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橘廉
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Novels by 橘廉

三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜

三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜

父のバーを守るため命懸けのマジックに挑んだ結。絶体絶命の彼女を救ったのは、三人の「裏のプロ」だった。 独占欲を秘めた天才詐欺師・圭。 情熱で奪い去るイカサマ師・鉄。 意識ごと盗み取る孤独なスリ・レン。 借金や陰謀を裏の技術で解決する彼らだが、ステージ裏では結を巡り熾烈な争奪戦が始まる。 「マジックは嘘でも、愛に嘘はない」 三人の怪物に溺愛される甘く危険な共同生活。心も指先も、彼らが仕掛ける愛の魔法に溶かされて――。極上の逆ハーレム・ロマンス開幕!
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Chapter: 言葉の魔術
「……二人とも、そこまでにしたらどうだい。せっかくの教育が、ただの野蛮な縄張り争いに成り下がっているよ」 氷を溶かすような、けれど芯に冷徹さを秘めた声。最後に動いたのは、カウンターの端で静観していた圭さんだった。彼は手にしていたクリスタルグラスを静かに置くと、磁石に引き寄せられるような滑らかな足取りで私の隣へやってきた。 鉄さんの重厚な威圧感、レンくんの透明な執着。その二つの気配を、圭さんは「大人の余裕」という名の、より強固な空気で塗りつぶしていく。「鉄が技術を、レンが感覚を教えたのなら、僕が君に教えるべきは……魂の明け渡し方だ。言葉によるマジック」 圭さんは私の肩を抱き寄せ、流れるような動作で私の視線を自分の方へと固定した。至近距離。彼の瞳は、すべてを透かして見るように澄んでいるが、その実、何も映していないようにも見える。「結さん、僕の目を見て。……逸らしてはいけない。マジックにおいても、詐欺においても、最も強力な武器は指先ではない。……『視線』と『言葉』だ」 圭さんは私の左手をとると、その手のひらに一枚のトランプ――先ほどのハートのジャックを滑り込ませた。「いいかい。人間は、自分が選んだと思わされているものには、疑いを持たない。これをマジックでは『フォース』と呼ぶ。まぁ、それはマジシャンだから知ってるね……僕が今から君に、このカードを選ばせてあげる」 彼は私の耳元に唇を寄せ、低い、心臓に直接響くようなバリトンボイスで囁き始めた。「君は今、僕に意識を集中している。……雨の日の湿り気、昨夜の停電、そして今、僕が君の指先に触れているこの感触。……それらすべてが、君の思考を縛る鎖にな
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: ピックポケット
 鉄さんとの「特訓」が終わるやいなや、影のように私の背後に滑り込んできたのはレンくんだった。「……鉄さんの教え方は野蛮すぎるよ。お姉さんの指先が痛そう」 レンくんは私の右手をとると、指の腹を自分の頬に擦り寄せた。その感触は驚くほど滑らかで、けれどどこか体温の低さを感じさせる。「次は僕の番。マジックのタネもいいけど、お姉さんにはもっと実用的な技術を教えてあげる。……世界を味方につける、透明な指先の使い方をね」 レンくんはそう言うと、私の燕尾服のポケットに手をかけた。「スリの基本はね、相手の感覚を『上書き』することなんだ」 レンくんは私の腰を引き寄せ、密着した状態で私の太ももの外側のポケットを指先で強く圧迫した。「こうやってポケットを外から強く押さえると、脳はその強い圧迫感に集中しちゃう。……その隙に、反対側の指で中身を抜き取る。押さえられている安心感の裏で、大切なものが消えていくことには、誰も気づかないよ」 彼は私のポケットから、いつの間にか抜き取っていた小道具のコインを目の前にかざした。「ねえ、お姉さん。今、僕の指が中に入ったの、分かった?」「……全然。ただ、押さえられてる感覚だけがあったけど」「でしょ? 強い刺激は、繊細な違和感を殺すんだ。……これはお姉さんの心にも言えることだよ? 僕がこうしてお姉さんを強く抱きしめていれば、他の二人の影なんて、いつの間にか消えちゃうんだから」 レンくんの囁きは、日常の静けさの中に溶け込みながらも、私の思考をじわじわと侵食していくような不気味な甘さを持っていた。
