Chapter: 夜は良い 話と食事を終えて、マルクエンとラミッタは二階にある別々の部屋へと戻る。 ふと、マルクエンは部屋の窓を開けた。 心地よい夜風が流れ込み、マルクエンは思い切り深呼吸をする。 今日は天気も良いし、このまま窓を開けて寝ようと、マルクエンはベッドに潜り込んだ。「マルクエン様。マルクエン様!」 声と同時に何か重いものが自分の上に乗りかかったのを感じたマルクエン。 何事かと慌てて上体を起こすと、体の上にセロラがまたがって乗っていた。「ちょっ!? セロラさん!? ど、どうして!?」「まど、空いてたから来た!!」 ニッコニコの笑顔で言うセロラ。「窓が空いていたからって……。ちょっ、まずいですよ!!」 無邪気な笑顔が、本能からなのだろうか、妖艶な表情に変わる。「マルクエン様」 覆い被さって抱きつくセロラ。マルクエンは柔らかい感触と肌のぬくもりを感じていた。「ちょっ、ちょっと!?」「マルクエン様、筋肉すごい!」 指でなぞられて妙な感覚になるマルクエン。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。 そんな時だった。隣から物凄い足音がドタドタを聞こえてきて、鍵を掛けていなかったので、部屋のドアがバンと開く。「ちょっと、何やってんのよ!! ド変態卑猥野郎!!!」「い。いや違う!! 窓、窓からセロラさんが入ってきて!!」「今からマルクエン様と子供作る。ラミッタ様邪魔」 プーッと膨れてセロラが言った。 その衝撃的な言葉にマルクエンもラミッタも「エェー!?」っと素っ頓狂な声を出す。「ダメ、ダメよ!! ってか何言ってんのよ!?」「マルクエン様、嫌?」「い、いや、嫌というか何と言うか……」 マルクエンが言うと、セロラは悲しそうな顔をする。「私、魅力無い?」「い、いえ、そんな事は無く……」「じゃあ子供作ろう!!」「だから待ちなさいよ!!」 騒ぎを聞きつけた宿屋のおかみ、バムが何事かと二階へやってきた。「あら、どうなさいました?」「どうしたもこうしたも! このセロラって子がこのド変態卑猥野郎の部屋に居て……」 バムはラミッタの指差す室内に目をやると、マルクエンの上にまたがるセロラが目に入る。「あら、でも防音はちゃんとしていると思いますわ」「問題はそこじゃない!!」 クスクスとバムが笑った後に、部屋のセロラに近付く。「セロラちゃん。物事には順
Última actualización: 2026-06-10
Chapter: 異世界のこと「こんにちは。お世話になります。マルクエン・クライスと申します」 そう言ってマルクエンが頭を下げると、女性も深々と頭を下げる。「恐れ入ります。勇者様方のお世話は私、バムが務めさせていただきます」 と、そこまで言って。バムという女性は次にマルクエンの顔をじっくりと見た。「勇者様、良いお顔をなさってらっしゃいますわ。私があと二十年若ければ……」「ははは、ご冗談を……」「バムおばさん! マルクエン様を困らせないで!」 コラーが焦って言う。バムは笑っていた。「そう、それにマルクエン様のツガイになるのは私!!」 セロラが勝手なことを言うと、バムはニヤニヤと笑う。「あら、セロラちゃん玉の輿? 頑張って勇者様に気に入られるのよ」「任せて!」 バムは次にラミッタの方を向いた。「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」「ラミッタ・ピラです」 何だか不機嫌なラミッタはムスッとして言う。「ラミッタ様ですね。それはそうと、こんなに可愛い女の子が勇者様だなんて、信じられませんわ。