Chapter: 特訓しよう マルクエン達は早速、街の外で特訓をすることにした。「あのー、本当に真剣で大丈夫なんスか?」「大丈夫よ、それともあなたは宿敵に傷を負わせる自信でもあるのかしら?」「いや、無いっス!! 微塵も無いッス!」 ケイは剣を持ってマルクエンと対峙する。シヘンは心配そうに見つめていた。「私から攻撃はしませんので、遠慮なく来て下さい」「了解っス。それでは!!」 ケイは剣を振り上げてマルクエンの元へと走り出す。近づくとそのままの勢いで袈裟斬りにしようとした。 マルクエンは剣を横に構えてそれを弾く。ケイの手はビリビリとした衝撃を感じていた。 次はそのまま力を込めて横薙ぎに剣を振るうも、マルクエンはさっと後ろに引いて避ける。 最後に突きを繰り出すも、簡単に弾かれ、ケイは体勢を崩した。「なるほどね、ケイはまず基礎中の基礎、体幹を作らないとね」「は、はいっス……」 ラミッタに言われ、ケイは言葉に詰まる。「とりあえずそっちで素振り千回ね」「うぇっ!? わ、わかりました……」 そして、ラミッタは心配そうに眺めていたシヘンの方を振り返り、ニッコリ笑う。「次はあなたの番よ?」「あっ、はい! わかりました!」 シヘンは杖を強く握り、ラミッタを見つめる。「それじゃ、私にどんどん魔法を打ち込んできなさい。殺す気でね」「わかりました!!!」 シヘンは杖を振り、火の玉を数発ラミッタに向けて放つ。 その間にも詠唱を続け、雷を追撃として飛ばす。 ラミッタは片手で魔法の防御壁を張り、全てを打ち消した。「もっと打ってきなさい!!」 シヘンは言われるがまま、火、雷、氷といった魔法を放ち続けた。 10分程して、シヘンは地面に片膝を付く。「はぁはぁ……」 汗をかきながら、うずくまるシヘン。マルクエンは心配そうに歩み寄った。「大丈夫ですか? シヘンさん」「平気……。です」 ラミッタはシヘンに近付いて言う。「まだまだ魔力が不足しているわね。これから毎日魔法を打つわよ?」「は、はい……」 マルクエンはケイに付いて、ラミッタはシヘンの面倒を見ている。「ケイさん。腕はこう伸ばして、こう構えると良い」 マルクエンはケイの体を触り、構えを教えている。「こ、こうっスか?」 筋肉質なマルクエンの腕や胸に触れて、少しドキドキするケイ。「あぁ、そうです」「了解
Last Updated: 2025-12-19
Chapter: 竜の肉「いやまぁ、なんだ。竜が倒れたってならめでたいことだ!! 早速ギルドとウチの若い衆で鉱脈の竜を解体するぜ!!」「そうね、ギルドにも報告しておかなくちゃね」 ラミッタの言葉にマルクエンも頷く。「そうだな、行くか」「俺も付いていくぜ!」 サツマも連れて、マルクエン達は冒険者ギルドへと向かう事となる。 ギルドの扉を開けると、相変わらず冒険者たちで賑わっていた。 受付嬢がマルクエン達を見ると、こちらへ駆け寄ってくる。「皆さん達!? ど、どうしたんですか!? 何か竜でトラブルでも!?」「いえ、倒し終えた所です」「そうですか、倒し終え……。って倒し終えたあぁぁぁー!?」 その大声でギルド内の冒険者達が一斉にこちらを向く。「こ、鉱脈の竜が倒れたのか!?」「あぁ、そうだとも!!」 サツマがマルクエン達の代わりに言うと、ギルド内ではどよめきが広がった。「騒がしいと思ったら、どうやら片付いたようですね」 冒険者ギルドのマスター、バレイが奥から出てくる。「さっそく竜の回収クエストを出しましょう。特別手当付きで、ね」 ギルド内が「わあああ」っと盛り上がり、拍手喝采だった。 マルクエンやシヘン、ケイは照れ、ラミッタは片目を閉じてため息をつく。 