると、父様がゴホンと一つ咳払いをした。「薬草の件は一旦あの二人に任せておこう。その間に、わかったことを教えてほしい。」「わかりました。まず、オルラフィオ王太子殿下が表舞台に出なくなってから全てを仕切っているのはトリドール家のようです。」そう言って、ジーノたちがまとめてくれた資料を渡す。白金の騎士団の実態や、赤熱の騎士団について。そしてトリドール家がアジュアール国とつながっていることなどを伝える。「それと、アジュアール国から来ている商会の名ですが”フェサリス商会”と言い、アジュアール国第2王子がと同じ名前の商会であるということまでは分かりました。」「私は、イヴェッタ王妃の近くにおりましたが、侍女の中に2人ほど黒髪の女性がおりました。あれは間違いなくアジュアール国の者ではないかと思われます…それ以外にもちらほら従者の中、料理人の中にも見かけました。」マーヤが一番王族の近くにいたということもあり、王族について色々話をしていた。どうやら王族たちは資金などあまり気にせず好き勝手やっているようだ。特にピリットン第2王子は女性に目がなく、見境なく色々な女性に手を出しているらしい。この話を聞いたときに頭に浮かんだのはイベリコのことだ。やはり、イベリコとピリットンは血縁なのだなと思ってしまった次第である。それに国王陛下がずっと表舞台に出てこないところも気になる所だ。普通であればここまでの状態になる前に何かしら考を講じなければならない。それでも出てこないとなると、生きているのかも怪しくなってくる。
「おかえり!!メローラ!!!」キャロット城前に着くと、こちらに手を振って近づいてくる者がいる。私の婚約者であり、テッサリーニ国の王太子オルラフィオ王太子殿下だ。どうやら、ドラウゴン国を離れている間に少し心境の変化があったらしい。今までは外に出るのも怖がっていたフィオだが、少しずつ外に出ることができるようになってきたようだ。「ただいま!!フィル!!!」私も少し小走りでフィルに駆け寄った。ドラウゴン国を離れていた期間は3ヶ月弱くらいだろうか…その間に少し顔色がよくなってきたようにも感じる。「フィル、以前よりも顔色がよくなってきたんじゃないか。よく見ると体型も少し細くなったように感じるぞ。」「そうなんだ。これにはマリウス殿も驚いていたよ。もしかしたら、薬を飲んでから少し時間が経過してきたというのもあるかもしれない…ということだ。効能が切れてきているのだろうってさ。」資料を見てもずっと飲み続けていた薬ばかりのようだったからその薬を辞めたことで効能が薄れてきたのは何となく理解ができる気がする。ただ全部が全部…効能が薄くなって終わりというわけではないのだろう。ニキビなどはきれいになってきているようだが、爛れている皮膚は以前と変わらないし、発汗が多い所や顔の形なども以前と変わらないようだ。それでも少し変化が見られたことでフィルの気持ちが変わってきたのはよかった。「そうなのか。こちらでもフィルの薬についてはある程度目星がついたから、後ほどマリウスをウェインも交えて話をしよう。」「ウェインもかい?」そういえば色々なことが重なっていてフィルにはラグネリアの話をしていなかったか…。てっきり話したつもりになっていたと思っていると、私の後ろからウェインが声をかけてきた。「やぁ、オルフィ、久しぶり!元気そうでよかった。2人の逢瀬を邪魔してしまってすまないが、実は俺の婚約者もオルフィと同じような状態になってい
ジーノ達と話をしてから1週間が過ぎた。あの後、白銀の騎士団を今すぐどうこうするには時間が惜しいという事。赤熱の騎士団の隠れ蓑として白銀の騎士団があった方が調査しやすいという事から、そのままの状態となっている。まぁ、元々何もしていないような連中だ。今動かれても面倒なだけである。トリドールの息子であるイベリコは団長室から出てこないらしい。一度団長室の前を通った時、ブツブツと何か呪術のような呪文のような言葉を言っていた。「俺は団長だ。俺は強いんだ…だってパパとママが言っていたもん。俺は強い…。俺は強い。俺は強い。俺は強いんだぁ…!!いつかあいつをけちょんけちょんにしてやる。そして跪かせて、俺の愛人にしてやるんだ。」愛人って、一応私は男装していてここでは男として通っているのだが、思わずその言葉を聞いて鳥肌が立ったのは言うまでもない。しかし、負けたことが恥ずかしかったのか、今回の件は誰にも話していないようだ。一つだけ変わったことと言えば、私の顔を見ると団員たちが直ぐに道を開けてくれることになったことだろうか。今まで「スポレトーレ家の奴らが調子に乗ってるんじゃねぇよ」と言っていたヤツらも今では大人しく道を譲る。「これだけ道を譲ってくれると歩きやすいな。」1人でジーノのところに向かっていると、ウェインが逆方向からコチラに近づいてくるのが見える。最近のウェインは少し焦っているというか、機嫌が悪い日が多く、1人行動していることが多くなっていた。「ウェイン。」片手を挙げて声をかけると、据わった目をしたウェインがこちらを見た。「あぁ。ローレンか。すまん。見えていなかった…」ここまでイライラしているのはやはりラグネリアのことだろうな。「見えていなかったって…お前ちゃんと寝てるか?そん
