イルン幻想譚

イルン幻想譚

last updateHuling Na-update : 2026-04-29
By:  琉斗六Ongoing
Language: Japanese
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人からは〝神にも等しい〟と呼ばれながらも、神ならざる種族・神耶族(イルン)。 個性が強すぎるがために同族同士で馴れ合えず、繊細な心は孤独に埋め尽くされる。 そんなイルンにとって契約を結んだ契金翼(エヴンハール)は、友人であり、恋人であり、家族であり、己の魂の一部となりえる者。 人ならざる者と、人である者。 契約をすることで、人は人を超越し、人ならざる者はその孤独を埋める。 不老長命の種族〝イルン〟と彼らを取り巻く物語。 その物語は章ごとに中心人物が変わる構成で書かれています。

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Kabanata 1

Episode 1 剣闘士の男・1:隠者の洞窟

 ファルサーは、ようやくその場所へ辿り着いた。

 まともな登山道も無い山は、全体は剥き出しの岩ばかりだったが、その道なき道を登り切ると急に草地が広がっていた。

 そしてその向こうには、町で教えられた通りの岩壁がそびえている。

 登ってきた岩場を振り返って見ると、遥か眼下には町から四方に伸びるリボンのような街道と、青い湖が一望出来た。

 大きく深呼吸してから隆起した岩壁の傍に歩み寄り、今度は重なった岩襞を根気よく探る。

 するとこれもまた町で教えられてきた、洞窟への入り口を見つけることが出来た。

 洞窟はなだらかに下降していて、奥のほうまで外の光が差し込んでいる。

 これならば、松明を用意せずともかなり先まで進めそうだ。

 二十代になったばかりのファルサーは、色の濃い金髪と同じように色の濃いロイヤルブルーの瞳をしていて、大柄で筋骨逞しい、見るからに戦士フェディンと解る男だ。

 容貌は精悍で覇気に溢れているが、身に付けているのは安価な革鎧と革ベルトで、腰に下げているグラディウスも含めて全体に質素である。

 なんの恐れも持たず、迷いもなく、ファルサーは洞窟へと踏み込んだ。

 先で真っ暗になったら明かりを用意しようと考えながら進んだのだが、洞窟の長さは外の明かりが届かなくなる手前で終わっていて、そこにはその場に全く不釣り合いな扉があった。

 鉄枠が岩壁にしっかりと嵌っていて、木製の扉の中央には重そうなドアノッカーが付いており、鉄枠の少し上のところに〝Lunatemisルナテミス〟と文字が刻まれている。

 そして、ノッカーの丸い手すりには〝ご用件の方は中へ〟と書かれた木製の札が下げてある。

 その違和感だらけの状況に顔をしかめたものの、ファルサーは洞窟に入った時と同じように、怯まず扉の取っ手に手を掛けた。

 彼は、麓の湖の真ん中にある島に行かねばならなかった。

 しかし、湖には船着き場の残骸のような場所があるだけで、小舟すら浮かんでいない。

 もっともそれは、当然のことだと思った。

 湖の島には強大なドラゴンが棲み着いていて、町の者は誰も近寄らないからだ。

 だが、自分はどうしてもあの島へ行かねばならない。

 どうしたものかと湖岸で思案をしていたら、その姿を不審に思ったらしい老爺に声を掛けられた。

 詳細を語らずに、ただ「島に渡りたい」と言ったファルサーを、老爺がどう思ったのかは判らない。

 ただ、それならばこの周辺で一番標高のある山に登れと言われた。

 曰く、そこには〝隠者のビショップ〟と呼ばれる非常に風変わりな、山の精霊の加護を受けた長命の者が住んでいると言う。

 そして島に行くには、"あの方〟に頼む他に方法は無いと教えてくれたのだ。

 そんな変わり者が、しかも洞窟に暮らしていると聞かされていたから、てっきり穴ぐらのような所に、此処を教えてくれた老爺以上に顔中ヒゲだらけの、老獪の者でも住んでいるのだろうとファルサーは想像していた。

