Chapter: レッツゴー拷問師 1「近くの裏の道具の反応は私達以外に無いわね。あのオカマが遠ざかってく点と…… こっちに物凄いスピードで向かってくる点。多分ムツヤっちね」 ルーが探知盤を取り出して言うと皆、安堵する。「やだーやだー能力返せバカ女神ー!!!!!!!」「モモちゃん、その子が逃げないようにしっかりと取り押さえていてくれるかしら」「はい、わかりました」 2人は同じ返事をした。ヨーリィとユモトは魔力が切れかけなのでモモが芋娘を拘束することにした。モモが近付くと芋娘は騒ぎ出す。「オーグになんが触られたくねえだ!! っく、殺せ!!!」 おそらく人間が窮地の際にオークに言う言葉1位をぶつけられ、モモは少し心が痛んだ。「殺しはしない。少し大人しくしていて貰うだけだ」「やだー近付くなー!!!」「やだーやーだービンのフタなんかいらないやーだー!!!」「うっさいわね!!!」 芋娘と共にずっと騒いでいるアシノにルーはキレる。モモは芋娘の両手を後ろで組み上げた。 しばらくの間、芋娘の叫び声とアシノの叫び声の汚いデュエットが響き、一同はうんざりとしている。「ムツヤっちー!! 早く来てくれー!!」 耳を抑えながらルーは言った、するとそれと同時に森の奥から人影がぶっ飛んできた。「皆さん、無事でじだか!?」 見覚えのある顔と訛り、ムツヤだ。「やーっと来てくれた。私達は無事よ、ヨーリィちゃんの魔力が少ないぐらい。それよりもアシノの頭をスッパーンと叩いてあげて!! 見てらんないから!」 やだやだーと地面に寝転がってバタバタしているアシノを見てムツヤは「……はい」と返事をした。 頭に衝撃を感じてアシノは正気に戻る。 そして、ゆっくりと記憶を辿り光線を浴びたことと、駄々っ子状態になっていたことを思い出した。「もうやだ……」「正気に戻ったんだからイジケてないの!! カバンはムツヤっちが取り返してくれたし、キエーウも追い払って、1人拘束できたんだから」「そうだな……」 アシノは目をギュッとつむってゆっくりと開け、芋娘を見る。「キエーウの事、洗いざらい吐いてもらうぞ」「ひっ」 勇者の迫力に圧されたのか小さく怯えた声を出す。ムツヤ達はエルフの村に戻ることにした。 ムツヤのカバンから取り出したロープで縛られ、芋娘は歩かされる。「勇者アシノ様!! ご無事でしたか!?」 村へと
Last Updated: 2026-08-02
Chapter: 鎌とオカマ「あらぁん、やだわぁん、負けちゃったのね」 精も根も尽き果てているモモ達はその声を聞いてイラッとした。 アシノは無言でビンのフタを連射する。 オカマ魔法使いのウトナは防御壁を作って難なく過ごしたが、その後ろで「いでででで」と声が聞こえた。「ウドナ様、オラも守ってほしいだ!」「お黙り! その鎌を振り回して弾きなさい!」 声の主は若い娘、見た感じ俗に言う芋娘で、ムツヤよりも鈍った言葉を使う。「だっで、鎌に鎖が付いてるだけでほんどに裏の道具なんだべやか?」「探知盤にも反応してるし裏の道具よ!! はやくあいつらをやっちゃいなさい!」 芋娘はうぅ。と言いながら前に出てくる。「食らいなさい、プリティビーム!!」 ウトナは裏の道具の杖を使い、感情を暴走させる光線を乱れ打ちした。 所々で爆発音が聞こえるので通常の攻撃魔法も混ぜているのだろう。 それぞれ丈夫そうな木の裏に隠れて魔法攻撃をやり過ごす。 ウトナの後ろでは芋娘がグルグルと鎌を振り回し始めた。謎の多い武器なのでこれが合っているのか本人ですら分からない。 しかし、そこは摩訶不思議の裏の道具。鎖の部分が飴細工のように伸びて攻撃範囲が広くなる。「いいわぁん、やっちゃいなさい!」「へい!」 ガスっと木に鎌が刺さると鎖が縮み始め。「あああああぁぁぁぁ!!!」 鎖を手に絡めている芋娘はそこ目掛けて吹っ飛んでいった。「ふばち!」 