演劇の女優さんかと思いましたわ」「バムおばさん!! ラミッタ様に失礼だろ!!」「あら、ごめんなさい。それではお荷物をお運びしますわ」「いえ、我々の荷物は重いので部屋にだけ案内していただければ」 マルクエンが言うと、バムは「まぁ」と両手を合わせる。「顔が良いだけじゃなくお優しいのですね。あぁ、あと十年若ければ……」「二十年じゃなかったのかよ!!」 コラーがツッコミを入れると、マルクエンハハハと笑う。「それではこちらでございます」 案内された部屋は城の一室に比べたら見劣りするかもしれないが、充分な広さがあった。 荷物を置いて、マルクエンは話す。「ありがとうございます。それで、早速箱の確認をしたいのですが」「はい! ご案内します! あぁ、それと、今更ながら、私も勇者様の身辺のお手伝いを任されていますので、何なりとお申し付けください!」 コラーはピシッと背を伸ばして言う。「あー、コラーさん。そこまで緊張しなくても良いですよ」「そ、そうですか?」 マルクエンに言われ、少し肩の力を抜くコラー。「それじゃ行こうかしら」 ラミッタは片目を閉じてふぅーっとため息をついてから部屋を出た。「この先に箱があります」 コラーとセロラの案内で村から少し歩いた先に向かった
Última actualización: 2026-05-31
Chapter: 憧れているんだ勇者様に「こちらが、私達の村です」 木に周りをぐるりと囲まれて、家がポツポツと建っていた。「のどかで良い村ですね」「ありがとうございます」 コラーはそう言って頭を下げる。「こんな小さな村ですが、精一杯勇者様のおもてなしをさせて頂きます!!」「いえいえ、お気を使わずに……」 ハハハとマルクエンは苦笑いしていた。「勇者様、二人はツガイなのか?」 セロラは急にとんでもない事を聞き始めるが、マルクエンはツガイという言葉にピンときていないようだ。「ツガイ? ツガイって何ですか?」「人間だと、えっと……。結婚だ!!」 マルクエンは理解して赤面する。それ以上にラミッタがあたふたしていた。「ちょっ、な、なに勘違いしているのかしら!? わ、私がこんなド変態卑猥野郎と結婚!? ツガイ!? んなわけないでしょ!!」「そっか、良かった! 私、強い男好きだ。マルクエン様好きになった!」 その場に居た全員が「えぇー!?」っと驚きの声を上げる。「村の男、みんな私より弱い。強いマルクエン様好き、子供作ろう!!」「ちょっ、こ、子供とは!?」 マルクエンは思わず変なことを口走った。「セロラ!! 勇者様に失礼だろう!!」 コラーはセロラを|窘《たしな》めるが、止まる様子は無い。マルクエンの腕に抱きついて猫のようにスリスリとし始める。「ちょっと、何してんのよ!!」 そんな二人を指さしてラミッタが言う。マルクエンは腕に柔らかい感触を覚え妙な感覚になっていくのを感じた。 コラーが間に入り、何とかセロラを引き剥がす。「本当に、ほんとーにすみません」「いえ、お気になさらず……」 今にも地面に頭を擦り付けそうなコラーを見てマルクエンは同情した。 改めてセロラをまじまじと見るマルクエン。 赤みがかったショートカットの茶髪に、猫みたいな耳が頭から生えている。 顔は童顔で、体はしなやかだ。 緑色の猟師のような服を着ている。「マルクエン様、私、好きになったか?」「い、いえ。その……」 マルクエンをジト目で見つめるラミッタ。 セロラの隣りにいるコラーは兵士の服を着ており、装備も国のものだ。 短く黒い髪にセロラと同じ猫の耳。 真面目そうな男だという印象を受ける。「そうだ、改めまして。私はコラーと申します。この村の衛兵をしています!」「私はセロラ! この村の衛
