二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す

二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す

last updateDernière mise à jour : 2026-08-16
Par:  みそ煮Mis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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暁家の令嬢・暁瀬奈(あかつきせな)と神宮司家の御曹司・神宮司湊斗(じんぐうじみなと)は政略結婚だった。 瀬奈は湊斗に熱烈な想いを寄せていたが、彼は結婚後も彼女を顧みることはなく、七人の愛人との間に五人の子供をもうける。 彼との結婚から二十年経ち、三十八歳になった瀬奈は結婚初日に湊斗から渡されていた離婚届にサインし、家を出て行った。 彼女は実は五年前に生まれた湊斗との子供を隠していた。 「これは一体どういうことだ……?」 帰宅した湊斗は机の上に置かれた離婚届を見て、顔を真っ赤にした。 「どんな手を使ってでも瀬奈を捜し出せ!」

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Chapitre 1

第1話

「彼と結婚してからもう二十年が経つのね……」

暁(あかつき)家の令嬢であり、今は神宮司夫人である瀬奈(せな)は広い部屋でポツリと呟いた。

彼女は今日もある人物を待ち続けている。来るはずがないとわかっていながらも、瀬奈は二十年間ずっと彼の来訪を心待ちにしているのだ。

「一体どこから私は間違えてしまったのかしら……」

ベッドサイドに腰かけた瀬奈は、彼と初めて出会ったときのことを思い浮かべた。

「初めまして、神宮司湊斗です」

「……」

神宮司湊斗(じんぐうじみなと)と名乗った彼に、強く心惹かれたのを瀬奈は今でも覚えている。一目惚れだったのかもしれない。

サラサラの黒い髪、高い鼻梁、切れ長の美しい瞳、幼いながらに整った顔立ち。瀬奈は一瞬にして彼に心を奪われてしまった。

暁グループの令嬢だった瀬奈と、神宮司財閥の御曹司だった湊斗。

二人は許嫁だった。そのことを父親から聞かされたとき、瀬奈はとても喜んだ。彼女にとって初恋の相手であり、愛する湊斗と結婚できるのだと。

しかし、彼のほうはそうではなかった。

湊斗は瀬奈との婚約中、多くの女性と浮名を流した。学校の同級生、年上の社会人、父親が経営する会社の社員にまで。彼は相手の身分関係なく手を出した。

瀬奈は自分には指一本触れないにもかかわらず、他の女性と関係を持ち続ける湊斗に不満がないわけではなかった。しかし、彼に嫌われるのを恐れていた瀬奈は何も言うことができなかった。