急遽募集された竜の回収というクエストには、冒険者が殺到し、あっという間に回収隊が組めた。 マルクエン達も手を持て余していたので手伝うことになる。「こいつが鉱脈の竜か……」 竜の亡骸を見てサツマがポツリと呟く。「伝承通り、ガッチガチだな」 持っていた斧の背で頭の金属部を叩くと、カンカンと音が鳴った。「いい武器は作れそうですか? サツマさん」「おう、任せてくれ!!!」 鍛冶職人と冒険者達がせっせと竜の鱗を一枚一枚剥がしている。 マルクエンは力のいる場所を任され、ラミッタは先程の断頭台の魔法で竜を小分けにしていた。「すげー魔法だ……」 魔法使いの冒険者は思わず見惚れ、そうでない者も作業の手を止めて見ている。 すっかり日が暮れると、残りの作業は明日に持ち越しとなる。 マルクエン達は竜との戦いよりも、解体作業の方に疲労を感じていた。 そして、ギルドの食堂では今日。特別メニューが振る舞われるとの事で夜だが賑わっている。「お待たせ致しましたー。鉱脈の竜のステーキです!!」 運ばれてきたのはあの
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: ビキニアーマー「い、嫌よ!!」「女は度胸! 何でもためしてみるのさ」 店員はラミッタの腕をガッチリ掴んでグイグイ引っ張っていく。「ちょ、ちょっとまっ」 ラミッタは試着室へと消えていった。「えっ、本当にこれを!?」「ちょっ、ちょっと待ってよ!!!」「いや、いやぁ!!」 試着室からはラミッタの抵抗する声が聞こえてくる。「はい、お似合いですよ!!」「いや、分かったから、分かったから着替えさせ……」「はい、オープン!!!」 バサッと開けられたカーテンの先には赤い水着のようなアーマーを身に纏ったラミッタが居た。「ちょっ、キャー!!!」 胸元を隠し、うずくまるラミッタ。じっと見てくるマルクエンを罵倒する。「こっち見んなド変態卑猥野郎!!」「何を恥ずかしがるんだ? 鎧だろう?」 マルクエンは至って真顔で言っていた。「こ、こんな鎧があるか!!」「お似合いですよー? それで、動きやすさはどうですか?」「動きやすさも何も無いわよ!!」 ラミッタはカーテンをバサッと閉めて急いで着替えを始める。「あぁ……。えらい目にあったわ……」 赤面をしているのに、げっそりとしたラミッタがそんな事を言いながら店から出て来た。「ラミッタ、防具は買わないのか?」「買うわけ無いでしょうが!!!」「似合っていたぞ?」「馬鹿!! ド変態卑猥野郎!!!」 マルクエンとラミッタのやり取りにシヘンとケイは笑っている。「お次は気に入って頂けるような作品を作りますので、またお立ち寄り下さい!!」 鍛冶屋の店員に見送られ、マルクエン達は商店街をまた歩き始めた。 しばらくウィンドウショッピングを楽しんだ一行は、研いでもらった剣を回収し、宿屋へと戻る。 十分に休んだマルクエン達。今日は鉱脈の竜を倒しに行く。 空はカラッと晴れた青空で気持ちが良かった。 サツマの工房に寄り、ハンマーを借りに行く。「おう、マルクエンさん達!! おはよう!!」「おはようございます」 ドワーフのサツマは朝から元気が良かった。「それじゃ竜退治、良い報告を待ってるぜ!」「はい」 150キロもあるハンマーを肩に担いでマルクエンは山道を登る。「マルクエンさん大丈夫ですか?」「えぇ、大丈夫ですよー」 流石に疲れていないかとシヘンは心配するが、杞憂のようだった。 鉱脈の入り口まで辿り着く一行
Last Updated: 2025-12-16
