Chapter: 反撃開始 1「俺のせいだ……、俺のせいでギルスさんがッ……!!」 ムツヤは歯を食いしばって地面を殴った。 ムツヤ達はしばらく呆然としたり、泣いたりしていたが、アシノが家から持ち出した担架にギルスを乗せて白い布を被せた。「スーナの街へ戻るぞ」 アシノの言葉に全員頷いて、担架はムツヤとモモで持ち上げた。 話は昨日まで遡る。 みんなガヤガヤと家の中へ入る。居間には先に帰っていたヨーリィとギルス、アシノが座っていた。「お、やっと来たか」「せっかく昼寝でもするかと思ってたのによ」 アシノは不満そうに言う。ユモトは「お茶を淹れてきますね」と言ってモモと台所へ消えていく。「そう言うな、研究発表と今後の作戦の提案だから皆に聞いて欲しいんだ」「そうそう、主に私の、私による、私が考えた皆のための作戦よ」 ギルスが言うとルーは身を乗り出して激しい自己主張をしてくる。 そんなルーの頭をギルスが押さえつけると「へぎゃぶ!!」と言って椅子に落ちていった。 しばらく待つとユモトとモモによるおいしい茶と菓子の用意が出来たので、ギルスは1口紅茶を飲んでから話し始める。「まずこれを見てくれ」 ギルスはとある物を取り出して言った。それは横に長く探知盤の画面が2つ並んで取り付けられているものだった。「ん? ナニコレ? 探知盤並べただけじゃない、こんなの作りたくないよーだ!」「ほんのついさっきだが探知盤を分解したら、どうやら連結が出来そうな事に気付いてね。簡単にだが連結させてみたんだ」 ギルスはルーを無視して探知盤に魔力を込める。「これを見たら『私も作りたい』って騒ぎ出すに決まってるぞ」「ほんとかしらー?」 すると探知盤の2つの画面に同じ地図と、ムツヤ達がいる辺りに赤い点が浮かびだす。「ナニコレ? 壊れてるじゃない!」「この探知盤の石が同じ場所にあるからだ」 そう言ってギルスは探知盤の核である青い石を2つテーブルに並べた。「1つの探知盤が映し出せる地形は、魔力の扱いに慣れたものでも石を中心にして半径20kmが限界だ」「あっ」と何かに気付いたようにユモトは言う。「つまり、映し出せる地図の端っこ同士をうまく合わせるように石を置けば……」「そう、ご明察。巨大な1枚の探知盤ができる、ユモトくんはルーよりも賢いな」「やー!!!」 先に正解を言われてルーは騒ぎ出す。ま
Last Updated: 2026-01-30
Chapter: 剣を握る資格は 2「あぁ、あるぞ」 さも当たり前のようにアシノは言う。 ムツヤは質問をしたは良いが、それ以上何を言えば良いのかわからなくなってしまい、言葉に詰まる。「斬ったことも、首を飛ばしたこともある」 紅茶を飲みながら、まるで何気ない日常会話のようにアシノは話し続けた。「山賊や狂人、腕試しで私に挑んできた奴。まぁ色々いたわな」 茶菓子のクッキーに手を付け、サクサクとアシノは食べている。「初めて斬ったのは強盗団だな、ちょうどお前と同じぐらいの年の頃かな」 アシノはムツヤに根掘り葉掘り聞かれたわけでもないのに、聞きたかったことをほぼ全て話してくれた。「その、初めて人を斬った時って…… アシノさんはどんな気持ちになりましたか?」 そう恐る恐る聞くと、アシノは急にハッハッハと笑い始め、ムツヤは驚く。「いやー、新米の冒険者ってよくその質問するんだよな」 一通り笑い終わるとアシノはさっきまでのそっけない態度ではなく、ムツヤの方を向いて話し始めた。「初めて斬ったのはさっきも言った通り強盗団だ。偶然だったんだが、滞在していた村に強盗団が来てな、その下っ端が襲いかかってきたから斬り伏せたよ」 そこまで言ってアシノは紅茶を一口飲む。