Última actualización: 2026-05-30
Chapter: 猫耳との遭遇 無事に勇者として認められた二人。 そして、国から初任務を与えられる。「こんにちは。勇者就任おめでとうございます」 部屋へ入ると、一人の男が立ち上がって拍手をしながら言った。「申し遅れました。私はコニヤン軍の参謀長を務めさせて頂いております。シガレーと申します」「マルクエン・クライスです。よろしくお願いします」「ラミッタ・ピラです」 互いに一礼し、椅子に腰掛ける。「さて、早速ですが。お二人にはここから西の森にある魔物の出る箱を破壊して頂きます」「西にですか」 マルクエンが聞き返すと、シガレーは頷く。「はい。国の勇者や軍、実力のある冒険者も雇い箱の破壊をしているのですが、西の森にあるものは特に強力でして」「なるほど」 マルクエンは顎に右手を当てて考える。「わかりました。すぐに向かいましょう」「頼もしい限りです。馬車を用意させて頂きますので、運転手は必要ですか?」 シガレーに聞かれると、マルクエンは答えた。「いえ、何かあった時に巻き込みかねません。私は馬の心得が多少ありますので」「承知致しました」 王都を出ると、荷馬車が用意されていた。「それじゃ運転は頼んだわよ、宿敵」「あぁ、任せろ」 マルクエンが馬車を走らせ、西の街道を行く。 1日掛けて走ったが、まだ森の入口に近づいたぐらいだ。「今日はここで野宿ね」「そうだな」 日が暮れる前に野営の準備をし、二人は食事をし、寝た。 明くる日、森の中へと入る。「何だか|鬱蒼《うっそう》とした森だな」「えぇ、体からきのこでも生えてきそうよ」 道はあったが、ガタガタと揺れが激しい。「うっ、酔いそう……。私は飛ぶわ」 ラミッタは馬車から降りて隣を飛び始めた。 その瞬間だった。殺気を感じた二人。 マルクエンは馬から飛び降り、ラミッタも剣を抜く。 森の中から何かが飛び出した。 ラミッタにそれが襲いかかる。 とっさに火の玉を十数発撃ち出して牽制を入れると、身を引かせて目の前に立ちはだかった。「お前ら、魔人だな?」 その人物は、見た目は女であるが、頭からは猫の耳が生えていた。「亜人……?」 この世界で何度か見たことがあるので、二人は特に驚かない。「魔人と言いましたか? それは誤解です!」「嘘つけ、私はソイツが空飛ぶの見た」 曲刀を両手に持って猫耳の女は敵意を剥
Última actualización: 2026-05-28
Chapter: アフターフェスティバル 二人はお祭り騒ぎの街を堪能し、すっかり夕暮れ時になる。「久しぶりに羽を伸ばせたな」 マルクエンが言うと、ラミッタもうーんと伸びをした。「えぇ、そうね」 日が暮れた後も、街は火や明かりの魔法でキラキラと輝いている。 二人は高台からそんな街を見下ろす。「綺麗な夜景ね」「あぁ、まるで夜の星空が地上に落ちてきたみたいだ」 マルクエンがそんな事を言うと、ラミッタはケラケラと笑い出した。「なにそれ、ロマンチスト? 吟遊詩人?」「なっ、変だったか!?」「いや、良いと思うわよ」 ラミッタは済ました顔で街を見下ろす。薄明かりに照らされた横顔をマルクエンは見ていた。 楽しい時間はあっという間に過ぎて、二人は城へと戻る。 明日からはまたキツい修行が待っていた。 日が昇り、新しい朝がやってくる。 今日も二人は朝食を済ませて地下へと向かう二人。「おや、おはようございます。昨日は楽しかったでしょうが、気持ちを切り替えて挑まないと死にますよ?」 ヴィシソワは会うなり、そう言ってきた。「あら、そのお言葉そのまま返すわよ」 ラミッタが言い返すとフフフと笑い、ヴィシソワは槍と盾を構える。