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Novels by 十色

復讐は赤色の夢のように〜幽霊として現れた恋人と復讐する恋物語〜

復讐は赤色の夢のように〜幽霊として現れた恋人と復讐する恋物語〜

閉鎖的な田舎の高校二年生の因果崎神は三人のクラスメイトから日々イジメに遭っていた。 それは徐々に過激化し、グループの中心である黒羽霧は彼の恋人の糸賀律にも目を付け、自殺するよう仕向ける。お前が死んでくれたらもう二度と因果崎に手を出さないと言って。 だから彼女は校舎の屋上から飛び降りた。因果崎のために。笑顔を浮かべながら。だがイジメは続いた。そして糸賀の一周忌に墓前で涙を流す因果崎の前に糸賀が幽霊となって現れる。 因果崎と共に復讐をするために。
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Chapter: 第4話 シジュウカラ
 階段を上り、屋上までやってくると、黄金に染まった夜と夕刻の中間の空が視界いっぱいに広がった。 真夏は日が暮れるのが遅いけれど、しかし、すでに太陽は沈みかけていた。それだけ長い間、僕と律は体育倉庫で話し込んでいたということだ。 時間を忘れる程に。「なんだか懐かしいね」「――そうだね」 律にそう言葉をかけられたが、上手い返しが見つからなかった。 複雑な気分だ。 自分が死んだ場所を見た人間は、一体どのような感情を覚えるのだろうか。 そして、律は今、何を覚え、何を思い、何を考えているのだろう。どのような『色』を見ているのだろう。 僕は、それが知りたかった。「――ねえ、神くん覚えてる? 私がここから飛び降りた時のこと」 少しの静寂を破るかのようにして、律は訊く。忘れるわけがない。あの時のことの全てを、僕は頭の脳裏に焼き付けている。心に刻み込んでいる。胸の中に仕舞い込んでいる。 哀切。悲しみ。孤独感。この一年間、様々な感情が僕の思考の全てを支配してきた。だからこそ、上手く言語化できないのだ。「よいしょっと」 そんなことを考えている内に、律は以前よりも高い、屋上に取り付けられたまだ新しいフェンスをよじ登った。 何故にフェンスを高くしたのか。理由は言わずもがな。「――あの時ね、私、鳥になろうと思ったの」「鳥に……?」 背を向けているのでどんな表情をしてあるのかは分からない。だが、そんなことお構いなしという感じで、律は言葉を紡ぎ続けた。「私がここから飛び降りる時にさ、両手を広げてたの覚えてるかな? あの時にね、私強く思ったの。願ったの。鳥になりたいって。空を自由に飛んでみたかったんだ。それで、せっかく死ぬんだから神様も最後くらい願いを叶えてくれるんじゃないかなって」 ――それに、と。律は紡ぎ続ける。「それにさ。もし鳥になれたら、神くんのことを見守ることができるんじゃないかなって思って。ずっと、近くで。そしたらね、気が付いたらなってたんだ。鳥に。神くん気付いてくれてたかな?」 合点がいった。あの時、確かに律は飛び降りる直前まで両手を広げていた。その時はただポーズを取っているだけだと、そう思っていた。 しかし、その次の日からやけに視線を感じていた。最初は黒羽の一味だと思ったが、違った。それに、ぐるりを見渡しても誰もいなかったことを覚えてい
Last Updated: 2026-07-14
Chapter: 第3話 作戦会議
 塵埃まみれの小さな空間――体育倉庫の中に、僕と律はそこにいた。黴臭さと埃っぽさを混ぜ合わしたような不快極まる匂いを鼻腔で感じながら。「じゃあ神くん。そろそろ始めようか?」「……そうだね」 一体、これから何を始めるのかというと、会議だ。議題は言わずもがな。三人に対する復讐について。 だけど――「神くんどうしたの? なんかボーッとしてるけど」 体操部が使用するマットの上に腰かけながら、律は声を発した。「……いや、ちょっとね。なんか現実感がなくてさ」 嘘ではなかった。 一生、僕は二度と、柔らかで優しい声音を聞くことも、言葉を交わすことも、姿を見ることも、触れることも。それら全てを失ってしまった。絶望していた。 だけど、どういう形であれ、死んでしまった恋人と再会できたのだから。現実感が湧かないのは至極当然だ。 が、しかし。実際は少し違った。僕が今、一番深く考えていたのは『復讐』についてだ。『人を呪わば穴二つ』と言われているように、復讐をすることで、それらは必ず返ってくる。降りかかってくる。そういうものだ。だからこそ、こればかりは深く考えざるを得なかった。 でも、復讐はする。いや、しなければならない。逃げてはいけない。でなければ、律の恋人として失格だ。 それだけは、確かだった。 復讐であり、これは仇討ちでもあるのだから。「――なあ、律。復讐ってどうやってするんだ? さっき『やりようがある』って言ってたじゃん?」「うーん、それについては案はあるんだけど、順番をどうしたらいいのかなって。黒羽を最後にすることまでは決めてるんだけど」「最後に!? ちょ、ちょっと待って律!? それだとまた黒羽が、全てを揉み消すに決まってるだろ!? だから順番的には
Last Updated: 2026-07-10
Chapter: 第2話 始まりの再会