そして木に激突し、下の茂みに落ちる。「なにやってんの!」 ウトナはイライラして言う。 そして、茂みから出てきたと思ったら、ヨーリィに右腕を後ろで拘束され、首元にはナイフが近付けられていた。「本当になにやってんのおおおぉぉぉ!?」「プリティビーム!!!」 ウトナはヨーリィに対してダメ元で杖を振る。 ヨーリィはこの杖は効かないのだから避ける必要もないのに、容赦なく芋娘を盾にした。「亜人共をぶっ潰す! 亜人共をぶっ潰す! 亜人共をぶっ潰すんだべ!」 一応はキエーウのメンバーらしく、亜人を憎んでいることがわかる。 ウトナは呆れて頭を抱えたが、懐の連絡石が震えた為、作戦を切り替えた。「さっさと道具を返しなさい!」 ウトナは爆破魔法を芋娘ごとヨーリィに喰らわせようとする。間一髪ユモトの防御壁が間に合う。「あんた! 仲間じゃないの!?」 ルーが言うとウト
Last Updated: 2026-08-01
Chapter: 剣と盾 2 モモは氷水を浴びせられた様にぞわっとし、体が動かなくなった。「献身的で、回復魔法が上手で誰からも好かれるような妹でした」 男は侵食されて指先から黒くなる手を見つめる。「亜人達の強盗団に夜襲を受けて、仲間は死に、妹も身ぐるみをはがされた後。辱しめられ、首を折られて絶命しました」 自分の中に暴力的な力が目覚めている事を男は感じていた。「それを聞いて思いました、キエーウへ入り、強盗団の亜人を含め、全ての亜人を惨たらしく殺してやると」 時間稼ぎは成功した。皆が男の話に聞き入っている間に裏の道具は男の体を侵食し終える。「それは気の毒に思う。だが全ての亜人に罪はないだろう!?」 アシノが言うが、言葉は既に男に届かなくなっていた。「ウオオオオオオ!!!」 獣のような唸り声を上げ。男はモモに斬りかかる。 間一髪、無力化の盾で防ぎ、衝撃は感じずにいられた。しかし、剣が産み出した風がその威力を物語っている。 次に男は盾を地面に突き刺した。先程とは比べ物にならない速度で盾は大きくなり、モモ目掛けて倒れた。「まずい、みんな逃げろ!」 無力化の盾はあくまで物がぶつかる衝撃を消すものであって、重い物の下敷きになれば潰されてしまう。 急いで逃げて盾をやり過ごすと、アシノ達は攻撃に転じる。「貫け、氷柱よ!」 ユモトが巨大な氷柱の剣を飛ばすが、剣で薙ぎ払われ粉々になってしまう。「ちょっと眠ってなさいアンタ!」 ルーが雷を飛ばすが、盾を地面に突き刺すと、雷は盾の上を走り、接地面から地面へと放電されてしまった。 アシノは衝撃で2、3歩後退りするぐらいに思い切り力を込めてパンパンとワインボトルのフタを飛ばした。 それは男の顔に直撃し、倒れるが、またすぐに立ち上がる。 本来であれば気絶か致命傷にもなり得たはずだが、裏の道具に体を支配され、感覚が麻痺しているのだろう。「頼む、正気に戻ってくれ! 私はお前と戦いたくない!」 モモは叫んでいた。 しかし、もう声は聞こえていても意味は伝わらないだろう。 振り回される剣をモモは無力化の盾で受けながら、どうにか男から武器を奪えないか考える。そんな最中で敵の背後を捉えたのはユモトだった。 今なら確実に捉えられて。 殺れる。 ユモトはギュッと目を瞑って覚悟を決めた。 そんなユモトの肩に手が置かれてビクリとし、思
Last Updated: 2026-07-26