「っぐ!!」 ラミッタは地上に降り立ち、片膝をつく。 マルクエンもハァハァと荒い息をしている。「まだまだ。ですね」 二人は今日もヴィシソワに勝てなかった。 訓練が終わると、二人は重い体を引きずって地上に帰る。 シャワーを浴びて汗を流し、夕飯をたらふく食べて、また明日に備えた。 そんな生活を繰り返し、二週間が経つ。「今日こそ行くぞ!」「えぇ、宿敵!!」 マルクエンの力とスピードは、昔よりも更に増していた。 光の刃を作りそれと共に突撃する。 ラミッタは地上を走るよりも早く空を飛べるようになっていた。 魔法の威力も上がっている。 マルクエンは地を駆けヴィシソワとの距離を詰めた。 光の刃で行動を制限させ、正面から剣を振るう。 速く、更に速く。重い攻撃をヴィシソワの盾に浴びせる。「宿敵!!」 その声を聞いて、さっと身を引く。 ラミッタの魔法で創られた光の剣が地上に降り注ぐ。 ヴィシソワはドーム状に魔法の防御壁を築いた。 ここまではいつもと同じ。「うおおおおおおお!!!!」 雄叫びを上げながらマルクエンは防御壁を剣で叩き壊す。 ラミッタが
Última actualización: 2026-05-25
Chapter: お祭りデート「隣に居るのは……」 二人が近付くと、顔がチラリと見える。「あっ、ミヌ」 ラミッタがそこまで言いかけた瞬間に沈黙の魔法で声が出せなくなる。「どうしたラミッタ!?」「おやおや、奇遇ですね」 こちらへ向かってくるヴィシソワ。ラミッタは無言のまま何かを叫んでいる。「そちらは……」「えぇ、こちらはミーサ。私の恋人です」 鈍いマルクエンも、お姫様のミヌエットがお忍びで外に出ていることを察した。「あ、あぁ、そうでしたね」「お二人もデートですか?」 ヴィシソワが言うと、今度は顔を真っ赤にして怒るラミッタ。「それでは、私達はこれで。お二人も楽しんで下さい」 ミヌエットがそう言って一礼し、人混みに消えると、ラミッタの声が戻った。「ったく、何すんのよアイツ……」「ははは、お二人も楽しみたいんだろう」 マルクエンは苦笑し、賑やかな街並みを見る。「……。まぁいいわ。私達も何か食べましょう」「そうだな」 屋台や菓子類の歩き売りがそこら中を埋め尽くしていた。「なんかこう、脂っこいものが食べたい気分だな」「あら、奇遇ね。私もだわ」 そうと決まればと二人は何か店を探す。 ふと、スパイスのいい匂いが漂ってきて、二人はそちらを見る。「お、からあげか」「良いんじゃないからあげ」 二人は釣られるがままにからあげを買い、歩きながら食べ始めた。 熱々のそれを噛みしめると、肉汁が溢れ、旨味が口いっぱいに広がる。「どうしてこう、屋台のからあげは、より美味しく感じるんだろうな」「それは同意ね」 マルクエンはこちらの世界に来て、からあげというものを知ったが、酒場でもよく頼むほど好物になっていた。「あ、ビール売ってるわね」 喉が渇いたラミッタは、常温で売られている物よりも、キンキンに冷えたビールを選び、マルクエンはオレンジジュースを買う。「はい、乾杯よ宿敵」「あぁ!」 ラミッタはビールを一気に流し込んだ。苦みと炭酸のキレが染み渡る。「はー!! やっぱ良いわねー」 からあげをつまみにしながら飲んでいたが、そろそろ無くなりそうだ。二人は別の目ぼしいものを探すことにした。 ぷらぷら歩いていると、香ばしい匂いがし、何だとマルクエンは見てみる。「何だアレは?」 見つめる先では網の上で何か丸いものを炙っていた。「あぁ、焼きおにぎりね」「ヤキオニ
Última actualización: 2026-05-14