「そん時は私も必死だったから、その後も村の警備隊と一緒に戦って3人は斬り殺した。戦ってる間は特に何も思わなかったよ」 アシノはふぅーっとため息を吐く。 ムツヤは真剣にアシノの言葉を聞くだけでなく、一挙一動を見つめていた。「それで、後になって強盗団の死体を村外れの1箇所に集めたんだ。その時、もちろん私が殺した奴もいてな、それを見た時は……」「正直、怖くなった」 寂しげな目をしてアシノは言う。「もちろん村の奴らにも警備隊にも感謝され、英雄扱いされ、冒険者の先輩からも『初めてで3人も仕留めるなんて上出来だ』って褒められたよ。でも素直に嬉しくはなれなかった」 アシノは軽く苦笑いをする。そんなアシノの表情をムツヤは初めて見た。「一段落してもその夜は眠れなかった。魔物じゃない、人と命のやり取りをした興奮と恐怖、斬った感触と血しぶきが上がる光景が頭にこびりついて忘れられなかった」「アシノさん……」「だが、降りかかる火の粉は払わなけりゃならない。それに、覚悟を決めて敵を殺さなきゃ…… 自分や仲間が死ぬことになる」 最後の言い方にムツヤ
Last Updated: 2026-01-25
Chapter: 剣を握る資格は 1 家に帰るまでの間、会話は無く気まずい空気が支配していた。 ルーは黙って探知盤を見ているが、赤い点は浮かび上がらない。 そうこうしている内に家に帰ってきてしまった。 特にすることもなく、ユモトは気まずさに負けて提案をする。「あの、お昼の為に作っておいたお弁当を食べませんか?」「そうね、お腹すいたしー」 ルーは少しでも場を和ませようとしているのか、いつもの様な口調で言った。「私はいい、疲れたからちょっと部屋で休む」 アシノはそう言い残して自室へ行ってしまった。ムツヤはソファーに座って下をうつ向いたままだ。 モモはギュッと拳を握り、その後胸に手を当ててムツヤに話しかけた。「ムツヤ殿ッ!! その、お昼を食べ終わったら一緒にその辺りを散歩しませんか?」 モモの提案にムツヤは上の空で一瞬返事が遅れる。「あ、えっと、はい、わがりまじだ」「なになにー? デートのお誘い?」 ルーがちゃかして言うとモモは少し顔を赤らめた。「そういうわけでは無いのですが、少し、その……」「あーあー、初々しいって良いわねー」 ユモトが机の上に広げたサンドイッチを食べながらルーは言う。「ギルスー、私もデートしてあげても良いわよー?」「地下室で裏の道具の研究ってデートプランなら歓迎だ、それ以外はパス」「えー、何かその言い方ムカつくんですけど!!」 はははとユモトは笑ってそのやり取りを見ていた。昼食を食べ終えた後、外へ出ようとするモモにルーは一言話しかける。「モモちゃん、ムツヤっちのこと頼んだからね」「はい」 何を頼まれたのか言わなかったがモモは分かっていた。 そして、久しぶりにムツヤと2人きりの時間が始まる。 外へ出ると少し暑いぐらいの快晴だった。夏の始まりを予感させるような陽気だったが、ムツヤは浮かない顔をしている。「気持ちの良い天気ですね」「そうでずね」 モモの言葉にもムツヤは上の空だ。2人は家の後ろにある雑木林を歩いていた。「あ、あの、モモさん……」 ムツヤは何かを言いかけたが、何を話せば良いのか自分でもわからない。「ムツヤ殿、食事の後のちょっとしたデザートでもいかがですか?」 ムツヤの言葉を聞き返すことをせずにモモはそんな事を言った。「デザート、ですか? 何か持ってきたんですか?」 モモは何か手荷物を持っている様子はない。不思議
Last Updated: 2026-01-23
