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第300話

Author: レイシ大好き
紗雪は冷たい声で辰琉の言葉を遮った。

「今日来たのは、あんたとそんな話をするためじゃないって、わかってるでしょ」

辰琉は話題をそらそうとしたが、紗雪の目的は明確で、一切の隙を与えなかった。

仕方なく、辰琉は本音を口にした。

「紗雪、俺はただ仲直りしたかっただけなんだ。それはいけないこと?」

その言葉を聞いた紗雪は、呆れたように言った。

「いけない?......あんた、自分には何の非もないと思ってるの?」

辰琉は自信満々だった。

「俺が何か悪いことしたのか?」

好きな人を求めて、ついでに自分の利益にもなる。それのどこが悪い?

自分のために動いて何が悪いっていうんだ?

悪いことなんて、全然してない!

そう思うと、辰琉の自信はますます強くなった。

紗雪はそんな彼を見て、何も言えなくなった。

この人、本当にもうダメだ。

こんな時でもまだ自信満々なんて、もう救いようがない。

「じゃあ、なんで私があんたと仲直りしないといけないの?」

紗雪の嘲るような視線に、辰琉は一瞬で言葉を失った。

「なんで」って......

辰琉は一瞬ぽかんとしたが、すぐに思い至った。

紗雪はきっと緒莉のことを気にしているんだ。

「紗雪、君の気がかりはわかってる。大丈夫だ。そんなに考え込まなくていい。全部、俺に任せればいい」

その言葉に、紗雪は頭の中が一瞬真っ白になった。

全部任せて?何言ってるの?

頭が混乱して、しばらく返事ができなかった。

「......言ってること、段々意味がわからなくなってきたんだけど?」

紗雪は、辰琉が言おうとしていることをうっすらと理解しかけたが、あえて考えないようにした。

だって、二人の間には緒莉がいるのだから。

辰琉の表情が少し険しくなった。

「紗雪、俺たちもう子供じゃないんだからさ。言葉は一度か二度言えば十分だろ?」

不満げな表情で続ける。

「ここまで来ても、まだとぼけるつもりか?そういうの、もうやめようぜ」

「はっきり言いなさい」

紗雪の顔色も相当悪かった。

吊り上がった目尻には、冷ややかさがにじんでいる。

辰琉は腹をくくったように、あっさりと言った。

「じゃあ、言ってやるよ。君がそんなに突っかかってくるのは、どうせ緒莉のことがあるからだろ?」

「安心してくれ。俺がちゃんと話しておくからさ。君さえ良
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