カンタレラ〜毒公爵の甘い愛に溺れる〜

カンタレラ〜毒公爵の甘い愛に溺れる〜

last updateLast Updated : 2026-01-04
By:  あさじなぎUpdated just now
Language: Japanese
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日本の大学生である俺は気がついたら乙女ゲームのヒロインの兄になっていた。 どうしたら元の世界に戻れるんだよ? なにもわかんねーまま、俺は攻略対象のひとりであるエドアルドに出会う。あれ、なんでこいつ俺のことこんな構ってくるんだ? 気がついたら俺、ヒロインの攻略対象に執着されてるんだけど?

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Chapter 1

1 異世界転生?

 嗅いだことのない匂いを感じ、ゆっくりと意識が浮上する。

 目を開くと見たことのない天井が目に入った。

 あれ、うちの天井じゃない。

 俺が住んでいるのは一DKのアパートだぞ。

 こんな茶色の天井なんかじゃないし、こんなに高くもない。

 俺は身体を起こして辺りを見回し、事態を把握しようとする。

 なんだここ。スゲー広い。俺の部屋の四倍はありそうだ。

 広いベッドにクローゼット、大きなソファーにテーブルに……って、明らかに俺の部屋じゃない。

 俺は春野京佑はるの きょうすけ。日本人で、大学二年生だ。

 実家を出てアパートでひとり暮らし。

 だけどここは絶対アパートじゃない。どこかのホテルのスイートルームみたいだ。

 俺はベッドから起き上がり、ふらふらと窓に歩み寄る。

 カーテンを開いて外を見ると、広い中庭が目に入った。

 そして、高い城壁……

 どういうことだよ、ここ、もしかして日本じゃない?

 もちろん俺の部屋でもない。

 鏡、鏡ねえか?

 きょろきょろと辺りを見回して俺は、鏡台を見つけそこに走り寄った。

「……!」

 そこに映っていたのは、緑がかった金髪に緑色の瞳をした知らない男だった。

 誰これ。

 そう思いながら俺は顔に触れて頬を引っ張る。

 痛い。ってことは夢じゃない?

 どういうことだよ。

 戸惑っていると、扉を叩く音がした。

 はっとして振り返ると、勝手に唇が動いた。

「どうぞ」

「失礼いたします」

 聞き覚えのない男の声に続いて、扉が開く。

 入って来たのは黒いスーツ姿の若い青年だった。

 って誰? そう思うのに勝手に口が動く。

「レオ」

 彼はレオ。俺の侍従だ。

 俺はルカ=パルッツィ。国王の弟の子供だってつい最近知った。俺は親の出自なんて何にも知らず、両親が死んだあとに国王の使いが現れて、ここに引き取られたんだ。

 ちょっとまて、俺はなんでそんなこと知ってるんだ?

 ここは……そうだ、アラミラ王国だ。

 待て、これ、聞き覚えあるぞ。

 妹がやっていたゲームじゃね? なんか誕生日のプレゼントに欲しいって言ってて、親に頼まれて買いに行ったんだ。

 その時、どんなゲームか調べたからなんか覚えてるぞ。

 確か親がアルミラ王国国王の弟であると知って王宮に引き取られたヒロインが、王族や貴族、騎士と恋愛する話だったと思う。

 なんでろくに知りもしないゲームの中に迷い込んでるんだ?

 つうかあのヒロイン、兄弟なんていたの?

