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まっど↑きみはる
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Novels by まっど↑きみはる

裏庭が裏ダンジョンでした

裏庭が裏ダンジョンでした

 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえられてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しくも残酷な現実とは……?
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Chapter: 襲撃者 1
「お目覚め下さいムツヤ殿」 そんな声で起こされたムツヤが目にしたのはエプロン姿で長い栗色の髪を後ろで結ったモモの姿だった。「おはようございます、お食事の準備が出来ましたのでこちらにお越しください」 柔らかな表情で微笑んでモモは部屋を出ていく。 ムツヤが後に連れられて出ると、美味しそうなスープの匂いが漂ってきた。 ヒレーとも朝の挨拶を交わしムツヤは椅子に座る。「お口にあうかわかりませんが、どうぞお召し上がり下さい」  ムツヤの目の前には豆と野菜を煮込んだスープ、丸いパンと何かの果実のジャムが置かれていた。「美味じそうですねー頂ぎます」 ムツヤはスプーンでスープを口に入れる。 柔らかく煮込まれた豆と溶け込んだ野菜と崩れかけのジャガイモがコンソメスープによく合っていた。「本当に美味しい、モモさんはお料理が上手ですね」「あ、いえ、それほどでも」 ムツヤに料理を褒められるとモモは顔を赤くして視線を逸らす。 そんな二人を見てヒレーはずっとニヤニヤと笑っていた。「それで、ムツヤ殿。大きな街までの案内の話なのですが」 言いにくそうにモモは話を切り出す、何となく悪い話なのだろうなとムツヤも感じ取る。「私としてもムツヤ殿にご恩返しをしたいのですが、村でこれ以上犠牲者を出すわけにもいかないのです。大きな街まで歩いても1日はかかります。その間村を留守にする訳には……」「そうですか……」「もしお待ちいただけるのであれば犯人を捕まえるか、治安維持部隊が来るその日まで私の家でお世話をさせて頂くのでお待ちいただけないだろうか」」 最寄りの治安維持部隊の駐在所へは使いを出した。 早ければ今日、遅くても明日には腕の立つ者が来るだろう。 治安維持部隊にオークの問題だと戦力を出し渋る者がいなければの話だが…… いずれにせよそれまでは自警をする他は無い。 モモの職業は猟師兼この村の警備だ。 モモは流石に力のぶつけ合いでは負けるが、剣を持たせればこの村の戦士として戦うオーク達の中ではかなりの実力者だった。 そんなモモが今この村を離れるわけにはいかない。「そんな事情があるのでしたら待つのは良いんですけど…… そうだ、その犯人がわかれば良いんですよね? それじゃあ俺も手伝いますよ」 ムツヤの提案にモモは目を丸くする。その提案は嬉しいものだった。「それはあ
Last Updated: 2025-11-04
Chapter: オークの救世主になろう 3
「ヒレーこの方はムツヤ殿だ」「ムツヤ様ですか…… 改めまして私はヒレーと申します」「あ、どうもどうも」 ヒレーは可愛らしく両手でスカートを持ち上げてペコリとお辞儀をする。 それに対してムツヤは頭を掻きながら愛想笑いをしていた。「ヒレーも元気になりましたし、遅い時間ですが夕飯をごちそうしたいのですが、いかがでしょうかムツヤ殿」「良いんですか!? ありがとうございます、もうすっかりお腹が減っていたのでありがたいですよ」 |促《うなが》されてムツヤは椅子に座る。 人間にとってはだいぶ大きめの木製椅子だ。モモは別室で鎧を脱ぎ、エプロンに着替えて台所に立つ。「お姉ちゃん、私も手伝うから」「ヒレーは病み上がりなんだ、大人しくしていて大丈夫だ」「もー、ムツヤ様のお薬で本当にもう何ともないってば!!」「わかったわかった、それじゃ皮むきをしていてくれ」 ヒレーに押され、観念したモモだったがその顔は嬉しそうだった。 ムツヤは椅子に座りボーッと台所を眺める。 人に料理を作って貰うなんていつぶりだろう。 じいちゃんが腰悪くなってからは殆ど自分が作ってたし、そういや勢いで外の世界へ来ちゃったけども、じいちゃんはちゃんと生活できてるのかなと心配にもなる。 まぁ、飲むと元気になるっていうか、あのじいちゃんの腰が真っ直ぐになって走り回れる緑の薬をたくさん置いて来たし大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。「ムツヤ殿? ムツヤ殿、起きて下さい」 ムツヤはモモに体を揺さぶられて目が冷めた。 いつの間にか寝ていてしまったらしい。 あまりに気持ちよさそうに寝ていたからそのままにしておいてくれたのだという。 頭が段々と冴えてくるとムツヤの目の前にはいい香りのする料理が運ばれてきた。 似たようなものは作ったことがあるがそれよりもずっと美味しそうだ。「お客人が来るとは思わず、普段どおりの食事で申し訳ないのですが……」 モモは少しバツの悪そうに下を向いて言った。 妹を村を救ってくれた客相手にこの様なもてなしが精一杯の自分が恥ずかしい。「いえいえ、美味しそうでずよ。モモさんありがとう、いだだぎます」 皮肉を言われたのではないかと不安になったが、ムツヤ殿はそのような事は言わないだろうとそのまま感謝の意味としてモモは受け取る事にし、笑顔を作る。「どうぞ、お召し上がり