Chapter: ムゲンジゴクVSムゲンジゴク「ムツヤ殿!!」 吹き飛んだムツヤに思わずモモは駆け寄った。「危ない!」 魔剣を構えた男がムツヤに近づき出す。ユモトとルーは魔法で氷柱を出して牽制をするが、男が魔剣で数回薙ぎ払うと全て溶けて消えてしまう。「ムツヤ殿、ムツヤ殿!!」 モモがムツヤを揺さぶるとうーんと言ってムツヤは上半身を起こす。ホッとしたモモの背後に魔剣を携えた男が立っていた。「モモさん危ない!」 思わずムツヤはモモを押し飛ばし、しゃがんだままで振り下ろされた魔剣を受け止める。また爆風が生まれてムツヤは吹き飛ばされる。「ムツヤ殿!!」 モモは叫ぶ、ゆらゆらと歩く男にアシノはビンのフタを、ヨーリィは木の杭を無数に投げつけた。 男は薙ぎ払おうともせず、雄叫びを上げると業火が男を包んでそれらは燃え尽きてしまう。「あまり調子に乗らないでくれるかしら」 ルーは精霊を数体呼び出して男を襲わせる。精霊の振り下ろされた重い拳は確実に男を捉えていた。 しかし、男が突きを繰り出すと、その拳はピタッと止まり、精霊は炎に包まれて崩れてしまう。 その隙に2体の精霊が挟み撃ちで攻撃をしたが、男はぐるっと回転してどちらも切り崩してしまった。「轟け雷鳴よ!!」 ユモトは長い詠唱をして強力な雷魔法を放つ、この攻撃は確実に男を貫いてダメージを与えたが…… 一瞬男は仰け反って、その後はまた魔剣を構えて歩き出した。 同時にムツヤは立ち上がって男と戦い始めた。剣同士をぶつかり合わせないように攻撃をかわし続け隙を伺っている。「なんなの!? あいつ人間!?」「あれは多分、魔剣に喰われてる」 ルーの言葉にギルスは答えた。「言い伝えだが、魔剣は絶大な力を与える代わりに、所有者の力量が魔剣に見合っていないと魂を喰われるらしい」「魂を喰われる……ですか?」 ユモトが言うとギルスは頷く。「力量不足の分は、所有者の魂と命を代償にあんな力を手にすることが出来るって言い伝えだ」 そう言ってギルスは男を見た。 ムツヤは男と一定の距離を取ると、ムゲンジゴクを仕舞って氷の魔剣を取り出した。 そして走って斬りかかってきた男のムゲンジゴクと鍔迫り合いになる。 ジューという音とともに激しい湯気が辺りを包む。 そして、数秒後ムツヤはパキッとした音を聞いた。氷の魔剣が折れたのだ。 男の降りかかる剣をすんでの所でかわ
Last Updated: 2026-01-15
Chapter: ギルスを仲間に 2 ユモトは試合が始まると共にモモへ支援魔法を掛ける。モモは体の内側から力が湧いてくるのを感じ、ムツヤへと距離を縮めた。 支援魔法のおかげでモモは体が軽い。走るモモに合わせてユモトは詠唱を始めて今度は攻撃用の魔法の準備をする。 モモはムツヤ目掛けて思い切り袈裟斬りをするが、ムツヤは最小限の動きでそれを|躱《かわ》した。 そのまま剣を横薙ぎに振るうがムツヤは後ろに飛び退いて、ひらりとまた躱す。 そのムツヤの着地点目掛けてユモトは氷柱を10本ほど発射した。 ムツヤは1度バク宙をした後に手から着地をし、右に身をよじって立ち上がるとそのまま走り出して全ての氷柱をかわす。(普通のやつだったら今の連携で仕留められたろうが、ムツヤ相手じゃ厳しいだろうな) アシノはそんな事を思いながら試合を眺めていた。モモは走るムツヤを追いかけて突きを繰り出したが、自身ごとムツヤに飛び越えられてしまう。「いまだっ!!」 小さくユモトはひとり言を言って、空中で身動きが取れないムツヤに向かって雷撃を放った。 雷は遠くまで飛ばせないが、標的目掛けて多少軌道修正し、自動で追跡をする習性がある。 