「誰かいるかい?」

 開けた扉の向こうには、広くて明るく清潔な部屋があった。

 精々松明に照らされた程度の暗い住処を想像していたファルサーは、すっかり面食らってしまう。

 思わず振り返って扉の外を見て、内側を見て、また外を見て、それを何度か繰り返し、驚きをそのまま声に出して感嘆する。

「信じられないな!」

 しかし何度繰り返しても、鉄枠で縁取られた扉を挟んで、中と外とがまるで別世界だった。

 入り口の扉は、確かに洞窟の奥にあるにはあまりにも異質な佇まいではあったが、扉だけを見れば、貴族とまでは言わないが、金回りの良い家の玄関扉といえる。

 だがその部屋は、正に貴族の館のような広さと美しさだ。

 床は薔薇色の大理石が平らかに敷き詰められて、塵ひとつ落ちておらずピカピカだったし、四方の壁も染みひとつない真っ白な石材で作られている。

 壁面には等間隔で半円形をしたすりガラスが取り付けられていて、内側から光を放っていた。

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Episode 1 剣闘士の男・1:隠者の洞窟
 ファルサーは、ようやくその場所へ辿り着いた。 まともな登山道も無い山は、全体は剥き出しの岩ばかりだったが、その道なき道を登り切ると急に草地が広がっていた。 そしてその向こうには、町で教えられた通りの岩壁が聳えている。 登ってきた岩場を振り返って見ると、遥か眼下には町から四方に伸びるリボンのような街道と、青い湖が一望出来た。 大きく深呼吸してから隆起した岩壁の傍に歩み寄り、今度は重なった岩襞を根気よく探る。 するとこれもまた町で教えられてきた、洞窟への入り口を見つけることが出来た。 洞窟はなだらかに下降していて、奥のほうまで外の光が差し込んでいる。 これならば、松明を用意せずともかなり先まで進めそうだ。 二十代になったばかりのファルサーは、色の濃い金髪と同じように色の濃いロイヤルブルーの瞳をしていて、大柄で筋骨逞しい、見るからに戦士と解る男だ。 容貌は精悍で覇気に溢れているが、身に付けているのは安価な革鎧と革ベルトで、腰に下げているグラディウスも含めて全体に質素である。 なんの恐れも持たず、迷いもなく、ファルサーは洞窟へと踏み込んだ。 先で真っ暗になったら明かりを用意しようと考えながら進んだのだが、洞窟の長さは外の明かりが届かなくなる手前で終わっていて、そこにはその場に全く不釣り合いな扉があった。 鉄枠が岩壁にしっかりと嵌っていて、木製の扉の中央には重そうなドアノッカーが付いており、鉄枠の少し上のところに〝Lunatemis〟と文字が刻まれている。 そして、ノッカーの丸い手すりには〝ご用件の方は中へ〟と書かれた木製の札が下げてある。 その違和感だらけの状況に顔をしかめたものの、ファルサーは洞窟に入った時と同じように、怯まず扉の取っ手に手を掛けた。 彼は、麓の湖の真ん中にある島に行かねばならなかった。 しかし、湖には船着き場の残骸のような場所があるだけで、小舟すら浮かんでいない。 もっともそれは、当然のことだと思った。 湖の島には強大なドラゴンが棲み着いていて、町の者は誰も近寄らないからだ。 だが、自分はどうしてもあの島へ行かねばならない。 どうしたものかと湖岸で思案をしていたら、その姿を不審に思ったらしい老爺に声を掛けられた。 詳細を語らずに、ただ「島に渡りたい」と言ったファルサー
last updateHuling Na-update : 2026-03-22
Magbasa pa
2:ルナテミスの主人【1】
 壁面にあるランプが室内を柔らかな光で満たしているのだが、内側で炎を燃やしているにしてはチラつきが無い。 そもそもあんな小さなランプの灯りが、どうやってこんなに明るい炎を燃やすことができるのだろうと不思議になって、ファルサーが壁に歩み寄った時だった。「私に何か用か?」 それは、男性にしては甲高く、女性にしては低音の、聞いたことの無い声だった。 しかも今の今まで、背後に全くなんの気配も無かったために、ファルサーは驚いて慌てて振り返ったのだった。 フェディンたる者、どんな時にも背後の警戒を怠ってはならない…と教えられていたファルサーは、相手の気配に全く気付いていなかったことに狼狽えていた。 