Chapter: 92 見合いの後 ミレーヌさんが帰り、別室で待っているマリアと合流する。 マリアは俺の顔を見るなりわくわく、というような顔で言った。「ねえねえ、ミレーヌ、どうだった?」「え? あぁいい子だね、ミレーヌさん」「でしょ?」 って言いながら、マリアはずい、と俺に近づいてくる。ちょっとその勢いに驚いて俺は思わず半歩下がった。 マリア、なんか嬉しそうなんだけど、お前が喜ぶような結果にはならねえと思うぞ? 俺がたじろいでいると、マリアは瞬時に真顔になり顎に手を当てて首を傾げた。「あ、でも付き合うとかお話すすむと複雑かも」 思っても見ない言葉に俺は首を傾げてマリアに尋ねた。「なんで?」「だって、ミレーヌは友だちだし。お兄ちゃんとられる気がして……」 と、消え入るような声で答える。なんだか気恥ずかしそうだ。 マリアは小さく首を傾げてはにかみ言った。「だってふたりだけの兄妹でしょ? だからさ」 そして小さく舌を出して首を横に振る。 あぁ、そういう事かぁ。それはちょっとわかる。そんな嫉妬をする妹がなんだか愛らしくって俺は心が温かくなる。「ごめんごめん、変なこと言って。早く帰りましょう? 私おなかすいたー」 言いながらマリアはくるり、と振り返る。 俺はそんなマリアの隣に立って言った。「そうだな。帰ったらおやつ食べようか」「うん。今日のおやつ、何があるかしら?」「マリアはおやつ、何が好き? 俺、ティラミスけっこう好きなんだけど」「私マカロン好きかな。たまにしか出ないけど」 ってそんな話をしながら俺たちは王宮を後にした。 その翌日。 俺は今日も学校である。 もうすぐ試験だから、ちょっと忙しい。 レポートの課題やんねえとだし、試験の準備で調べ物しないとだし。 昨日の見合いの結果についてはまだ何も言われていない。 国王陛下にはどうだったか聞かれたけど、曖昧にしか答えられなかったんだよな。 断らないといけないんだけどなんか気まずくって断れていない。そんな自分がちょっと嫌だった。 俺、こんなに優柔不断だったかなぁ。 おかげでエドと顔を合わせるの、きまずいんだけどな。 俺は今日、二限目から講義だけど試験の準備で図書館に用があるから早めに登校した。だからまだエドと顔を合わせていない。 特になんか約束してるわけじゃねえから会うのは講義の時だろうなぁ。
Last Updated: 2026-02-28
Chapter: 91 見合いの日 その日がやってきた。 奇しくも俺の誕生日の翌日に設定されたその見合いは、マリアと同じように王宮で行われることになった。 着慣れないスーツを着て、マリアも一緒に足取り重く王宮へと向かう。 大してマリアは楽しそうだ。「ねえお兄……様、ミレーヌはいい子だよ」 って俺に言ってくるけど、俺は苦笑を返すしかなかった。 見合いの場に現れたミレーヌさんは、制服とはうってかわってクリーム色ドレスをまとっていた。 そして太陽みたいに笑い、彼女は言った。「ルカ様、お会いできてうれしいです」「あ、み、ミレーヌさん、ごきげんよう」 俺はひきつった笑顔で答えた。 親や陛下を交えてやり取りをしたあと、俺たちはふたりきりにさせられてしまう。 緊張で早鐘を打つ心臓。 ふたりきりにされて、何をしゃべればいいんだ?「えーと、ミレーヌさん」「はい」 頬を赤らめて微笑むミレーヌさん。 なんか向けられる好意が怖い。 皆こんな試練、乗り越えてるのかよ? 俺には合わねえよ。 そう思いつつ、俺は外に目を向けて言った。「あの、庭、歩きませんか? 今日はいい天気ですし、ここの庭、よく手入れされていて綺麗だから」 そんな俺の提案に、彼女は大きく頷いた。 俺は彼女を連れて、見合いの部屋の大きな窓から外に出る。 穏やかな風が吹いて心地いい。 辺りに咲く花。バラにキキョウ、ユリの花。色んな花が咲いている。 エドが教えてくれるから、俺、植物にはちょっとだけ詳しくなっていた。「さすが王宮のお庭、ですね。とても綺麗にされていて」 と言い、ミレーヌさんは笑う。 確かにいい子そうだし可愛い。 だから心が痛くなる。俺にはエドがいるのに、こんな茶番に付き合わなくちゃいけないなんて。「ルカ様は大学を卒業されたらどうされるんですか?」「え? あー……」 どうするか、なんて何も考えていない。それに話もしていなかった。 エドと一緒にいる方法、何かないかって考えてるだけだしな…… 考えても何にも思いつかない。「将来か……そうですね。まだ自分が何者なのか、何をしたいのかってよくわからなくって。あの、ミレーヌさんは?」 肩をすくめて尋ねると、ミレーヌさんはあはは、と笑う。「私も未来のことはあまり考えてないですが、そうですね……仕事もしてみたいですし、お料理もしたいし、学校には
