Chapter: 第120話 キャルル丸の初陣「あの白竜があれば、乗り物レースに勝てるかもしれない」 アレックが小さくつぶやいた。 トウマは眉をひそめる。(この町には乗り物レースがあるのか?) アレックが偉そうにあごをしゃくった。「命令だ。部下たちよ! トウマたちからあの白竜を奪え!」「「へい!」」 野盗のような黒い服を着た男たち三人が返事をして、こちらへとにじり寄る。それらの手には鋭く光る剣が握られていた。 岩で建てられた祠の中である。中は狭く少し埃っぽい。この大人数で立ち回るには非常にやりにくい状況だった。岩の隙間からは太陽の筋が差し込んでいる。ちなみに配信ドローンは外で待機している。視聴者コメントは流れていなかった。 トウマは野盗たちを睨みつけて前に出る。大声で尋ねた。「アレック、お前、最初からこういうつもりだったのか?」「へへーん、当たり前だろ! お前たちはアイアンゴーレムを倒すための道具に過ぎなかったのさ」「じゃあ、死んでも文句は言わないな?」「し、死ぬだとぉ? 死ぬのはお前だ! トウマ!」 アレックは憤慨したように身じろぎした。声を紡ぐ。「部下たちよ! さあトウマの首を早く取れ!」「分かってますよぉ。旦那ぁ」「金は弾んでくださいね」「おい、良い女がいるぜ。ヒャッハァ!」 トウマはブラウンのステッキを掲げた。 さて、(どうしたものか?) グラビティラインで敵を拘束するのは簡単だ。 だけど、(俺は仲間たちのお守りをしている訳じゃないんだよな) 先ほどのアイアンゴーレムもトウマが倒している。 ここは仲間たちに任せるのが良いと思った。 団長として、部下に役目を与えるのも務めである。 トウマがその場を動かずにつぶやく。「ウミ、アイ、やれ!」「はいですぅ!」「僕がやればいいんだね?」 ウミとアイギスが返
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 第119話 白竜の主人 ――クエスト、アレックの命令を聞く 領主の屋敷前の門前だった。位置的にはちょうど町の真ん中である。道は石畳であり、平らな道路が伸びていた。建ち並んでいる家々は立派な造りをしており庭も広く、風格がある。ここは金持ちの住宅街なのだろう。空には太陽が昇っており、トンビが空を泳ぐようにゆるやかなカーブを描いていた。ピーヒョロロと鳴き声が響いている。 アレックがトウマに話しかける。偉そうにあごをしゃくった。「お前がこのギルドの団長か?」「そうだが?」 トウマは目の上にしわを寄せる。 アレックは両手を腰に当てて胸を張った。「お前を俺の子分にしてやる! いいか、これからは俺の言うことをよく聞くんだぞ?」「いや、子分にはなりたくないな」「な、何でだよ!?」「当たり前だろ」「お前! 俺はこれでも貴族だぞ!」「知らんな。それより、アレックさん。俺たちに何か用事があるのか?」「当然だろ! お前たち、今から、西の森の祠へ行くぞ!」「西の森の祠?」「森の祠には神宝が眠っているんだ! 取りに行くぞ!」「……自分一人で取りに行ったらどうだ?」「お、俺一人だと、モンスターに襲われて怪我をするかもしれないだろうが! お前たちは護衛だ! 分かったら着いて来い!」 そう言ってアレックはスタスタと歩き出す。 すぐ後ろにいたウミが唇を曲げていた。「あいつは一体何なのですか?」「嫌なしゃべり方ね」 ベルフラウがため息をついている。 トウマは首をかしげてつぶやいた。「まあ、仕方無いか」:アレックは嫌な奴。:森の祠の神宝って何?:祠の前にはアイアンゴーレムがいるから入れないよ。 トウマはみんなに呼びかけて歩き出す。とりあえずアレックに着いて行くことにした。 アレックの命令を聞くのは何か嫌だ。 だけどまあ、
Last Updated: 2026-07-23