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 密着の距離
「……違う。カードの端に掛ける力が強すぎる」 背後から、地鳴りのような低い声が降ってきた。鉄さんだ。 私はカウンターの上でデックを握り直し、もう一度ボトム・ディールを試みる。一番下のカードを、あたかも一番上から配っているように見せかけて抜く、イカサマの基本技術だ。「こう、ですか?」「あぁ。だが、お前の左手の薬指がわずかに跳ねている。それじゃあカジノじゃ、今頃指が飛んでるぞ」 鉄さんはそう言うと、私の背後にぴったりと重なるように立った。 巨躯に包み込まれるような圧迫感。彼の胸の鼓動が背中に伝わり、私は思わず息を止める。鉄さんの傷だらけの、けれど鋼のように正確な指が、私の右手を上から覆った。「指の腹でカードを感じるんだ。力で抜くんじゃない、滑らせるんだよ」 彼の大きな掌が私の甲を包み込み、指と指の間に彼の手が入り込む。 指導と言われればそれまでだが、肌が触れ合う面積があまりに広い。鉄さんの指先は驚くほど熱く、私の小さな手は彼の支配下にあるかのようだった。「……鉄さん、ちょっと近い、です」「教えるにはこれが一番手っ取り早い。ほら、もう一度。……今度はセカンド・ディールを試せ。上のカードをわずかにずらし、その下の二枚目を抜くんだ」 鉄さんは私の手首を掴み、指の角度を微調整しながら何度もカードを配らせる。 そのたびに、彼の硬いタコがある指先が私の皮膚をなぞり、不思議な感覚が全身に走る。イカサマ師として「泥を啜ってきた」彼の指先は、繊細さと野蛮さが同居していた。「……いいか、嬢ちゃん。マジックとイカサマの境界は、観客の期待にある」 
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: デートの続き
 圭さんは私の手を引くと、迷いのない足取りで砂利道を駆け出した。背後からは、「待てコラ、詐欺師ッ! 嬢ちゃんを離せ!」 という鉄さんの怒声と「……お姉さんの指を汚さないで」 という、地を這うようなレンくんの低い声が聞こえてくる。 都立庭園という雅な空間に、明らかに不釣り合いなドタバタ劇。私はワンピースの裾を片手で抑えながら、必死に圭さんの背中を追いかけた。マジシャンとしての修行で体力には自信があるつもりだったけれど、圭さんの歩幅は大きく、そして無駄がない。「圭さん、これ……隠れきれてませんって!」「いいや、これは攪乱だ。彼らは力押しと隠密のプロだが、こうした開けた場所での鬼ごっこには不慣れだからね」 圭さんは涼しい顔で言い放ち、池の周囲にある入り組んだ植え込みの影に私を滑り込ませた。 急な停止。勢い余って彼の胸に飛び込む形になり、鼻先を洗練されたビターな香水の香りがかすめる。昨夜、暗闇の中で私を独占しようとした三人の「怪物」たちの熱を思い出し、喉の奥が熱くなる。 彼らは私の父が遺した謎を追うための協力者であり、同時に私の平穏をかき乱すペテン師たちだ。「……っ、近い、です」「おや。これくらい近づかないと、背後から迫る『アリとネコ』の気配を殺せないよ。ほら、静かに」 圭さんが私の唇に人差し指を立てる。その仕草一つが計算された「正解」のように完璧で、私はまたしても彼のペースに飲まれてしまう。 今の状況を説明するのに「魔法にかかった」以外の言葉が見つからないのは、私の語彙不足だろうか。 植え込みの隙間から覗くと、派手なアロハシャツを着こ
Last Updated: 2026-05-03
Chapter: 慣れないデート