「結婚前に遊びたいだけだろう。神宮司家の正妻になれるのだから、それくらいは目を瞑りなさい」

父親は湊斗が遊んでいることを知っていたが、瀬奈に我慢しろと言った。

両親からも味方してもらえなかった瀬奈は、必死で自分に言い聞かせた。

彼女たちはただの遊びであり、自分は神宮家の夫人となる女だ。だから結婚すればきっと自分だけを見てくれる、とそう信じていた。

しかし、現実は残酷だった。

湊斗は結婚してもなお、瀬奈の元には訪れることなく、愛人の元で夜を過ごした。そのことを責めた瀬奈に、彼は言い放った。

「お前を愛することはできない、これからは俺の行動に口を出さないでくれ」

彼の目は初めて出会った頃とは別人のように冷たかった。

それから湊斗は瀬奈に指一本触れることなく、多くの愛人を囲い、彼女たちとの間に五人もの子供をもうけた。そのうちの誰かに会社を継がせるつもりのようだ。

「奥様ったら、今日も一人ぼっちでいるわ」

瀬奈は湊斗の帰ってこない邸宅に一人取り残された。彼は今日もきっと愛人たちの住む家へ帰っているのだろう。

しかし、湊斗を愛している彼女は毎日のように彼を待ち続けた。自分の元へ来るわけがないとわかっていながらも。

そんなことを続けているうちに、二十年という歳月が経過していた。瀬奈と湊斗はお互いに三十八歳となった。

彼女は既に子を望めるような年齢ではなくなり、湊斗のほうも新しく愛人となった若く美しい女に夢中になっていると聞いている。

瀬奈の中で、何かが音を立てて崩れ落ちて行くようだった。

二十年という年月はあまりにも長すぎた。彼女の心は既に限界を迎えていた。

翌朝、心配そうに彼女に声をかけたのは湊斗の秘書だった。

「奥様……」

普段別邸で暮らしている湊斗の私物を取りに来る彼は、たびたび瀬奈とも顔を合わせていた。神宮司家で彼女を気にかけてくれていた数少ない人だ。

「今日も湊斗は愛人のところにいるんでしょう?」

「そ、それは……」

彼の秘書・中田一馬(なかたかずま)が言いづらそうに視線を逸らした。

知ったところで今さら驚きもしない。湊斗が瀬奈の元を訪れることなど、この二十年間数えるほどしかなかったのだから。

それでも彼女は彼のことを信じて待っていたが。

「いいのよ、わかっているから」

「……」

彼はうつむいた。瀬奈が辛い思いをしていることを知っておきながら、何もしてあげられないことに罪の意識を抱いていた。

しかし、今日の瀬奈の表情はいつもと違うと、彼は思った。これまでは湊斗に対する希望を見せていたにもかかわらず、今はどこか諦念に似たものを彼は感じた。

「中田さん、私最後に行きたい場所があるの。よかったら付き添ってくれない?」

「は、はい!奥様!」

”最後”という言葉に疑問を感じながらも、中田は彼女について行った。

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裕子
裕子
毎日配信楽しみにしてます 他人の介入による疑心暗鬼でお互い愛し合っているのにすれ違い続ける二人 極端に虐げられてる描写もなく(まあモラハラにはなるか) 主人公のぽやんとした雰囲気もあり軽く読み進めます このままハッピーエンドに向かって欲しい
2026-07-18 11:22:38
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さくら
さくら
こういう勘違い小説本当に面白い。 なにをきっかけに冷たくなったのか分からないけど、婚約時代も遊びまくり、結婚してからも不倫しまくり愛人多数に婚外子多数。 復縁する資格ないでしょ。
2026-07-17 14:16:01
10
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中野渡高子
中野渡高子
まだ89話までしか読んでいませんが… どんな展開になるか楽しみです(^^) ほんとゎ課金したいとこですが… 我慢しつつ先を楽しみにしております(^_-)
2026-05-26 11:09:01
7
0
aoi
aoi
湊斗は瀬奈に執着する割には、愛人を野放しにして瀬奈を傷付けるクズ夫。愛人を切れないなら瀬奈を自由にして一生後悔すればいいのに。 グズの愛人にイライラする。
2026-04-30 14:30:48