Chapter: 剣と盾 1「飛んで行っちゃったけど大丈夫かしら……」 あまりに急のことでアシノ達はヨーリィが飛んでいった方角を見つめることしか出来なかった。「ヨーリィなら多分、上手いことやってくれているだろう」 念の為、防御壁を張り続けているユモトの代わりにルーが探知盤を見る。「ヨーリィちゃんが飛んでいった方向に2つ反応が向かっていってるわ!」「よし、私達も行くぞ!」 森の中で既に事切れている男、そのそばにはヨーリィが居た。男から裏の道具である弓矢を回収し1人で立っていた。 ヨーリィは探知盤を持っていなかったが、森の中を進む不穏な気配を察知している。 アシノ達は大きな音を聞いて立ち止まった。メキメキという大木が倒れる音だ。それが何度も聞こえてくる。「この音は……」 モモが言うとアシノが推測を答える。「多分だが、裏の道具を持って調子に乗ったやつが暴れてるんだろう。急ぐぞ!」 音の鳴る方へ皆走る。そして言葉を失った。 まるで大嵐でも通り過ぎたように木々がなぎ倒されている。「ヨーリィ! 何処だ!」 アシノが大声を出すが、返事はなく。人影が1つコチラへ向かってヨロヨロと歩いてきた。「ごめんなさい、魔力が尽きた」 ヨーリィだった。モモが走って抱きかかえるとヨーリィが表情を作っていた、今まで見たことが無いような苦しそうな顔だ。「おいおい、イモってんじゃねーぞ!!」 ヨーリィの後ろから声が聞こえる。それと共に木がコチラに向かってメキメキと倒れてきた。「暴れ過ぎですよ」 もう1つ声が聞こえる。最低でも2人敵がいた。アシノはユモトに命令をする。「ユモト! あっちに向かって照明弾を打ち上げろ!」「はい、わかりました!」 パスンパスンとユモトが照明弾を打ち上げると、その光に照らされた人影が見えた。どちらもキエーウの証である仮面を被っている。 1人は刀身が2メートルはあろうかという両手剣を持ち、もう1人は棺桶の先を尖らせた様な大きな盾を持っていた。「やれやれ、まだこの裏の道具達の能力を理解していないというのに……」 盾を持つ男がそう言うと、剣を持った男が笑って答える。「そうか? 俺は分かったぞ?」 そして両手剣で木を切りつけたが、刃は空を切る様にすっと通り、木は何事も無かったかのように立ち続けていた。「切れ味がメチャクチャ良い! それだけで十分じゃねーか
Last Updated: 2026-07-25
Chapter: カバン奪還作戦 2「今の私達では裏の道具持ちと戦うのは危険だ。ムツヤとの合流、カバンの奪還が最優先だ」「そうねー、1人1人で戦っても負けるのが目に見えてるし」 モモがぼんやりとしている事に気付いてアシノが言う。「モモ、お前が居なければ私達は死んでいたかもしれない。感謝する」 それからアシノは頭を軽く下げて続けた。「それと嫌な役目を任せてしまってすまない。気持ちはわかるが、今はムツヤと合流する事だけを考えてくれ」 モモはパンっと自分の顔を叩いてから返事をした。「はい、急ぎましょう」 アシノは死んだキエーウの男に片手で素早く祈りをした。モモもそれに習い、皆は先を急いだ。 恐らくエルフの村から一直線に、一番遠くにある反応がカバンだろう。それを倍以上のスピードで追いかけている点がムツヤのはずだ。 ムツヤは今、魔剣ムゲンジゴクのレプリカしか持っていない。 しかし、サズァンから貰ったネックレスと裏の連絡石のおかげで反応が分かる。「ギルス、ムツヤと繋いでくれ!」「分かった、ちょっと待ってろ」 走りながらアシノはギルスに連絡を入れた。しばらくしてムツヤの声が聞こえてくる。「アシノさんでずか!? 今カバンを持ってる奴を追いかけているんですが、他に道具を持っていった奴もいて!」「ムツヤ、お前はカバンを取り戻すことだけ考えて走れ!」「わがりまじだ!」 ムツヤとの連絡が終わり、石を仕舞おうとした時にちょっと待ってくれとギルスの声がした。「おい、何人か引き返してきているぞ!」「僕たちを、倒しに来たんですかね……」 ユモトの予想は当たっているかわからない。しかし反応が向かう先を見て答えが分かってしまった。「っ!! そうか、エルフ亜人だから!!」 ルーの言う通りだ。裏の道具の反応がエルフの村へと近付いて行っている。「道具の試し打ちにはもってこいって所か、私達も引き返すぞ!」 アシノの号令