 お昼頃。僕は律の墓前にいた。「律、お前暑いの苦手だったよな」 焦げさせるかのように射してくる真夏の日差しを浴びながら、小さく呟いた。蝉の鳴き声がやたらと煩く感じながら。そして思い出す。律と過ごした夏のできごとを。つまりは思い出を。失いたくない、たくさんの大切な宝物を。「――また、一緒に海に行きたいな」 持ってきた菊の花束をそっと添え、墓前で両手を合わせた。そして、ゆっくりと目を瞑る。『あの日』の出来事を甦らせながら。 嫌な予感はしていた。 僕がイジメのターゲットにされてから、呼び出されるのはいつも体育倉庫だった。そこで小林と三井の二人からサンドバッグよろしく殴り続けられてきた。 その間、黒羽はというと、苦痛で顔を歪ませる僕を見てはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら悦に入る。 それが、日常だった。 が、しかし。あの日に限っては僕だけではなく、律も一緒に連れて行かれたのだ。『ギャラリー』と称して。  二人に殴られている僕を見て、律は嗚咽を漏らしながら涙を流し、何度も何度も大声で叫んでいた。『もうやめて!!』、と。  律も驚いたことだろう。心配をかけないよう、イジメの件は詳しく言わないでおいていたから。だからこその涙だったのだろう。目の前で、日々恋人が殴られ続けていたことを知ってしまったのだから。そりゃ泣きたくもなるはずだ。 僕はあの日の律と黒羽が交わした会話を思い出す。『お願い!! イジメなんてくだらないことはもうやめてあげて!! 神くん死んじゃうよ!!』『イジメる? 何言ってんのよ、このクズが。ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃないわよ。私はわざわざアンタに見せてあげてるのよ? このショーを。目の前で。特等席で。嬉しく思いなさいよ』『何がショーよ! 黒羽、アンタ人間じゃないわ! 自分は一切手を出さないで苦しむ神くんを見て楽しそうにして。何が面白いって言うのよ! 父親が誰だとかどんな人なのか、そんなこと知ったこっちゃないわよ! 神くんを殴るなら、代わりに私を殴りなさいよ!』 律のその言葉を聞いて、黒羽は表情を一変させた。 もしかしたら、最初は律のことを本当の意味で『ギャリー』としか見ていなかったのかもしれない。 だが、恐らく黒羽はこの時に予定を変えたのだろう。律を殺して僕が苦しむ顔を見ようと。そして、自分をバカにした律
Last Updated: 2026-07-10
Chapter: 第1話 赤い夢
「黒羽、お前それは……」「そうだよ。さすがにちょっとやりすぎだって……」 夕焼け空が広がる放課後の学校の屋上で、黄金色に染められた男子二人が一人の女子に対して口にした。隠し切れない戸惑いと、そして、これから目にするであろう悍ましい光景を想像しながら。「は? 何それ。やりすぎ? 別にどうってことないじゃない。それに、私は何もしてないし」「何もって、お前……さすがに」「さすがに、何? コイツが勝手に死ぬって言ってるだけじゃない。自分の意思で勝手にね」「勝手にって……」 ニヤケ顔の女子――|黒羽霧《くろばねきり》は長い黒髪をさらりと手で流しながら飄々と言い放った。 僕――|因果崎神《いんがさきじん》と|糸賀律《いとがりつ》は、そんな黒羽を見て背筋をゾッとさせた。コイツが今から律にさせようとしていることが本気であると確信したから。 僕達だけではない。|小林《こばやし》と|三井《みつい》も同様だ。いつもは黒羽のマリオネットような二人だが、しかし、今はまるで違って見えた。 徐々に体温を失っていき、そのまま氷のように冷たくなるのではと錯覚してしまいそうになる程に怯えて見える。l「ねえ、どう? 因果崎? 大切な恋人がこれから目の前で死ぬところを見られる気分は」 まるで用意された台本をただただ読み上げるかのようにして、黒羽は言葉にたった一ミリも、塵程度も、黒か白かも判別できない燻み切った色を含んだ声音で訊いてきた。 何を言っているんだと思った。どうだって? ふざけるな。律は僕にとって大切な恋人だ。それをお前はこれから殺そうとしているんだ。答える気になれるはずもないだろうが。「大丈夫だよ、神くん。ねえ黒羽。私が死ねば二度と神くんのことをイジメないんだよね? 苦しい思いをさせたりしないんだよね?」 黒羽に再度確認した律の足元には、つい先程、無理やり書かされた遺書と脱いだ革靴が丁寧に揃えられて置かれていた。「バカ言うな律! コイツの言うことを本気にするな! 頼むから……頼むからそれだけはやめてくれ!!」 ゆっくりと、律は頭を振った。 僕の瞳の奥にある『何か』を確かめるようにして見つめながら。「いいの。神くんのためなら何だってできるから。だって私、神くんの彼女だもん」「だったら僕の言うことを聞いてくれよ! 何だってできるんだろ! それに、お前が死んだ
Last Updated: 2026-07-10
幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる 〜ネガティブ男子がポジティブな美少女幼馴染を振り向かせるまでのラブコメ〜

幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる 〜ネガティブ男子がポジティブな美少女幼馴染を振り向かせるまでのラブコメ〜

高校一年生の陰地憂(かげちゆう)は幼馴染の陽向葵に恋心を抱いていた。 だけど、陰地憂は『超』が付く程のネガティブ思考。常にジメジメしていて、その上、性格も暗い。だからいつも独りボッチ。 逆に、彼が恋心を抱いた幼馴染の陽向葵は『超』が付くほどのポジティブ思考。 悪いことが起こっても、何でもプラスに捉えてしまう、そんな可愛い女の子。 だから、陰地憂は陽向葵とは釣り合わないと諦めていた。自分の恋心をひた隠しにして。 けれど、陽向葵に好きな人ができたと知ってから、彼は彼女を振り向かせることを決意。 だが、陽向葵が好意を抱いていた相手とは――。 これは、自分の気持に素直になれない、そんな二人の幼馴初恋物語。
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Chapter: 最終話 花火と
「――そろそろだね、花火」 今の時間は午後七時半。花火が打ち上がる時間は午後八時。あと少しで、この星空に花が咲くと思うと高揚感を覚えてしまう。 それと同時に緊張感が僕の体全体を支配した。花火が打ちあがるのと同時に、長年胸の奥にしまい込んでいた葵に対する恋心を打ち明けるから。 それを考えただけで、胸の鼓動は今まで感じたことがない程に激しく高鳴る。呼吸ができない程に。 このまま深海に沈んでしまい、胸の奥で何かが爆ぜてしまいそうだった。「ねー。花火ってめちゃくちゃ綺麗だもんね。まるでこの葵様みたいに。あははっ」「自分で言わないの、そういうこと」 そう。そんなことを言葉にする必要がない。葵に比べたら、花火の美しさなんて勝負にもならないから。葵。キミの方が、ずっと、ずっと綺麗だ。 それに、葵は僕にとって燦々と光輝く太陽なんだ。僕の心をずっと温め続けてくれて、光を与えてくれた。支え続けてくれた。 僕のような、暗い人間に対しても。「それじゃ、もう場所を移ろうか」「うんっ! 一番見やすい所に行こう!」 葵は、何ものにも例え難い、美々しくて魅力的な笑顔を向けてくれた。 その笑顔が、僕の時間を一瞬止めた。「憂くんどうしたの?」「――ううん、何でもないよ」 太陽は、全ての人に対して平等にその光を与えてくれるとは言う。 きっと葵は、僕にとって『特別な』太陽なんだ。その一筋の光線が、僕が歩く先を示してくれてきた。だから僕は今、ここにいられる。 そんなことに思いを巡らせていたら――「あ、葵!?」「早く行こっ」 葵は僕の手をギュッと握り、引っ張った。 でも、僕は気付いていた。 僕の手を握る時、葵が頬を朱に染めていたことを。 *   *   *「あ。ここって――」 幼い頃の記憶が蘇り、僕に再確認させた。そうだ。そういえばここって。「――懐かしいよね。昔、憂くんと一緒に探したもんね。花火が一番見やすい場所」 僕達は今、お祭り会場から少し離れた所にある高台にいる。葵と一緒に見付けた、花火が一望できる場所だ。昔と変わらず、僕達以外に誰もいない。「よく、覚えてたね」 葵は感慨深げに、しばしの間、黙り込んだ。そして、薄らと笑みを浮かべながら目を細める。星が散りばめられた煌びやかなカーペットのような夜空を見上げながら。「――忘れるわけないじゃん。憂
Last Updated: 2026-07-06
Chapter: 第15話 初めてのデート
「まさか、葵と一緒にデートをする日がやって来るなんてなあ」 日曜日の午前十二時。雲ひとつない青空の下、駅前にある天使の小さなブロンズ像の前で葵を待っていた。それだけで、僕の顔は自然と綻んでしまう。 正直なところ、僕は諦めていた。 ネガティブ思考で性格も暗い僕なんかが、向日葵のような葵とデートなんかできるはずがないと。そんなもの、ただの夢物語だと。ずっと、ずっと、そう思っていた。 でも、それが現実になった。 まるで夢の中にいるみたいだ。 もしもこれが夢であるならば、僕はずっと夢の中の住人でいたい。 そんなことを一人、思った。「葵、楽しんでくれるか――な?」「だーれだー」 突然視界が真っ暗になったので少し驚いたけど、甘い蜜のようにとろける声を聞いて安心した。こんな声の持ち主なんて、僕は他に誰も知らない。「葵、遅かったじゃ――」 その女の子の名前を出すと、目隠していた両手を離してくれた。そして後方にいる人物――陽向葵の姿を見た。 その瞬間。 僕は完全に見惚れてしまった。 彼女の澄み切った心の中を表しているかのような真っ白なワンピースを纏った葵の姿に。 あまりの美しさに、僕の心は根こそぎ奪われてしまった。恋泥棒の葵によって。「おっはよー、憂くん!」「お、おはよう葵」 なんとか挨拶の返事はできたけど、心ここにあらず。葵の姿から目が離せない。魅了され、目を奪われたまま。 そして葵は、照れくさそうにしてモジモジして、僕に感想を求めてきた。「ど、どうかな、このワンピース。似合ってる、かな?」「う、うん。すっごく似合ってるよ」「そ、それだけ……?」「う、ううん。違う。今日の葵が着てるワンピース姿があまりに可愛くてさ。上手く言葉にできないんだ。語彙力ないね、僕。でも、とにかく可愛いくて」 僕のそれを聞いて、葵は頬を朱に染めた。「あ、ありがとう。お世辞でも、すっごく嬉しい」「お、お世辞なんかじゃないよ。そんなこと言ったことないでしょ、僕。素直な気持ちでそう思ったんだ」 葵はより真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしいのか、少しだけ下を向いた。「一生懸命、選んでよかった。どうしても、憂くんに可愛いって言ってもらいたかったから――」「も、もしかして。今日のために新しいやつを買いに行ったの?」 ふるふると、葵は顔を横に張った。「今