Chapter: マルクエン・ハンマー「あの竜の厄介な所は刃物が効かなそうな所ぐらいね。宿敵にはハンマーでも持って戦ってもらうわ」「そうか、任せろ」「あの竜は夜行性みたいだから、明日の昼間にぶっ叩くわ」 作戦も決まった所で、マルクエン達は「何かあったら頼ってくれ」と言っていた鍛冶屋のギルドマスター『サツマ』を尋ねることにした。 立派な工房ではカンカンと金属を叩く音が外まで鳴り響いている。「すみません、ギルドマスターのサツマさんに会いに来たのですが」 マルクエンは近くに居た職人に声をかけた。「あぁん? どちら様で?」「私はマルクエンと言います」 その名前を聞いて職人は目を大きく開いた。「何だ、アンタが竜殺しか!! 親方!! マルクエンさんだー!!!」 呼ばれて奥からのっしのっしと歩いてくるドワーフのサツマ。「おう、どうしたんだ?」「えぇ、実は先程、竜の偵察をしてきたのですが」「何!? もう行ってきたのか!! それで、どうだった!?」 食いつくサツマにマルクエンは話し続ける。「それがどうも、金属の鱗で剣では厳しい戦いになるかもしれません。そこでハンマーをお借りできたらと思ったのですが……」「おう、あるぜーハンマー!! 付いてきてくれ!!!」 工房の横にある直売所へマルクエン達は連れて行かれた。「ここいらの好きに持って行ってくれ!」「では、お借りします」 マルクエンは一番大きなハンマーを片手で軽々と持ち上げる。「流石だな、50キロのハンマーだ!!! マルクエンさんにゃ軽すぎるかな?」「えぇ、もっと重い物がアレば良いのですが」 冗談を言ったはずのサツマは口を開けたまま固まったが、また大笑いした。「ハッハッハ、すまねぇ、アンタを見くびっていたよ。付いてきな、とっておきがあるぜ!!!」 今度は倉庫へと案内される。「これぞ幻のロマン武器!! 持っていけるものなら持ってけドロボー150キロハンマーだ!!!」 黒光りの巨大なハンマーを目の前に、ラミッタは呆れていた。「こんなの使える奴なんて限られているじゃない。どうして男はこういうの作っちゃうのかしら」「良いじゃないか、ロマンがあって!」「ロマンですか……」 マルクエンの言葉にシヘンも苦笑いをしている。「さて、マルクエンさんのお手並み拝見……」 サツマが言い終える前に、マルクエンはまた片手でハンマーを持
Last Updated: 2025-12-15
Chapter: 鉱脈の竜「そんな竜を私達で倒せるかどうか……」 マルクエンは少し弱気に言う。「頼む、それに竜から素材が取れたら最強の剣を作ってやるよ!!」「最強の……、剣ですか?」 マルクエンが聞き返すと「あぁ」と言って得意げにサツマが話す。「俺の先々代の更に先々代と語り継がれているだけどな、鉱脈に現れる竜からは最高の金属が採れる。そいつを使えば絶対に折れない錆びない剣が出来るってよ!!」「ホントかしら?」 ラミッタは疑いの目線を向けるが、そんな事は気にしていないようだ。「そうさ!! 不謹慎かもしれねぇが、俺は竜が現れて感謝もしているんだ。俺の代で最高の剣が作れるかもしれねぇってよ!!」 ふむ、とマルクエンは顎に右手を当てて考える。「ラミッタ。どうする?」「まぁ、勇者を待つ間は暇だし、まずは様子だけでも見てみましょうか。期待はしないで頂きたいけどね」 二人の返事を聞いてバレイもサツマも顔を明るくした。 ギルドを出る頃にはすっかり日も沈んでしまった。勇者と竜討伐の件があるので、宿はギルド持ちで用意という高待遇だ。 この街で一番の宿に、マルクエンの一人部屋とラミッタ達の三人部屋が用意されていた。 ビュッフェ形式の夕飯を堪能すると、ラミッタの部屋に集まり、今後のことについて話す。