だが声の主を見た途端、そんな動揺など吹っ飛んでしまう。 ファルサーの想像していたような〝ヒゲだらけの老人〟は、そこにはおらず、小柄で童顔な人物が立っている。 しかもその人物は、上から下まで真っ白だった。 上司の監督官や同僚の中には、全能の神を信仰する者もいて、彼等が語る〝神の使い〟なる者がもし目の前に顕現したら、こんな姿かもしれない…と思うほどに。 やや子供っぽい顔をしていると感じたが、良く見ればそれほど幼くもない。 整った美貌をしているが、なんとも冷たい印象の無愛想な顔でこちらを見ている。 髪色も肌色もアルビノのように白いが、アルビノならば特徴的な赤いはずの瞳が、薄氷のような淡いブルーで、むしろ瞳までも色素が抜けてしまっているのでは無いかと思われた。 背丈は一般的な女性ぐらいしかないが、女性と思うには決め手が無く、スタンドカラーの服を着ているので、喉元も見えない。 髪型はベリーショートで、女性と言えば髪を伸ばすものと思っているファルサーの感覚からしたら奇妙だったし、そもそもスラックスを履く女性なんて、今まで見たことも無い。「用件は?」 冷酷さすら感じる、件の透けた薄氷のような淡いブルーの瞳に、決して好意的とは言いかねる感情を乗せて睨みつけられ、ファルサーはハッとなった。「…湖の真ん中にある島に渡してもらいたいんだが…」「何のために?」「ドラゴン討伐だ」 ファルサーの答えに、それまで殆どなんの表情もなかった相手の顔に、微かながら呆れたような感情が浮かぶ。「物好きだな」「僕がしたくて、する訳じゃない。王命だ」「どちらにしろ物好きだ」 相
last updateHuling Na-update : 2026-03-22
Magbasa pa
2:ルナテミスの主人【2】
 ファルサーが黙って相手を見つめていると、眉根を眉間に寄せて不機嫌な顔になった。「物を頼みに来たのなら、相応の態度を取ったらどうだね?」 冷たい声音と突き放すような態度に引っかかりを感じたが、こちらのほうが〝お願い〟をしている立場である。 ファルサーは渋々と、相手が示した椅子に座った。「湖の島に、渡してもらいたい」「報酬は?」「そちらの希望を聞こう」 相手はファルサーの問いにすぐには答えず、テーブルの上に置いてある直径が五センチぐらいの透き通ったまん丸い水晶を手に取った。 数秒、それを見つめた後に、視線をファルサーの顔に戻してくる。「支払いをするのは、君か? 王か?」「それがなにか、関係が?」「大いに有るな。そもそも、君に何が支払える?」「金貨を持っている」「それは君の旅費だろう? 大事にしておきたまえ。それに私は、金に興味は無いのでな」 わざわざ水晶球などを手に取った上に、ファルサーと水晶球を交互に見やるような態度から、てっきり相手がその水晶球で、何か占いじみたことでも始めるのかと思った。 だがヒトをくったような態度でファルサーに応対する様子からは、占いなどするつもりはさらさらなさそうだ。 旅芸人のマジックと同じように、から手の甲にコロコロと水晶球を転がしたり、ファルサーの目の前で手首を返す度に水晶球の数が増えたり減ったりしている様子から、水晶球をもて遊んでいるだけだと気付いた。「だが、まぁ、いいだろう」 最後に大きく手首を回し、相手は一つに戻った水晶球をテーブルの上の、元々置かれていた場所に戻した。「君に要求する対価は、二件の労働奉仕だ」「労働奉仕…?」「文字は読めるかね?」「えっ、ああ、一応読める」「よろしい。では、あちらの扉の向こうに廊下がある…」 相手は部屋の北側にある扉を、指で示した。「一番奥まで行くと〝倉庫〟と書かれた扉があるので、その部屋に入ってくれたまえ。入って直ぐのところにリストが置いてある。その内容通りの物を、集めてきて欲しい。君がどれほどの能力を持っているのか判らんので、期限は切らずにおこう。どうせ暇を持て余しているしな。リストの物を全部集め終わったら、次の用事を頼もう。二つの仕事が完了したら、君を島に渡す。頑張りたまえ」「それだけ?」「君は頑健なようだ
last updateHuling Na-update : 2026-03-22
Magbasa pa
2:ルナテミスの主人【3】