ユモトの魔法は完全に標的を捉えていたが、ムツヤが右手を前に伸ばすと強力な魔法の防壁が現れて、雷を軽く消し飛ばしてしまった。 モモは振り返り、ムツヤを切りつけようとしたが、剣は宙を切るだけだ。 ムツヤの戦い方は誰に教わったわけでもないので、メチャクチャだ。基本の型やセオリーも無く、言うなれば獣や魔物の戦い方に近い。 そこに加えて高い身体能力、なので動きは予測不能だ。 モモは必死にムツヤに追いついて攻撃を繰り出すが、それらは全て躱され、ユモトが放つ攻撃魔法も同じ結果だった。 15分もすると2人は段々と息が上がってきて、ついにユモトはしゃがみこんでしまう。 体力に自信のあるモモも鎧を着て全力疾走しながら剣を振り続けていたので疲れが回ってきている。「はい、終了ー」 アシノは手をパンパンと大きく叩いて言った。その瞬間緊張の糸が切れてモモも地面に片膝を着く。「連携は悪くなかったが、2人共まずは基礎体力づくりだな」「め、面目ありません……」「すみません……」 モモとユモトは息を荒くしながら情けなさそうに言う。 ムツヤはと言うとピンピンしてカバンから飲み物を取り出し、2人へ手渡してい
Last Updated: 2026-01-07
Chapter: ギルスを仲間に 1 6人は銭湯を出て町外れのギルスの店へと向かった。 さきほど襲撃を受けたばかりなのでルーは探知盤を持って歩いている。幸いにも反応は無かったが。 しばらくしてギルスの店へとついた。ドアを開けるとカランコロンというドアチャイムが迎えてくれたが、店主はコチラを見るなり不機嫌そうだった。「よう、いらっしゃい。赤髪の勇者」「だからその呼び名はやめてくれ」 アシノは額に手を当てて言った。そしてその隣にムツヤは立ち、カバンから重そうな麻袋を取り出しカウンターにドンッと置いた。「なんだコレ…… ってまさか!?」「そうだ、お前が言った100万バレシだ」 ギルスは麻袋を開けて中身を確認する。確かに金貨が山程詰まっていた。「何だ、本当に用意したのか? あんたの貯金か?」「いや、私の金は魔人を倒すためにほとんど使っちまった。コレは翼竜を倒して手に入れた」「翼竜だと!? いや、勇者なら簡単か……」 そこまで聞いて、気まずそうにアシノは打ち明ける。「あー、そのだな…… 私は事情があって勇者としての力や技術ってのは全部失ったんだ。倒したのはほぼムツヤが1人でだ」「本当なのか?」「あぁ、本当だ」 ギルスは頭を抱える、全てが信じられない話だが、現実に起きているのだから信じるほか無い。だが頭が追いついていないのだ。「分かった、いくつか質問をさせてくれ」 ギルスは店を閉めて自分が納得できるまで何度も質問をした、それに対してムツヤ達は包み隠さず全てを話す。 アシノの能力のこと、ヨーリィの生い立ち、ムツヤの昔話を補完しながらもう1度おさらいもした。「あーもう、信じられねぇが信じるしかねぇじゃねぇか!」 枯れ葉に変わるヨーリィやムツヤが次々取り出す裏の道具を見てギルスは叫んだ。「もう分かった、金も用意されちまったし、道具の研究をしてやるよ」「本当でずか!?」 ムツヤはパァーッと明るくなり、他の仲間もほっと胸を撫で下ろした。「それに、俺もやっぱ研究が好きだしな」 ちょっと照れてギルスは言う。ルーはニヤニヤとそれを見逃さない。「あらー、ギルス満更でもない感じじゃない?」「う、うるせぇ」 -とにもかくにもギルスが仲間になった!- ギルスはムツヤ達に連れられて冒険者ギルドへと連れられた。アシノが受付に話をしてギルドマスターのトウヨウへ面会を取り付けた。