Chapter: 偽装ランデブー大作戦 1 ムツヤの闘技場での戦いが終わり、夜が明けて朝になる。 ユモトはこの世の終わりみたいな顔をしてガタガタ震えているが、ルーはニコニコ笑顔だった。「ダイジョーブダイジョーブ。私達もずっと後を付けて見てるから!」「ルーさん楽しんでません?」 ユモトがムスッとして言うとルーは視線をそらす。「ソンナコトナイヨー」 あ、絶対楽しんでるなと皆が思った。 ユモトが待ち合わせの場所に向かうとタノベの姿があったが、隠れて眺めているルー達はその姿を見て驚愕した。「え、何あの格好……」 珍しくルーが引いている。タノベはダメージ加工が施されたボロボロのズボンに白のインナーと青いジャケットを羽織っていた。「何あれ、何なの? 何か戦いでもあったの? 何であんなボロボロなの!?」「あー、アレは王都で流行ってる、わざとズボンをボロボロに加工した奴だ」 アシノが言うとルーは信じられないといった声を出す。「何でそんなのが流行ってるの!? 意味わからないんですけど!!」「えー? カッコよくないですか?」 ムツヤが言うとモモが「えっ」と言って振り返る。「あれはだな。男はカッコいいと思って履くらしいが、女受けは物凄く悪い不思議な服だ」「あれが…… カッコいいのですか?」「私にも良さは分からんが」 モモは絶対ムツヤには履かせないと誓っていた。その横でルーは腕を組んで何かを考え出した。「んー、でもユモトちゃんは男だし、ある意味正解? いやでもデートでアレは清潔感が…… あーもう頭がこんがらがってきた!!」 ユモトはタノベの元へ小走りで行く。「すいません、待たせちゃいましたか?」「いえ、俺も今来たばっかりの所です」 タノベは笑顔で答える。実は1時間以上前から待っていたことは誰も知らない。「えっと、その、今日はよろしくおねがいしますね!」 ユモトがはにかんで言うとタノベはドキッとしながら返事をする。「いえ、こちらこそ」「真面目か! 二人共真面目か!!」 ルーは隠れながらツッコミを入れていた。「と、とりあえず、その、お茶でも飲みながらお話をしませんか?」「そ、そうですね、良いですね!」 ギクシャクしている男2人を見てルーはモヤモヤしている。アシノは興味無さそうに腕を組んで見ていた。 タノベとユモトは身長差があり、歩幅も違う。今はタノベの歩みにユモトが無
Última actualización: 2026-06-10
Chapter: 決闘するなよ、俺以外のヤツと 4「それでだ、闘技場は大きくわけて3種類の試合がある。1つは木刀を使って魔法の使用は禁止の、通称『子供の喧嘩』って言われてる試合形式だ」 全員がアシノの話を聞きながら歩く、ルーは知っているらしく少し退屈そうだったが。「次が武器の使用が認められているが、魔法は禁止の試合。これは剣士の試合だな。そして、武器も魔法も何でもアリの試合だ」「つくづく思うけどさー、闘技場って魔術師に不利よねー」「魔法のみの試合や団体戦もあるが、この辺じゃあまりメジャーじゃないからな」 なるほどと全員が理解したと同時に闘技場へ着いた。アシノが入場料を払って皆で観客席に座る。「ちょうど試合が始まる頃だな。午前中だから木刀の試合だ」 木刀の試合はあまり人気が無いらしく、観客席はまばらだった。 ファンファーレが鳴ると北と南の門が開き、防具を身にまとい、木刀を手にした男がそれぞれ入ってきた。 闘技場の中央の審判の近くまで歩き、木刀を構える。 すると審判が天に上げた手を振り下ろした。これが試合開始の合図だ。 大声で叫んで男が突っ込むと相手は斜めに木刀を構えて受け止めようとするが、叩きつけるように降ろされた木刀に体が持っていかれてよろめく。 