 倉庫に向かう廊下もまた普通の廊下然としており、並んでいる扉にはいちいちプレートが付いている。 それぞれのプレートには奇妙な名称が付いていたが、他人の家の中をいちいち覗くのもどうかと思ったので、ファルサーは廊下を進んで、それらの扉の前は素通りした。 廊下の一番奥に、アークの言った通りの扉があった。 どうやらここが目的のストックらしい。 だが扉を開けると、そこにはまたしても、ファルサーの想像を裏切る光景が広がっていた。 天井は遥かに高く、向こうの壁はよく見えないほど遠い、広大な部屋だったからだ。 そこに理路整然と等間隔に、天井まで届く石で作られた棚がビッシリと並んでいる。 それぞれの棚は高さや広さが異なるが、全てにプレートが貼られていて、その名称に見合った物が収められているらしい。 しばらく呆然とストックの中を見て回ったが、やがて我に返ったファルサーは、アークの言っていたリストのことを思い出した。 入り口に戻って見ると、扉の脇に木製の棚とボードが設えられていて、その傍に大きな肩掛け袋や背負い籠などが置いてある。 ボードを手に取って見ると、そこには〝薪〟のようなファルサーにも分かる名称の他に〝緋蓬〟や〝露羊歯〟と言った、見たことも聞いたことも無い名称がいっぱいに並んでいる。 ファルサーは、アークは自分を島に渡してくれる気など毛頭無いのではないかと思った。 意味も判らない単語の羅列を眺めて、どうしてリストの物を集めることなど出来ようか? アークが手の中で弄んでいた水晶球のことなど思い返すと、自分はからかわれているとしか思えない。 しかし金銭に興味は無いとハッキリ言われてしまっているし、そもそもアークが言う通り自分の手持ちの金は此処までの旅費として渡された路銀で、しかもさほども残っていない。 最初にこの路銀を渡された時、ファルサーには金銭感覚が無かったので良く解っていなかったが、旅に出て直ぐ、その金が往路の分しか無いのではないかと感じた程度だ。 アークはこの金は受け取らないと言っていたし、そうなると要求された労働力以外に提供できるものはなにも無い。 しばらくリストを眺めてから、仕方がないので頭を下げて、アークにこのリストが何を指示しているのか訊ねようかと考えた。 だが、アークのあの高慢で人を喰ったような態度
last updateHuling Na-update : 2026-03-22
Magbasa pa
3:天頂の湯殿
 日が暮れかけた頃に、集めた植物を持って戻ると、テーブルの傍にアークが立っていた。「労働は、捗ってるようだな」「なにか用でも?」「日が暮れたら、作業は終わりにしたまえ」「なぜですか? この辺りにモンスターはいないようですし、松明の用意もあります」「だが、夜は餌を求めて四足の獣が出る。集団行動を取っているので、屈強なフェディンでも危険だ。ストックの手前に風呂がある。汗を流してくるといい」 態度は高圧的だが、どうやら気を遣われているらしい。「では、そうさせてもらいます」 そう答えて、ファルサーは廊下に出た。 これまでファルサーが使ってきた〝風呂〟は公衆浴場であり、個人宅に風呂があるのなんて、余程の金持ちか権力者の邸宅のみだ。 とはいえ自分の知る〝常識〟から、なにもかもが逸脱しているこのの邸宅なら、風呂があってもおかしくないのかもしれない。 それに、最初にストックに向かった時からずっと、ルナテミスの中にアーク以外の誰かの姿を見たことが無い。 これほどの広さを維持するには、かなりの数の奴隷や使用人を使っているのが普通だと思うのだが。 しかしこんな山の上の岩窟の中に、こんな邸宅を造り上げてしまうような相手には、自分の考える普通など通用しないとも思う。 そんなことを考えながら〝ストックの手前〟にある扉を開けた。 中に入ると、足元に玄関ホールのような段差が付けられていて、入り口脇の棚には〝シューズボックス〟というプレートが付いていた。 つまり、脱衣所に入る前に履物を脱ぐようになっているらしいと理解したファルサーは、そこでサンダルを脱いだ。 どうやら自分の知る風呂とは、随分と様式が違うらしい。 段差を上がった部屋もまた広々としていたが、ストックの広さと回廊のような廊下を見てしまった後では、もうあまり驚かなかった。 壁際にはストックと同じような石造りの棚があり、そこに木の皮で作ったカゴが置いてあった。 広い室内には木製の椅子もあり、石の棚には柔らかなタオルがきちんと重ねて置かれている。 自分の知る様式とは違う風呂だと解ったので、ファルサーはまず室内を見て回った。 入ってきた扉とは別に、もう一つ扉があったので、それを開くと、モウッと湿って温かい湯気が全身を包み込んでくる。 だが床のどこを見ても浴室用の履物が無い。 そこで少し困ってしまっ