 戸惑いを感じるのに俺の身体は勝手に動いてしまう。

 俺は鏡台の前を離れて、レオに向かって歩き出した。

「お食事の用意ができております」

「わかった。準備が出来たら行くから」

 準備ってなんだよ。

 そう思いながら俺は、部屋に備え付けられている洗面台へと向かった。

 本来なら朝の準備を侍従が手伝ってくれるけど、俺はその全てを断った。

 二十歳にもなって人に手伝ってもらうのは恥ずかしすぎるからだ。

 外で待ってくれればいいのに、金髪の侍従、レオは扉の前で控えている。

 気まずいと思いながら俺は、寝間着を脱いで着替えをした。

 黒のズボンに、白い半そでシャツ。それに黒いベストを着る。

 身体はずっと勝手に動いて、準備が済んだ俺はレオに連れられて部屋を出て食堂に向かった。

 なんだよこれ。俺の身体なのに、俺の身体じゃない。俺の意識は確かにある。なのに俺じゃない意識が勝手に身体を動かしていく。

 いったい何が起きてるんだよ。

 そもそも妹がもっていたゲームだぞ。内容なんてロクにしらないのに。どうすれば俺、元の世界に戻れるんだろ?

 俺、春野京佑とルカ、どっちなんだよ……

 どっちでもいいとかねえぞ。

 廊下を歩き階段を下りて着いた先にいたのは、妹のマリアの姿だった。彼女はゲームのパッケージにいたヒロインじゃないか。

 俺と同じ緑がかった金髪の妹は、空色のワンピースを着ている。

 彼女は俺の姿を見ると、ばっと椅子から立ち上がって言った。

「お兄ちゃん!」

 そうマリアが声を上げると、執事の咳ばらいが響く。

 するとマリアは気まずそうな顔をして椅子に座り、

「お、お兄様」

 と、ぎこちない声で俺を呼ぶ。

 マリアと俺は王宮に引き取られて学校に通っている。

 マリアはいわゆる高校一年生で、俺は大学の二年生だ。

 貴族や王族でも大学まで通い、学校生活を送らせるのが常識らしい。

 マリアはそこで色んな人たちと出会い特定の相手を攻略していくとかそんなゲームなんじゃなかったっけ。

 大学も同じ構内にあるからか、攻略対象は同級生のみならず大学生である他の貴族も含まれるとかあったような。

 で、俺の役割何?

 そう思いながら俺は、マリアに朝の挨拶をして椅子に腰かけた。

 ここは王宮の離宮のひとつで、俺とマリアに与えられた家だ。

 俺たちの両親が死んだのを知った国王が、王族をいつまでも田舎に住まわせておくわけにはいかないし、暗殺の恐れがあると心配して俺たちを引き取ることにしたらしい。

 暗殺っていうのがすげえ物騒に聞こえるけど、王族であれば常に暗殺の可能性を考えるものだと、最初王に謁見した時に言われた。

 そもそも俺の両親も暗殺された可能性があると、その時知った。

 両親は山の土砂崩れに巻き込まれて死んだ。

 前々から危ないとは言われていた場所で、工事をしようとしていた矢先だったと。

 両親が死に、俺たちはふたりきりになって途方に暮れていた。そこに王の使いがやってきたんだ。

 そこで俺たちは初めて父親が王族であることを知ったんだ。

 父親は何にも話さなかったから、俺たちは何も知らなかった。

 その記憶は俺の中に確実にあるのに、春野京佑として日本で生きていた記憶もある。

 どっちが本当の俺なんだ……?