Last Updated: 2026-07-06
Chapter: 第14話 とある少女の幸せ(?)な日常
「んふふっ。すっごく嬉しいなあ。憂くんとデートできるなんて」 とある少女――陽向葵は朝からずっとこんな様子だった。嬉しくて、嬉しすぎて、自然と顔が綻んでしまう。そんな感じで、完全に浮かれモードに突入してしまっている今時分のようだ。「あ! もう少しで十時だ! お店が開店するぞー!」 ショップが開くのを心待ちにしていた少女は、着替えを素早く済ませて外に飛び出して行った。生き生きと。そしてウキウキと。寝不足にも関わらずだ。 昨夜は中々寝付けなかったのだ。まるで、遠足前日の小学生のように。 どうして寝不足なのか。それは昨夜、中々寝付けなかったからである。まるで、遠足前日の小学生のように。「あー、朝の空気ってほんと清々しいなあ。空気が美味しいー!」 陽向葵はルンルン気分を抑えきれず、そんな気持ちを口にした。スキップをしながら。 そして今は、個人経営のアパレルショップの前で待機していた。どうやら少女は間違えてしまっていたらしく、お目当てのお店の開店時間は十一時だったらしい。腕時計をチラチラと見て、「あと三分あと三分」などと呟いていた。 どうしてここまで浮かれているのか。それは、今度のデートに対して並々ならぬヤル気に満ち溢れているからに他ならない。(絶対に、憂くんの恋人になってやる。そのためにも、いつもの服装じゃなくて、オシャレな服装で挑まなきゃ。だって――) 女には負けられない戦いがあるんだから、と。少女は気合いを入れ直した。 そして、時間になるとお店の中から女性の店員さんが出てきて看板を出す。それから、扉にかけてあった『close』と記された掛札をくるりと裏返して『open』に変えた。「いらっしゃいませー。ただいまより開店しまーす」 それを合図にして、陽向葵は『よっしゃー!』と、心の中で気合いを入れて入店。顔は綻んだままではあるが、目が違う。まるで、これから宝物探しにでも行くような、そんな希望に満ち溢れた目をしていた。「うわあー! すっごい可愛い服でいっぱーい!」 陽向葵はキラキラと目を輝かせながら店内のぐるりを見渡した。 実はこの少女、服装に関しては無頓着なのである。夜にコンビニに行く時など、中学時代のジャージを着て出歩く程に。 だからこそ、目に入るそれらの全てが、陽向葵にとっては目新しくもあり、魅力的に映ったのであった。「あ! この
Last Updated: 2026-07-06
Chapter: 第13話 葵と誘いの口実と
「むーーーーっ」 その日の放課後。 葵は自分の部屋に入るや否や、ベッドの上にドスンと腰を掛けて、不満気にぷくりと頬を大きく膨らませた。餌を頬いっぱいに詰め込んだハムスターみたいに。「そんなに気にすることないよ。あれはただの竹田さんなりの冗談だろうし」 まあ、冗談にしてはちょっとやりすぎだなあとは思った。めちゃくちゃビックリしたもん。まさか、あんなことをされるだなんて。驚天動地とはまさにこういうことを言うんだと初めて理解した。 と、思ってたんだけど。「そうじゃない! 別に竹ちゃんのことを怒ったりしてるわけじゃないから! 私が怒ってるのは、憂くんに対して!」「……は?」 葵の怒りの矛先、竹田さんに向けてのものじゃなかった。「僕に対して? ど、どういうこと?」「だってさあ。憂くんったら竹ちゃんにあんなことされて、すっごくデレデレデレデレしちゃってさ! あの時の憂くん鼻の下、すっごく伸びてたんですけど! 床にまで届いてたんですけど!」 いやいや。まず、僕は決してデレデレなんかしてなかったから。それに、確かに『鼻の下を伸ばす』っていう慣用句はあるよ? でもさ、床に届くぐらいって……。それって、もはやただの妖怪の類いかと。「で、どうだったの? 竹ちゃんのお胸のご感想は?」「うん。すっごく大きくて、すっごく柔らかかった」「……私より? 私より大きかった?」「うーん。まあ、そうなんじゃないかな? でも、不思議なんだけどさ。朝、葵と一緒に登校した時のあれと違って全くドキドキしなかったんだ。全く」「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。えっと……じゃ、じゃあ憂くんは今朝の私のアレ、ど、どんなふうに感じたの?」「そんなこと言えるわけないじゃん。というかさ。竹田さんには怒ってないって言ってたけど、なんで?」 僕の投げかけた質問にさも当たり前のように、葵は答えてくれた。「なんでって、当たり前じゃん。私の親友だもん。悪戯がちょっとすぎただけだって、それくらい分かるわよ」 僕の気持ちに関しては無視ですかそうですか。 でも、何だろう? 自分の気持ちを一生懸命止めているようにも、無理やり動きを静止させてるいようにも見えて仕方がなかった。 そして、僕はさっきの出来事を思い出して再度確信した。 やはり葵は、『嫉妬』という名の感情を抱いていたということが。「そ、そん