「鉱脈に住む竜か、どんな奴なんだろうな」 マルクエンがポツリと言った。「一旦、敵を偵察してみるしか無いわね」 ラミッタはそう返した後にシヘンとケイの方を見る。「それで、あなた達はどうするの?」「わ、私は!! 付いていきます!!」 シヘンが緊張しながらも返事をした。 だが、ラミッタは彼女たちを見据えたまま語りかける。「竜との戦いだわ、あなた達を守りきれないかもしれない。命を落とす可能性もあるわ」「私はここまで来たんだから付いていくッスよ!!! 魔人と戦っているのに今更ッスよ!!」「そうね」 ケイの言葉を聞いてラミッタが、くすりと笑う。「それじゃ早速だけど、明日になったら偵察に行きましょ。ほら、さっさと出ていきなさい宿敵」 ラミッタは手でシッシッとマルクエンを部屋から追い払った。 翌日になり、朝食を済ますと、宿屋の外でラミッタはうーんと背筋を伸ばす。「それじゃ、ドラゴン見物と行きましょうか」 マルクエン達は荒れた山を目指して歩き始める。 二時間ほど歩くと、鉱
Last Updated: 2025-12-14
Chapter: ジャガへ「お、流石はお二人さん。それ、ウチで一番良い大剣と魔剣士の剣だよ」 マルクエンの大剣は、|鋼《はがね》で作られており、値も張るが、丈夫なものだ。 元々使っていた剣より一回り小さいが、その点は仕方がないだろう。 ラミッタの方は魔力の伝導率が良く、剣に炎や電気を纏わせても問題が無い。 こちらも、元の剣よりは魔力の伝導率が低い。「外で振り回して貰っても構わないよ」「そうですか、では」 マルクエンは大剣を軽々と振り回し、縦に横にと素振りをする。 ラミッタも具合を確認するために、魔力を流しながら素振りした。「私はこの剣で良いわ」「あぁ、私もこれにしよう」 そう言って店に戻ると、店主に告げられる。「俺の見立てだと、その剣は暫くの間なら大丈夫だろうけど、いずれお兄さんの力に耐えきれなくなるね」「そうですか……」 マルクエンも薄々分かっていたが、どうしようかと悩む。「ここから西に良い鍛冶屋の街がある。『ジャガ』って言うんだ。余裕があったら寄って行っても良いかもね」「西へですか、わかりました。ありがとうございます」 何度か断ったのだが、料金はだいぶサービスしてもらい、マルクエン達は集落の人々に送り出されながら旅へと戻っていった。「それで『ジャガ』って街には行くんスか?」 ケイに尋ねられてマルクエンはうーんと唸る。「『ライオ』という大きな街で武器と魔人の情報を集めても良いのですが……」「ライオまでは歩いて二日半かかるわ、ジャガは今日中に着ける。途中魔人と戦いになって剣が折れても困るわよ?」「そうだな、寄るだけ寄ってみるか」 ラミッタに言われマルクエンは考えが|纏《まと》まったようだ。 街道を歩き、しばらくすると分かれ道が現れ、看板によると、左の道へ行けばジャガらしい。 道中の魔物をシヘンとケイに任せ、四人は道を歩く。 日が暮れる前に街が見えてきた。鍛冶屋の街らしく、工房がそこら中にあり、|煙突《えんとつ》から煙が出ている。「おー、ジャガは初めて来ましたけど、まさに鍛冶屋の街って感じっスね」「そうですね」 マルクエンも関心して周りを見渡した。「この街にも冒険者ギルドってあるのかしら?」 ラミッタは案内用の看板を見て言う。「あ、ありますね!」 シヘンがギルドの文字を見つけた。ラミッタも場所を確認するため覗き込む。「えーっ
Last Updated: 2025-12-13