Last Updated: 2026-02-28
Chapter: 90 プレゼント 朝の散歩をして、俺たちはホテルに戻る。 朝ごはんはパンにソーセージ、卵料理などだ。それに魚料理もある。 どれもおいしかったな。 うきうきと部屋に戻り、俺はベッドに横たわる。「あー、すげー喰った」 そう声に出して、俺は大きく息を吐いた。 昨日の夜、エドとたくさん繋がったせいか、ちょっと身体、怠いんだよな。ナカに入っている感覚、まだあるし。 「ルカ」「おわぁ!」 うつ伏せで寝る俺に、エドが覆いかぶさってくる。正直、ちょっと重い。 俺は身をよじって言った。「ちょ……エド? あっ」 エドは俺の首に顔を埋めてそこに口づけを落としてくる。 すげーくすぐったい。しかも舐めてくるし。「エド、朝からやりすぎ……あぁ!」 首を吸われ、俺は思わず声を上げた。くすぐったいし、気持ちいい。「んー……だって、首見えたらキスしたくなっちゃって。なかなかこういう時間、作れないしね」 と言い、エドは俺の首をぺろぺろと舐めた。 確かに、お互い実家だし、俺は王宮の離れに住んでいるし。家じゃあなかなかこんな風に甘い時間、すごせねえもんな。 外でヤるわけにいかないし、学校はもってのほかだし。「だからもっとルカに触りたい。全部俺のモノだって、印つけたい」 余裕のない声で言い、エドは俺の首に口づけていった。「んン……あぁ……」 俺の声、どんどん甘くなっていく。 エドは俺を仰向けにさせると、シャツを捲って胸にも口づけを落とした。 「エド……あン」「あぁ、ルカ。すごい、昨日の痕がたくさん残ってるよ。もっと痕、つけてあげるね」 嬉しげに言って、エドは俺の肌にたくさんの口づけを落とした。 結局、ホテルをでるちょっと前まで俺たちは甘い時間を過ごし、帰る時間がやってくる。「あーあ、もう帰る時間か」 残念そうに言い、エドは息をつく。 俺は正直物足りなくなってるんだけど、さすがにいまからエドとセックスするわけにはいかねえしな。 そう自分に言い聞かせて俺は、帰りの支度をする。「ルカ」「ちょ……」 背中から抱きしめられたかと思うと、首に何かかけられる。 なんだろう。 エドは俺に抱き着いたまま、耳元で言った。「ずっとルカは俺のものだよ」 そう甘い声で告げ、エドはすっと離れていく。「エド……って、あれ?」 振り返ってエドを見ながら、俺は首に触れる
Last Updated: 2026-02-27
Chapter: 89 翌朝 そのあともエドは俺を抱いてくれて、ナカにも出してくれた。 穢されて、汚されて、嫌だって思うよりも嬉しくって俺は悦びで胸がいっぱいになっていた。 中だしされたのを感じながら、俺はうっとりと声を漏らす。「あぁ……ナカ、あっついぃ」「ナカにでたのわかるの?」「わかる、エドのでいっぱい」 俺が答えると、エドは俺の腹をゆっくりと撫でた。「そうだね、ここに俺の、まだ入ってるよ」 目を細めて笑い、エドはそこを撫でまわす。奥、こじ開けられてそこに出されたからたぶんお腹の中、タプタプになってる。 「ルカのその姿、見てるとゾクゾクしてくるよ」 そう告げてエドは繋がったまま俺に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。 エドの好きなように口の中、蹂躙されて、舌、甘噛みされて気持ちいい。 そのあと、エドは魔法で汚れたシーツとかきれいにして、またふたりでお風呂に入って。そこでも俺たちは求めあって繋がった。 その日の夜、俺は変な夢を見た。 