 とにかく俺は、今の状況を把握しねえと。

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1 異世界転生?
 嗅いだことのない匂いを感じ、ゆっくりと意識が浮上する。 目を開くと見たことのない天井が目に入った。 あれ、うちの天井じゃない。 俺が住んでいるのは一DKのアパートだぞ。 こんな茶色の天井なんかじゃないし、こんなに高くもない。 俺は身体を起こして辺りを見回し、事態を把握しようとする。 なんだここ。スゲー広い。俺の部屋の四倍はありそうだ。 広いベッドにクローゼット、大きなソファーにテーブルに……って、明らかに俺の部屋じゃない。 俺は春野京佑。日本人で、大学二年生だ。 実家を出てアパートでひとり暮らし。 だけどここは絶対アパートじゃない。どこかのホテルのスイートルームみたいだ。 俺はベッドから起き上がり、ふらふらと窓に歩み寄る。 カーテンを開いて外を見ると、広い中庭が目に入った。 そして、高い城壁…… どういうことだよ、ここ、もしかして日本じゃない? もちろん俺の部屋でもない。 鏡、鏡ねえか? きょろきょろと辺りを見回して俺は、鏡台を見つけそこに走り寄った。「……!」 そこに映っていたのは、緑がかった金髪に緑色の瞳をした知らない男だった。 誰これ。 そう思いながら俺は顔に触れて頬を引っ張る。 痛い。ってことは夢じゃない? どういうことだよ。 戸惑っていると、扉を叩く音がした。 はっとして振り返ると、勝手に唇が動いた。「どうぞ」「失礼いたします」 聞き覚えのない男の声に続いて、扉が開く。 入って来たのは黒いスーツ姿の若い青年だった。 って誰? そう思うのに勝手に口が動く。「レオ」 彼はレオ。俺の侍従だ。 俺はルカ=パルッツィ。国王の弟の子供だってつい最近知った。俺は親の出自なんて何にも知らず、両親が死んだあとに国王の使いが現れて、ここに引き取られたんだ。 ちょっとまて、俺はなんでそんなこと知ってるんだ? ここは……そうだ、アラミラ王国だ。 待て、これ、聞き覚えあるぞ。 妹がやっていたゲームじゃね? なんか誕生日のプレゼントに欲しいって言ってて、親に頼まれて買いに行ったんだ。 その時、どんなゲームか調べたからなんか覚えてるぞ。 確か親がアルミラ王国国王の弟であると知って王宮に引き取られたヒロインが、王族や貴族、騎士と恋愛する話だったと思う。 なんでろくに知りもしないゲー
last updateLast Updated : 2025-11-19
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2 学校へ
 朝食を食べた後、俺たちは学校へと向かう。 マリアが通う高校と俺が通う大学は同じ敷地内にあるため、毎日一緒に登校している。 車で送られ、俺たちは学校に着く。 シエル学院。王族や貴族に最高の教育を、という目的で作られた学校だが、生徒の大半は平民だ。 貴族は年々減少していて、貴族だけを相手にしていたら儲からないから平民も受け入れているらしい。 田舎にいた時、マリアは学校に通っていたけど俺は働いていた。でも王族だから、という理由でこの学校に半ば強制的に放り込まれた。 大学は単位制で、学年はあんまり意味がないらしい。 希望する教室に属し、取りたい授業を好きにとる。 学校で俺はおもいきり浮いていた。 だってずっと行方知れずだった王族の息子で、田舎出身なんて超浮く要素しかねえじゃん? 国王の甥で王子とは従兄弟になるってわけだが、すげー遠巻きにされている。 妹は妹でうまくやっているらしいけど、っていうかそもそもこの物語の主人公だもんな、マリアは。 たぶん攻略対象とされる王子とか騎士見習いとか貴族の子供とかいて、そいつらと仲良くやってんだろうなぁ…… 俺はぼっちなのに。 広い講義室に入り、俺は真ん中あたりの席に座り教科書を出す。 知らない文字で書かれているはずなのに、ちゃんと読めるの不思議だな…… どうやら歴史の講義らしく、教科書には神話の話やら戦争の話が載っている。 俺は転生したのか……? それとも転移? いいや、転移なら姿まで変わらないよな。 