Chapter: 翼竜討伐 1 ここは冒険者ギルドの闘技場、モモが試験でルーの召喚した精霊と戦った場所だ。人払いは済んでいるので今はムツヤ達しかいない。 訓練用の木刀を持ち、ムツヤは体を伸ばして戦いに備える。ギルドマスターのトウヨウは目を閉じて精神を集中していた。 モモとユモトは固唾を飲んで見守り、ヨーリィは興味があるのか無いのかオレンジジュースを飲みながらぼんやりと眺めていた。 武器は木刀のみ、魔法の使用は無しの一般的な剣士の試合だ。両方が相当な実力者ということを除いては、だが。「それでは準備は良いですね? 試合開始ー!」 ルーが威勢よく言うと同時にムツヤはトウヨウ目掛けて一直線に突っ走る。 縦に振り下ろされたムツヤの木刀はトウヨウの頭を捉えていた。 トウヨウはそれを木刀で受け止めると斜めに切り下ろすように反撃をする。ムツヤもそれを受け止め、身をよじって足元を狙う。 そんなやり取りが数回続いた時、突然バキィッという音がした。二人の持っていた木刀が同時に折れてしまったのだ。それを見てトウヨウは笑った。「どうやら木刀では手合わせにもならんらしい」 笑いをやめるとトウヨウは真面目な顔をして言う。「お前さえ良ければ、真剣でどうだ?」 ユモトとモモに緊張が走る、ムツヤは強いし、どんな傷でも治る薬はあったが、万が一という事もある。「お互い鎧を着て、剣と魔法の使用も自由にしよう。恥ずかしい話、年甲斐もなく|滾《たぎ》ってしまった」「わがりまじた」 お互い準備をするために試合は中断になった。そして少しの時が経ち、両者は本気で戦うための格好になった。 トウヨウは青いフルプレートアーマーに身を包み、両手剣を持っている。ムツヤは軽装の鎧と、片手剣を持つ。「それでは仕切り直してー…… 試合開始!」 トウヨウは鎧の重さを少しも感じさせない機敏な動きで迫る。軽々と両手剣を振り下ろすがムツヤは横っ飛びでそれをかわす。 そのままムツヤは胴を剣で横切りにしようとするが、両手剣で弾かれてさっと後ろに引く、その最中にも炎の玉を数十発も発射した。 トウヨウは左手に魔法無効化の術式を作り上げるとそれをかざして全ての火の玉を消し飛ばす。 モモは夢中でその戦いを見ている。不謹慎ながらムツヤが怪我をしたらどうしようという考えはどこかへ飛んでしまった。 実力者同士の戦いはこんなにも圧巻され、美しい
Last Updated: 2025-12-19
Chapter: 研究者「どう? 興味湧いちゃったでしょ?」 ルーは両手を後ろに回して、前のめりになる形で顔を突き出した。いつも軽口を叩いているギルスは呆然としている。「他にもモモちゃんが今持っているのは無力化の盾でしょ、それに私の新しい杖も名前はわからないけど魔力の伝導率は90%越えのすぐれものよー」「ちょっと待ってくれ、状況に頭が追いついていない」 ギルスが頭を抱えるのも無理はなかった、今日も適当に武器を売り買いする平凡な日常が始まると思っていたら、とんでもない人物がとんでもない物を持ってきたのだ。「とりあえず、話は聞く」 ギルスはカウンターを出て店のドアの営業中という看板をくるりと回して閉店にし、ガチャリと鍵も掛けた。「えーっと、それで俺はどこから…… 何から話を聞けば良いんだ?」 もう何度目だろうかと思いながらムツヤは自分の生い立ちを話し始めた。「なるほど、事情は分かった」 長話になるだろうと、途中ギルスは紅茶を入れてくれた。 話を聞き終わるとすっかり冷めてしまったミルクと砂糖をたっぷりと入れた紅茶を一口飲んで言う。 ムツヤ達は裏ダンジョンの事、キエーウがそこで手に入る裏の道具を狙っていること全てを話した。「到底信じられない話だが、論より証拠ってか。