 翌朝、私は慣れない私服に身を包み、約束の場所である六義園の正門前に立っていた。 いつものバーテンダー服ではない、淡いベージュのワンピース。鏡の前で三十分も格闘した自分に呆れつつ、これも「潜入捜査」の一種だと言い聞かせる。「……おはよう、結さん。今日の君は、庭園の緑によく映える」 背後からかけられた声は、昨夜の嵐のような激しさを微塵も感じさせない、爽やかなバリトンボイスだった。 振り返ると、そこには白のサマーニットをさらりと着こなした圭さんがいた。モデルさながらの立ち姿に、通りすがりの観光客が思わず二度見していく。「お、おはようございます。……その、お待たせしましたか?」「いいや。君が来るまでの間、この庭園の歴史と、君をどうエスコートすれば一番美しく見えるかのシミュレーションをしていただけだから、退屈はしていなかったよ」「……その、何でもスマートにこなそうとするの、やめてもらえませんか。こっちが緊張するので」 私が溜息をつくと、圭さんは「おや、失敗かな」と茶目っ気たっぷりに肩をすくめた。「心理学的には、最初に相手を少しだけ圧倒するのがセオリーなんだけど。君には通用しないようだ」「詐欺師のセオリーなんて聞きたくないです。……それで、お父さんの暗号の話って」「まあ、そう急がないで。まずはこの美しい景色を楽しもう。暗号の鍵は、『静寂』の中にあるんだ」 圭さんはそう言って、自然な動作で私の手をとった。長い指先が私の手に絡む。昨夜、暗闇の中で感じたあの熱が蘇り、心臓が跳ねた。 二人で歩く初夏の庭園は、木々のざわめきと鳥の声に満ちていた。
Last Updated: 2026-05-02
Chapter: 直接対決
「――見えるぞ。この店に渦巻く、不浄な過去の残滓が」 ブラドは水晶玉を抱えるようにして、カウンターの中央に陣取った。彼の背後に控える信者たちは、陶酔しきった表情でその言葉を一言も漏らすまいと耳を澄ませている。 店内は、エアコンの風さえ止まったかのような、重苦しい静寂に支配された。「店主の娘よ。お前は今、身に覚えのない不安に震えているはずだ。……そう、あの日。お前の父が非業の死を遂げた時、お前は彼から『何か』を受け取らなかったか? それが呪いの引き金となり、今、お前の周りにいるこの三人の男たちを呼び寄せたのだ」 ブラドの仮面の奥にある瞳が、ギラリと光る。「こやつらは、お前を救いに来たのではない。……お前の血に宿る、父の遺産を食いつぶしに来た『悪霊』に他ならぬ!」「……っ!」 私は思わず息を呑み、カウンターの下で自分の手を強く握りしめた。 お父さんの死。遺産。そして、三人の怪物たち。 ブラドの言葉は、私の心の奥底に隠していた一番暗い不安を、正確に抉り取ってくる。 彼らが私を助けてくれているのは、本当にお父さんの事件を追うためだけなの? もし、お父さんが隠していた何かが目当てだとしたら――。 私の指先が、目に見えて震え始める。 その瞬間、信者たちから「ああ、預言が的中している!」「あの娘、怯えているぞ!」 という勝ち誇ったような声が上がった。「――おやおや。あまりにも低俗な『演出』に、反吐が出そうだね」 その場に氷を投げ込むような、冷徹な声。 圭さんが、磨き上げていたクリスタルグラスをコツンとカウンターに置いた。その音一つで、店内の騒めきがぴたりと止まる。「ブラドくん、と言ったかな。君の使っている手法は、心理学の初歩……いや、入門書を読んだだけの素人でも使える『ホット・リーディング』と『ショット・ガンニング』の混ぜ合わせだ。……君は昨日、この店の常連客に接触したね? 『悩みを聞いてあげよう』と近づき、この店の噂や、彼女の父親が亡くなっているという情報を事前に仕入れた。……違うかい?」 圭さんが一歩、ブラドの方へ歩み寄る。その足取りは優雅だが、放たれるプレッシャーはブラドのそれを遥かに凌駕していた。「な、何を馬鹿なことを……! 私は深淵の声を聞いたのだ!」「深淵の声? ……ふふ、面白い冗談だ。君が聞いたのは、安物のボイスレコーダーに
Last Updated: 2026-05-01
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