last updateHuling Na-update : 2026-03-22
Magbasa pa
4:ヒトならざる者【1】
「いや驚いた、あんな凄い風呂場を、どうやって作ったんです?!」 部屋に戻ったファルサーは、そこに居たアークにやや興奮気味に話しかけた。「私がそんな土木労働をするような、物好きに見えるかね?」「物好きかどうかはともかく、労働をするようなタイプには見えないな」「そうだろうな。そこに食事を用意した。物足りなかった場合は言ってくれれば、追加を用意する」 テーブルの上には、パンとスープが置かれていた。「いただこう」 ファルサーは椅子に腰を降ろし、食事に手を付けた。 手に取ったパンは石のように堅く、スープは熱々だったが味が殆どしない。 だがファルサーはそのことに文句は言わなかった。 アークは部屋の奥にある調合台に向かって、なにやら作業をしている。「ここに、ずっと独りで?」 食事をしながら、ファルサーはなんとなく作業をしているアークに話し掛ける。「そうだ」「寂しくはないのか?」「独りのほうが、気兼ねがなくて良い」 アークの返事は素っ気なかったが、話し掛けられることを拒絶している様子では無い。「何の作業をしてるんだ?」「薬の調合だ」「秘薬か何かの?」「ただの血止めの軟膏や、咳止めのドロップだ」「僕が集めていた植物は、それに使われているのか?」「一部はな」「それを、どうする?」「町の市場に持っていく。ただの暇つぶしだ」「収入ではなくて?」「収入など、必要無い」 奇妙な返事だな…とファルサーは思った。 しかし一方で、どれほど整えられた軍隊であっても、湖を渡るにはアークの手を借りねばならないとの話を、此処に来る前に聞かされていたから、そんなものなのかもしれないな…とも考えた。 島に棲むドラゴンは非常に危険なモンスターで、ちょっとした軍備を所持しているならば、この近隣で被害を受けた歴史を持たない国は無い。 過去においては、各国の協力の下、大掛かりな討伐隊が編成され派遣されたが、未だ討伐されること無く、棲み続けている。 強国が所有する巨大な弩から打ち出された、鉄製の矢を受けてなお傷一つつかず、射掛けられたそれを噛み砕き、あまつさえそれら鉄製の巨大な武器を、口から放つ火炎で易々と溶解し食らったと言う。 また周囲への魔気も討伐の際の障害になっていて、最大規模の遠征時には、|魔障《ガルドリン
last updateHuling Na-update : 2026-04-04
Magbasa pa
4:ヒトならざる者【2】
 堅いパンを噛み締めながら、ファルサーはふと、自分が一人で食事をしていることに気が付いた。「あなたはもう食事を済ませたのか?」「必要無い」「なぜ?」「君に食事をしろとは言ったが、私を質問攻めにしろとは言ってないぞ」 ずっと自分の手元だけを見て作業をしていたアークが、顔を上げてファルサーを睨みつけてくる。「質問攻めにしているつもりは無い。ただ、あまりにも不思議な…常識から外れた返事ばかりするから、つい訊いただけだ」「君の常識が全てに通用しないと、考えたことは無いのか」「確かにここの状況からすれば、僕の常識が当てはまらないのは当然だと思う。だが、飯を食う必要が無いなんて、僕以外の誰にだって当てはまらないだろう」「それは〝人間の常識〟だ、私には関係無い」 アークの答えに、ファルサーはびっくりした。「待ってくれ、それではあなたはまるで、リオンでは無いみたいじゃないか」「私はリオンでは無い。町で、そう聞いてきたのではないのかね?」 ピシャリとした口調で言われたその態度より、言葉の内容に衝撃を受ける。 町の老爺はアークのことを〝山の精霊の加護を受けた長命の者〟と言った。 学の無いファルサーでも、世界を維持するために六柱の精霊族が存在することは、当たり前の常識として知っている。 所属する国や、暮らす地域によって、宗教観や信仰する対象が違っていたりもするが、魔法を行使できるのはエレメンツが存在するからだ、という程度の知識は、一般的な常識だからだ。 