本物の魔剣や見たこともない魔道具を見せられたら信じるしかないわな」「そこでだ、お前にはこの裏の道具の研究を頼みたい」 アシノの言葉にギルスは首を横に振る。「お断りだ、俺はただの武器屋の店主。研究なんてバカバカしくて出来っこないね」「もー! なんでよー!」 ルーはむくれて地団駄を踏む。次に話し始めたのは意外にもモモだった。「ギルス、頼む。キエーウは裏の道具を使って亜人を殺そうとしている」 真面目にそう言われるとギルスも腕を組んで少し唸ってしまう。そして唐突に口を開く。「それじゃあ…… 俺の昔話もちょっとして良いか?」「俺が昔、王都で研究員をしていた事は知っているかな?」「はい、アシノさんから聞きました」 ムツヤは相づちを打つ、片目を開けてギルスはムツヤを見るとそのまま上を向いて話を続ける。「死ぬほど勉強してやっと入った研究員だったが、現実は俺の理想とは全く違うものだった」「俺はただ、純粋に道具の研究がしたいだけだったが、現実は馬鹿な派閥争いに、足の引っ張り合いだらけだった」 濃いめの
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: それぞれの想い 3「あ、あの、ムツヤ殿…… 口を開けて頂けますか?」 モモは照れて俯きながら言う、ムツヤは言われた通りに口をあーんと開けた。そこへモモはクッキーを近づけた。「んむんむ、美味しいですね」 裏の道具の探知盤を操作している為に両手が使えないムツヤへ茶菓子を食べさせている。ただそれだけなのに、モモは物凄い気恥ずかしさを感じている。 ムツヤがクッキーを食べ終わると、砂糖を多めに入れた紅茶を口元へ近づけた。「はぁー、紅茶とクッキーって良いですね。モモさんありがとうございます」 ムツヤは満足そうに言った、その笑顔を見てモモはニヤけた笑顔になってしまう。「そ、そうですね」 顔を隠すようにモモも自分の紅茶を飲んだ、フワッとした茶葉の香りが気分を良くさせる。「ヨーリィちゃん、クッキー美味しい?」 真顔でクッキーをサクサク食べているヨーリィを見て思わずユモトは声をかけた。「うん、おいしい。ユモトお姉ちゃん」 首だけをぐるりと横に向けてヨーリィは返事をした。それを見てユモトはアハハと苦笑いする。「そ、そっかー、それと僕は男だからお姉ちゃんはやめてね?」 ルーはいつの間にかシートの上で大の字で寝ていた。アシノはあぐらをかいて紅茶を飲んでいる。 そんな時間がしばらく過ぎた後、そろそろかとアシノは立ち上がり手をパンパンと叩く。「さて、そろそろ気を引き締めていくぞー」「あ、はい! それじゃお片付けしますね」 ユモトはティーセットを集め、カバンの中に洗ってないまま入れても大丈夫なのか心配になったが、中で汚れることはないとムツヤが言うのでそのまま入れてしまう事にした。 またムツヤはルーを背負い直し、ユモトは探知盤を持って冒険者ギルドのあるスーナの街を目指す。 キエーウに襲われるといった心配は杞憂に終わり、あっという間に街へと着いてしまった。活気ある喧騒がムツヤ達を出迎えてくれる。「おら、ルー。いい加減に起きろ」 アシノに頭をペチンと叩かれてルーは目を覚ます。「何よーまだ冒険者ギルドに着いていないじゃない」 アシノははぁーっとため息をついた。「お前は仮にも冒険者ギルドの幹部だろ? もっと威厳を持て!!」「えぇー、ついこの間まで勇者だったのに酒飲みだったアシノがそれ言うー!?」 痛い所を突かれてアシノはうっと言葉に詰まった。「とにかくだ、歩け!!」
Last Updated: 2025-12-16