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: カバン奪還作戦 1「待てルー!! カバンがアイツ等の手に渡ったらどうなるか分かってんのか!?」 アシノに咎められたルーだったが、ナイフを突きつけられているエルフを見て他の方法を考えてみても代案が無い。「ムツヤ、走ってアイツを倒せないか?」「やだわぁん、ひそひそ話なんて。ちょっとでも変な動きをしてみなさい。この子は死ぬわ」 ムツヤ達はキエーウの連中を睨みながら立ち尽くすことしか出来なかった。「ほら、カバンをこっちに投げなさい」 ムツヤは苦い顔をしながらバッグを肩から下ろして放り投げた。キエーウのメンバーがそれを拾って立ち去っていく。「カバンは渡したわよ。開放しなさい!!」「駄目よ、もうちょっと遠くに逃げるまで待っていて貰うわ」 すぐに追いかけてカバンを取り戻せたらという甘い考えは打ち砕かれた。「ただ待っているってのも暇ね、お喋りでもしましょうか?」 ウトナはそう言ってムツヤを見る。「お前なんかと話すことはない!!」「あらぁん、釣れないわぁん。でもね、聞いてくれるだけで良いのよ?」 そして勝手に話し始めた。「エルフは長命だから無駄に知識をもっているわ。そして自分達が1番賢い種族だと思い他の種族を見下すの。それはさっきわかったでしょう?」「それを言ったらあなた達こそ何なの? 人間が1番だと、おごり高ぶって、そんな変な仮面まで付けて」 ウトナの言葉にルーは言い返した。「他種族が居るからこんな争いが起こるのよ? 人間が選んだ者以外きれいサッパリ殺しちゃえば、今こんな争いも起きてないわ」「お前らはつくづく1か0かでしかモノを考えられないんだな。人間同士でも争いも戦争も起こるし、他種族とも分かり合うことができる」 今度はアシノが言い返すが、ウトナは鼻で笑った。「まぁいいわ、あなた達とお喋りしても無駄みたいね。それじゃこの子は返してあげる」 宿屋の夫妻が安堵した次の瞬間だった。ウトナは短剣をカノイの背中に突き立て、一気に押し込んだ。
Last Updated: 2026-07-18
Chapter: 休戦協定 空を飛ぶラミッタは着地し、話し続ける。「そして、勇者になった我々は魔物が現れる箱を壊すために各地を巡っています」「魔物が現れる箱?」 スフィンが聞き返すと、ラミッタは頷く。「少し、長い話になるかもしれませんが、こちらの世界に来て分かっていることをお話します」 ラミッタは、こちらの世界に来て起きた魔人との戦いを簡潔に説明する。「わかった。信じられない話だが」「異世界の勇者様もそんな事情があったなんてなー」 マッサも興味深げに隣で聞いていた。「それで、私はこの聖地の箱を壊しに来た所、スフィン将軍に出会ったのです」「そうか……」 スフィンは必死に状況を飲み込もうとしている。「ラミッタ。まず私はどうすべきだろうか」「やはり、この国に報告をするのが得策かと。もし、勇者として認められれば、行動もしやすいでしょうし……」「わかった。国へ戻るまで、イーヌの騎士。貴様とは休戦だ」「はい、わかりました」 マルクエンはそう返事をし、その場は丸く収まった。「さて、では早速その国と話がしたいのだが」「この街にも冒険者ギルドがあるんだ! そこで連絡石を使って報告してもらうよ」 マッサが言うと、スフィンの頭には疑問符が浮かぶ。「連絡石とは何だ?」「簡単に言うと、触ると遠くにあるもう片割れの石が光るっていう貴重で不思議な石でな。それで信号を送るんだ」「そんな不思議なものが……」「と言っても、距離はそこまで遠く出来ないから、王都に信号送るには何個も中継地点で繋いでもらう感じなんだけどねー」 マッサが説明すると、なるほどなとスフィンは納得した。「この街の箱について知りたいし、まずは冒険者ギルドかしらね」 話が|纏《まと》まり、マルクエンとラミッタ。