そのスキを逃さずに…… 行くものだと思ったが、2人は距離を取ってにらみ合いになる。その後もカツンカツンと迫力のない攻防を繰り広げていく。「あの、何ていうか……」 苦笑いをしてユモトは言った。「まー、宿場町の小さい闘技場で、しかも木刀の試合っつったらこんなもんだな」 あくびをしてアシノは言う。「ひょうよ、これふぁひょひんひゃのふぁふぁふぁいよ!」 ルーの姿が見えないと思っていたら売店で買ったケバブを頬張っていた。「汚えから食いながら喋んな!!」「んっ、ちゃんと皆の分も買ってきたわよ」「あ、ありがとうございます」 ユモトは受け取り礼を言った。ムツヤ達もそれと同じ様に受け取る。「んー、これ美味しいでずね!!」「でしょー?」「確かに、食べたことのない味ですが美味しいです」 皆、試合のことはそっちのけでケバブに夢中になっていた。「って、飯食いに来たんじゃないんだぞ!」「あれー? ケバブ食べながら言っても全然説得力無いんですけど?」 ルーに指摘されアシノは少し赤面する。「いや、お前が買ってくるのが悪い!」「何よその言い方
Última actualización: 2026-05-31
Chapter: 決闘するなよ、俺以外のヤツと 3「一般の冒険者だったら指先だけだろうがお前が負けることは無いだろうが……」 アシノはムツヤをチラリと見た。「強すぎるんだよなぁ……」 はぁーっとため息をつく。他の皆も相手を秒でぶっ飛ばしているムツヤの姿が容易に想像できた。「負ける心配は無いでしょうが、ムツヤ殿が目立ってしまいますね」「だな、誤解を解くか、急いで街から逃げてバックレちまうか。どっちかだな」 どうしたもんかとアシノは天井を見つめる。沈黙で気まずい部屋にノックの音が転がった。「んー? こんな時間にだーれー?」「キエーウの奴かもしれん、ムツヤ、お前が開けろ」 頷いてムツヤはドアを開ける。そこに立っていたのはドアノブに手を掛けているタノベの姿だった。「なぁ、やっぱやめとこうぜ?」 後ろには冒険者仲間のフミヤも居る。彼はタノベを止めようとしていた。「あらー、何でここが分かったのかしら?」 ルーは冷や汗をかきながら引きつった笑顔をする。「酒場から後ろを付けてきました!」「そういうのストーカーって言うんだぞ」 アシノはジト目でタノベを見つめていた。部屋を見渡してタノベはプルプルと震える。「1つの部屋に女の子を集めて…… あなた、エッチなことしたんですね!!!」「しとらんわ!!」 アシノがツッコミを入れるがタノベは引き下がらない。「部屋に女の子を集めて男が1人だけ…… 何も起こらないはずが無いでしょう!!!」 ルーとアシノは珍しく同じことを思っていた。「あーコイツめんどくせー」と。「タノベ殿、ムツヤ殿が言っていたハーレムというのは誤解なんだ」「じゃあこの状況は何ですか!?」 モモが弁明をするが、あまり意味がなかったみたいだ。「あー、じゃあ論より証拠っつーわけで。ユモトお前が男だって証拠見せてやれ」「な、ななななにを言ってるんですか! こんな可愛い子が男の子のはずがないでしょう!?」 タノベは慌てて言う、ユモトは赤面してそれを聞いていた。「僕が見せてムツヤさんの疑惑が晴れるのならば……」「そうよ! 減るもんじゃないし!」 ユモトは服の裾を持ち上げてその宝物庫の宝玉を御開帳しようとしている。「ユモトさん!? そんな事しちゃダメです! おのれ、こんな変態じみたことをユモトさんにやらせるなんて……」 タノベはすぅーっと息を息を吸って吐く。そして鋭い眼光でムツヤ
Última actualización: 2026-05-30