Last Updated: 2025-11-03
Chapter: オークの救世主になろう 2
「あーじゃあ俺とじいちゃんの二人しか居なぐでですね、周りは結界で囲まれてたのですよ」「結界で……?」 モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」 村長のロースは至極当然な質問をする。 だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」 確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」 ロース村長はそう言って少し考える。 確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」「えっ」 ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。 村長も思考がピタリと止まってしまった。 手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」 モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。 ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」 子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。 多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」 モモの代わりにロースが言いにくい事を
Last Updated: 2025-11-02
Chapter: オークの救世主になろう 1
 藁にでもすがりたい思いのモモは目の前の男を信じてみることにした。 妹も仲間もどの道、何らかの手を施さなければ死んでしまうかもしれない。「信じるな! そいつは嘘を付いている! そんな薬が存在しているはずがない!」 声のする方をモモとムツヤは同時に見た。 茂みに殴り飛ばされたオークの一人が顔を抑えながら立ち上がり、モモに警告を入れる。「バラ…… しかしもう何も手が……」 バラと呼ばれたオークの男は|脳震盪《のうしんとう》から回復し、その間は体が動かせなかったが、数分前からぼんやりとした意識はあった。 そして、二人のやり取りを聞いていて思った。自分は一瞬で治せるが他人は治せない魔法だと? 傷が一瞬で治る薬だと? 嘘に決まっている。 そんな輩を村に引き入れるなど正気の沙汰でないと力を振り絞り立ち上がり叫んだ。「どう聞いてもおかしいだろ、その薬なんてはどうせ毒だ!」「いや、違う俺は……」 弁明をしようとしたムツヤをモモが手で軽く制し、その後一歩前へ歩み出て言う。「私はムツヤ殿を信じてみたい。どうせ何もしなければみんな死んでしまうかもしれない。」 バラの言うことも分かる。 しかし、モモは今、僅かな可能性にも賭けたかった。 それ以上に、この男は不思議と信用しても良いと思えたのだ。 その後も何度かお互いに声を荒げて話をし合っていたが、最終的にはバラと呼ばれるオークの男が折れる形でムツヤは村に連れて行かれる事になった。 ムツヤはモモと殴り飛ばしてしまった二人のオーク達に連れられてオークの村にまで来た。 村のオーク達は敵意の目を持ってムツヤを見つめる。「モモ!! どうした、その人間が犯人なのか!?」 武器を手にして睨みを利かすオーク達、30人以上は居るだろうか。 その後ろから騒ぎを聞きつけた一際体格の大きいオークが声を荒げた。 真っ白でボサボサの髪と、それと同じ色の立派なひげを顎下に蓄えている。「いえ、違います村長。この方は薬を分けてくださるそうで」 村長ということはこのオークが一番この村で偉いのだろうかとムツヤは考えていた。「信用ならんな」 倍以上の体格差がある相手にモモは一歩も引かず、|毅然《きぜん》とした態度で話を続ける。「ではまず私の身内であるヒレーに薬を与えます。私はこの方、ムツヤ殿にそういった悪意があるとは到底思え
Last Updated: 2025-11-01
Chapter: オークの女 2