ゲーム画面のなか、ヒロインであるマリアが誰かに告白されている。あれ誰だろう。『やったー! マルセル殿下だー』 って妹が喜んでるのが聞こえてくる。 あれ妹? 妹はマリアだけなはずなのに。 そう思って俺はハッとする。これ、そうか夢か。妹の髪の毛が黒いし。 俺、こんな場面見た記憶ないけどな。 妹はエンディング画面見ながら嬉しそうだった。『殿下ってヒロインと従兄じゃねえの?』 そう俺が言うと、妹は強い口調で言いかえしてくる。『従兄弟でもいいの! だってかっこいいじゃない。先生もよかったけど、ちょっと年上すぎるのよね。次はエドアルド狙うんだー』 エドアルドって名前を聞いてびっくりして、そこで俺は目を覚ました。 室内はカーテンが閉じられていて薄暗い。 でも目の前にあるエドの顔はすぐにわかった。まだエドは眠っているみたいで、目を閉じて寝息を立てている。 エドアルドも攻略対象、だもんな。でも。 俺はエドにしがみ付く。 エドは俺のものだ。たとえ妹でも渡したくない。「……ルカ……?」 寝ぼけた声が聞こえたかと思うと、エドが俺の事、抱きしめてくれる。 俺もエドも裸なんだけど、すっげー温かい。「エド……大好き」 言いながら俺はエドの胸に顔を埋める。「ルカ、そんなことされたらまたしたくなる」 そう言ったかと思うと、エド
Last Updated: 2026-02-26
Chapter: 88 いっぱい穢して? エドのペニスがゆっくりと中に入ってくるのを感じ、俺は大きく息を吐く。「あぁ……」「久しぶりだとナカ、きついね」「ひ、あ……そこ、気持ちいい」 先端が前立腺を押しつぶすように入ってきて、奥へと到達したのがわかる。 「奥までついたよ、ルカ。わかる?」「わ……わかる、エド、奥気持ちいい!」 声を上げて俺は自分から腰を振った。 するとグチュグチュって音がして、ナカを抉られてすっげーイイ。エドが動くとそこからビリビリって快楽が生まれて背中を這い上がっていく。 腰揺れちゃう。身体動かすと、シーツで乳首が擦れてそれも気持ちいい。 エドは浅いところから奥まで一気に貫いて、俺の身体がビクン、って大きく震えた。「ルカのナカ、何回抱いてもきついよね」「ひ、あ、あ、あ」 そうなのかな、全然俺には分かんねえけど、ナカがエドのでいっぱいっていうのはわかる。 エドの動きに合わせて腰だけじゃなくってナカまで動いてるみたいだ。 もうイきたい。俺のペニス、パンパンになってて熱が中でうねってる。 それを察したのかエドが無茶なことを言い出す。「ねえルカ。出さないでイってね。ほら、練習したでしょ」「え、あ……そんな、う、あぁ!」 確かに、何回かエドにペニスをリボンで縛られて精液出さないでイく練習したけど、リボンなしじゃあシたことない。 そんなのできるのかよ? だめだ。マグマみたいに今にも精液、噴き出しそうだ。「う、あ、あ、あ」 出さないでってどうしたらいいんだよ。わかんねえよ。「もし出したらお仕置きするかも。ルカにとってはそのほうがいいかもだけど」「え、あぁ!」 お仕置きってなんだろう。そう思ったらビクビクってペニスが震えて、びゅうっと精液が飛び出してしまった。「あぁ……」 やばい、出ちゃった。一度射精が始まったら止められない。 エドは俺の腰を掴んだまま、笑いを含んだ声で言った。「もうイっちゃったの? 早すぎるよ、ルカ」「だってぇ……エドのペニス気持ち良すぎるからぁ……」 言いながら俺は腰をみだらに揺らす。 お仕置きって何かな。もっと俺、ナカ抉って気持ちよくなりたい。 エドは一度俺のナカから引き抜くと、背中をつーっと指先で撫でた。「じゃあお仕置き、しないとね」 その言葉に俺の心臓は大きな音をたてた。 エドは俺に仰向けで寝転がるよ
Last Updated: 2026-02-25