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トラ子
トラ子
二十年妻を放置し、愛人宅に通い続けたくせに、妻に逃げられた途端に囲い込みだすなんて、なかなかのクズ夫です。 主人公は、訴訟すれば確実に離婚もできるし、慰謝料も養育費もとれるのだから、いい弁護士を雇えばそれですむ話なのに、お嬢様妻の世間知らずぶりが物語に不思議な色合いを添えています。 どんな着地点を迎えるのかが気になるので、最後まで読みたいと思います。気持ち悪いけど。
2026-04-28 22:52:37
23
0
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第1話
「彼と結婚してからもう二十年が経つのね……」暁(あかつき)家の令嬢であり、今は神宮司夫人である瀬奈(せな)は広い部屋でポツリと呟いた。彼女は今日もある人物を待ち続けている。来るはずがないとわかっていながらも、瀬奈は二十年間ずっと彼の来訪を心待ちにしているのだ。「一体どこから私は間違えてしまったのかしら……」ベッドサイドに腰かけた瀬奈は、彼と初めて出会ったときのことを思い浮かべた。「初めまして、神宮司湊斗です」「……」神宮司湊斗(じんぐうじみなと)と名乗った彼に、強く心惹かれたのを瀬奈は今でも覚えている。一目惚れだったのかもしれない。サラサラの黒い髪、高い鼻梁、切れ長の美しい瞳、幼いながらに整った顔立ち。瀬奈は一瞬にして彼に心を奪われてしまった。暁グループの令嬢だった瀬奈と、神宮司財閥の御曹司だった湊斗。二人は許嫁だった。そのことを父親から聞かされたとき、瀬奈はとても喜んだ。彼女にとって初恋の相手であり、愛する湊斗と結婚できるのだと。しかし、彼のほうはそうではなかった。湊斗は瀬奈との婚約中、多くの女性と浮名を流した。学校の同級生、年上の社会人、父親が経営する会社の社員にまで。彼は相手の身分関係なく手を出した。瀬奈は自分には指一本触れないにもかかわらず、他の女性と関係を持ち続ける湊斗に不満がないわけではなかった。しかし、彼に嫌われるのを恐れていた瀬奈は何も言うことができなかった。「結婚前に遊びたいだけだろう。神宮司家の正妻になれるのだから、それくらいは目を瞑りなさい」父親は湊斗が遊んでいることを知っていたが、瀬奈に我慢しろと言った。両親からも味方してもらえなかった瀬奈は、必死で自分に言い聞かせた。彼女たちはただの遊びであり、自分は神宮家の夫人となる女だ。だから結婚すればきっと自分だけを見てくれる、とそう信じていた。しかし、現実は残酷だった。湊斗は結婚してもなお、瀬奈の元には訪れることなく、愛人の元で夜を過ごした。そのことを責めた瀬奈に、彼は言い放った。「お前を愛することはできない、これからは俺の行動に口を出さないでくれ」彼の目は初めて出会った頃とは別人のように冷たかった。それから湊斗は瀬奈に指一本触れることなく、多くの愛人を囲い、彼女たちとの間に五人もの子供をもうけた。そのうちの誰かに会社を継がせるつもりのようだ。「奥様っ
last updateDernière mise à jour : 2026-02-20
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第2話
瀬奈が一馬を連れてやってきたのは、神宮司家の近くにある記念公園だった。暖かい春の風が吹き抜け、瀬奈は何だか懐かしい気持ちになった。「幼い頃、ここで湊斗とたくさん遊んだわね……」湊斗は最初から瀬奈を嫌っていたわけではなかった。二人は同い年で、同じ小学校に通っていた。中学に入る前までは、お互いの家を行き来してよく遊んでいた。いつからだろう、二人の関係が変化したのは。中学に上がり、別々の中学校へ通うこととなった二人は、これまでよりも会う頻度がかなり減った。それでも瀬奈の湊斗への想いが変わることはなかった。彼女は毎日のように湊斗を想い続け、神宮司家に定期的に手紙を送った。しかし彼からの返事は返ってこなかった。会いたいと言っても忙しいとはぐらかされるばかり。神宮司家を直接訪れても門前払いされた。そんな状況が数年続き、高校一年生になった頃、瀬奈はようやく湊斗に会うことができた。その日、いつものように神宮司家を訪れていた彼女は、たまたま門の前に立っていた彼を見つけたのだ。およそ三年ぶりに見る彼の姿。