 オークの女はしゃがみこんだままの状態でハァハァと乱れた呼吸を整わせてから顔を上げる。 苦しさからか緑色の顔が少し赤みを帯びて、潤んだ目からは涙が滲んでいた。 そして言う。「っく……、殺せ……」「いや、お前が言うんかい!」 ビシッと右手を上げムツヤは人生で初めて見知らぬ他人に、いや、他オークにツッコミを入れる。 そこには静寂と寂しげな風がサーッと流れた。「それってオークが女騎士に言わせるやつだしょ? 何で、何でオークが? それぐらい俺だって知ってるよ? 田舎者だからってなめんじゃねー!」 そう言われた女オークは目をギュッとつぶり、悔しさと怒りの声を絞り出す。「貴様もそうやってオークを偏見の目で見るのだな、誰でも襲う醜い豚と! 性欲の化物と! 貴様の悪趣味に付き合ってなぶり殺しにされるつもりはない、もうこれ以上生きて屈辱は受けぬ!」 ムツヤに背を向けるとオークの女は短剣を自分の喉元に充てがい、一筋の涙を流した。「ヒレー、済まない。私は先に行って待っている。先立つ私を許してくれ」「お、おいちょ、ちょっど待でー!」 オークの女はそのまま覚悟を決めて目をつぶり短剣を自分の元に引き寄せる。 痛みが走らない。 興奮で感覚が麻痺しているのか、それとも痛みなく死ねたのか、肉を切る感触はあったのだが。「ううううういっでええええええええ!!!!!」 大声を聞いて目を開けると短剣は先程の人間の右手を貫いていた。「な、何をしている!?」「それはこっちのセリフだ馬鹿! お前それ死んじゃうべよ! え、なに、それやったら死ぬどかわがらんの!?」 オークの女はうろたえた、目の前の人間が何をしているのか全くわからない。 可能性があるとすれば、なぶり殺す趣味の為ならば、自分の体さえ犠牲にできる狂人なのだろうかと。「間に合わねえから掴んじゃっだけどクソ痛てえええええ! ってか刺さってんじゃん、こんな怪我久しぶりだ、くそー!」 人間は手から短剣を抜き取り、左手で出した光を血が吹き出している右手に当てた。 すると一瞬で男の傷口が塞がっていった、治癒魔法は今まで何度も見たことがあるがここまで見事な物は初めて見る。「傷が一瞬で……!? 何故助けた? 本当にお前は何者なのだ!?」「だーがーらー、俺はもう本当にさっぎごの世界に来だの! あ、俺は『ムツヤ・バックカ
Last Updated: 2025-10-25
Chapter: オークの女 1
 一番先頭にいるオークの、おそらくは女であろう者が、後ろで結ってまとめた栗色の髪を揺らしながらこちらへ近付く。 そして、剣先と殺意をムツヤに向けて質問をする。「異国の者だろうと関係はない。何をしに来た」「あのですねぇー、こっちにさっぎ結界から通っで来だばかりでしてぇ、怒らせだのなら謝るんで許してくださいませんか?」 ムツヤは両手を胸の前で開いて言った。 戸惑っていたし、恐かった。 モンスター相手の戦いであれば慣れたものだが、対人戦は経験がない。 サズァンと戦うことを渋ったのも、サズァンを好いてしまった事の他に、内心では人と戦う恐怖もあったのだ。 オークは互いに目を合わせる。 目の前の人間の言っていることが何一つ理解できない。「とにかくだ、その剣に鎧、上質な物だろう、ただの冒険者ではないな? まずは武器を捨ててこちらに投げろ」 ムツヤは頷くと剣を女オークの元に放り投げた。 地面に落ちたそれらを女オークは自分たちの背後へ蹴飛ばした。豚のようなオークがムツヤに次の命令をする。「次は鎧を脱げ。いや、ナイフでも隠されていたらたまらん、荷物と服も全て地面に置け」 鎧とカバンはまだ良いが、服を脱ぐのは流石に抵抗があった。しかしオーク達は剣と斧を構えて無言の圧力を掛ける。 月明かりに照らされながら外の世界に来て早々ムツヤはパンツ一丁にされてしまった。 サズァンから貰ったペンダントが胸元をひんやりと冷やし、そして最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私はーあのーいわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」 女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。「貴様もオークは性欲の化物のように思っているのか、我らを愚弄するか、私は今にも貴様を斬り殺したくてたまらない!」 初めて祖父以外に怒られたムツヤはビクビクとしている。 パンツ一丁で。 しかし女のオークがムツヤに近付いた瞬間、ペンダントが光りだし、目の前の空間に褐色の美女であり邪神のサズァ
Last Updated: 2025-10-24
別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「我が宿敵!! あなたに、私の夫となる権利をあげるわ!!」  一人の女が赤面しながら男を指差し言う。  そう、王国騎士『マルクエン・クライス』は、敵対していた魔剣士の女『ラミッタ・ピラ』にプロポーズを受けのだ。
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Chapter: まずは薬草集めから!