Last Updated: 2026-01-05
Chapter: いざ、ライオへ! 翌日の朝、勇者マスカルとマルクエン、ラミッタは街中の人達に見送られながら馬車に乗った。「このまま街道を往き、ライオに寄り、王都アムールトを目指します」「やっと、ライオの街を拝むことが出来そうです」 マルクエンが笑いながら話す。「何故、ライオの街を経由するのですか?」 ラミッタは流石に勇者相手には敬語だ。「アムールトまではライオから3日掛かります。物資の補充と、休息のためですね。先程の街は駐在の軍隊も、冒険者も多かったので滞在しましたが」 そこまでマスカルが言うと、魔道士アレラが補足する。「我々を狙う魔人に襲われた場合、宿場町を危険に巻き込む可能性があるので、箱を壊す時以外は、極力野営をしています」「なるほど、勇者様も苦労が絶えませんね」 少し勇者を見直したラミッタ。「ライオで一泊し、物資を整え、そのままアムールトを目指します」 続けてアレラが言うので、マルクエンは頷く。「確かに、大きな街ならば安心ですね」 5人は馬車に揺られた。勇者パーティの剣士ゴーダは寡黙な男で、雑談にも乗ってこないまま、馬車を運転する。 ラミッタも目を閉じて荷台にもたれかかっていた。 道は舗装されていたので、思ったよりも揺れが少ない。 途中何回か休憩をはさみ、昼過ぎぐらいには無事ライオの街が見えてきた。 立派な壁が街をぐるりと囲み、高い建物がチラホラと頭を覗かせている。「おぉ、あれが……」 マルクエンはイーヌ王国の王都にも負けないような街に感心した。 街の入り口には衛兵が立っており、一人ひとりの身分確認こそしていなかったが、不審な輩に目を光らせている。 マスカルは馬車から降りて、衛兵に声をかけた。「見回りお疲れ様です。勇者マスカルです」 声を掛けられた兵士は、一瞬驚いた後、姿勢を正して敬礼する。「マスカル様!! お努めお疲れ様であります!!」「何か変わったことはありませんでしたか?」「はっ!! ここ数日、魔人の目撃等はありません」 その言葉を聞いてホッとするマスカル。「それはなによりです」 馬車を業者に預け、ホテルまで向かうマスカル達。荷物を預けてから話をした。「旅支度は我々が行いますので、ラミッタさんとマルクエンさんは個人的に必要なものを揃えておいて下さい」「わかりました」 マスカル達と別行動になるマルクエンとラミッタ。「
Last Updated: 2026-01-30
Chapter: 最上階! 部屋の奥には大きな噴水が見えていた。「この先に待ち構えているのかしら?」「あぁ、気を引き締めて行くぞ」 一歩一歩、噴水へと近づくマルクエンとラミッタ。 眼前まで来ると、噴水から光が溢れ、宙を舞う。 警戒して剣を引き抜くが、その光は一点に集中し始め一際眩しく光ったかと思うと、次の瞬間には目の前に長い金髪の美女が現れた。「なっ!?」 驚くマルクエンへ宙に浮かぶ美女は優しく微笑みかける。「よくぞここまで辿り着きました。異世界からの勇者よ」「あ、あなたは!?」 マルクエンに問われると、美女はニコリと笑い返す。「私はこの塔の女神。これより、あなた方に力を授けます」「力をくれるってんなら、最初っから素直にここまで通してほしかったわね」 ラミッタが悪態をつくと、女神は悲しそうな顔をする。「それは出来ないのです。この塔は試練の塔です」「なるほど、試練を突破しなくてはと言うことですか?」 マルクエンが言うと、なんと女神は首を横に振って否定した。 「いいえ、それよりも大事なことがありました」「そ、それは……!?」 試練よりも大事な事と聞いて、マルクエンは何だろうと考える。