Chapter: それぞれの想い 2 朝になりユモトは目が覚めた。若干、寝不足気味だが、時間になるとちゃんと起きてしまう。 居間ではルーが真剣な表情で探知盤を見ていた。あれからずっとそうしていたのかと思うと、ユモトは尊敬と感謝の念を覚える。「おはようございます、ルーさん」「あぁ、おはよーユモトちゃん」 元気そうにウィンクをしたが、その顔には少し疲れが見えた。「あの、ルーさんも少し休まれては?」「私が休んじゃったら探知盤見る人が居なくなっちゃうからねー、ヘーキヘーキ」「そうですね…… すみません」 ユモトは気遣って言った言葉だが、当たり前の事を返されて言葉が出なくなる。「それよりお腹空いちゃった!!! ユモトちゃんごはん頂戴ごはん!!!」 メイド服を着たルーはソファの上でニーソックスを履いた足をバタバタとさせた。「はい、今作りますね」 笑顔でユモトは言った後に朝食の準備に取り掛かる。 やがて、簡単な朝食が出来上がるとユモトは皆を起こして回った。「ンまあーーーい!!! さすがユモトちゃん、絶対私のお嫁さんにするから!!!」 皆が揃う前にルーはガツガツと朝食を食べている。「ですから、僕は男ですって」 半分諦めたような苦笑いでユモトは言った。「ルー殿、一晩中寝ずの番お疲れさまです」「いいのいいの、私は夜の方が元気だから」 モモがねぎらいの言葉を掛けると握ったフォークと一緒に手を振る。「でも私、流石に朝になったら眠くなってきちゃったからギルドまでは誰かおんぶしていってよねー」「お前は子供か」 アシノは呆れたように言った。他愛もない会話をしながら朝食をとる、昨日キエーウというテロリストによる襲撃があったとは思えないほど穏やかな朝だ。 そして朝食を食べ終えると全員が準備を終え、スーナの街のギルドを目指す。「よーししゅっぱーつ!!! それいけムツヤ号!!」「はい!」 ムツヤの背中には本当にルーが乗っかっていた。 裏の道具である『魔法の固定具』でしっかりと密着している上に、ルーはギューッと抱きついているので背中には小柄な体の割には大きな2つの柔らかい感触が感じられる。 デレデレとした表情になるムツヤを見てモモは一言進言した。「あ、あのー? ムツヤ殿? やはりルー殿は従者である私が背負うべきでは?」 しかし、ルーはムツヤにしがみついたままだ。「モモちゃん、
Last Updated: 2025-12-15
Chapter: それぞれの想い 1 モモはベッドの上に膝を抱えて座り、窓から月明かりを浴びていた。自分が魔法で感情を暴走させた時の事をなんとなく覚えている。 自分はやはりムツヤ殿の事が好きなのだろうか。 いや、命の恩人、村を救ってくれた恩人。強い戦士。そしてオークを偏見の目で見ない人間として考えれば確実に好きなのだろう。 では異性として見た場合はどうなのだろうか。優しく純粋で、強いムツヤ殿。人間の顔は同じに見えるので美醜についてはよくわからないが。 栗色で艶のある髪を指先でクルクルといじる。そして月明かりに照らされた自分の緑色の肌を見た。 自分はオークとして産まれ育ったことを誇りに思っている。力強く、自然を愛し、自然と共に生きるオークという種族も自分の誇りだ。 だが「もしも」と考えてしまう。自分の肌が薄橙色で…… それでムツヤと出会っていたらと。 自分が情けない。戦士として戦わなくてはいけない、もっと強くならなくてはならないというのにこんなくだらない事ばかり考えてしまうことが。 モモはどうしたら良いのかわからない感情を胸に秘めたまま、三角座りの膝に顔を押し付けた。 ユモトはベッドの上でジッとしていた。