「おはようございます! マルクエンさん」「あぁ、おはようシヘンさん」 一足先にやって来たシヘンに挨拶を返すと、その後ろからラミッタとケイも歩いてきた。「優雅に紅茶かしら。昨日は眠れた? 宿敵」「あぁ、おかげさまで」 突っかかってくるラミッタに苦笑して、マルクエンは紅茶を飲み干し席を立つ。「冒険者ギルドに行く前に、余裕があったらで良いのですが、髭の手入れをしてくれる場所があるとありがたいのですが」  マルクエンが言うとシヘンが尋ねる。「もしかして、マルクエンさん脱毛の魔法が切れてしまったのですか?」「えっ? 脱毛の……魔法ですか?」 驚くマルクエンだったが、それ以上にシヘンとケイの方が驚いていた。「マルクエンさん、もしかして記憶喪失になって忘れたんスか?」 えーっと考えるマルクエンをジロリと見てラミッタは何かを訴えかける。「どうやらその様ですね。言われてみたら何だか思い出してきました。脱毛の魔法」 笑って誤魔化すと、ラミッタがニヤリと笑ってシヘンに言う。「シヘン。脱毛の魔法使えたわよね? 掛けてあげたら?」「そうなんですか。お手数ですが、出来たらお願いできますか?」 それを聞いてシヘンは顔を赤くし、ケイが慌てて言った。「ダメっスよ!! シヘンの脱毛魔法はダメっス!! 全身ツルピカになったムーラガおじさんの悲劇を繰り返してはイケないっス!!」「ぜ、全身ツルピカ……」 マルクエンがシヘンを見ると下を向いて黙っている。心の中で犠牲となったムーラガおじさんの毛を思いつつ、理髪店を探すことにした。 理髪店でヒゲを剃った後に例の脱毛魔法を掛けてもらったマルクエン。顔がさっぱりとし、この世界には生活に特化した便利な魔法があるのだなと思っていた。 元々居た世界では魔法と言ったら、もっぱら攻撃の手段だ。魔法を攻撃以外に応用しているということはこちらの世界の方が文明が進んでいるのだろうかと考える。「皆さん、おまたせしました」「お、マルクエンさんいい男になったっスね! それじゃギルド行きましょうか」 ケイに言われ、少し照れるマルクエン。一行は冒険者ギルドへと向かった。 マルクエンは三人の後ろに付いて行くと、一際大きい建物の前へとたどり着いた。看板に『冒険者ギルド』と書いてあるのでここで間違いないのだろう。 魔王の情報を集めたいが、先立
Last Updated: 2025-11-04
Chapter: 冒険をしよう
「いえいえ、遠慮なさらずに食べて行って下さい!」 シヘンに腕を引かれ、結局食事をごちそうして貰うことになる。 昨日の襲撃があったのにシヘンは笑顔を振りまいていた。マルクエンはそれを見て元気そうで良かったと安堵しているが、ラミッタは違う。「シヘン。辛い時は無理に笑わなくて良いわ」「そ、そんな! 無理だなんて……」 笑顔を続けるシヘンだったが、涙が一筋流れていった。 そして泣き始める彼女を、ラミッタは抱きしめる。そんな事があった後、マルクエンはラミッタに話しかけた。「シヘンさん、元気だと思っていたが、無理をしていたのか」「宿敵、あなたは女心が分かってないわね。モテないわよ」「あぁ、よく言われたよ……」 いよいよ村を旅立つ時だ。燃えて炭になってしまった村の柵を振り返る。 すると、シヘンとケイが駆け寄ってきた。「ラミッタさん! マルクエンさん! 私も、私も旅に連れて行って下さい!」 二人にシヘンは頭を下げる。ケイは心配そうにそれを見つめていた。「えっと、私は良いのですが……。村が大変な時に大丈夫なのでしょうか?」 マルクエンに言われ、シヘンは言葉を返した。「私、私はもっと強くなりたいんです! 