Chapter: 第118話 課税 翌日の早朝。 トウマはカジノに来ていた。高い天井には現代的な照明が光っている。だけど電気ではない。ゲーム内なので魔導具だった。床は丸い模様の入ったマット敷きである。トウマは今、スロットに挑戦している。彼の後ろではウミがはらはらとした表情で見守っていた。 トウマは先ほどバフ料理を食べていた。 Aランクのチョコレートパフェの効果。満腹度30%回復。幸運上昇(小)。効果時間30分。 このチョコレートパフェは明らかにカジノを攻略するための鍵である。そう確信したトウマは、早朝からこうしてログインしていた。スロットに挑戦している。若干勝っていた。 スロットがぐるぐると回っている。 今、あと一つでスリーセヴンが揃う。 トウマは祈るように三つ目のボタンを押した。 しかし7の絵柄は滑ってしまう。 ため息をつきつつ、またレバーを引いた。 トウマは回転するスロット画面を眺めつつ、両手を胸に組んでぼんやりとつぶやいた。「……ふむ」「ご主人様、もうやめてくださぁい。昨日の私みたいになるですよ!」 ウミが心配そうに声をかける。:ウミちゃんに同意。:ここのカジノは勝てないって!:やり過ぎ注意。 トウマは苦笑しつつ顔だけウミを振り向いた。「そうか?」「そうですぅ! これ以上やったら沼りますです。師匠に怒られるですよ!」「……そうだな」 もう30分近くプレイしている。 チョコレートパフェを食べても、簡単に当たる訳じゃないのか? まあ、幸運上昇(小)だしな。 そうそう上手くは行かないということだろう。 だけどベルフラウがチョコレートパフェを作ったら、ランクSができるはずだ。幸運上昇率が上がると思った。今度、彼女にお願いしてみることにしよう。 トウマはスロットのボタンを順番に三つ押す。ベルの絵柄が揃い、コインがまた少し増えた。トウマ
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 第117話 エントリー ルスプル町の入り口に到着する。 するとラプトゥーンはバルドロッグへ帰って行った。 景色を見渡すと、レンガ張りの家々が建ち並ぶ華やかな町並みである。馬車や人々が行き交っており雑踏が響いていた。NPCは上品な服を着ている。町は裕福なのだろうか? ルスプルはこの辺一帯を治める領主の町だ。 見たところプレイヤーの数も多かった。各々の同伴者と会話に花を咲かせている光景がある。:治安の良さそうな町。:この町、売春が横行しているぞ。:ウミちゃんに早く会いたい。 ステータス画面からトウマがウミに電話をかける。 いま、通話がつながった。「もしもし、ウミか?」「あ、あうあう、ご主人様ですか?」 ウミの声はどこか切ない。 トウマは眉を寄せつつも尋ねた。「俺たちもルスプルにいま着いたんだが、ウミたちはどこにいるんだ?」「……カジノです」「カジノ? カジノってどこだ?」「ルスプルの入り口から真っ直ぐに伸びる道を進めば、やがて着くです」「そうか。じゃあ今から行く。だけどウミ、まさかカジノで賭け事をしているのか?」「……ちょっとだけですぅ」「なら良かった。アイギスも一緒か?」「はいです」「じゃあ俺たちも今から向かうから、カジノの玄関にいてくれ」「怒らないですか?」「……何か隠しているな?」「な、何でもありませぇん」「とりあえず行くから。またな、電話を切るぞ」「あうぅぅぅぅ」「どうした?」「な、何でもないです!」「そうか」 トウマは電話を切った。後ろを振り向く。ベルフラウがいぶかしげな顔つきをしていた。彼女がつぶやく。「ウミちゃんの声、何か変だったわね」「そうだな。もしかすると…&helli
Last Updated: 2026-07-21