じゃあなんだろう……憑依、かな。 俺の意識が、ルカに乗り移ったんかな。 でもなんでだよ? 全然心当たりがない。 昨日、俺はバイトの後自分の部屋に帰って寝たはずなのに…… んで、なんか夜中に揺れたような……? うーん、思い出せない。 悩む俺をよそに、室内はざわめきで包まれている。 聞こえてくるのは色んな噂話。 どの貴族が不倫しているだの、どこの誰が可愛いだの誰と誰が付き合ってるとかそんな話ばかりが聞こえてくる。 他に話題ないのかよ?「カルファーニャ様だ」 誰かが呟く声がして、俺は顔を上げて振り返った。 入り口にいたのは輝く白っぽい金髪に、紫色の瞳の青年。 毒公爵の異名を持つカルファーニャ公爵家の次男、エドアルド=カルファーニャだ。 確か、病気か何かで一年くらい休学していた
last updateLast Updated : 2025-11-19
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3 エドアルド
翌日。 今、アラミラ王国はいわゆる夏にあたるらしくあと三週間もすると夏休みになるそうだ。 その前に前期の試験がある。 ってことは、試験に向けた課題とか出されるんだよな……そう思うと気が重い。 ここゲームの中なんだろ? なんでゲームでも課題に苦しむことになるんだよ。 俺は今日も妹のマリアと一緒に車で登校する。 マリアは制服があり、セーラー服みたいな服を着ているけど、大学生である俺には制服がない。とはいえ服装を考えるのが面倒だから、俺は黒のスラックスに白の半そでシャツ、ベストを着て大学に行っていた。 「……それでね、最近殿下とお話しする機会が増えたの」 学校に向かう車内でマリアがそう言いだした。 殿下っていうのは俺たちの従兄弟で王太子であるマルセル殿下だ。 今年で十八歳になる高校三年生。長めの金髪に青い瞳の優しげな青年だ。 突然現れた従兄弟である俺たちを、暖かく受け入れてくれている。 俺は週に一度、一緒に食事をとる時しか会わないけど、マリアは学校で顔を合わせるんだろう。 「あれ、学校じゃあ殿下って呼ぶの禁止されてるんじゃなかったっけ」 「そうそう。学校では身分は関係ないから、みんな『さん』付けで呼んでるんだけど……マルセルさん、って呼ぶの、さすがに恐れ多くて」 そう言って、マリアは苦笑する。 それはそうだよな。 俺たちがここに引き取られたのは三月。 その前まで王家なんてスゲー遠い存在で、話題に出るとしても様付が当たり前だったもんな。 国王の弟が失踪した話は聞いたことあったけど、まさかそれが父親だとは思わなかった。 「不安だったけど、学校の生徒の大半は私と同じ平民出身だし、友達もできてよかった」 言いながらマリアは笑う。 よかった。 超田舎の庶民でだから、マリアがちゃんと受け入れられるかって心配だったんだ。 「お兄ちゃんはどうなの、大学」 「うえ?」 妹の、大きな緑色の瞳がじっと、俺を見つめる。 「お友達できた?」 できてません。 むしろ浮きまくってます。 そんな事言えず、俺は目を泳がせて呻る。 そこから察したのだろう。マリアは心配そうな顔をして言った。 「大丈夫、苛められてない?」 「そんなことあるわけないだろ」 平民育ちとはいえ、国王の甥にあた
last updateLast Updated : 2025-11-20
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4 後をおって
 教授がやってきて講義が始まる。 俺の前にエドアルドが座っているからどうしても視界に入って、なんだか落ち着かなかった。 王太子ならエドアルドのことをなんか知ってるかな。 ルカの知識の中に、エドアルドの事は何もない。だから今まで接点何にもないんだろうな。 毒公爵だろ? なんでマリアと接点もつんだろうか。 俺はエドアルドの頭を見つめ、頬杖をついて首を傾げた。 講義が終わり、俺は教科書などをバッグにしまう。 なんか前が気になってあんまり集中できなかったなぁ…… そう思いながら立ち上がると、エドアルドが声をかけてきた。「ルカ」 名前を呼ばれて、ビクッとしつつ俺は彼の方を見る。 