Chapter: 87 重なり合う お風呂の中でたくさん甘い時間を過ごした後、俺たちは部屋に戻る。 ベッドに仰向けで横たわる俺に覆いかぶさったエドは、俺に口づけて熱い視線を向けた。「愛してるよ、ルカ」「エド、俺も大好き」 甘い声で答えて、俺はエドの首に腕を絡めてキスをねだった。 唇が重なって、どちらからともなく舌を出す。 びちゃり、と絡まる唾液の音に俺はもっと欲しくなってきてしまう。「エド……エド……」 キスの合間に名前を呼ぶと、エドは俺と舌を絡めながらぷっくりとぷっくりと膨らんでいる胸に触れた。 するとそこからビリビリって電気みたいな甘い痺れがひろがる。すぐに俺の身体は反応をして、ペニスが脈打っているような気がした。 あぁ、気持ちいい。「ンあ……エド……エド……」 唇が離れて、エドは俺の首に顔を埋めてそこをぺろぺろって舐めた。「ひ、あっ」 俺は力を抜いて、エドに与えられる快楽に身をゆだねる。 さっきお風呂に入る時、鏡を見たけど俺の身体、キスマークですごいことになっていた。 本当に刻印みたいで、ちょっと驚いたけど嬉しかった。俺、超エドに愛されているんだってわかって嬉しかったから。 エドはキスマークの上にさらなる痕をつけるように口づけてくれる。 チュウって音が聞こえてきて、俺は思わず腰を浮かせた。「あ……エド、もっとちょーだい?」「うん、いっぱい愛してあげる。だってルカの誕生日だもんね」 笑いを含んだ声で言って、エドは俺の身体にキスの雨を降らせた。 ぷっくりと膨らんだ乳首を摘ままれると、ビリビリと快楽がそこから全身に走っていく。「胸、きもちいい」「ここにピアス、つけられそうだよね。あぁ、いいなぁ。想像したらゾクゾクしてきた」 嬉しそうに言うエド。乳首にピアス? ピアスってこの国にもあるんだ。 想像してみたけど卑猥すぎる。乳首にピアスつけて……それ引っ張られたらどうなるんだろ。 やばい、考えてたら身体がもっと熱くなってくる。 腰を揺らすと、エドは面白そうに言った。「あれ、何を考えてるの?」「う、あ……ピアス、つけられてその……」 そこで俺は言い淀んで目をそらしてしまう。 するとエドは、俺の乳首をくにくにと指でつまんで言った。「そんなこと考えてるん? ルカはすごいエッチだね」「ひ、あ……そ、そんなことな……あぁ!」 乳首をぎゅって
Last Updated: 2026-02-24
Chapter: 52 絡め取られていく 殿下の誕生日の祝宴を終え、年末がやってくる。 宮廷内は慌ただしく正月の準備を進めていた。 その後、あのリン、という女官との接触はない。 彼女は皇帝陛下が住まう宮殿を中心に仕事をしているらしくを合わせるような機会がない。 見かけたところで気が付くか、と言われると微妙だが。見た目が特徴的ではないし。 その女官が皇帝陛下に仕えているため、殿下と面識があったから殿下は名前を覚えていたようだが。そうでなければ、印象にも残らないだろう。 私だってもう一度すれ違ったとして気が付くかといわれたらあまり自信はなかった。 祝宴から二週間近くが過ぎたある夜、湯を浴びたあとの習慣となった殿下とのお茶の時間。 隣に座る殿下は私に向かって言った。 「その後、例の女官の接触はないんですか?」「えぇ、とくには。そもそも私は陛下の住まう宮殿に行くことはそうそうないですから」 淡々と答え、私は湯気を上げる湯呑を手にする。 北の国から取り寄せた、というお茶はかぐわしい香りを漂わせている。「というと、父とも顔を合わせていないのですか?」 父、という言葉に一瞬私は手を止めてしまうが、なるべく平静を装い殿下の方を向き答えた。「えぇ、お会いしておりません。呼出もありませんし」 その言葉を聞いた殿下は心底安心した様な顔になる。 そんな顔を見せるのもどうかと思うが、殿下は心底皇帝陛下のことを毛嫌いしているようだ。「それならよかったです。父は……そもそも後宮があるのに方々に浮名を流していて、僕には理解できないです」 顔を歪めて殿下は言い、湯呑を握りしめてぐい、とそれを飲む。 ここ、殿下の私邸にいても皇帝陛下の女遊びの噂は尽きず、しょっちゅう耳にする。 どこの商人のお嬢さんと密会をしているとか、大臣の娘と懇意だとか。人妻を連れ込んでいるだとか。日頃の行いがおこないなので、どの話も本当のことのようにしか聞こえず、噂は広がっていくばかりだ。 私だってそんな女のひとりだった。その事を思うと私は殿下が抱く嫌悪感に何も言葉にできず、ただ黙ってお茶を飲むことしかできなかった。「このまま何も起きなければいいですが」 と言い、殿下は私の膝にそっと、手を置く。 殿下は最近、こういった接触を私にしてくる。 最初は驚いていたが最近は慣れてしまい、私は湯呑を机に置いてその手に自分の手