最後に見たときよりもだいぶ大人っぽくなっていた彼に、瀬奈は涙がこみ上げてきた。そして再び燃え上がる彼への思い。瀬奈は湊斗に駆け寄った。「湊斗!久しぶりね!会いたかったわ!」「……」久々に会った彼は、以前とは別人のように瀬奈に冷たい目を向けた。「どうしてこれまで会ってくれなかったの?私たちは婚約者なのに!私、あなたに会えなくてとっても寂し――」「俺に触るな」湊斗は伸ばされた瀬奈の手を無慈悲に振り払った。「湊斗……?」瀬奈はどうして彼がそのような態度を取るのかがわからなかった。困惑していたそのとき、瀬奈の背後から女の明るい声が聞こえた。「――湊斗!お待たせ!」振り返ると、瀬奈と同い年くらいの女性が立っていた。「……優里亜」優里亜と呼ばれた彼女は、突然湊斗の腕にしがみついた。瀬奈は固まった。婚約者である彼女ですら、そのような行動はとったことがない。湊斗は瀬奈と違って彼女の手を振り払わなかった。二人の関係は、ただの友人同士というにはあまりにも距離が近すぎた。だとしたら恋人だとでもいうのか。瀬奈は信じたくなかった。湊斗は彼女の婚約者だったからだ。何もできずにただじっとしていると、湊斗の腕にしがみついていた彼女の視線がこちらに向けられた。
last updateDernière mise à jour : 2026-02-20
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第3話
二人が結婚したのは、まだお互いに大学進学したばかりである十八の頃だった。当初は大学を卒業してから籍を入れる予定だった。しかし、女遊びの激しい湊斗を心配した彼の両親が結婚を早めたのだ。瀬奈と結婚することによって、湊斗の女癖の悪さも直るだろうと両親は考えたようだった。瀬奈も早く彼と一緒になりたいという思いがあったため、受け入れた。彼女は湊斗の実家である神宮司家の本邸に住まいを移し、彼との同棲生活を始めた。しかし、結婚してもなお湊斗は瀬奈に冷たいままだった。平然と夜まで遊び歩き、家に帰らないことも多かった。「アイツにも困ったものだな……瀬奈ちゃん、ウチの息子が悪いね」「ホンット、誰に似たのかしら……」「私は平気ですから、気にしないでください」湊斗の両親は、瀬奈を温かく神宮司家へ迎え入れた。実の両親からの愛を得られなかった瀬奈にとって、神宮司夫妻は本当の父と母のようだった。特に神宮司夫人は、瀬奈の境遇に胸を痛めているようだった。「私たちが結婚を早めたせいね……瀬奈ちゃん、他に好きな人ができたらいつでも湊斗と離婚していいからね」「お義母さん……」瀬奈にとって、義理の両親は唯一の心の拠り所だった。愛する夫は家に帰らず、外でほかの女と遊んでいる。そんな辛い状況の中で、彼らだけが瀬奈の味方だった。しかし、不幸は立て続けに彼女を襲った。結婚してから四年、ちょうど大学卒業を控えた頃に、神宮司夫妻は事故でこの世を去ってしまう。夫妻が亡くなってからというもの、湊斗は塞ぎ込むようになった。「湊斗……!」黒い喪服で瀬奈の前に現れた湊斗は、彼女の首を強い力で掴んだ。「お前のせいで……お前のせいで父さんと母さんは……!」「湊斗……やめて……おねがい……」神宮司夫妻が亡くなった原因は、旅客機での事故だった。長期休みに、二人は夫婦水入らずで海外旅行に行っていたのだ。そしてその旅行券をプレゼントしたのは瀬奈だった。つまり、瀬奈が贈り物をしなければ夫妻が死ぬことはなかったのだ。そのことを知った湊斗は瀬奈を憎み、彼女の首を絞めた。「お前さえいなければ、父さんと母さんがこんなに早く死ぬことはなかった。全てお前のせいだ。お前が来てからすべてが壊れたんだ……!」「み、湊斗……」湊斗が首を掴んだまま彼女を持ち上げた。瀬奈が息苦しさにジタバタと手足を暴れさせたそのと
last updateDernière mise à jour : 2026-02-20
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第4話