「それは、何か二人の関係性がじれったいので、この際くっつけてやろうかと思いましてね」 女神の言葉に静寂が流れる。マルクエンは理解が追いつかなく、言葉の意味を考えていた。 ラミッタは顔を赤くしてプルプル震えながら女神に噛み付いて言う。「なっ、なにいってるのかしらこの女神はぁ!!!!」 声が裏返っていた。「くっつけるとは、つまり……」 マルクエンが思考の答えに辿り着きそうになるので、慌ててラミッタは妨害する。「違う、違うから、それはこの女神の勘違い!! ほら、さっさと力を|寄越《よこ》しなさい!!」「強情ですね……。しかし、今は世界の危機。あなた方の事はその内、解決できると信じて力を授けましょう」 女神が両腕を天に上げると、ラミッタは赤い光に、マルクエンは青い光に包まれた。「私が力を与えるまでもなく、マルクエンさんは既に覚醒の片鱗を見せていましたが、これで真に覚醒した力が使えます」「お、おぉ!?」 マルクエンは体が青白く光り、力が|漲《みなぎ》るのを感じている。「そして、ラミッタさん。あなたは魔力で空を飛べるようになりました」「空ぁ!?」 マルクエン
Last Updated: 2026-01-23
Chapter: 見惚れ「アンタとの思い出なんて、戦ったことぐらいしか無いわよ」「いや、別に私との思い出とは言ってないんだが……」 マルクエンに言われて、ラミッタは顔を赤くした。「いやっ、そのっ!!」「ははは」 笑うマルクエンにラミッタは怒る。「何よ!!!」「いや、なんでもない」「なんでもなくは無いでしょ!?」 そんな事を言い合い、しばらく静寂が訪れ、互いの体温を感じ取っていた。「あのさ」「ん? どうした」 ラミッタがポツリと話し、マルクエンが反応する。「アンタは、元の世界に戻りたいわけ?」「あぁ、そうだな。イーヌ王国が恋しいよ」「ふーん……」 ギュッと毛布を掴むラミッタ。「ラミッタはどうなんだ?」「私は……。別に、国に忠誠なんて無かったから。お金が稼げて、剣を振るえるから軍人やっていただけ」「そうか……」 またも、しばしの沈黙。「元の世界、戻ったらまた敵同士ね」 ラミッタの言葉にマルクエンは何も返せず、考えた。「そうなるな……」「戦争、まだ続いているのかしら?」「私もラミッタと戦った後、寝込んでそのまま意識が無くなったからな。わからない」「そう……」 ラミッタは突如ニヤリと笑い、マルクエンに言う。「次は負けないから!!」「ははは、そうか……」 マルクエンは力無く笑うことしか出来なかった。 吹雪はまだ続く。「何でさ、私達、戦っていたんだろうね」「どうした、急に……」 ラミッタはしおらしく、語り始める。「だってさ……」「私は国の為だった。ルーサを統合して国の繁栄。国土の防衛力の強化の為だ」「ルーサは自国を守る為だけど、私としてはどうでも良かった」 ゆっくりと、ラミッタは話し続ける。「結局はさ、国のお偉いさんが決めて、戦って死ぬのは私達兵士」「……、そうかもしれんな」 今度はマルクエンから語り始めた。「私は、国に忠誠を誓って戦ったが。ルーサから見たら侵略戦争だと思われても仕方が無かっただろう」「そんな事、国のお偉いさんに聞かれたら処罰よ、騎士様」 ラミッタに言われるも、マルクエンは話し続ける。「最大の宿敵だと思っていたお前とも、話し合えばこうして分かり合えたのかもしれないのにな」「あら、分かり合えたと思っていたの?」「違うのか!?」 驚いて恥ずかしがるマルクエンを見てラミッタは笑った。「よし、元
Last Updated: 2026-01-15