Last Updated: 2026-03-03
Chapter: 51 目撃者といもけんぴ 私の呟きに殿下は肩をすくめて苦笑を浮かべる。「それは難しいかと思います。だってもし犯人に気が付かれたら命が危ないですし。この話だって、時間が経ったから出てきたのだろうと思うので」「そうですよね……そう思うと見つけるのは難しいか。でも、少しずつ話が表に出てくるかもしれませんから噂をたどるのはいいかもしれません。時間が経って、黙っていられなくなってくるでしょうし」 そうなったら敵は何か動き出すかもしれない。 殿下の私邸に忍び込むようなことはしないだろう、とは思う。なぜならこの私邸に出入りできる女官は限られているし、知らない顔があれば目立つからだ。それ以外にここに入れる女性は、殿下の母上くらいだろう。護衛の兵も自由に出入りすることはできないのだから。 そうなると、この中は安全と思って大丈夫だろうか。いや、ここに出入りする女官たちから鍵を奪われたら最後か。直接殿下を手にかけるような、愚かなことはしないと思いたいが。 そう思い、私は湯呑に手を伸ばした。 殿下も湯呑を手にし、不安げに瞳を揺らして言った。「あの、リンさんは事件に関わりがあるんでしょうか」「私を睨み付けていたのは事実です。私と彼女に何の接点もありませんから、あるとすれば殿下との関わりしかないかなと思います」 そう答えて私はお茶を飲む。香ばしい香りのお茶で、身体が温かくなる感じがした。「あの時のお茶、何か仕込まれていたんでしょうか」 呟き、殿下は湯呑の中を見つめている。 それは確かめようがなかったのでわからないが、どうだろう。あの状況で何か仕込んだら彼女は疑われるだろう。誰でも何かを仕込める状況でもあったからそうでもない、だろうか。 殿下の言葉に私は何も答えられず、黙ってお茶をぐい、と飲んだ。 殿下は何かを思いついたのか、ばっと顔を上げて微笑み言った。「もし仕込まれていたら、シュエファさんのお陰で危機を避けられたことになりますよね」「あぁ、そう、なりますね」 仕込まれていたら、の話だが。私は湯呑を置き、殿下が用意してくれたお菓子に手を伸ばす。今日のおやつはいもけんぴだった。甘い香りがわずかにしてくる。 殿下は湯呑を置き、お菓子を摘まんだ私の手を両手でそっと握ってきた。 驚く私に、殿下は頬を赤らめて言った。「ありがとうございます、シュエファさん」「え、あ……いいえ。あの、
Last Updated: 2026-03-02
Chapter: 50 不審な人物 朝食の後、殿下は今日一日、私邸の中で過ごすというので私は自室に下がり女官たちの資料に目を通した。 昨日、私を睨んできたあの女官。確か殿下は、リン、と呼んでいた。 年代は多分三十歳前後。同じ名字の名前は何人もいたが、その世代の女官は数人しかいなかった。 そして、巳の家の推薦、となるとひとりだけだ。 |林 氷蘭《リン ビンジャン》。年齢は三十二歳か。たぶんあの時お茶を運んできたのはこの女性だろう。 二十歳ごろに女官となって一度やめ、二年ほど前に戻ってきたらしい。 学校を卒業した後しばらく働いて、結婚や出産で辞めてまた復帰するのは普通なのでそれは問題ないが。普通は子育てが終わるころに皆戻って来る。三十歳で仕事に復帰するのは少し早いように思う。しかも女官の大半は、宮廷内の寮に住むことになる。小さな子供がいる状況でここで働くことを選ぶのだろうか。 そう思うとなんだか不自然な気がした。「でもまあ、子供を家族に預けて、ということもなくはないが」 そう呟き、私は机の上の湯呑に手を伸ばした。 子供がいるのか、ということまでは書かれていないが、夫はいるらしい。 疑わしい、と思ったら何もかもが怪しく見えてくる。 「昨日の祝宴から、動きがあればいいけれど」 そう呟くが、その動き、というものが誰かの死を伴うとなるとまずい。 