Last Updated: 2026-07-06
Chapter: 第12話 竹田さんと
「おっはよー皆んな! 今朝も私は遅刻しませんでしたー! さすが葵さん! 超優秀! 今のところ皆勤賞だし!」 葵の朝の挨拶で、教室中の空気を持ち前の明るさで花を咲かせた。葵はそういう人間だ。皆んなを元気付ける存在。それが陽向葵。根暗な僕とは大違いだよ。 しかし、葵さん。キミは大きな勘違いをしている。超優秀だったら赤点ばかり取ったりしないということを。そこんところ、ちゃんと理解しなさい。「おっはようさーん、陰地くん」「うわっ!! た、竹田さんかあ。脅かさないでよ」 いきなり背後から回り込むように竹田さん登場。相変わらずのニヤニヤ顔で。 あー、ビックリした。 でも、どうしたんだろ? 最近、武田さんはやけに僕に話しかけてくるようになったけど、それは必ず葵とセットで、という感じだった。なのに今日は一人きりで話しかけてきた。 なんだかすっごく嫌な予感が……。「うひひっ。いやいや、お安くありませんなあ。早朝から葵ちゃんにピッタリくっかれながらの登校とか」「え!? み、見てたの?」 はい、嫌な予感が見事に的中。「見てたよー、じっくりと。木陰に隠れながら」 こ、木陰でなんだ。電信柱とかじゃなくて」 竹田さんに言いたい。キミはゲームのなんちゃらギアソリッドかよと。「うん。そこからぜーんぶ見せてもらっちゃった。朝からラブラブな二人の様子を」 まさに油断大敵。 だから言ったじゃん葵! 誰かが見てるかも知れないって! 絶対にこういうことになると思ってたよ!「に、しても。あそこまでベッタリだったってことは、ついにあんなことやこんなことをしちゃったんでしょ? あー、妄想が止まらない。ヤバっ。鼻血出そう」「い、いや、竹田さん。もう出てるから、鼻血。はい、これ。ポケットティッシュ」「あ、どもども」 竹田さん、一体どんな妄想してたのさ……。「で、どうなのー、陰地くん? お二人の関係は? どこまで進んだ? A? B? C? とりあえずAはもうしちゃってるよねえー。うひひっ」「え? ううん。Aとかそんなことしてないよ? ねえ、葵?」 葵の顔を確認すると、めちゃくちゃ真っ赤。恥ずかしがるようにして、ちょっと俯きながらモジモジしてるし。 はて? Aってつまりはキスのことだけど、僕達はそんなことしてないじゃん? なんでそこまで顔を赤らめてるんだろう。「葵? 
Last Updated: 2026-07-06
Chapter: 第11話 心の足跡【3】
「うおっ! あ、葵!?」 朝、すっと目覚めると、一番最初に視界に飛び込んできたのは僕の顔を覗き込むようにしながら笑顔を見せる葵の顔だった。「あ。やーっと起きた。おはよう、憂くん」「お、おはよう……。あれ? いつの間にか寝てたんだ、僕」「うん、気持ち良さそうにして寝てたよ。憂くんの寝顔、すごく可愛かった」「可愛いとかやめてよ……。僕だって一応男子なんだからさ。カッコいいとかそんなふうに言ってほしいんですけど」「あははっ! ごめんねー。私って正直者だから。だって憂くん、全然カッコよくないじゃん?」 あ、朝からそんな酷いことを言いますか葵さんよ。全然はないでしょ。探せばどこかにある……はず。自信ないけど。とりあえずグサグサと心に刺さって痛いんですが。 傷付いた! 幼馴染にカッコよくないって言われて傷付いた!「あ。ちょっと話がずれちゃうんだけど。もしかして憂くん、浮気とかしたりしてないよね?」 僕は思わず首を傾げた。「どうしたの、いきなり? というかさ、僕達ってまだ付き合ったりしてないじゃん? だから浮気云々って関係ないと思うんだけど」「へえー、『まだ』ねえ。つまり、憂くんはいつか私と付き合いたいと思ってるってわけねー。ふむふむ、なるほどなるほど。でも、もしかしたら土壇場で振っちゃうかもだけどねえー。あはははっ!」 か、完全に遊ばれてる……。 でも、それでもいいや。 葵の笑顔を見てると、そんなちっぽけで些細なことなんか全部吹き飛んでしまった。やっぱり葵は、僕にとって太陽のような存在だ。 太陽は皆んなに平等に光を与えてくれる。だけど僕は、葵のそんな笑顔を独り占めしたい。 なんて、わがまますぎるよね。 でも、そのためなら、僕はこれからどんなに辛いことがあっても乗り越えてみせる。だから、もっともっと強くならなきゃ。 葵のことを守ってあげられるくらいに。「ねえ、それで葵はなんで僕が浮気してるって思ったの?」「うん。憂くんのスマホが光ってたからちょっと見てみたんだけど、SNSから通知が来てたから。だから私以外の女の子とやり取りしてるのかなあと思って」「あ、そういうわけね。って、人のスマホを勝手に見ちゃいけません!」「大丈夫! そこら辺は大人の葵様だから、プライバシーはしっかり守ることにしてるのです! ロックかかってたから見られなかっただけ
Last Updated: 2026-07-06
心野さんのココロノさん 〜青春を取り戻したい少女が『世界』を創り出すまでのちょっと不思議なラブコメ〜