だがエレメンツはファンタズマと同様に、異形の超越せし者であり、一般的にはヒトガタをしたリオンを超える生命…つまりヒトならざる者は、おとぎ話にしか存在しないと言われている。 故にファルサーは、アークのことも風変わりなセイドラーなんだろうと思っていた。「あなたは……ヴァリアントなのか?」「だから、なにかね?」「ステータスはリオンを上回るのか?」「だから、なにかね?」「ガルドルも高い?」「だから、なにかね?」「僕と同行願えないだろうか?」 唐突な申し出に、アークは絶句したようだった。 を言えば、それを口にしたファルサー自身も驚いていた。 だが、アークの存在が本当にヴァリアントなのだとしたら、これは千載一遇の機会でもあった。「突然
last updateHuling Na-update : 2026-04-04
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5:アークの憂鬱【1】
 部屋に入ったアークは扉を閉め、大きな溜息をつく。 部屋には水晶を加工して作った水槽がたくさん並べてあった。 水槽では種々雑多な昆虫を飼育していて、アークはこの部屋で昆虫の研究をしていた。 アークは部屋の中央に進み、そこに置かれた安楽椅子に身を沈める。 なにをする訳でも無く、アークは取り出した水晶球をもて遊びながら、隣の部屋にいる人物のことを考えていた。 ルナテミスに誰かが訪ねてくるのは久しぶりだった。 しかしそれはただ久しぶりと言うだけで、格別珍しいことでは無い。 湖の向こうのドラゴン討伐に来た者は、必ず此処を訪ねて来る。 湖の中央にある島にドラゴンが存在し、それを討伐しようと思う者が居る限り、どんなに期間が開いたとしても、此処には誰かがやってくる。 そういう意味ではファルサーも、それら十把一絡げの訪問者の一人に過ぎない。 なのにどうして、こんなにファルサーのことが気に掛かるのか? どんなに考えても、ファルサーの申し出に応える義理は何も無い。 アークは目を閉じて、自分がこんな人里離れた山の上に、独りで暮らしている理由を思い出す。 それは自分がリオンとは異なる種族だと気付いたからだ。 だがそのことに気付いたのが、いつのことだったのか、あまりにも遠くて思い出そうにも思い出せない。 記憶にある子供の頃には養父母がいて、リオンの村落で暮らしていた。 当時から既に自分と周りとの違和感に気付いていたが、養父母はアークを家族としてきちんと扱ってくれたし、村落の養父母以外の者達もアークの異質を受け入れてくれていた。 違和感がハッキリとした疎外感に変わったのは、流行り病で養父母を亡くしてからだ。 病魔は養父母のみならず村人達の命も奪い、最終的に村落そのものが離散した。 そして、それを境に温かみのある生活とは無縁になった。 流行り病で村落がほぼ壊滅したような場所からやってきた孤児…と言うだけでも忌み嫌われる要素として充分だが、更にアークは魔力持ちだった。 養父母に守られていた頃は、アークがガルドルを使うことを、誰も忌避しなかった。 だからそのつもりでを使ったアークは、リオンがガルドルを忌み嫌うことをそこで初めて知ったのだ。 同じようにセイズだとして、持たざる者のコミュニティから弾き出されてしまった者達が集まって
last updateHuling Na-update : 2026-04-05
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5:アークの憂鬱【2】
 リオンの村落で平穏に暮らすには、アークの持つ素養は異質な点が多すぎた。 迫害を受け、職にも付けず、生活に行き詰まったが、助けてくれるものはいない。 だが食うにも困る状況にまで追い詰められても、一向に生命の危機を感じない。 そこで初めて、自分がヴァリアントだと気が付いた。 リオンであれば、どうあってもコミュニティと繋がりがなければ生きていくことが出来ないが、抜きん出たステータスを持ち、更に食う必要が無いとあれば、その限りでは無い。 それに気付いたところで、アークは人里離れた場所で生活を始めた。 しかし不思議なことに、そうしてリオンから離れた暮らしをしていると、なぜかわざわざアークを探し出して会いに来る者が現れるようになった。 