LOGIN男が生まれにくい国、龍虎帝国。古代から十二支の守護獣に選ばれた十二家が国を統べてきた。皇太子の蒼龍(ツァロン)は、十八歳。二十歳で後宮を持たなければならないが、父、黒虎(フーヘイ)皇帝の放蕩に嫌悪感を抱いていた。 ある日、蒼龍の侍女の遺体が発見される。まるで蒼龍に見せつけるかのように。宮殿内は騒動となる。誰かが皇太子の、皇帝の命を狙っているのではと。皇帝には隠し子が何人もいると言われていて、その中の誰かが皇太子の、皇帝の地位を狙い暗躍を始めていた。蒼龍の護衛を命じられた騎士団団長、紅雪華(ホ・シュエファ)は犯人捜しを始めるが嘘と野心が渦巻き誰が裏で糸を引いているのか見当もつかない。 再び、皇太子に近い人物が殺され、蒼龍も実際に狙われ始める。そんななか、蒼龍は自分を命をかけて守る雪華に心を寄せ始める。 雪華もまた、皇帝への忠誠と恋の狭間に揺れ動く。雪華は皇帝の寵愛を受けていた。そのため皇帝は皇太子と雪華の関係にいら立ちを覚える。 いったい誰が蒼龍を狙っているのか。何人もいる皇帝の隠し子の中に真相はあるのか。陰謀渦巻く後宮で起きる中華恋愛ファンタジー×ミステリー
View More美しい皇帝のもとで、ひそかに血と陰謀にまみれた事件が起きていた。
ここは、龍虎帝国の宮殿内にある女官たちの寮。 私、このままではまずい。 そう思い私は口付けの合間に殿下に向かって言った。「お、お戯れは止めてください」「……僕は本気ですよ、シュエファさん」 愛おしそうに目を細めて言い、殿下は触れるだけの口づけを繰り返す。 なんてもどかしいんだろう。 少し前に、皇帝陛下と情事を重ねたあとの私には物足りなさすぎる。 けれどそんなこと口にできるわけがない。 どうやってこの状況を乗り切るのか、その考えで頭の中はいっぱいになっていた。 だが何もまとまらない。私が本気になればこの場から逃げ出すのはたやすい。だがそんなことをしたら殿下を傷つけてしまうだろう。 身体も、心も。 そう思うと動けなかった。 満足したのか、唇を離した殿下は熱い視線で私を見つめてくる。 そんな殿下に私は、震える声で言った。 「殿下……」「ツァロン、ですよ、シュエファさん」 言いながら彼は私の唇をそっと、指先で撫でる。 そう言われても、名前でなど呼べるわけがない。私は殿下の護衛、なのだから。 私はそんな殿下の手首をそっと掴み、首を振り絞り出すような声で言う。「もう遅いです。お休みになられた方がいいですよ」 これでなんとかこの場をやり過ごしたい。 殿下はにこり、と笑い、「そうですね。では一緒に行きましょう」 と告げ、立ち上がり私に手を差し出した。 その手を拒絶できるわけがなく、私は仕方なくその手を掴む。 立ち上がった私を満足げに見つめ、「行きましょう」 と言い、私の手を掴んだまま歩き出した。 掴まれた手の力は強く、簡単に振り払えそうにない。 まさかこのまま寝所に私を……? そんな考えが頭をよぎるが、そんなはずない、とすぐに否定する。 けれど私の心臓は確実に早鐘をうち、私の頭の中は殿下から逃げる方法を考えるのでいっぱいだった。 だがどう考えても無理だ。そもそも、殺人事件が起き、殿下の私邸に住む、と言い出したのは私ではないか。 今さら逃げられるわけがない。 どうか、このあと何も起きませんように。 私はそう、守護獣に祈り殿下に連れられて階段を上った。 廊下に着き、そのまま殿下は私室へと向かう。その間も殿下は私の手を離そうとはしなかった。 そして、殿下の部屋の前に着く。 このまま私を解放してほしい。そう願う私に、殿下は振り返り言った。「ねえシュエファさ
湯を浴びて廊下に出ると、案の定殿下が現れ濡れた瞳で私を見つめた。「あの、シュエファさん」 震える声が響き、私の胸に痛みが走る。今、私は殿下の顔をまともに見られない。「はい」 そう短く返事をして私は殿下から視線を外してしまう。 風呂場で確認したが、胸などに陛下の痕がついていた。ということは首にもなにか痕跡が残されているかもしれない。 そう思うと気が気ではなかった。「あの、お茶を用意してあるんですが」 やはりそうなるか。 もちろん断れるはずがなく、私は諦めて顔を上げ、力なく笑った。「ありがとうございます」 礼を告げて私は殿下の後について居間へと入った。 温かな部屋。机の上に並べられた、ふたつの湯呑。それはどちらもいつも殿下が座る長椅子の前に置かれている。 それを見て私は違和感を覚えたものの、当たり前のように殿下が隣を示して、「座ってください」 と言うので仕方なく従った。 私は湯呑を手にし、殿下の方に目を向ける。「お疲れではないのですか?」「あはは、そうですね。でも大丈夫です」 と、疲れた顔で答えて湯呑に口をつけた。 その様子を見て私は、胸にざわめきを感じながら「ご無理はなさらないでください」 と声をかける。 すると殿下は私の方を向いて、「ありがとうございます」 と屈託なく笑った。 その様子を見て私は陛下との違いに戸惑ってしまう。 本当に血の繋がりがあるのか、と疑わしくなるほど殿下は穢れを知らない、真っ白な存在に見える。 絶対に、私と陛下との関係を、殿下に知られてはならない。 隣にいればいるほど苦しくなってきてしまう。 早くこの場を離れなければ。 私は一気にお茶を半分飲み、大きく息をついた。「ねえシュエファさん」 耳に絡みつくような甘い声が聞こえ、私はハッとする。 驚いて殿下の方を見ると、いつの間にか湯呑を机に置いた殿下が私の方にすっと、手を伸ばしてきた。 その手が頬に触れて、顔が近づいてくる。私は殿下から目を離さず湯呑をゆっくりと、机の上に置いた。 これから何が起きるのか。考えると胃の底が冷えるような気がした。 そして、先ほどまでの不安げな顔とは違う、真面目な顔になって言った。「どこで何をしていたんですか?」 静かに、低く響く声に私は内心戸惑ってしまう。「何を、というのは……」 言いな