紫色の瞳は彼にミステリアスな雰囲気を纏わせる。 「な、何」「講義、被ってるものが多いな」「あ、あぁ。そうだな」 言われてみれば、エドアルドの姿を見ることが多い気がする。 ってことは次も一緒とか……? 次は魔術理論だ。ふつうなら一年目で履修するような講義だし、ちげえよな。「次の講義何うけるんだ?」 エドアルドに聞かれ、俺は答えた。「魔術理論だけど」「あれ、お前、何歳なんだ?」 怪訝な顔をして、エドアルドは言った。なんか変に思うところあるのか?「俺は今年で二十歳だよ。お前は?」「今年で二十一だ」 あれ、俺より年上かよ?「なんだ、同い年だと思ってた」「一年休学したからな。だけど魔術理論は履修済みだ」 学年的には二年生、って感じなのかな。俺は一年扱いだから……そりゃ、全部被るはないか。 エドアルドは何かを考えるように下を俯いた後、顔を上げて言った。「猫だけど」 そして彼は、バッグをショルダーバッグを肩にかける。「猫って昨日の」「連れて帰ったら、侍女や侍従が喜んで。それで俺がいない間は皆が見てくれると言ってくれて」 そして彼は恥ずかしげに俺から目をそらす。 こいつ、人に面倒見させるのはって心配していたんだっけ。「よかったじゃないか」 絶対猫好きな侍女や侍従がいるよな。だって猫だし。 するとエドアルドは、なんか嬉しそうな、でも恥ずかしさを隠しきれないような顔になる。「……あぁ……そうだな、お前が言ってくれなかったらあの猫を連れて帰る決意がつかなかった」 と言い、はにかむように笑った。「あの猫にとって何が幸せかなんてわかんないけど、
last updateLast Updated : 2025-11-20
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5 食堂
 俺は笑顔で手を振り、エドアルドに近付く。 「ごめん、待った?」「あ、いいや」 そう答えてエドアルドはぎこちなく笑い首を横に振る。 「じゃあ行こうぜ」 と言い、俺は彼に手を伸ばした。 するとエドアルドは戸惑ったような顔になる。 って、なんで俺、手なんて出してんだ? 自分でも驚いてしまい、俺は出した手を引っ込めて、食堂の入り口を指差した。 「あ、あぁ」 ぎこちなくエドアルドは頷き、俺たちは食堂へと向かって歩き出した。  食堂は、ショッピングモールのフードコートみたいに和食や洋食などで分かれていて、事前に食券を買うスタイルだ。 明らかにファンタジーな世界なのに、こういうところはとても日本ぽいのはゲームの中だからだろうな。 俺たちは食券の販売機のそばにあるメニュー表を見ながら、何を喰うか考えた。 昼休みが始まったばかりなおかげでどこの店も混雑している。 ハンバーグとかオムライスを扱ってる店が一番人気っぽいけど、定食が多い店も人気がある。定食は量が多いのが魅力なんだよな。 麺類やパンの店は女性客が多かった。 ルカの記憶だと俺はよくハンバーグを喰ってるらしい。 そう思うとハンバーグを食べたくなってくる。「エドアルドはいつも何食べんの?」 メニュー表から目を離さず俺は尋ねた。「麺類のローテーションかな。たまにハンバーガーを食べるけど」「あれ、あんまり食わないの?」 二十歳前後なんて超食べるイメージなんだけど。俺なんてそうだし。 言いながらエドアルドの方を見ると、彼は首を横に振った。「そうだな……あまり量は食べないな。麺類なら早く食べられるし、人が多い所はあまり好きじゃないから」「麺類選ぶのってそういう理由?」 俺の問に、エドアルドはこちらを向いて言った。「あぁ。食堂は人が多いからな。普段は食べたらすぐ、図書館にこもってる」 図書館。本がたくさんある場所。ルカの記憶を思い出すと俺も図書館によく行っているらしい。まあ、ぼっちだしスマホもないから時間潰すってなると本読むくらいしかできないもんな。 「なら俺と一緒じゃないか。俺も休み時間のほとんどは図書館にいるし」 その割にはエドアルドを見た記憶がないけど、あそこ広いからな…… 俺の言葉にエドアルドは驚きの顔になる。「そう、なのか?」「そうだよ。まあ、俺も騒