湊斗との思い出を振り返っていた瀬奈は、ある大きな木の前で足を止めた。「……昔と何も変わっていないわね」瀬奈は子供の頃、湊斗とよくこの木に登って遊んでいた。昔から運動神経が良かった湊斗に、瀬奈はまるで追いつくことができなかった。そのとき、彼はいつも瀬奈が来るまで待ってくれていて――そんな優しい湊斗はもうどこにもいなかった。この木は何も変わっていないのに、どうして私たちはこんなにも変わってしまったのだろう。瀬奈はそう思いながら、木を見上げた。夏には見事なまでに花を咲かせているが、冬である今は枯れ果て、葉一つ見当たらない。それがまるで、今の瀬奈の心を表しているようだった。最初から、花を咲かせたことなんて一度もなかったが。「奥様……」背後に控えていた一馬が心配そうに声をかけた。「ここはね、私と湊斗がよく遊んでいた場所なの」「ええ、存じております……私は昔から社長についておりましたから」一馬は湊斗の七つ年上で、彼の幼馴染でもあった。湊斗にとっては最も信頼のおける相手で、兄のような存在だった。当然、瀬奈も昔から彼のことを知っていた。「付き合わせて悪かったわね。もう帰りましょう」瀬奈は一馬と共に来た道を戻った。二人でたくさん遊んだこの公園を歩いていると、走馬灯のように彼との思い出が頭に流れた。転んで膝を擦りむいたときに手を差し伸べてくれた彼、足の遅い瀬奈を気遣って少し先で待ってくれていた彼、父親に叱られて泣いたときに優しく慰めてくれた彼の姿が鮮明に浮かんだ。しかし、今ではどれも何の意味もないものだった。彼は変わってしまった。理由はわからないが、瀬奈を酷く嫌うようになったのだ。あまりにも突然のことだった。「長かったなぁ……」今年で結婚生活も二十年を迎えようとしている。長いようで短い二十年だった。瀬奈も湊斗ももう三十八歳だ。そんな彼は歳をとってもなお美貌は健在で、今でも多くの女性を惑わせていた。神宮司財閥のトップという地位もあり、湊斗の元には未だに美しい女性たちが寄ってくる。本邸から夫の女性関係の噂を聞くのは何よりも辛いことだった。瀬奈は家までの道のりを一馬と共に歩いている最中、前から見知った顔が歩いてきたことに気が付いた。「誰かと思ったら、湊斗の奥さんではありませんか」「……沙織さん」両親が亡くなったときからずっと湊斗の傍を守り続
last updateDernière mise à jour : 2026-02-23
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第5話
瀬奈はその日一日中泣き続けた。部屋からは彼女の嗚咽が漏れており、邸の者は誰一人として近づけなかった。彼にとっては幸せだったかもしれないが、彼女にとっては辛く苦しい二十年だった。毎日のように愛人の元へ向かう夫の帰りを待ち続け、眠れない夜を過ごした。きっといつかは帰ってきてくれる、そしたらまた昔のように仲の良い二人に戻れるのではないか。そんな僅かな希望を胸に抱きながら。そんな彼はとうとう最後まで瀬奈を顧みることはなかった。彼女の気持ちは無残にも粉々に打ち砕かれた。彼から深く愛された沙織と会うと、より一層自分の惨めさがひしひしと感じられた。沙織は自分と違って湊斗と温かい家庭を築いている。今この瞬間も、彼は沙織と一緒にいるのだ。考えれば考えるほど涙が溢れて止まらなかった。ベッドシーツを濡らしながら泣き続けた瀬奈を猛烈な眠気が襲い、彼女はそっと目を閉じた。***翌日。瀬奈は朝の八時頃に目を覚ました。目覚めた途端に、一筋の涙が彼女の頬を伝った。瀬奈は涙を拭い、一人呟いた。「……もう、泣くのはやめよう」それを最後に、彼女は涙をこらえた。ベッドから起き上がった瀬奈は、着替えを始めた。カーテンを開けると、窓から陽の光が差し込んだ。外では小鳥の鳴く声が聞こえる。ずいぶんと気持ちのいい朝だった。そのせいか、彼女の気持ちも落ち着きを取り戻した。いつまでもくよくよしていられない。瀬奈は前に進まなければならなかった。彼女は部屋の引き出しの奥深くに大事に保管してあったあるものを取り出した。それは離婚届だった。紙にはすでに湊斗の名前が書かれている。決して瀬奈が偽造したわけではない。本物の神宮司湊斗のサインだ。彼のサインが書かれた離婚届を手に、瀬奈は昔を思い出していた。『これを持っておけ』『湊斗……?これは一体……?』湊斗が久々に本邸へ帰ってきたかと思えば、突然呼び出された瀬奈は一枚の紙を手渡された。それがまさに、彼の名が書かれた離婚届だった。『どういうこと……?湊斗、説明してよ』『……離婚届だ、見ればわかるだろう。俺の名はすでに書いてある』『私に名前を書けというの……?』彼は何も言わなかったが、それがまさに肯定を意味していた。両親の死後、彼は以前にも増して瀬奈を嫌い、彼女との離婚を望むようになった。『私、あなたと離婚はしないわ!大体不倫した