私を襲ってくれた方が嬉しいのだが。 そう思ってお茶を飲み、私は資料を見つめる。「なかなか尻尾を出してくれないね」 そう呟き私は資料にある名前を撫でた。 その時、扉を叩く音がした。「シュエファさん、あのお話があるんですが」 殿下の声がして私はびくっと震えてしまい、頭の中に今朝の出来事がよぎる。 話、というのはきっと昨日のことだろう。昨日の今日で何か情報を得たとは思えないが。 いや、女官たちがなにか噂していたような気がするから、彼女たちから何か聞きだしたのかもしれない。 私は慌てて立ち上がり、扉へと近づきそっと、それを開く。 廊下に立つ殿下は、私の顔を見てぱっと、嬉しそうな顔になる。「あの、昨日の女官の事なのですが」 と言い、辺りをちらっと見まわす。 もちろんここには誰もいない。掃除はすでに終わっているし、用がなければ二階に女官たちは上がってこないのだから。「話をしたいのですが女官たちに聞かれたらまずいし、どうしよ
Last Updated: 2026-02-28
Chapter: 49 ひとりの部屋で 殿下の部屋の前を離れて自室に入り、私は勢いよく寝台に寝転がった。 疲れた。 殿下の誕生日の祝宴。怪しい女官。殿下のおじい様の言葉。陛下の執着。そして―― 私は自分の唇をそっと指先で撫でる。 先ほどの殿下は、普段とは別人のようだった。 まるで肉食獣のような目で私を見つめていたが、あれが殿下の本質なのか? 陛下とはまるで違う、と思っていたがその本質は同じなのかもしれない。 私は、殿下の何を見てきたのだろう。 私は今まで皇帝陛下と何度も身体を重ねてきた。それは私が望んでのことだし、愛人であり遊びであることも理解していた。 なのに私は殿下と過ごすようになってから陛下から心が離れ、以前のようなときめきはなくなってしまった。 そして殿下の行動、言動に心を揺り動かされている。 私は仰向けに寝転がり、天井を見つめる。 「私らしくないだろう」 年下の殿下に振り回されるなんて。 自分で自分の感情がよくわからない。 けれど。殿下に口づけられて、私は拒否できなかった。「嫌では……なかったしな」 そう呟き、私は大きく息を吐く。 皇帝陛下との情事は嫌で仕方なかったのに。私の心はすでに殿下の所にあるのだろうな。そう自覚すると、一気に全身の体温が上がるような気がした。 陛下と関係を持ったうえで殿下とも? いや、それは私の倫理観が許さない。あってはならないだろう。 いくら殿下に皇帝陛下との関係がばれてしまっているとはいえ、ダメだ。そんなのは。 そう自分に言い聞かせて私は寝返りを打ち、扉の方を見つめた。 殿下と同じ屋敷の中。男女が同じ屋根の下、というのは本来ならよくないのだろうが。男が極端に少ないこの国ではありうることだ。そんなことを気にしていたら、護衛などできないのだから。 今、その事が完全に裏目に出ている。 もう私は、この檻から出られることはないのだろうな。 ならば、腹をくくるしかないだろうが。 今私がしなくてはいけないのは犯人探しだ。 恋にうつつを抜かしている場合ではない。 そう自分に言い聞かせて、私は目を閉じた。 疲れていたからだろう。あっという間に私は夢の世界へと旅立った。 翌朝。 朝の見回りをした後私邸へと戻ると、朝食のいい匂いが漂ってきた。 女官が朝食を作ってくれているのだろう。 食堂へと向かうとそこには誰の姿もな
Last Updated: 2026-02-27
Chapter: 48 逃げるように このままではまずい。 そう思い私は口付けの合間に殿下に向かって言った。「お、お戯れは止めてください」「……僕は本気ですよ、シュエファさん」 愛おしそうに目を細めて言い、殿下は触れるだけの口づけを繰り返す。 なんてもどかしいんだろう。 少し前に、皇帝陛下と情事を重ねたあとの私には物足りなさすぎる。 けれどそんなこと口にできるわけがない。 どうやってこの状況を乗り切るのか、その考えで頭の中はいっぱいになっていた。 だが何もまとまらない。私が本気になればこの場から逃げ出すのはたやすい。