スフィンにマッサという珍妙なパーティは冒険者ギルドへ向かった。「ここが冒険者ギルドだ!」 建物は他の街よりもこじんまりとしているが、小さな街なので仕方がないのかとマルクエンは思う。「はーい、三名様ごあんなーい」 勢い良く扉を開けてマッサは中へと入る。「あら、マスター。お帰りが遅いので魔物にやられたかと思いました」「いやーん。冷たいこと言わないでー」 ギルドスタッフの女にマスターと言われるマッサを見て、マルクエンはまさかと思う。「その、マスターって事は?」「あぁ、俺はこの街、チターで冒険
Last Updated: 2026-08-02
Chapter: 気まずい食事会 スフィンははっきりとマルクエンを敵だと言い切った。 ちょうどそこへ大量の料理が次々に運び込まれる。 気まずい食事会に誰も料理を取ろうとしない。「まぁまぁ、スフィンさんの事情は分かった! ともかく今は食べましょうや」 マッサはそんな事を言い、料理を取り分けスフィンの前へ置く。「騎士として……」 マルクエンが話し始めたので、皆がそちらを向いた。「騎士として、国のために戦うことが正しい事だと私は思っていました」 そこまで言うと、自信の無い表情を作り、続けて言う。「ですが、ルーサにとって、あの戦争は侵略だと思われても仕方が無いと、今は思います」 皆は黙ってマルクエンの話を聴いていた。「戦場で好敵手だと思っていたラミッタとも、こうして一緒に旅をする仲になることができ、私は正しさが何か。正直言って分からなくなってしまいました」「貴様、何が言いたいんだ?」 スフィンに尋ねられ、答える。「私は、元の世界へ帰り、戦争を終わらせたい。皆が分かり合える世界を作りたい」「そんな絵空事を」 ふんっとスフィンは吐き捨てるように言った。「それに、私はこの世界も好きになりました。だから、魔王からこの世界も救いたい」「私には関係無い話だ」「いやいや、スフィンさんも、別世界の勇者ってことなら、関係あるかもしれないよ?」 マッサが|宥《なだ》めると、ラミッタも話し始めた。「その方の言う通りです。もしも、我々がこの世界の伝承通りの存在だとしたら、元の世界へ帰る唯一の方法かもしれません」 ラミッタにも言われ、スフィンはため息を付く。「とりあえず、今は飯にしましょうや! 料理が冷めちまう」「……。そうだな」 スフィンは納得したのかしていないのか、定かではないが、料理を口に運び始めた。 食堂にはカチャカチャと食器を動かす音だけが響いている。 しばらくの沈黙を破ったのは、以外にもスフィンだった。「分からないことだらけだが、ラミッタ。いくつか聞きたい事がある」「はい、なんでしょうか?」「何故この世界の住人と言葉が通じ合うんだ?」 質問をされたラミッタは困った顔をしてしまう。「それは……。私にも分かりません。文字は違うようですが、意味が理解できるのです」「言葉とは文化によって生まれるものだろう? そこが謎なのだ」 スフィンの言うことは|尤《もっと
Last Updated: 2026-08-01
Chapter: あびゃー!!!「えっ、本当に勇者様?」「俺が嘘を言う男に見える?」 マッサがニヤリと言うと、ネーアは慌てふためいた。「えっ、えっ、あ、あの、ようこそ当ホテルにお越し下さいました!! えーっとどうしよ、サイン色紙? じゃなかった、お部屋にご案内します!!」「それより飯を用意してちょうだいな、ねーちゃん」「わ、わかったわ!! 大至急用意させますので!!! マッサ、勇者様のお部屋どこか案内しといて!!!」「かしこまり! さぁさぁ勇者様こちらへどうぞ。スフィンさんはそこの椅子に座って待っていてちょうだいな」 二階の一室に案内されるマルクエンとラミッタ。「これは、どういう事なのかしらね」「元の世界で命を失った者はこの世界へ来るのだろうか……?」