Chapter: 第116話 甘い罠バルドロッグ村の村長、ガロフの家へと戻る。 黒くくすんだ屋根と壁。他の民家と変わらないサイズの古めかしい建物である。トウマたちが玄関の扉をノックして開くと、ガロフの怒鳴り声が響いてきた。 「この大馬鹿もんが! あれほど村の宝庫の封印を解くなと言っただろうが!」 「ごめんよ、父さん」 青年の少し高い声が聞こえてくる。 トウマとベルフラウは顔を見合わせた。トウマが口を開く。 「ネクロマンサーだった息子さんは、無事にリスボーンしたみたいだな」 「うふふ、そうね」 ベルフラウが微笑をこぼして頷いた。 ニキが力強く言って親指を立てる。 「本当に良かったさ」 「そうですね」 晴恋もニッコリと口角を上げる。 トウマは玄関口で「ごめんください」と声をかけた。 リビングにいるガロフはすぐに気づいたようで玄関に出て来てくれた。彼の後ろには息子さんらしき人物がいる。ネクロマンサーだった時とは違い、山羊の顔骨の仮面をつけていない。服も赤いローブではなく、紺のTシャツに革のパンツだった。もちろんネクロマンサーの笛を持っていない。 あの笛は地雷の爆風でゲーム内から消失したのだろうか? それとも村の宝庫にはネクロマンサーの笛がまだまだあるのだろうか? ガロフは深々と頭を垂れた。 「お主たち、良くやってくれた! おかげで息子がこの通り、家に戻ってくることができたわい。息子はもう二度と戻らんと思っておった。どうお礼を言ったら良いか……」 「別に良いんですよ。俺たちはクエストを攻略しただけなので」 トウマは控えめに手を振る。 ガロフは後ろを振り返り、息子の肩の袖を引いた。 「ほらっ、お前もお礼を言うんじゃ!」 「皆さま、本当にありがとうございました。助かりました」 ガロフの息子が泣きはらしたような表情をそのままに腰を折った。 トウマたちが会釈する。 ガロフはトウマに歩み寄りステータス画面を出した。 「感謝の印と言っては何だが、つまらぬものだがこれを受け取って欲しい」 中から四つの羊皮紙を取り出す。 ベルフラウが恐縮したように聞いた。 「いいんですか?」 「本当、つまらぬもので申し訳ないが、デザートのレシピじゃ」 ガロフが四人に羊皮紙を配る。 トウマは受け取って羊皮紙を眺めた。パフェのような絵柄が描かれ
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 第115話 起爆 あれから一度現実に戻り、みんなが昼食を食べた。 再びログインしている。 道具屋で火薬を買い、トウマは爆弾を作り続けていた。 バルドロッグの道具屋のカウンター前。そこでパズルのミニゲームに何度も挑戦する。しかし、評価は最高でもAまでしか出なかった。ちなみにA評価の爆弾はランドマイン(地雷)である。 村を離れてその威力を試してみた。けたたましい音が鳴り、派手な爆発が起きる。小さな家なら吹き飛びそうな威力だった。:爆弾の破壊力!:スキルより強いよこれ。:爆風がすごい。 これをくらえば、プレイヤーは一撃死かもしれない。 ネクロマンサーに効くかもしれなかった。 トウマは右手の拳を握りしめる。 隣にいるニキが粋の良い笑みを浮かべていた。「トウマさん、これなら!」「ああ。ネクロマンサーに効くかもな」 トウマは笑顔で返す。だけどその笑顔は少しひきつっていた。爆弾のあまりの威力に恐怖を覚えている。 そしてまた村長ガロフの家に行った。道案内をしてもらうためである。 ガロフに先導されて、トウマたちはネクロマンサーの住処への道を歩いていた。辺りは真っ暗であり荒野のようなフィールドだった。晴恋の持つランタンの灯りだけが照らしてくれている。 ガロフが心配そうにつぶやいた。「お主たち、本当にネクロマンサーと戦うのか?」「いえ、戦いません」 隣にいるトウマは首を振る。 ガロフは眉をひそめた。「戦わないとはどういうことじゃ?」「爆破するんです」 トウマはにやりと笑う。後ろでは仲間たちがクスクスと笑っていた。 ちなみにテルルはもういない。先ほど自宅へと帰らせた。 ガロフがうろんげな瞳を向ける。「ふむ、爆破とな。よく分からんが、何か良い手があるのじゃな?」「はい」「そうか。ならば任せよう。ほれ、見えてきたぞ。あの家じゃ」「あ
Last Updated: 2026-07-19