Chapter: VS 偽物! マルクエンの剣が偽ラミッタの防御壁に食い込み始める。「ラミッタ!!!」 偽マルクエンが飛びかかるも、ラミッタが牽制を入れ、上手く近付けない。「はあああ!!!」 渾身の力を出して、マルクエンは魔法の防御壁を破壊し、偽ラミッタに一太刀浴びせようとした。 飛び退いて避ける偽ラミッタだったが、一瞬で距離を縮められ、横薙ぎの一撃を食らってしまう。 体が真っ二つになり、黒い煙になって消えた。「おのれえぇぇぇぇ!!! よくもラミッタを!!!!」 偽物のマルクエンが憤怒の表情をして重い一撃を放つ。ラミッタは剣が弾かれて、後ろに一瞬バランスを崩した。 そんなラミッタの肩をマルクエンが後ろから支える。「大丈夫か!?」「えぇ、平気よ」 場所を交代して前衛をマルクエンが務め、その後ろからラミッタが魔法の牽制を入れた。 青白く光るマルクエンは偽マルクエンを圧倒している。更に魔法が飛び交っているので、偽物はだいぶ分が悪かった。「っく!!」 魔法の雷と風をくらい、切り傷や火傷でボロボロの偽マルクエン。「そろそろ決着を着けるか」 マルクエンは重い一撃を偽物に浴びせ、縦に鎧ごと斬り捨てた。 黒い煙となって消える偽マルクエン。これでどうやら戦いは終わったようだった。「ふぅ……。とりあえず終わったか」 剣を仕舞い、安堵するマルクエン。奥にあった扉が左右に開き、階段が待っている。「それじゃ、行きましょうか」 スタスタと歩くラミッタ。先程まで偽物の自分がやらかした事を考えないようにしていた。 お互い会話もなく階段を登ると、次の扉が目の前に現れる。 マルクエンが押し開けると、現れたのは、室内とは到底思えないような景色だった。「何だこれは!?」 広がるのは、辺り一面の銀世界。雪原だ。「どうなってんのよこれ……」 扉の前でも寒さが身に染みる。この中を歩いていけと言うことなのだろうかと、マルクエンはため息を付いた。「私は、寒いのは苦手なのだがな……」「私だって嫌よ!!」 ラミッタは軽装備なので余計に寒いだろう。マルクエンは身を案じる。「その格好じゃ寒いだろうな。どうする? 引き返すか?」「これぐらい、魔法で断熱するわ。平気よ」 そう言って歩みを進めるラミッタ。マルクエンも後を付いていく。 薄っすらと見える道を30分ぐらい歩いただろうか、一向に
Last Updated: 2026-01-07
Chapter: 愛のパワー 何段も階段を上り、やっと次の部屋へと辿り着くマルクエンとラミッタ。「それじゃ、開けるぞ」「えぇ」 覚悟を決め、マルクエンは重い扉を押し開ける。 部屋の中を見ると、スポットライトのように中央が光で照らし出された。 眩しさで目を細めた後に、視界に入った物を見てマルクエンは驚く。「なっ!? ラミッタ!? それに……」 そこに居たのはラミッタと、自分自身だった。「は!? 宿敵が二人!?」 ラミッタは隣のマルクエンと、スポットライトに照らされるマルクエンを交互に見る。 マルクエンは向こう側のラミッタをよく見た。顔の傷跡が右側ではなく左側にある。 スポットライトの元に居るラミッタとマルクエンが話し始めた。「宿敵、私達の偽物が現れたようね」「あぁ、そうだなラミッタ」 そう言って剣を抜く、何だか向こうの二人は互いの距離が近かった。「えぇ、私達の愛のパワーの前ではあんな偽物は敵じゃないわ」「ちょっと待てえええぇぇぇぇ!!!!」 偽ラミッタの言葉にラミッタは絶叫する。「何言ってんの!! ホント何言ってんの!?」 そんな事はお構いなしに、向こうの二人は盛り上がっていた。「ラミッタの姿をしている敵を斬るのは心苦しいが、愛の力で勝とう!!」