last updateLast Updated : 2025-11-21
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6 毒公爵
 昼食を終えて、まだ休み時間が三十分残っているということで、俺たちは図書館に行くことにした。 図書館は三階建てでかなりでかい。 中に入ると三階まで吹き抜けになっていて、天井には天使や神々の絵が描かれている。 床から天井までびっしり詰まった蔵書たち。オレンジ色の淡い光がところどころにともり、優しく館内を照らしだす。 点在するテーブルには、それなりに学生がいて黙々と本を読んだりノートを取っている。 ここにはカフェがあり、借りた本を持ち込んで読むこともできるから俺はよくそこを利用していた。 ……だから俺、エドアルドを見た記憶ないのかも。だって、本を借りたらカフェに直行だもんな。 俺たちはそれぞれ目的の本を見る為別行動をとる。あとでカフェで合流しよう、と言い、俺は本を探す。 とにかく情報が必要だ。でも何を調べたらいいんだろうか。 この国の歴史? 伝説? 宗教? 俺が今なぜここにいるのか。 そんなの調べようがないか…… 俺が何を知るべきなんだろうか。 全然分かんねえ…… そう思いながら俺は歴史書の前で呆然と立ち尽くす。 結局考えてもまとまらず、俺は歴史書の前を離れて階段を上り、小説などが置かれている本棚に移動する。 途中でエドアルドを見つけたが、互いに声をかけず借りたい本を見つけてカフェに向かった。 エドアルドとコーヒーを頼み、席に着く。 室内には静かな音楽が流れていて、内装もおしゃれだ。 互いに語らず、静かに本を読む。 静かな時間が流れて時間の経過も忘れた頃、エドアルドの声が聞こえた。「ルカ」 名前を呼ばれてはっとし、俺は顔を上げる。 完全に意識が本の中にいっていた。俺が読んでいたのは推理物の小説だった。 事件が起きて、捜査が進んでいるところだ。 エドアルドは本を閉じ、それをバッグにしまいながら言った。「俺は次の講義があるから行くよ」「あ、もうそんな時間か」 言いながら俺は視線を巡らせて時計を探す。 時刻は十三時十五分。 三限目は十三時二十分からだからそろそろ移動しないとか。 俺はもう講義がなく、たぶん迎えの車が来ているだろう。 そうだ、迎え。 俺は慌てて立ち上がる。「俺も迎え来てるから帰るよ」「あぁ。じゃあ、また明日」「じゃあな」 俺はバッグに本をしまい、コーヒーの入った紙カップを掴んでカフェを出た
last updateLast Updated : 2025-11-21
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7 夕食にて
夕食の時間になり、侍従に呼ばれて食堂へと向かうとマリアがすでに座っていた。 「お兄ちゃ……じゃなくておにい、様」 俺の姿を見つけて立ち上がり手を振ろうとし、ハッとしてすぐに椅子へと戻っていく。 室内に控えるメイド長の視線が痛い。 マリアは気まずそうな顔をして椅子に座り俯いてしまう。 俺は苦笑いをしつつマリアの向かいの椅子に腰かけた。 庶民出の俺たちは、メイド長たちに礼儀作法などを叩きこまれている。 だから俺たちはメイド長には頭が上がらない。 メイド長の冷たい視線を感じたところに料理が運ばれてくる。 前菜から始まり、スープ、メインに肉料理。ちょっとしたコース料理が夕食の定番だった。 「マリアの友達ってどんな人がいるの?」 「え? えーと、何人かいるけど……伯爵家のローザさんとか、公爵家のラースさんとか……商人のローラントさんとか」 けっこう男友達いるんだな。それはそうか。これ、乙女ゲームだし。 「あ、あとねエスターライヒ先生がとてもよくしてくれて」 言いながらマリアは満面の笑みを浮かべる。 ……先生。 そっか、先生も攻略対象だっけ。やっぱどうかと思うぞ、おい。 そう思いつつ俺は笑顔で、 「そ、そうなんだ。よかったな」 と、声をかけ肉にナイフを入れた。 「おに……い様はどうなの? 大学」 今朝はこの質問から逃げたけど、さすがにこの状況では逃げられない。 俺は一瞬黙り込んだ後、呻ってから言った。 