村は大変ですが、私がもっと強ければ守れました! 私は大切な場所と人を守れるぐらい強くなりたいんです!」「その気持ちは分かりました。ですが、親御様も心配なさるのでは」 マルクエンが言うと同時に、ラミッタとケイは、しまったと思った。「私、幼い時に両親を魔物によって失いました」 それを聞いてマルクエンは肝を冷やす。「あっ、えっと、その、申し訳ない。考えが足りない発言でした」「いえ、良いんです! そして私は村の人達に育ててもらいました。だから私は村に恩返しがしたいんです」 マルクエンの代わりに今度はラミッタが話す。「それならば、なおさら村に留まって復興を手伝った方が良いんじゃないかしら?」「いえ、今の私じゃ何も出来ないって気付いたんです。だからお二人みたいに強くなりたいんです!」 そうかとラミッタは短く言ってシヘンに背を向ける。「付いていきたいなら好きにして」「はい! ありがとうございます! わかりました!」「ちょ、ちょっと待ってください! シヘンが行くなら私も付いていくっス!」 二人のもとに小走りで向かうシヘンの後を、ケイが追いか
Last Updated: 2025-11-03
Chapter: 胸の傷
 ラミッタの反応を見て、マルクエンはポカーンとしたが、自分の発言を省みて、あっと声を出す。「ち、違う! ほら、私はその、剣でお前の胸を貫いただろ? その傷が無いかどうか確認がしたいだけだ!」「なっ、そういう事!! 紛らわしいのよ!! バーカバーカ!」 マルクエンは焦りつつも、冷静なもう一人の自分がラミッタにも恥じらいがあるんだなと思っていた。「えっと、それで、どうなんだ? 胸の傷は」「教えない」 すっかり機嫌を損ねたラミッタはそっぽを向く。「や、やっぱりあるのか傷?」 心配そうなマルクエンに対し、ラミッタはふんっとご機嫌ナナメのまま言った。「宿敵に体の心配をされるほど落ちぶれちゃいないわ」 そんなラミッタだったが、何かに気付いてピクリと反応する。そして、先程まで居たトーラ村の方角を見た。「何か、魔物の気配がするわ」「本当か!?」 マルクエンの言葉よりも早く、ラミッタは千里眼を使った。間違いない、また魔物が村へ近付いている。「っ! 付いて来て宿敵!!」「わかった!」 二人は来た道を走って引き返していく。「こんな小さな村に一個中隊が壊滅させられたって聞いたがよー。どこかに生意気な冒険者でもいるんじゃねーのか?」 村は至る所が炎で燃え盛っていた。警備や増援の兵隊たちも倒されてしまっている。 住民も、冒険者たちですらガタガタと震えながらその者を見ることしかできない。「お、お前は……」 ケイがシヘンの前に立ち塞がり宙を飛ぶ者を見て言った。「俺様は魔人コンソ様だ、どうやら雑魚しか居ないみたいだ。わざわざ俺様が来るまでも無かったな。無駄足を踏ませた責任を……」 コンソと名乗る魔人は右手に魔力を集中させる。オレンジ色の光が段々と大きくなっていった。「死を持って償え!!」 もうやられる。ケイがそう思った瞬間だった。「魔法反射!!」 魔力が魔法の防御壁にぶち当たり、反射される。ケイと魔人の間にはラミッタが立っていた。「ラミッタさん!?」 ケイが驚いて言う。それと同じくしてマルクエンも現れ、宙へ飛び上がり魔人に斬りかかった。「ほう、少しは楽しめそうな奴がいるじゃねえか」 魔人コンソはニヤリと笑い、武器である長槍を構えた。どう絶望を与えてやろうかと考えていたが、次の瞬間。思考が止まる。 マルクエンの剣を槍で受け止めたコンソは
Last Updated: 2025-11-02
Chapter: ちょっと魔王退治に