なんだか寝付けない。 横になるのは何となく好きじゃない、病気で動けなかったあの時を思い出してしまうから。 お父さんには心配をかけまいと一緒にいる時は大丈夫そうに振る舞っていた。 しかし、ユモトはムツヤに薬を飲ませてもらう3日前から父ゴラテが家にいない時には、トイレまで這って行って血を吐く程に症状が重くなっていた。 今でも鮮明に覚えている、目の奥が痛くて頭痛がして、関節は全部痛くて。這いつくばってトイレに血を吐いた時の恐怖と弱い自分への情けなさ。 全ての希望が消えていって、世界が灰色になって……。 そんな世界から僕を突然引っ張り上げてくれたのがムツヤさんだった。 僕にとってムツヤさんは勇者だ。助けてくれたことはもちろんだけど、僕が使えない魔法も触媒無しに軽々と使ってしまい、優しくて仲間思いで、本当に遠い遠い憧れの存在だ。 そんなムツヤさんの仲間でいられることは誇らしく思う。その反面、僕なんかがムツヤさんの仲間としてやっていけるのだろうかという不安がある。 ユモトはシーツを頭の上まで引っ張り上げた。「お兄ちゃん」 ヨーリィとムツヤは向かい合って寝ていた。ムツヤはヨー
Last Updated: 2025-12-14
Chapter: 闇と病み 3 ウトナはバッと両腕を開いて空を見上げて叫ぶ。「私の夢は! かっこかわいい亜人ちゃん達をペットにしてハーレムを作ることよ!」 その場に居たウトナを除く全員がぽかんとした顔をしていた。 アシノはムツヤの方を振り返って言う。「何かアイツお前みたいな事言ってるぞ」「え、えぇー!? 俺でずか!? あんな変な人と一緒にしないでくだざい!」「あらぁん、変な人なんて失礼しちゃうわ」 右手を頬に当ててウトナはくねくねとする。「ウトナ…… だっけか、知らないようだがら教えてやる!! 亜人の人達は人間を好きになんてならないんだ!」 モモは口を結んでうーっと小さな声でうなったが、ウトナはムツヤの話を聞いて大声を出して笑った。「あーっはっはっはっは、何も知らないのは坊やの方ね。愛があれば人種も性別も関係ないのよ!」 それを聞いてモモはうんうんと頷く、だがそれと同時に一つの疑問が生まれる。「ちょっと待て、そんな平和主義者みたいな事を言っているくせに何故お前はキエーウに所属しているんだ?」「亜人の女は黙りなさいよ!」 恐ろしい形相をしてウトナはモモを睨みつけ、ふぅーっと息を吐いて質問に答えた。「私はカッコいい亜人の男の子は大好きだけどねん。あくまで人間が上、亜人は人間に従うのが一番の幸せなの」 続けてウトナは話し続ける。「ワンちゃんっているわよね、ワンちゃんは人間にしっぽを振って従順に甘えるから可愛いの。亜人もそれと一緒で主従関係をしっかりさせてあげるのがお互いにとって幸せなのよ」 ルーは呆れたようにやれやれと両手を上げてウトナに言う。「詭弁ね、ただ自分が相手を好きなように支配したいだけじゃない」 それを聞いてクスクスとウトナは笑った。「人生なんて一度きりなのよぉん? 欲望のままに生きた方がいいじゃない」 今まで黙っていたユモトが口を開く。「そんな! みんながみんな欲望のままに生きたら世界はメチャクチャになっちゃいますよ」「女は黙っていなさいよ!!」 またウトナは恐ろしい形相を作る。「僕は男です!」「嘘おっしゃい、もうおしゃべりは終わりよ! 私の夢のためにそのカバンを頂くわ!」 ウトナが杖を構えると同時にムツヤ達も身構えた。「くらいなさい! プリティビーム!」 ウトナはそう叫ぶと、四方八方に杖から光線を出した。ムツヤはそれを人間離
Last Updated: 2025-12-13