香の匂いだろう。独特の、甘い匂いが部屋から溢れてくる。 扉を閉めて私は薄暗い室内へと目を向けると、長椅子に腰かけて黒い切子を手にゆったりと座る皇帝陛下の姿が目に入った。 深紅の寝間着を着て胸元がはだけて見える。 室内は暖かく過ごしやすい。 陛下は私の方を見ると、にやりと笑い切子をこちらに向けて言った。「こちらに来い、シュエファ」 私は頷いて答え、外套を脱ぎ陛下が座る長椅子に近づく。 そして外套を腕に抱えたまま、すっと立ち陛下に向かって言った。「お呼び出しに応じ、参上いたしました」 私の言葉を聞き、陛下は声を上げて笑った。「ははは。ずいぶんと硬い挨拶だな、シュエファ。ツァロンについてからずいぶんと変わったようだな」 そして陛下は切子を口につけてぐい、とその中身を飲むとそれを机に置き、私の方を見上げる。 陛下の言う通り私は変わってしまったと思う。 以前なら、私はこの部屋に入った瞬間、騎士の顔を捨てて女になっていた。 けれど今、私はツァロン殿下の護衛、という顔を捨てられないでいる。 もしその顔を外してしまったらきっと、私は自分が崩れてしまいそうで怖かった。 殿下は、私が戻るのが遅くなればきっと心配するだろう。 万が一私を捜しにここに来るようなことがあったらまずい。 そう思い私はどうやってこの場を乗り切るか考えた。「シュエファ」 威圧的な声で名前を呼ばれたかと思うと、腕を掴まれそのまま引っ張られてしまう。「あ」 陛下は私の身体を抱き留めると、有無も言わさず唇を重ねてきた。 抵抗せず、私は仕方なくそれを受け入れる。 舌が口の中を蠢き、気持ち悪さを感じながら私は何とか耐えた。 唇が離れて息をつくと、陛下が目を細めて私を見つめる。 その目が異様に怖く感じて、胃の腑が冷える思いがした。「シュエファ」「はい」「お前は俺のものだ」 その言葉に私は嬉しさを感じなくなっていた。 陛下の寵愛が嬉しかったはずなのに、私の心はすでにここにはないんだな。その事を思い知らされてしまう。 私はなんとか言葉を紡いだ。「陛下、私は騎士です。この命、この身体、すべて陛下に捧げております」「そうだろうな、シュエファ」 そう答えた陛下はなんだか怒っているように見えた。 こんなにおそろしい人だっただろうか。気高く美しい皇帝陛下だと思ってい
この胸の痛みは何だろうか。 そう思いつつ私は気弱そうな顔をしている殿下を見る。 先ほどまで招待客たちの前で凛と対応していた姿からは遠い姿だな。 ずっと気を張っていたのだろうか。 役割を演じなければいけない殿下。そう思うと心がすこしばかり痛くなる。 私が後宮に入る、ということは私は殿下と…… あらぬ想像をしてしまい、私は殿下から目をそらした。まだ後宮に入る、とは決めていないじゃないか。 そもそも私に、殿下の後宮に入る資格などないのだから。 私は皇帝陛下の寵愛を受けてきた。そんな私が殿下に愛されるなんてあってはならないだろう。 そう自分に言い聞かせて、私はゆっくりと立ち上がる。「シュエファさん」「は、はい、何でしょうか」 殿下は私を見上げ、ふっと笑い言った。「あの……その着物、本当に似合っています。貴方に贈ってよかったです」「あ……ありがとうございます」 言いながら私は自分の姿を改めて見る。 殿下に送っていただいた紺地の着物。陛下の前に行くならこれを着替えなければ。 汚されたくはないし。 私は殿下の前にひざまずき、その手を取って言った。「殿下、お誕生日おめでとうございます。あと一年、無事過ごせますように」 すると殿下は一瞬驚いた顔をした後複雑な表情を見せる。 そのあとぎこちなく笑い、「ありがとうございます、シュエファさん」 そう告げて、殿下は私の手をそっと握った。 私は立ち上がり、外へと目を向ける。「殿下、私は着替えをして外の見回りをしてまいりますので……お早めにお休みください」「そう、ですね。疲れましたし」 そう答えて殿下はすっと立ち上がる。 その時、殿下の身体がふらっと揺れ、私はとっさに手を出した。「あ……」 がしり、と身体を抱き留めると、殿下は苦笑して私を見上げた。「すみません。やはりお酒はほどほどにすべきですね」 と言い、私の身体にしがみ付く。 あまり酔っているようなら湯を浴びない方がいいかもしれないが、大丈夫だろうか。 私は殿下を抱き締めて尋ねた。「そのまま部屋に戻られますか?」「いいや、大丈夫。お風呂に入らないとちょっと気持ちが悪いし」 そう答えて笑う。 ならばこのまま風呂場まで送っていくか。「では参りましょう」「すみません、お手間ばかりかけてしまい」 そう情けなさそうに言