はじめのうちは応じていたが、それがアークの飛び抜けたステータスを利用するのが目的で、いざともなれば裏切られたり迫害を受けたりする。 そうした経験を経て、アークは更に人里離れた場所を求めて放浪し、辿り着いたのがこの辺鄙な場所だった。 この土地を選んだのは、標高が高い山の上のほうに興味深い遺跡があったからだ。 それに山の中腹にある丘と、隆起した岩壁のロケーション。 そこから一望できる、麓と湖のコントラスト。 軽い気持ちでリオンが訪れるのが難しい環境など、理想的な場所と言えた。 移り住んで間もない頃は、悪心を抱いた者に利用された不愉快な思い出からリオンを避け、遺跡を歩いて一人で時間を過ごしたが、しばらくしたらやはり人恋しさを感じた。 アークが居を構えた当初は、麓の村落は人口も数えられるぐらいしかおらず、非常に貧しい環境だった。 だが、アークが人恋しさを覚えて再び麓に降りた時には、湖の島で鉄の精錬をしており、リオンの数もかなり増えていて、活気にあふれる町に成長していた。 そこで時折、山から降りて村人と交流を持った。 こちらから干渉はせず、ある程度の距離を置くことで上手く付き合えることを学び、ささやかな友情のようなものも交わすことが出来たと思った。 だが、ほんの少し時間が開くと、村落の世代交代が二つ三つ進んでいたことがままあった。 リオンの里で養父母と暮らしていた頃の時間の感覚は、しばらく一人で過ごしているうちにすっかり失われてしまっていた。 どれほどの好感を抱いていようと、時は無慈悲にその者の寿命を区切っていく
last updateHuling Na-update : 2026-04-05
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5:アークの憂鬱【3】
 世界中を見て回れば、同じ種族に出会えるのかもしれない。 幾度もそう考えた。 だが実行には移せなかった。 自分と同じ種族が、この世界に存在するのかどうかも解らない。 親しんだリオンを失った時の喪失感は、いつも心に刺さった。 この孤独を埋めてくれる誰かを夢見て探しに行き、誰も見つけられなかったら? いつまで続くのか解らない孤独を埋められる者が、この世に誰一人居ないとしたら? それを冷静に受け止められるとは、とても思えなかった。 取り残されて孤独になることに怯え、それ故に他者と懇意になるのを避けるようになった。 特定の誰かと穏やかで幸せな時を過ごしてしまったら、その後に訪れる孤独と寂寥感を癒す術など考えもつかない。 そしてただひたすらその恐怖を避けるため、長い長い年月を独りで過ごしている。 独りで居るだけなら、そのうち痛みもぼやけてきて、どんなに長い時の流れも、やがて一瞬と区別がつかなくなる。 そこまでして自分ひとりの居場所を作ってきたのに、どうして扉の向こうに居る、十把一絡げの、ただ一瞬の行きずりの人物を、こんなに気に掛けているのか? ファンタズマとは、ヒトガタをしておらず、更に強大な能力を備え持った生命の総称である。 能力の大きさによって上級・中級・下級と大まかな分類はされ、リオンにとっては生命を脅かす危険な天敵の一つだ。 ドラゴンは最上級とも言われるファンタズマで、そのステータスはリオンから見たら生ける天災そのものと言えた。 そもそもドラゴンの身体能力やら頑健さやらを挙げ連ねる前に、その身に備わったガルドルの大きさの前に、リオン如きは近づくことすらままならない。 好物は鉱石で、特に精錬された物を好む傾向があった。 リオンの文明が進み、金属加工の技術が上がったのは、ドラゴンにしてみれば美味しい餌場が提供されたような状態だったと言える。 しかもドラゴンの体は、リオンの軍隊がどれほど頑張ったところで、ウロコ一枚剥がすことも出来ない。 一方で、湖の島からは非常に稀で価値の高い、特殊な金属が産出される。 この地の利がさほども無いような山間の湖のほとりに、わざわざリオンが村を作った理由はそれだった。 近隣諸国はこぞって此処から産出される鉱石を買い求め、ドラゴンが現れる以前は各国が採掘の主導権を争ってしのぎを削っていたほど
last updateHuling Na-update : 2026-04-05
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