心野さんのココロノさん 〜青春を取り戻したい少女が『世界』を創り出すまでのちょっと不思議なラブコメ〜

女の子が苦手な但木勇気(ただきゆうき)。 彼は女性恐怖症を克服するために、隣の席に座る心野雫(こころのしずく)と友達になることを決意する。 心野さんはとても大人しくて妄想大好きな女の子。但木勇気が勇気を出して心野さんに話しかけたことがきっかけで、最初はぎこちなかった二人の関係は徐々に変わっていく。 だけど、それが発端となり、但木勇気は不思議な体験をすることになる。 果たして但木勇気は女性恐怖症を克服することができるのか。 そして、心野さんが抱えていた『とある悩み』はどう変化していくのか――。 そんな、一風変わった不思議なラブコメです。
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Chapter: エピローグ
 僕と心野さんは今、浴衣姿でお茶を飲んでくつろいでいる。畳の藺草の香りを心地よく感じながら。 一体どこにいるのかって? 今、僕達がいるのそこは熱海の旅館だ。 音有さんが僕に手渡してくれたチケットは、この旅館の宿泊チケットだったのだ。 高校生同士の場合、親の承諾書が必要なのでちょっと一悶着あったけれど、なんとか無事に許可をもらえて泊まることができた。「はあー。落ち着きますねえ」「そうだね。音有さんには、今度しっかりとお礼をしなきゃね」 あの夜の後、心野さんはバッサリと前髪を切ったことで髪型が不格好になってしまった。なので美容院に行ったそうだ。髪を切るのも美容院に行くのも数年振りだったらしく、えらく緊張したらしい。 だから今、僕の目の前に座る心野さんは前髪パッツンのボブカットになっている。うん、ほんとパッツンさんみたい。「あ、あのですね、但木くん。ここ、貸し切りの露天風呂があるみたいですよ?」「そうなんだ。まあ、僕達には関係ないけどね」「……そうですよね」 その間は何? しかも何故かシュンとしてるし。高校生同士で、しかもまだ付き合って数日しか経っていない僕達が一緒に入れるわけがないじゃないか。 でも、もしかして心野さん、貸し切りの露天風呂に僕と入りたいと思ってる? まあ、さすがにそれはないか。 という僕の考えは甘かった。 それからも心野さんは事あるごとに「貸し切り露天風呂があるいたいですよ?」と言ってきた。合計すると、十四回も。 そして豪華な夕食を堪能した後、まさにそれについての会話をすることに。「ね、ねえ但木くん。その……貸し切り露天風呂が」 はい、これで十五回目。「あの、心野さん? どうしてそこまでして僕に勧めてくるの?」「い、いえ、その……せっかくですし。それに、但木くんの裸……いいえ、なんでもありません……」 今、僕の『裸』って言わなかった? いや、あの夜を境に心野さんは積極的になったわけだけれど、なんというか……。「というわけで、貸し切り露天風呂があるみたいですよ?」 じゅ、十五回目ですか……。というわけでの意味もよく分からないし。 まあ、積極的になったのは良いことだ。でも、今回に限ってはベクトルが違う方向に向いてると思うんですけど。 そういえば、心野さんってムッツリスケベなんだった。うん、言い切ることができる
Last Updated: 2026-07-09
Chapter: 最終話 恋する乙女の最終決戦【3】
「もういい加減にして!!!!」 まるで世界中に届くのではないかと、轟くのではないのかと。そう思える程に大きくて、彼女の全魂が込められた力強い声だった。 声の主は、僕が恋をした大好きで大切な人。 心野雫さんだ。「あらー。お久し振りー、ココちゃん」「やめてください。アナタにその名前を呼んでほしくはないです」 心野さんは歩み寄る。ココロノさんの所へ。 僕の勘は当たっていた。やはり心野さんはココロノさんのことを知っていた。事情も理由も分からないけど、それだけは確かだ。「どうして但木くんを狙ったんですか? 前みたいに手紙を書いて、直接私を呼びつければ良かったじゃないですか」「いやいやー。だってさあ。あの時ココちゃん、話してる途中なのに逃げちゃったじゃないの。だから今回も、呼んでも同じことになっちゃうんじゃないかなって思ってねー。でしょ? すぐに現実から逃げちゃう弱虫のココちゃーん?」「……私の呼び方を変えるつもりはないみたいですね」「いいじゃんいいじゃん、呼び方くらい。そういう細かいことばっかり気にしてるから成長しないんだって。少しは学ぼうねー」「成長していないことは認めます。だけど、呼び方くらいってなんですか? そのあだ名は私の大切な幼馴染が付けてくれた宝物のようものなんです」「へー、大切な人ねえ。でも、そんなに大切な幼馴染ちゃんのことを無視し続けてたのはどこの誰だったっけなー?」「……それも認めます。全部認めます。私の弱さも、情けなさも、弱虫なところも、全部。でも、私は変わります。絶対に変わってみせます。そう、決めましたから」 その言葉を聞いて、僕は口を挟みそうになったけど、やめた。『全部認める』とハッキリ言い切った心野さんは、何かしらの決意を持ってここに来て、そして言葉にしたんだ。邪魔はしたくない。 今の僕にできることは彼女を信じることくらいだ。「ふーん、そうなんだ。全部認める、ねえ。でも、こうして私がまた出てきてここにいるってことは、結局何も変わってないんじゃないのー?」「そ、それは……」「あ、一応言っておくけど、前だって最初にオトちゃんを呼んだんだよ? それを伝える前にココちゃん逃げちゃったから知らないと思うけどさー」「そ、そうだったんですか?」「うん、そう。でも、オトちゃんはただのイタズラメッセージだと思ったみたいで無