「えーと……カルファーニャ公爵家のエドアルドと最近よく話すよ」 「カルファーニャ……?」 俺の答えにマリアは不思議そうな顔をして目を瞬かせる。 あ、もしかしてマリアは知らないのかも。 俺がカルファーニャの名前を口にしたとき、メイド長のまゆが、ぴくり、と動いたのを俺は見逃さなかった。 やっぱカルファーニャって聞くとなんか警戒するのかな。 全然普通なかんじだけどな、あいつ……まだ会って二日しか経ってないけど。 「あぁ。猫を通じて知り合ったんだけどさ」 「猫? いったい何があったのよ」 「ちょっといろいろあって」 メイド長の視線が痛いので俺はそう言って誤魔化すことを選んだ。 「そうなの。でもよかった。お兄様にもお話ができる友達できたのね。だって、お兄様から大学の方の名前が
last updateLast Updated : 2025-11-23
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8 不安
その夜。 俺はなかなか寝付けなかった。 国王の妹……つまり俺たちの叔母ってことだよな。 暗殺されたとか怖すぎだろ。 なんでそんなことが起きるんだ? 誰かの恨みを買っているとか……? 超怖いんだけどそれ。 そんな怖いゲームだったのこれ? ギャルゲーはもっと平和だった……かなぁ。 俺は何度目かの寝返りを打ち、大きく息を吐いた。 なんで俺、こんな世界に来ちゃったんだろう。 ここに来る前に俺、何があったんだろうな……そこはよく思い出せない。 なんかスマホがうるさくて揺れたような気がするんだけど、もしかして大地震でもあったのかな。 だとしたら俺、地震で死んだとか? ……まさかな。そんなことあるわけないよな…… でもカタカタと身体が震え、俺は布団を頭まで被ってぎゅっと目を閉じた。 眠れなかった。 全然眠れなかった。 侍従に起こされて仕方なくベッドから這い出て、顔を洗って鏡を見ると酷い顔をしていた。 「うわぁ……」 今日は水曜日、週の半ばだ。 明日も明後日も大学がある。 それを考えると辛いなぁ…… 朝食の席でマリアに心配されたけれど笑ってごまかし、今日も大学へ行く。 一限目は国語で、大きな講義室での講義となる。 大きな欠伸をして、俺は机に突っ伏した。 身体が辛い。 もしかしたら俺は死んだのかもしれない。 そう思うと身体の震えが止まらなくなる。 春野京佑になにがあったのか全然わからない。だけど今、俺はルカ、なんだよな。 ルカとしての記憶と、春野京佑としての記憶が両方あるけど、ここでは俺、ルカなんだ。 もし春野京佑の身体が亡くなっていたら……? そう思うと怖くてたまらないけどでも、今はルカとして生きるしかないんだ。 そう思い俺はぎゅっと、手を握る。 昨日、頭上から響いた声は今日、聞こえてこない。 そもそも国語の講義なんて、二年生であるエドアルドが受けるわけないか。 って、なんで俺、あいつに会いたいと思ってるんだろ。 俺は今、超怖い。 何が怖い? 今、ここにいるっていう現実が。 しばらくして教授が来て講義が始まる。 何とか顔を上げて講義を受けたけど、全然頭に入らなかった。 たった九十分の講義だけど倍以上に感じて妙に疲れた。
last updateLast Updated : 2025-11-23
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9 暗殺者?
エドアルドは暗殺者なんだろうか。 その不安はあるけど、でも彼らは公爵で国王のために暗殺をしてきたんだろ? なら俺たちに刃を向けるだろうか…… そんなことあるわけない。 俺は自分にそう言い聞かせて、昼休み、エドアルドと食堂へと向かう。 「エドアルドは今日は何食べるの?」 「昨日はパスタだったから、今日はパンかなって思ってる」 ほんとに軽くしか食べないんだな。 エドアルドは俺より少し背が高い。たぶん百八十センチ近くあるんじゃないだろうか。 俺はたぶん百七十四センチ位だ。 エドアルドは細身とかじゃないし……半袖から見える腕はほどよく筋肉がついている。 パンとかパスタばっかでよく生きていけるな…… 俺は無理だから、今日はがっつりハンバーグ定食だ。 