「でも、それだったらもっと人が居てもいいはずよ」「うーむ……」 悩む二人だったが、こうしていても|埒《らち》が明かないだろう。 荷物を下ろしたマルクエンが、剣まで置いていこうとしているのを見てラミッタが咎める。「宿敵、スフィン将軍がまた襲いかかってくるかもしれないのに、武器を置いていくの?」「なんだ、心配してくれるのか?」「なっ!? べ、別に!!」 ハハハと笑った後にマルクエンは言う。「スフィン将軍なら、何となくだが心配は要らないと思う」「何でそう言い切れるのよ」「あの方は気高い軍人だ。卑怯な手は使わまい」 その頃、ロビーに戻ったマッサを見てスフィンは立ち上がる。「マッサ……だったな」「お、名前を覚えていてくれたの。嬉しいねぇー」「私を一発殴れ」「は?」 思いもしない言葉を聞いて流石のマッサも困惑した。「えーっと、そういう趣味が?」「ち、違う!! 貴様は民間人であり、それ以前に恩人でもある。なのに私は貴様に攻撃をしてしまった」「あぁ、あの電気は効いたぜ!」 興奮するスフィンを止めるために、拘束魔法を使おうとした時の事を言っているのだなとマッサは思い出す。「どこからでも良い、そうして貰わないと私の気が済まない」 そう言ってスフィンは目を瞑る。「そっか、俺は気にしていないんだけどなー」「私が気にしているんだ」「……、それじゃ遠慮なく」 マッサはスフィンに近付き、手を前に出す。 その手はガッチリとスフィンの胸を鷲掴みにしていた。「ひゃっ」 殴られると思っていたのに、胸を揉まれ、
Last Updated: 2026-07-26
Chapter: VSスフィン「いやはや、何とも信じられん話だ」 賢者ミハルは目を閉じてうーんと唸る。「だが、この国の伝承にこんな物がある。『魔王現れる時、異なる世界から勇敢なる戦士が現れるだろう。その者は魔王を討ち滅ぼし、去っていく』というものだ」「あの話か」 マッサもその話は知っているらしい。「という事は、この国には魔王が?」「そう、一年前に現れましたぞ」 スフィンはミハルの回答を聞いて驚く。「つまりは、スフィンさんは異世界の戦士ってことか?」「可能性はあるだろう」 勝手に話が進んでいくが、スフィンは待って欲しかった。「いや、そんな事を言われても困る。私は国に帰って戦わなくてはならない!」「伝承通りならば、魔王を倒せば元の世界へと帰ることができるかもしれませんな」 ミハルの言葉にスフィンは目を見開いて立ち上がる。「そうですか、それでは早速……」「ちょっ、おいおい待ってくれよスフィンさん。魔王は今どこに居るかも分からないし、そもそも超つえーんだ!」 マッサが少し焦って止めようとするも、スフィンは扉を開けて出ていこうとしていた。「それでも、ここでじっとしている訳にはいかない」 扉を開け、外を見ると、一瞬思考が停止した。 目の前に居るのは間違いない。何度も戦場で見た。「マルクエン・クライス!?」「なっ、スフィン将軍!?」 その隣に居るのは。「スフィン……将軍……!?」 自ら叩き上げた兵士、ラミッタ・ピラだ。 だが、次の瞬間。スフィンはマルクエンに向かって電撃を放った。「おわっ!!」 マルクエンはそれを|躱《かわ》して距離を取る。「貴様、殺す!!」 何だ何だとマッサとミハルも外へ出てきた。「スフィンさんどうした!?」 マッサの言葉も届かず、スフィンは光で作った剣を持ち、マルクエンに突進する。「死ね!! 侵略者が!!!」 マルクエンは剣を構えて青いオーラを身に纏う。 剣と剣がぶつかり合うが、マルクエンは少しもよろめかない。 体重をかけてスフィンを弾き飛ばし、話をしようとするマルクエン。「スフィン将軍、聞いてくれ!! 私はあなたと争うつもりはない!!」「スフィン将軍!! 落ち着いて下さい!!」 ラミッタも声を掛けるが、更に怒りを加速させた。「ラミッタ!! 何をしている!! 貴様も戦え!!」 マッサが飛び出してスフィンを捕ま