last updateDernière mise à jour : 2026-02-24
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第6話
瀬奈は部屋にあった荷物をまとめた。とはいえ、彼女の部屋には持っていけるようなものは何一つなかった。湊斗は瀬奈に必要最低限の生活を保障してはいたものの、彼女に余分なものは買い与えなかった。沙織やほかの愛人たちはハイブランドのバッグやアクセサリーをもらっていたようだが、当然瀬奈には贈り物など一度もしたことがなかった。「……」ドレッサーの引き出しを開けると、いくつかアクセサリーが入っていた。当然、これらはすべて瀬奈が自分のお金で購入したものだ。瀬奈は神宮司家の夫人とはいえ、お飾りの妻。当然神宮司家の財産を自由に使えるわけがない。瀬奈はお金になるかもしれないから持っていこうと、アクセサリー類をカバンに詰めた。その中で、あるものに目を留めた。「あら?これは……」瀬奈の手に握られていたのは、子供用のリボンの髪飾りだった。三十代後半の彼女は到底着けられないし、中高生が身に着けるにしても幼すぎる。では、一体何故そんなものがここにあるのか。瀬奈はすぐに気が付いた。そのリボンは、かつて湊斗が瀬奈に贈ったものだった。彼女が小学生の頃、まだ湊斗と仲が良かったときだ。彼は彼女の誕生日に、ピンク色のリボンをプレゼントしたのだ。瀬奈は愛する湊斗からのプレゼントに大喜びし、毎日のようにリボンを髪につけた。忘れていた幼い頃の記憶だった。「彼から貰ったもの……あったわ……」それが最初で最後の贈り物となってしまったが、本当に本当に大切なものだった。当然、湊斗はそんなこと覚えてもいないだろうが。「すごく大切なものだったけれど……今はもう必要ないわね」瀬奈はリボンをカバンに入れずに、ドレッサーの引き出しに閉まった。どうせ湊斗とは離婚するのだから、彼の痕跡が残っているものは持っていかないほうがいい。彼女は机の上にサイン済みの離婚届を置いた。見える位置に置いておけば湊斗も自分がいなくなった理由をすぐに理解するだろう。もっとも、突然失踪したところで何とも思わないかもしれないが。瀬奈はカバンを手に持つと、殺風景な部屋を見渡した。彼女が二十年過ごした場所。今は亡き義理の両親が彼女に与えてくれた、大きな部屋。辛い記憶ばかりだったが、それも今日で終わりだ。彼女は最後に部屋を軽く掃除すると、カバンを持ったまま出て行った。邸宅の廊下を歩き、門の外に出ると、瀬奈は長年過ごした邸宅を振り返っ
last updateDernière mise à jour : 2026-02-25
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第7話
「お母さん!会いたかったよ!」「里亜、元気だった?」その光景を、もし黒川区の人間が見たら――誰もが目を疑っただろう。黒川区で誰もが知るプレイボーイ・神宮司湊斗には七人の愛人と五人の子供がいる。彼は愛人たちのためにそれぞれ別邸を用意し、生活のすべてを面倒見ている。愛人たちの暮らしはそれはそれは贅沢なものだった。全身をブランド物で固め、毎日シッターに子供を任せ、家事育児もせずに遊び歩く。そのため、黒川区に住む若い女たちの中には彼の愛人となることを夢見ていた者も多くいた。湊斗と一夜を共にし、気に入られることができれば一生働かずに遊んで暮らせる。さらに子供でも産めば、その暮らしは絶対的なものとなる。愛人の座を狙った女たちがここぞばかりに彼にすり寄った。運良く愛人となれた者は、今度は何とかして彼の子を産もうと思考を巡らせる。そうして湊斗の婚外子が立て続けに生まれた。しかし、本妻である神宮司瀬奈との間に子供はいない。湊斗は誰とでも寝る男だったが、政略結婚で嫁いできた瀬奈のことだけは嫌っていた。彼は彼女と一度も夫婦の営みをしたことが無いのだから、子供ができないのは当然だ。では、何故そんな彼女に娘がいるのか。彼女は夫の浮気に疲れ果て、他の男との不倫の末に子供を作ったのか。そういうわけではなかった。里亜は正真正銘、瀬奈と湊斗の第一子だった。遡ること六年前――神宮司夫人としてパーティーに参加していた瀬奈は、いつものように壁の花となっていた。