Last Updated: 2026-07-09
Chapter: 第31話 恋する乙女の最終決戦【2】
 パッツンさんから送られてきたであろうメッセージに記載されていた時刻は、日付がちょうど変わる午前0時だった。意味としては全く違うのに、何故だか『逢魔時』という単語が頭の中でチラついた。 指定された場所はこの前と同じ公園。 それにしても、こんな時刻に高校生である僕を呼び出すとは。人として大丈夫なのかと不安を感じざるを得ない。「全く。親にバレないように家を出てくるのだって大変なのに。パッツンさん、一体何を考えてるんだよ」 僕は歩を進めながら、愚痴を吐き出す。ハッキリ言って、このメッセージを無視することだってできた。だけれど、僕は行く。いや、行かなければならない。 確信しているからだ。 これは絶対に、心野さんと関係しているということ。そして、きっと彼女のためになるはずだということを。 それに、音有さんが言っていた。心野さんが『全てを元に戻したい』と話してくれたと。だったら僕も協力する。力になってやる。心野さんは何かしらの覚悟を決めたに違いないから。 そして、僕は到着した。この前とは違い、パッツンさんはすでにいて、ベンチに腰掛けて僕のことを待っていた。「あ! 良かったあ、ちゃんと来てくれた。待ってたよーん。私の大切な但木くふーん」 な、なんかこの前よりも馴れ馴れしさがパワーアップしている気が……。というか、リアルで『くふーん』とか使う人に会ったの初めてだよ。 それにしても、街灯に照らされてハッキリと見えるパッツンさん。本当に可愛いな。可愛すぎる。 でも、やっぱり不思議だ。 前回もそうだったけれど、ここまで可愛い女子を目の前にしたら、緊張して絶対に女性恐怖症が発動するはずなのに。それがないんだ。不思議を通り越して、もはや奇妙と言っていい。「すみません。時間通りには来たんですけど待たせちゃったみたいで」「いいのいいのー。私が勝手に早く来ただけだから。それにしても他人行儀だなあー但木くんは。もっとフレンドリーに接してくれていいのよん」「いえ、その……癖と言いますか。それにまだ、パッツンさんにお会いするのも二回目ですし。いきなりフレンドリーには……」「えー、なんでまだパッツンさんって呼ぶの? この前、帰り際に教えたじゃん。私の名前。心野雫だって。雫ちゃんって呼んでいいのよん」「……分かりました。じゃあ、『ココロノさん』って呼ばせてください」 
Last Updated: 2026-07-09
Chapter: 第30話 恋する乙女の最終決戦【1】
 僕に届いた差出人不明のメッセージ――恐らく送り主はパッツンさん――には、幸いにも『明日の夜』と書いてあった。この前は届いたその日の夜に呼び出されたので何の準備もすることができなかった。 だが、今回は違う。 それに、恐らくだけど、この件に関して心野さんは何らかのことを知っている。あの時の反応を見て、それは分かった。 だから僕は学校に到着したら、少しでもいいから心野さんと話しをしたかった。彼女との会話の中で手がかりになる情報を得ることができるかもしれないと期待していたから。 しかし、それは叶わなかった。 心野さんは本日、珍しいことに学校を欠席していたからだ。 だけど、その代わりにビックリすることが起きた。教室に入り、自分の席に着くや否や、音有さんが興奮気味に僕に話しかけてきたのだ。「ねえ但木くん! 聞いて聞いて!」 この一言で、教室中が一気にざわついた。考えてみたら、音有さんが僕に話しかけるところをクラスメイトの皆んなは初めて見たわけで。そりゃ驚くよね。僕が女性恐怖症であることは周知の事実だから。 にしても……皆んなからの視線、特に女子からの視線がやっぱり怖いよ! 多少マシになったとはいえ、この女性恐怖症はまだ完全に克服できたわけではないみたいだ。いやはや、情けない……。「ど、どうしたのでござるか」 あー、周りを気にしすぎて音有さんにまで武士みたいな口調になってるし。どうして僕、こうなるのかな……。「あ……ごめんね。そっか、女性恐怖症発動させちゃったみたいね。そりゃそうだよね。クラスの皆んながコッチをすごく注目して見てるもん。誰もいないところで話すべきだったかな」 発動って。まるで特別なスキルみたいに言わないでほしいんですけど。「だ、大丈夫でござるよ……」「うーん、全然大丈夫じゃないような……。うん、じゃあ聞くだけでいいからね。返事は無理はしないでいいから。あのね、昨日の夜にココちゃんから電話があったの!」 ……え!?「こ、ココちゃんって! それって心野さんからってことですよね!?」「あらあら。一気に元に戻った」「あ、本当だ」「うふふ。但木くんってほんと、ココちゃんのことになると別人みたいになっちゃうよね」「そ、それはいいですから! 音有さん、続きを聞かせてください!」「うん、了解! でね、ココちゃんとお喋りしたの。何年振