Chapter: 決闘するなよ、俺以外のヤツと 2「えっと、突然お邪魔して申し訳無い。俺はタノベと言います」 軽く自己紹介をすると返事が帰ってきた。「こんばんはー、俺…… じゃなかっだ、わだしはムツヤって言いまず」 酔っ払った上に訛っているが、敬語を使っている辺りいいヤツなのかもしれないなとタノベは認識を改める。「私はモモだ。訳合って今はムツヤ殿の従者をしている」 オークの女はそう言う。従者をしているとはどういった事情なのだろうかと少し考えた。「ヨーリィです、ムツヤお兄ちゃんの妹です」 あまり似ていない兄妹だなと思った。短く言うとヨーリィはアスパラガスをむしゃむしゃ食べ始める。「えっと、ユモトです。よろしくおねがいしますね!」 美人ぞろいのパーティだが、やはりタノベにはユモトが一際輝いて見えた。「どうもどうも、よろしくお願いしまーす! 所で皆さんはどういう集まりなんですか?」 フミヤは酒を飲みながら尋ねる。すると一瞬空気が重くなった気がした。「そんなのどうだっていいでしょーよー!」 ルーはフミヤの背中をバンバンと叩く。「そ、そうですね、僕たちはただの冒険者の集まりですよ」 明らかに何かをはぐらかされている事にタノベは疑問を持ったが、知り合ったばかりの相手達に深入りはやめておこうと何も聞かないことにした。 その後は他愛のない話に花を咲かせたる。冒険者の面白話に笑ったり心配した顔をしたりするユモトにタノベはより惹かれ始めていた。「それじゃあ皆の夢って何なの? 俺は冒険者としてお宝を探して一攫千金当てること!」 フミヤは自分の夢を語り始めた。見ているこっちが恥ずかしいとタノベは視線を持っているジョッキに移す。「私もお金持ちになりたーい!!!!」 ルーは両手を上げて騒いでいる。「私はムツヤ殿の夢を叶えることだ」 モモは酔って少し赤くなった顔のまま目をつぶって言った。「私は大切な人を守ること」 珍しくヨーリィも話に乗っかった。意外なことにムツヤ達の視線が集まる。「その大切な人ってルーお姉ちゃんの事かなー?」 うざ絡みに対してヨーリィはジュースを飲んでスルーをした。「え、えーっと、僕は…… いえ、僕もムツヤさんに恩返しがしたいです。なのでムツヤさんの夢を叶えてあげることですかね」 ユモトもぽやんとした顔をしながらもじもじと言う。「まー、恩返しってんなら私もムツヤっちに
Última actualización: 2026-05-28
Chapter: 決闘するなよ、俺以外のヤツと 1「ムツヤ、魔力が一気に回復するポーションでも無いのか?」 アシノがムツヤに聞いてみると当たり前のように「ありますよ」と返事が来たが、ルーが待ったをかける。「ムツヤっちならまだしも、ユモトちゃんが魔力を一気に回復させたら体中の魔力のバランスが狂ってショック死しちゃうわよ!!」「確かに、危ないかもしれませんね」 ユモトもあははと苦笑いをする。魔力は普通に売られているポーションを使っても回復を促進させるだけで、急な回復はしないのだ。「んなことは知ってるけどよ、コイツなら副作用なしで回復するモンでも持ってんじゃないのかって聞いてみただけだ」 一応アシノはムツヤが取り出したオレンジ色の薬を受け取って眺めてみる。そしてルーに渡した。「ちょっと舐めてみていい?」「おう、死ぬなよ」 好奇心に負けて手のひらに1滴薬を垂らし、ルーは舐めた。瞬間ビリビリとした感覚が口の中に広がった。「うえええええ、純度高すぎ!!! 水ちょうだい水!!」 ルーはバタバタと騒ぎ始め、ムツヤが水を渡すと一気に飲み干す。「あー、確かにこれは効くわ。でも研究してから使ったほうが良いかもね」 ルーは口から水をこぼしながら言う、仕方ねえなとアシノはユモトに尋ねる。