湊斗は瀬奈と結婚したものの、彼女を妻として認めてはいない。そのため、パーティーの同伴者はいつも愛人の沙織だった。瀬奈はそのことが屈辱だった。他の参加者たちは夫から相手にされない瀬奈を蔑みの目で見つめている。しかし、途中で帰ることはできなかった。耐えられなくなって逃げ出したとまで思われれば、瀬奈の面子は丸つぶれだ。それだけは御免だった。そしてその日も湊斗は沙織をパートナーとして連れてきたのだった。彼女は湊斗の横でまるで自分が正妻であるかのように振舞う沙織を前に、悔しさで拳を握りしめた。パーティーが終わり、瀬奈が邸に帰ると、湊斗が先に帰宅していた。瀬奈は久しぶりに彼が本邸へ帰ってきたことに驚いたが、嬉しくもあった。彼に駆け寄った瀬奈は、ある異変に気付いた。湊斗はパーティーで酒をかなり飲んでいて、泥酔状態だった。『沙織
last updateDernière mise à jour : 2026-02-26
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第8話
静香と夫の住む家に入った瀬奈は、里亜を彼女の夫に任せ、部屋で二人向き合った。「それで……どうしてこんなことになったのか一から教えてくれる?」「そうね……説明が先よね……」「驚いたわ、五年前のあの日、あれほど湊斗に惚れ込んでいたあなたが突然離婚するって言いだしたんだから」瀬奈は、五年前――里亜が生まれたときから湊斗との離婚を計画していた。きっかけとなったのはある出来事だった。瀬奈が子を産んでから数ヵ月経った頃、湊斗が海外出張から帰ってきた。彼女はすぐに里亜を抱いて彼の元へ向かった。生まれた子の顔を、父親である湊斗に見てほしかったのだ。自分のことは愛してくれなくてもいい、でもせめて血を分けた娘にだけは愛情を、と思ってのことだった。赤ん坊を抱きかかえて目の前に現れた瀬奈に、湊斗は眉をひそめた。瀬奈は彼のそんな冷たい態度など、気にもならなかった。一刻も早く娘を父親に会わせてあげたい。その思いでいっぱいだったからだ。『湊斗、あなたの子よ。抱いてあげて』『…………何だそれは?汚らわしい』生まれた赤子に向かって、湊斗は嫌悪感を隠すことなく言い放った。『湊斗……?』『ついに頭がおかしくなったんだな、他の男との間にできた子を俺の子と偽るとは』瀬奈は慌てて首を横に振った。『湊斗、違うの。この子は本当に……』『俺はお前と寝た覚えはない。まさか結婚しただけで子ができると思っているのか?お前は子供か?』彼の嘲るような声が頭上から降り注いだ。やはり彼には、彼女と一夜を共にしたあの夜の記憶はなかったようだ。一回も寝たことのない女が突然自分の子供を連れて来たのだから、信じられないのも当然かもしれない。結局湊斗は子供の顔を見ることもなく、愛人と暮らす別邸へと戻って行った。その日から、彼の中で瀬奈が生んだ赤子の存在はかき消されることとなった。『大丈夫よ、里亜……あなたは誰が何と言おうと湊斗の子なんだから……絶対に私があなたを神宮司家の子にしてみせるわ』瀬奈は諦めなかった。子供を何としてでも認めてもらおうと様々な手を尽くそうとした。そんな矢先、ある事件が起こってしまう。湊斗の愛人が生んだ子供の一人が、不審死したのだ。元々、愛人たちは自分の子をどうにかして湊斗の経営する神宮司グループの後継者にしようと熾烈な争いを繰り広げていた。瀬奈がこれまで彼女たちの
last updateDernière mise à jour : 2026-02-26
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第9話
瀬奈が家を出て行った日、湊斗はいつものように愛人である沙織の家に帰っていた。「湊斗、おかえりなさい」「ああ」湊斗は軽く返事をした。沙織は帰宅したばかりの彼の元へさっと歩み寄ると、彼の脱いだ上着を受け取った。「お風呂にする?ご飯にする?」「……先に風呂に入る」「そう、ごゆっくり」彼女と湊斗との仲はもう二十年近くになる。彼の愛人たちの中では最も長く共にいると言えるだろう。沙織は今から二十年前、ちょうど湊斗が瀬奈と結婚したての頃に彼と出会った。『……』初めて見た湊斗は、美しいが何を考えているか読めない人だった。もしかすると、そのときから彼に一目惚れしていたのかもしれない。