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Chapter: 第29話 心野さんは知っていた
 僕と心野さんはファミリーレストランを出た。 とは言ってもすぐではない。心野さんが大量の鼻血を出してしまったせいで、貧血を起こしてしまって意識が朦朧としてしまっていたから。 それで、大体三十分後くらいかな。彼女の意識がはっきりしてからお店を出た。さすがにふらふらした状態で店外に出るのは危ないし。 で、ざわめく店内の様子で気付いたのか、女性の店員さんが鼻血を拭きに来てくれた、のだけれど……。「あららー、またですか」と言いながら笑顔で対応。以前もこのお店で心野さんは鼻血を出したわけで。で、その時に対応してくれたのもこの店員さnだった。でもさ、この人適応力高すぎだでしょ!「心野さん、もう大丈夫?」「あ、はい。また但木くんに迷惑かけちゃって……ごめんなさい」「謝らなくても大丈夫だよ。あと鼻血もそうなんだけど、胃の方は大丈夫? あれ、さすがに食べ過ぎだと思うんだけど……」「胃ですか? 全然問題ないです。美味しかったですから」 人間って、美味しかったらいくらでも食べられるというわけではないと思うんだけど……。心野さんって、実は結構な大食漢? そんなことを考えながら、僕と心野さんは歩く。ファミリーレストランを出た時には、もうすっかり夜になってしまった。春とは言っても、昼間はあんなに暖かったのに、やっぱり夜はまだ肌寒い。「そ、そういえば但木くん。あ、ああ、あの、さっき私に言ってくれたこと、ほ、本当に本当なんですか?」 言葉に恥ずかしさを添えて、心野さんは言う。『付き合うんだったら、僕は心野さんがいいな』 そう。僕は確かにそう言った。でも、我ながらヘタレだな。僕は心野さんに恋をしているのだとようやく理解ができたというのに、なんというか、上手く言えない。伝えられない。 だけど、キッカケは確かに作ることができた。僕はゴールデンウィークに入って心野さんと一緒に遊びに行ったら、その時にしっかりした形で告白をするつもりだ。 そう、決意したんだ。「うん、本当本当。その通り」「……但木くん? なんか軽すぎません?」「いいじゃん別に。ゴールデンウィークに入ったらしっかり伝えるよ」「えーと……あ、あの、ま、待ちきれないんですけど……」「ダメ。おあずけ」「おあずけって……私、犬じゃないんですから!」「そっか。じゃあ今だけは犬になってよ」「嫌ですよ! ちゃ
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Chapter: 第28話 解けた誤解
「ありがとうね、心野さん。付き合ってもらっちゃって」「いえ、別に……」 心野さんは約束通り、放課後にちゃんと僕に付き合ってくれた。そして今、僕達はファミリーレストランにいる。そう。あの時と同じお店だ。 なんだか遠い昔のことのように思える。つい最近のことのはずなんだけど。不思議なものだ。 でも、今はこの前とちょっと状況が違っている。心野さんに元気がないということだ。喋ってくれても蚊の鳴くように小さな声だった。 さて、どうするべきなのか。それを考えていた。色々と順序立てて考えてはいるんだけど、正直なところ、その順序が頭の中でこんがらがってしまって、上手く整理ができない。 でも、まずはこれかな。「……どうしたんですか、但木くん?」 僕は席を立ち、できるだけ心野さんに近付いた。そして床にぺたりと座り込み、正座。そのまま、両手を床について、頭を下げた。 THE・土下座である。「え!? え!? た、た、但木くん!? ど、どどど、どうしたんですかいきなり!?」 慌てふためく心野さんだったけど、これが僕が考えた末の、最大限の謝罪の仕方だった。これでも反省しているのだ。心野さんを、僕は傷付けてしまったのだから。「心野さん! 本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ?」 ものすごく感じる、周りにいるお客さんの視線を。それはもう痛い程に。でも、そんなことを気にしている場合じゃない。場合じゃないんだけれど……。さっき、心野さんが『へ?』って言わなかった? どういう意味なんだろう。もしかして、『そんな土下座程度では許しません』的な感じ? まあ、そんなの関係ない。僕は謝るんだ、心野さんに。心の底から。「心野さん! 傷付けちゃって本当にごめんなさい! 具合が悪いって言ってたのに、先に帰しちゃったりして。一緒に帰るべきでした。送っていくべきでした。本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ!? へ!?」 あれ? やっぱりさっきと同じ反応だ。『へ!?』の数がひとつ増えたけど。「た、但木くん! あ、あのですね、何か勘違いしてます!」 勘違い?「あ、あの、聞いてください! 違うんです! そ、そ、そうじゃないんです! ただ単に、私が弱かったんです! それに、こ、こ、こここ、怖かったの!」「こ、怖かった……?」「うん、そう。怖かったです……。但木くんが、私から離
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