Last Updated: 2026-07-25
Chapter: マッサ マルクエン達が聖域を訪れる数日前の事だ。「私の名はスフィン・スク。ルーサの将軍だ」「将軍様か、そりゃあいい!」 スフィンを助け、食事を食べさせている冒険者の男、マッサは膝を叩いて爆笑していた。「貴様、信じていないな?」「いや、信じるよ。信じるとも」 言葉ではそう言っていたが、態度からはそんな気が|微塵《みじん》も感じられない。「私は確かに戦場に居た。そこで落馬し、意識を失って、気が付いたらここだ」「なるほどな、不思議な話もあるもんだなー」 豆のスープを食べながらマッサは適当に頷いていた。「やはり、貴様信じていないだろう」「まず、そのルーサってのは国なのかい?」「あぁ、そうだ」「悪いが、聞いたことないんだよねー」 聞いたことが無いと言われ、スフィンは驚く。 だが、目の前の男が残党狩りで嘘をついていないとも限らない。「本当に知らんのか?」「全くね、ここはコニヤンって国だけど、周りの国にも無いしなー」「その国こそ聞いたことが無い。疑問なのだが、聞いたこと無い国同士出身の私達が何故同じ言葉を話せるのだ?」「それは俺も分からないねー」 何とも要領を得ない男の話に、スフィンは少しイライラとしていた。 そんな時、スフィンは物音と、それに混じった殺気を感じ取る。「おや、お客さんみたいだね」「剣を、貸してくれるか?」「あぁ、予備が一本あるよ」 マッサが剣を差し出し、スフィンはそれを受け取った。 野生生物を模した魔物が二人に飛びかかる。 スフィンは蟻型の魔物を剣で斬り捨て、光の矢を多数呼び出し、射出した。 串刺しになる魔物達。マッサは熊型の魔物の腕を切り落としながらそれを見る。「はぇー、やっぱやるねぇ!」 スフィンは近付く魔物を剣で切り捨て、中距離以上の敵は魔法で殲滅した。 マッサも次々に魔
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: 恋の予感 コラーは戦いの時とぜんぜん違う顔をするマルクエンを見て、勇者のあるべき姿はこうなのかと思う。「ラミッタさまー。私ね!! お空飛んでみたい!!」「あら、いいわよ」 子供の頼みを快諾し、ラミッタは抱きかかえて空を飛んだ。「うわー!! すごーい!!!」「俺も飛びたい!!」「僕も!!」 すっかり子供たちの人気ものになるラミッタ。「マルクエン様、俺、本当は勇者になりたかったんです」 コラーは自分でもつい言ってしまった言葉に驚く。「あっ、そのっ、こんなに弱い俺じゃなれないって知っていますけどね!!」「戦いの強さだけが、人の強さではありませんよ」 真面目な顔をしてマルクエンは言った。「私は、元々騎士でしたが。国を守るために戦っていました」「守るため……、ですか?」「そう。コラーさんは村を、皆を守りたいと心から思っている。それはとても立派なことです」「えっと、その、ハハハ。何だか恥ずかしいですね……」 下を向いてコラーは照れ顔を隠す。「マルクエン様は、今は何を守るために戦っているのですか?」 そう問われ、考える。真っ先に思い付いてしまったのはラミッタの顔だったが。「えっと、今も国を守るため、元の世界へ帰るために戦っています」 ちょっとだけ嘘をついた。「コラー、ここに居たのか!!」 セロラがやって来てコラーの隣に座る。「肉焼いてきた、食え!! マルクエン様も!!」「お前、まさか、また勝手に狩りを!?」「気にするな!」「気にしろ!!」 マルクエンは二人の会話を聞いて笑っていた。「なるほど、あえて手負いの魔物を残す。か」 王都ではコニヤン軍の参謀長であるシガレーは報告を受けてそう呟く。「箱の破壊にばかりを考え、
Last Updated: 2026-07-18