「さて、取り敢えず騎士団長は倒したからな。この団をジーノに任せていいか?」「えっ?なんで俺?」何となくジーノに会ってから思っていることがあった。少なくともフィオが今の状態になる前までは誰かしらがフィオの警護をしていた事になる。ただ、あの団長がそれをやっているようには見えなかった。で、あれば白銀の騎士団は名ばかりで実際は青銅の騎士団もしくは赤熱の騎士団が守っていたのではないか…と。「赤熱の騎士団。団長はお前だろ?ジーノ…」赤熱の騎士団の名前を出すとジーノは目を大きく広げて吃驚する。「な、なんで…気づいたんだ。」「やっぱりな…半分はカマかけだったんだが、合っていたようだぞ。ウェイン、マーヤ。」「実はジーノ様には内緒で赤熱の騎士団について調べさせて頂きました。貴方方は元々王太子殿下の側近や、警備を担当されていた方々ですね。」赤熱の騎士団。表向きは騎士団として動いていたが、裏ではこの国を変えようとレジスタンス的な動きをしているというのは調べていて分かった。「フィオが今の状態になってから、白銀の騎士団に居場所が無くなったんだろ?それで作ったのが赤熱の騎士団…違うか?」ジーノの顔を見て全てが本当のことだと言ってい
⟡.·*.··············································⟡.·*.マーヤ視点。「いたたたたた…」よろよろと立ち上がる姫様をみて、姫様が壁にワザとぶつかったのはすぐに分かりました。昔から姫様は1度負けるという戦い方をよくされます。恐らく女だからだと相手が油断するからなのでしょう。そしてもうひとつ…。姫様曰く、自分より弱いと思っていた相手に負けると戦意を失う可能性が高いのだそうです。イベリコでしたか。あの方のようにプライドの高い方は負けるという行為に慣れていない方ばかりなのだとか…姫様はその点では安心です。国王陛下は勿論、王太子殿下や、殿下達に尽く負け続けていましたからね。小さい頃は泣きながら立ち向かっていて、とてもお可愛らしかったものです。昔のことを思い出しながら姫様を見ていると、周りの人達が姫様を罵りました。あれも逆効果ですね。罵られるのには慣れておりますので、今頃頭の中では、罵ったヤツらをどう痛ぶってやろうかとしか、考えていないと思われます。立ち上がった姫様はユラユラと歩きだしました。わざと
ウェインに観客を集めてくるよう指示を出したあと、訓練場へ向かった。案の定、もぬけの殻である。「騎士団の皆さんは本当になんで騎士になったのか…」テッサリーニ国が元々治安がいい国で騎士がいなくても王族が狙われる心配もないと言うのであれば、この状態でも…まぁ…許そう。だが、実際はそんなことない。特に、この1年。フィオが居なくなってからはかなり荒れていたようだ。「久しぶりにひと暴れできそうで腕が鳴るな。」首を左右に動かすと骨の音がポキポキなる。どうやら身体も喜んでいるらしい。「そうですね…姫様…あれほど余り目立たぬようにとお伝えしたはずですが?」軽く準備運動をしようと体を伸ばしていると後ろからマーヤの声が聞こえた気がした。いや、でもマーヤは王宮で侍女として働いていたはず…まさかのイヴェッタ王妃に見染められて王妃の侍女になっていたはずだ…「…いや、まさかな。マーヤがここに居るはず…」「現実逃避をしても無駄ですよ。メロライン姫。」防衛本能で声が聞こえた方から逃げようとすると、肩をガシリと掴まれた。私は壊れた人形のように首をゆっくりと後ろに向ける。「や、やぁ。マーヤ?な、な、なんでここに居るんだい?き、き、今日もいい天気だね…」マーヤは無表情のままこちらをジーッと見つめてくるので私は思わず目を逸らした。「はぁ…人を集めるようにウェイン様へ言ったのは姫様では無いですか。それに外を見てください。晴れておらず今にも雨が降りそうなどんよりした天気ですよ。」ウェインのやつ…なぜマーヤに伝えたんだ!マーヤは私の侍女でもあるが、母様の茶飲み友達なんだぞ&helli
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