「宿敵……」 見つめ合う二人、そんないい雰囲気にラミッタは特大の炎をブチ込んだ。「あーもう!! あーもう何よこれ!? 私の姿で好き放題変なことしてんじゃないわよ!!!」 飛び退いて避ける偽物達。「ふん、私達の仲はそんな炎で|割《さ》く事は出来ないわ!!」「そうだ、私達の仲はこんな炎よりも熱い!!」「宿敵……」「ラミッタ……」 そんなやり取りを見てラミッタは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。「やー!!! もういやー!!!」 ラミッタは絶叫しながら氷、雷、炎を撃ちまくっていた。「甘いわね!!」 偽ラミッタは防御壁を張り、その後ろで魔法を耐えている。「宿敵、さっさと倒すわよ!!」「っ!! あぁ!!」 ラミッタに言われ、マルクエンも剣を構えて突っ込む。 目の前に躍り出てきた偽マルクエンと剣がぶつかり合う。「っ!!」 マルクエンは驚いていた。自分とほぼ互角の力で鍔迫り合いを繰り広げられたからだ。「ただ見た目が同じ……、って訳ではなさそうだな」 後ろに引いてマルクエンは間合いを
Last Updated: 2026-01-05
Chapter: 無限ループは怖い 何百歩と|螺旋《らせん》状の階段を登る二人。ラミッタは手を頭の後ろで組んで言う。「何よこれ、どれだけ登らせるつもりなのよ!!」「まぁ、そう言うな」 やっとのことで扉が現れ、マルクエンは重いそれを開く。 部屋の中を見た二人は驚いた。先程のエントランスそのままの部屋が目の前には広がっていたのだ。「これは……」「さっきの部屋じゃない」 動揺する二人だが、また更に階段が続いている。「この先をまた進めば良いのか?」 マルクエンがそう言った時に、ラミッタはポーチから傷薬を出して通路に置く。「何をしているんだラミッタ?」「おまじないよ」 またも階段を登る二人、そして扉が待ち構えていた。 それを開いてマルクエンは驚愕する。「この部屋!!」 ラミッタは冷静にスタスタと通路まで歩いた。「完全に同じ部屋ね」 ラミッタは床に置かれた傷薬を指さして言う。「これは……。どうなっているんだ!?」「知らないわよ」 ラミッタは片目を閉じてため息をつく。「試練はもう始まっているって所かしらね」「なるほどな」 部屋を見渡すマルクエン。ラミッタは魔力を感知しながら部屋の隅から隅まで怪しい場所がないか調べる。 十数分後、ラミッタがため息を吐いてマルクエンに近づく。「ダメね、魔力の妨害が激しくて、全然分からないわ」 そう言って壁にもたれかかると、なんと一部が崩れてラミッタは尻もちを付く。「いったぁ……、何よこれ……って!!」 ラミッタの尻には魔力が込められ、一気に射出される。「いやああああああ!!!」 宙を飛ぶラミッタ。そのまま向かい側の壁にぶつかりそうになる。 とっさに防御壁を張り、激突は免れた。その衝撃を与えた壁からは光が漏れる。「大丈夫か!? ラミッタ!!!」 マルクエンは落下するラミッタを受け止めようとするが、顔面でラミッタの尻を受けてしまう。「ぶぐほっ」「な、何してんのよ!! このド変態卑猥野郎!!!」 理不尽に殴られるマルクエン。地面に降り立ったラミッタは赤面していた。「っつ……。ったく、この塔の神様はいい趣味をしているみたいで」 そこでラミッタは異変に気付く。壁に小さなヒビが入っていることに。「なるほどね……。宿敵!! この壁に思いっきり体当たりしてみて」「体当たり? あぁ、やってみる!!」 何のことか分からな
Last Updated: 2026-01-02