彼女は彼に近付いた。『社長、初めまして。嶋田沙織と申します』『……』湊斗は最初こそ彼女を無視したが、熱心に話しかけるとやっと相槌を打ってくれるようになった。『社長……もしかして、結婚生活がうまくいっていないのではありませんか?』『……!』沙織の言葉に湊斗がピクリと反応した。沙織はそんな彼の姿を見て、その逞しい体に自らの胸を寄せた。彼の胸筋に触れ、誘惑するように囁く。『私なら、もっと社長を喜ばせてあげられるのに……』『……生意気だな』湊斗は不快そうに眉をひそめたが、沙織の腰を抱き寄せた。彼が女好きで、誰とでも寝るという噂を彼女は知っていた。そして、好きでもない許嫁と結婚させられたということも。彼に妻がいるということは特に気にしなかった。不倫という罪を犯してでも手に入れたい。湊斗はそれほどに魅力的な男だったからだ。そこから沙織は湊斗と一夜を共にした。『お前のことが気に入った。これからは俺が生活のすべてを面倒見てやる』朝になると、湊斗は沙織の髪の毛を触りながらそう言った。沙織にとってはこれ以上ない幸せな瞬間だった。湊斗の愛人になった沙織は、黒川区に一軒家を与えられた。湊斗には本妻がいたが、彼はいつも沙織の元へ帰っていた。しばらくして、沙織は妊娠した。今では二人の子供に恵まれている。それから二十年もの間、彼の傍を守り続けてきた。その間に湊斗がほかの女を抱いていることも知っていたが、最も愛されているのは自分だと言い聞かせて何とか耐えた。湊斗の本命は沙織であり、ほかの愛人たちはただの遊び。黒川区の人間なら誰もが知っていることだった。実際、湊斗はいつも沙織
last updateDernière mise à jour : 2026-02-27
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第10話
翌朝。「姉さん、おはよう」「不思議ね、あなたが同じ家にいるなんて何年ぶりかしら」昨日は静香の胸で泣き疲れて寝てしまったようだ。誰かに抱きしめられるのは久しぶりだった。「里亜は?」「まだ寝ているわ」瀬奈は昨日、湊斗との離婚届にサインし、娘と共に姉の暮らす稲田町へと越してきた。「空気が澄んでいるわ。こんなにも気持ちいい朝は二十年ぶりよ」彼女は二十年前に湊斗と結婚してからというもの、毎晩彼の帰りを待ち続けていた。何度も期待しては裏切られを繰り返していたあの頃を思うと、今はとても幸せだった。「ここではもう湊斗を待たなくてもいいし……気が楽だわ」ようやくあの辛い日々から解放されるのだ。「ところで瀬奈、離婚したってことは湊斗と話してきたってことよね?」「あ、いや……」瀬奈は最後まで湊斗には会っていなかった。彼は滅多に家に帰ってこないし、話があるから来てほしいと言っても大体は無視されるからだ。「実は湊斗には会っていないの」「え!?会ってないってどういうこと?本当に離婚したの?」驚く静香に、瀬奈は湊斗から事前に渡されていた離婚届の話をした。「アイツ……そこまでゲス野郎だったとは思いもしなかったわ……」静香は怒りで拳を握りしめた。苦しんでいる妹を助けてやれない自分が情けなかった。「まぁまぁ落ち着いて。あの離婚届に湊斗がサインしてくれていたおかげで私は離婚できたわけだし」「そうね」静香は落ち着きを取り戻した。「それより明日から仕事だわ。新しい環境でうまくいくか不安なの」瀬奈は大学を卒業したが、就職活動はしなかった。彼女はその頃すでに湊斗と結婚していたし、財閥の夫を持つ妻だから、わざわざ働く必要もなかった。何より、結婚したら家庭に入りたいというのは彼女の昔からの願いだった。結局、湊斗に放置されていたため暇を持て余すことになったが。「アンタ、パートしかしたことないもんね」「ええ、うまくやっていけるかしら……」瀬奈は里亜が生まれてからというもの、湊斗に隠れてこっそり働きに出ていた。すべては里亜と二人で幸せに暮らすため。パートではあったが、生活費は湊斗が出していたため、五年間でお金は十分すぎるくらい溜まっていた。その後、五年勤めたパート先をやめた瀬奈は姉の静香の紹介で、この稲田町で安定した職に就くことができた。「姉さんには感謝して
last updateDernière mise à jour : 2026-02-28
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