ふたりで並んで椅子に座り、食べ始める。 エドアルドはロールパンにハムやチーズが挟まれたものと、たまごごはさまれたやつ、それにベーコンレタスが挟まれたやつの三つのパンにスープを買ったようだ。 こうしてみるとけっこう量あるかも。 「エドアルドはなんで休学してたんだ?」 ナイフとフォークでハンバーグを切りながら俺は尋ねた。 「家の都合で。代々二十歳になると受け継ぐものがあってそれで休んで山奥にいた」 「……山奥? 山で何してたんだ?」 「勉強」 「何の」 その問いには沈黙しか返ってこなかった。 これは答えられない質問、てことなんだろうな…… しばらく黙ったあと、エドアルドが言った。 「……うちがどういう家系かは、知ってるだろう」 「えーと……毒殺を得意とする暗殺一家」 俺は手を止めてそう答え、横を見た。 エドアルドはベーコンレタスの挟まれたロールパンを持ったまま笑った。 「あはは、そこまでストレートに言われたのは始めてかも。普通、もう少し濁すのに」 「だ……だってにごしようがなくって……」 やべぇ……言われてみれば確かに暗殺とか毒とかもうちょいなにかこうふわっとした言い方あったかも。 わかんないけど。 あー、恥ずかしくて顔が熱い。 俺はハンバーグを口に放り込んだあと、ナイフとフォークを起き、水の入ったグラスを握り中身を口に流し込んだ。 「まあ、それは本当のことだし。今は暗殺なんてすることはないけど
last updateLast Updated : 2025-11-24
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10 夢
エドアルドは暗殺者じゃない。 少なくとも俺の命を狙いはしないし、叔母を殺した奴でもないだろう。 でも暗殺技術は受け継いでいるんだよな。その為に休学してたとかすげえな…… 俺には信じらんない世界だった。 昼食の後は植物科学の講義でそれもエドアルドと一緒だった。 植物科学は、植物の生態や菌類との共生などについて勉強したり研究するものだ。 その講義を終えた後、俺は帰宅となる。 「俺はこれで今日終わりだけど、エドアルドは?」 講義の後教科書などをしまいながら問いかけると、エドアルドは言った。 「俺はもうひとつ講義がある」 「なんだ、時間があるなら図書館のカフェに行こうかと思ったのに」 じゃあどうしようかな。 このまま帰るか、図書館でなんか本読むか…… この世界のこと、あんまり知らないから色々と調べたい気持ちはあるんだけど、でも眠いしな…… そう考えて顔を上げると、困惑顔のエドアルドと視線が合った。 ……なんでこいつ、こんなに困った顔してるんだ? 「……エドアルド……?」 不思議に思い彼の名前を呼ぶと、エドアルドはハッとした顔をして俺から視線を外した後首を横に振った。 「な、何でもない。えーと……また明日」 と言い、慌てた様子で講義室を出て行ってしまう。 なんだ今の? 不思議に思いながら俺は黒いトートバッグを肩にかけて、ざわつく講義室を後にした。 結局眠気の方が勝り、俺は帰宅することを選んだ。 迎えが来ているはずなので俺は外に出て駐車場に向かう。 七月、ということもあり日差しは強くじとっと汗が流れてくる。 吹く風は生ぬるいし、これからどんどん暑くなるのかなぁ。 俺、ここであと二年以上過ごすのか…… 帰れるのかな、俺。 俺の、春野京佑の身体、どうなってるんだろう。 ルカの意識はどこにいってんだろ。 何にもわからない不安を抱えながら、俺は帰路についた。 屋敷に帰るなり、俺はお茶を断りベッドに寝転がった。 すぐに眠りにおち、そしてまた夢を見た。 実家にいる夢。 両親と妹がいて、なんでもない日常を過ごす夢。 妹がリビングでソファーに座り携帯ゲーム機を持ってゲームをしている。 ソファーの前のテーブルにゲームのパッケージが置かれていた。 俺はそれ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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