「いやいや、魔王討伐なんて勇者のすることっスよ……」「それでも、私は魔王を倒します」 ケイは内心マルクエンさんは記憶喪失のついでに頭もどうかしちまったのかと思っていた。「まずは魔物を狩って、魔人を倒してからよ」「えぇ!? ラミッタさんまで!?」 驚いて裏返った声をケイは上げる。その後はあまり会話もなく、食事が終わった。「その、マルクエンさんは、これからどうするのでしょうか?」 シヘンに尋ねられ、うーんとマルクエンは考える。「そうですね、とりあえず魔人? とやらの情報を集めます」「あ、あの!! 私もお手伝いしても良いでしょうか!?」「ちょっ、ばかっ!!」 思わずケイはシヘンにヘッドロックをキメてマルクエンに背を向けた。「ま、マルクエンさん。私達ちょっとお花を詰んできますわ、オホホホ」 そのままギルドの隅っこまで連れて行く。「馬鹿かシヘン!! マルクエンさんは良い人かも知れないが、魔王や魔人を倒すって言ってんだぞ!? 正気じゃねぇ!!」「で、でも!!」「確かにマルクエンさんとラミッタさんはメチャクチャ強い。だが、そんな二人に付いて行ってみろ! 無事じゃ済まないぞ!」 真っ当な意見を言われ、シヘンは俯いて言葉を失う。「マルクエンさん、ラミッタさん。魔王と魔人の討伐、応援してるっスよ! 何かあったらいつでも村に戻ってきてください!」 すぐにでも出発しようというマルクエン達に、村の出入り口でケイは作り笑顔で、シヘンはしょげた顔で別れを告げた。 シヘンとケイに何があったか察したラミッタは振り返らずに村を出ていく。「シヘンさん、ケイさん、お元気でー!」 能天気なマルクエンを見て、ラミッタがはぁっとため息を付いた。「それで、ラミッタ。どこへ行くんだ?」「ここから西に魔人が現れたって噂があるのよ。そこへ向かって情報を集めるわ」「なるほどな」 少し歩いたぐらいでマルクエンは小さくなった村を振り返る。「村が心配? それともシヘンにでも惚れちゃったかしら?」「なっ、違う! ただ、昨日襲われたばかりで、村は大丈夫なのかと思ってな」「治安維持部隊だけじゃなく、軍も要請したわ。平気よ」 道中、特に会話が思い浮かばずにいた。マルクエンは気まずく、何か話題をと話しかけ続けたが、ラミッタは素っ気なく返すだけだ。 日が暮れ始め、二人は野宿の
Last Updated: 2025-11-01
Chapter: ランチタイム 2
「そういやさっき、ラミッタさんがマルクエンさんの事を騎士様って呼んでて思い出したんスけど、騎士さんだったんスよね?」 あ、やっちまったとラミッタは一瞬表情が固まるが、すかさず話す。「元騎士様ね、コイツは城の女に手を出しまくって追放されて冒険者になったのよ」「なっ!? 私がいつそんな事をした!?」 マルクエンが言い返すが、ケイはうわーっと引く。ラミッタはべーっと小さく舌を出していた。「気を付けなさい。そいつはド|変態卑猥野郎《へんたいひわいやろう》よ」「え、えっ!?」 シヘンは何故か顔を赤くし、マルクエンが言葉に噛みつく。「誰がド|変態卑猥野郎《へんたいひわいやろう》だ!!」 マルクエンとラミッタの言い合いは料理が運ばれるまで続いていた。 料理が運ばれると、マルクエンは目を閉じて祈りを捧げる。「神々よ、お恵みに感謝します」 その様子をシヘンとケイは不思議そうに見た。「それは……。お祈りですか?」「えぇ、そうです」 ラミッタは「余計なことするんじゃないわよ!!」と言いたい気持ちを抑え、ケイが笑って言う。「私たちはこうっスね。いただきます!」 シヘンとケイは両手を合わせて言った。これがこの世界の祈りなのだろうかとマルクエンは考える。