「次の街まで後ちょっとだ、ユモト歩けるか?」「は、はい大丈夫です!!」 大丈夫と言うがユモトの顔色はあからさまに悪かった。「ムツヤ、おぶってやれ」「わがりまじだ」 アシノに言われ、ユモトが遠慮するより早くムツヤは背負い上げる。「ユモト、無理な時は無理と言うのも大事だぞ」「あ、えっと、すみません……」 そう言ってユモトはムツヤの背中に顔をうずめて抱きついた。何故かいい匂いがするがユモトは男だ。「モモは大丈夫か? ヨーリィも平気か?」 アシノは他の仲間の無事も確認した。「はい、私の怪我はもう治りましたので」 モモは胸に手を当て言い、ヨーリィも返事をした。「私はもう体を維持するだけの魔力は貰った」「それじゃ出発するか、日が暮れるぐらいには街に着くからな」 予定時間よりはだいぶ遅れたが、ムツヤ達は街を目指して歩き出す。 日が暮れてしまったが、まだ明かりを付けなくてもも周りが見えるぐらいの頃、ムツヤ達は街へと着いた。「着いたぞ、ここがカラスギって街だ」 アシノが軽く街の名前だけ言う。まばらに光を放ってい
Última actualización: 2026-05-25
Chapter: 亜人を呪わば鉄球地獄 ヨーリィはうつ伏せに倒した敵に乗りかかり、両腕を後ろで固めて動きを封じた。「マジックバインド!」 ユモトは魔法の縄で敵の手足をしっかりと拘束する。「さーてさて、どんなお顔をしてるのか見せてもらうかな」 ルーは歩いて動けない敵の前へと行くと、しゃがみこんで仮面に手を掛けた。「やめろ、やめろー!!!」 そんな敵の声を無視して仮面を取り上げると顔があらわになる。 女は割と整った顔立ちをしているが、目は殺意と憎しみに満ち溢れていた。 そして、何より左頬にケロイド状の火傷の痕が見える。「っぐ、殺す、殺す!!」「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて」 ルーはニコニコして言った。ムツヤ達は少し遠巻きにそれを見る。「聞きたいことは山ほどあるけど、なんでキエーウなんかに入ってるの?」 女は歯ぎしりをし、視線だけをモモの方に向けて言った。「オークをこの世から皆殺しにするためだ!!」 モモはそれを聞いてドキリとする。「事情は知らんが、充分に危険思想だな。縄で縛り直して治安維持部隊に引き渡すぞ」 この時、アシノ達は油断をしていた。遠くから飛んでくる矢に気づけたのはムツヤだけだった。 まっすぐユモト目掛けて飛んでくる矢、ムツヤはユモトを庇おうとタックルをして押し倒す。 矢はギリギリの所でかわせたが、ユモトの拘束魔法が一瞬緩んでしまった。その隙きを見逃さずに女は飛び起きてムツヤ達と反対方向に走り出した。「待て!!」 追いかけようとするが次々と矢が飛んできて、アシノ達は地面に伏せた。ムツヤはそんな事お構いなしに女を追いかける。「ははは、やっぱり君は強いねぇ。ムツヤくん」 この男の声をアシノは知っている。忘れもしない。「ちょっと俺と遊ぼうか」 かつてアシノの仲間であり、今はキエーウに所属しているウートゴがムツヤ達の前に立ちはだかった。 刀身の反った細身の刀をウートゴは取り出す。そして次の瞬間ムツヤは目を疑った。 ウートゴは目の前で3人に増えたのだ。思わずムツヤは走るのを止め、警戒をする。「ムツヤ!! それは東の国の魔術だ!! 気を付けろ、全員実体がある!」 アシノはそう叫んでムツヤに警告した。仲間たちはユモトが貼った防御壁で遠くから放たれる矢を防ぎながらゆっくりとムツヤの元へ進む。「ムツヤくん、俺と友達にならないか? 君の力と裏の道具があれ
Última actualización: 2026-05-14