だがそんなことをしたら殿下を傷つけてしまうだろう。 身体も、心も。 そう思うと動けなかった。 満足したのか、唇を離した殿下は熱い視線で私を見つめてくる。 そんな殿下に私は、震える声で言った。 「殿下……」「ツァロン、ですよ、シュエファさん」 言いながら彼は私の唇をそっと、指先で撫でる。 そう言われても、名前でなど呼べるわけがない。私は殿下の護衛、なのだから。 私はそんな殿下の手首をそっと掴み、首を振り絞り出すような声で言う。「もう遅いです。お休みになられた方がいいですよ」 これでなんとかこの場をやり過ごしたい。 殿下はにこり、と笑い、「そうですね。では一緒に行きましょう」 と告げ、立ち上がり私に手を差し出した。 その手を拒絶できるわけがなく、私は仕方なくその手を掴む。 立ち上がった私を満足げに見つめ、「行きましょう」 と言い、私の手を掴んだまま歩き出した。 掴まれた手の力は強く、簡単に振り払えそうにない。 まさかこのまま寝所に私を……? そんな考えが頭をよぎるが、そんなはずない、とすぐに否定する。 けれど私の心臓は確実に早鐘をうち、私の頭の中は殿下から逃げる方法を考えるのでいっぱいだった。 だがどう考えても無理だ。そもそも、殺人事件が起き、殿下の私邸に住む、と言い出したのは私ではないか。 今さら逃げられるわけがない。 どうか、このあと何も起きませんように。 私はそう、守護獣に祈り殿下に連れられて階段を上った。 廊下に着き、そのまま殿下は私室へと向かう。その間も殿下は私の手を離そうとはしなかった。 そして、殿下の部屋の前に着く。 このまま私を解放してほしい。そう願う私に、殿下は振り返り言った。「ねえシュエファさ
Last Updated: 2026-02-26
Chapter: 47 口づけ 湯を浴びて廊下に出ると、案の定殿下が現れ濡れた瞳で私を見つめた。「あの、シュエファさん」 震える声が響き、私の胸に痛みが走る。今、私は殿下の顔をまともに見られない。「はい」 そう短く返事をして私は殿下から視線を外してしまう。 風呂場で確認したが、胸などに陛下の痕がついていた。ということは首にもなにか痕跡が残されているかもしれない。 そう思うと気が気ではなかった。「あの、お茶を用意してあるんですが」 やはりそうなるか。 もちろん断れるはずがなく、私は諦めて顔を上げ、力なく笑った。「ありがとうございます」 礼を告げて私は殿下の後について居間へと入った。 温かな部屋。机の上に並べられた、ふたつの湯呑。それはどちらもいつも殿下が座る長椅子の前に置かれている。 それを見て私は違和感を覚えたものの、当たり前のように殿下が隣を示して、「座ってください」 と言うので仕方なく従った。 私は湯呑を手にし、殿下の方に目を向ける。「お疲れではないのですか?」「あはは、そうですね。でも大丈夫です」 と、疲れた顔で答えて湯呑に口をつけた。 その様子を見て私は、胸にざわめきを感じながら「ご無理はなさらないでください」 と声をかける。 すると殿下は私の方を向いて、「ありがとうございます」 と屈託なく笑った。 その様子を見て私は陛下との違いに戸惑ってしまう。 本当に血の繋がりがあるのか、と疑わしくなるほど殿下は穢れを知らない、真っ白な存在に見える。 絶対に、私と陛下との関係を、殿下に知られてはならない。 隣にいればいるほど苦しくなってきてしまう。 早くこの場を離れなければ。 私は一気にお茶を半分飲み、大きく息をついた。「ねえシュエファさん」 耳に絡みつくような甘い声が聞こえ、私はハッとする。 驚いて殿下の方を見ると、いつの間にか湯呑を机に置いた殿下が私の方にすっと、手を伸ばしてきた。 その手が頬に触れて、顔が近づいてくる。私は殿下から目を離さず湯呑をゆっくりと、机の上に置いた。 これから何が起きるのか。考えると胃の底が冷えるような気がした。 そして、先ほどまでの不安げな顔とは違う、真面目な顔になって言った。「どこで何をしていたんですか?」 静かに、低く響く声に私は内心戸惑ってしまう。「何を、というのは……」 言いな
Last Updated: 2026-02-25