「神だとかくだらないわ。神が居たらもっと良い世の中になってるわよ」「まー、そうかもしれないっスねー」 ラミッタの言葉にケイはそんな返事をしてハンバーグを口に運んだ。皆も同じ様に食事を始める。「ん! 美味しいですね、このパスタ」 ギルド併設とは思えない完成度にマルクエンは驚く。王都の高級店にも劣らないだろう。「ふふっ、田舎だから食材が新鮮なんですよ」 シヘンは嬉しそうに言った。「本当、良い村ですね」「いっその事住んじゃうっスか? マルクエンさん」 ケイに冗談っぽく言われると、ハハハと笑う。「いえ、まだ私には使命がありますので。ですが、隠居したらのどかな村に住みたいですね」「隠居だとか、何ジジくさい事を言ってんのよ」 パンケーキをもしゃもしゃ食べながらラミッタが口を挟む。「マルクエンさんの使命って何なのでしょうか?」 シヘンに聞かれると、答える。「えぇ、今の所は魔王を倒すことですね」 それを聞いてケイが大きな声で笑い始める。「魔王討伐っすか、そりゃ良いっスね!! 夢はでっかくっ
Last Updated: 2025-10-25
Chapter: ランチタイム 1
「おーい、マルクエンさんこっちっスよー!!」「あ、マルクエンさん」 シヘン達の方へマルクエンは歩き出し、その後ろをラミッタが両手を頭の後ろで組んで付いて行った。「シヘンがマルクエンさんが来るまで待ってようって言うから腹減ったっすよー」「あ、いえ、ご馳走するって約束したので……」「そうですか、悪い事をしました」 朗らかに笑うマルクエンとは対照的にラミッタはムスッとした顔をしている。「あの、ラミッタさんもご一緒にどうですか……?」 シヘンがおずおずと声を掛けると、表情を緩めて返事をした。「それじゃ、座らせて貰おうかしら」 マルクエンはシヘンの隣に座り、ラミッタはケイの隣だ。「マルクエンさんは何かお好きなものはありますか?」「そうですねー、麺料理や揚げ物が好きですね」 言った後、ふとマルクエンは驚いて思わず声が出そうになった。 メニューを見るが、異界の文字なのに何故か読み方と意味が分かったのだ。「マルクエンさん? どうされました?」「あ、いえ、そうですね。私はこのほうれん草のクリームパスタを頂きましょうか」「なーにがクリームパスタよ。騎士様が」 ラミッタはいちいち突っかかっていた。それを「まぁまぁ」とケイがなだめる。「それじゃ、ラミッタさんは何が良いんスか?」「はちみつのパンケーキ」 そう言った瞬間、マルクエンが身を乗り出して大声を出す。「ぱ、パンケーキだと!? お前、倒した野獣の血を啜るのが好きだって聞いていたぞ!? そんなお前がパンケーキ!?」 煽っているわけではなく、本当に驚いて言うマルクエン。それに負けないぐらいにラミッタが反論する。「ば、馬鹿か!! 私がいつそんな事をしたっていうの!?」「だ、だが、私の国では」 そこまで言いかけたマルクエンの頭を殴って小声でラミッタは言う。「馬鹿っ! それは内緒だってさっき言ったばかりでしょ!」「あっ、あぁ、すまない」 そんなやり取りを見てケイがニヤニヤ笑いながら言った。「お二人共、仲がよろしい事で。それじゃ注文するっスね」「別に仲良くなど無いわ!! 誰がこんなヤツ……」 ラミッタはドカッと椅子に座る。「でも、お二人ってお知り合いですよね。どういったご関係なのでしょうか?」 シヘンに尋ねられて、嘘が苦手なマルクエンは視線を左上にずらす。「いや、あの、何ていう
Last Updated: 2025-10-25
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