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第308話
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三年後、侯爵家全員、私に土下座 第330話
しかし、時間が経ったせいか、荊岩のように棺に石灰が撒かれていたわけでもなく、この切り落とされた腕からはすでにいくらか腐敗臭が漂っていた。その匂いに御上様はそっと鼻をつまみ、不快そうに言った。「余に何を見せようというのか？」すると章衡が言った。「陛下、この腕の刺青に見覚えはございませぬか？」その言葉を聞き、御上様はそっと再びその腕に目をやった。見れば、腕には確かに刺青があり、それはなんと、虎の頭だった！「かつて明王を殺害した山賊の中にも、この刺青を入れた者が一人おりました。臣は当初、意に介しておりませなんだが、後に、泳北の山賊ども、その中でも武芸に秀でた幾人かが、皆この虎頭を身に彫っていることに気づきました」章衡の言葉と共に、御上様はすでに卓の前から回り込み、その腕のそばまで歩み寄ると、しゃがみ込み、注意深く調べ始めた。ただ、章衡の声がまるで亡霊のように、冷たく、ぞっとするような響きで聞こえてきた。「陛下にはこれがかつての虎衛（コエイ）のものと思し召されませぬか？」最後の「虎衛」という言葉を聞くと、御上様は驚きのあまり、そのまま地面に座り込んでしまった。傍らの宦官は驚き、慌てて支えようと前に出たが、御上様が手を上げてそれを制するのが見えた。両目はその腕を食い入るように見つめ、ついに耐えきれずに口を開いた。「平陽王の虎衛だと？似ている、この刺青は、確かに似ている！」章衡の深い両目がさっと険しくなった。「平陽王は八年前に行方を晦まされ、泳北河州の山賊どもが猛威を振るい始めたのは、六、七年前のこと。時期は符合いたします」「ありえぬ！」御上様は不意に声を張り上げられた。「知耀がこの様な凶悪非道な行いをするはずが断じてない！」平陽王、名は楚知耀（ソ チヨウ）、御上様の十四番目の弟君である。そして、この世で唯一、まだ生きている可能性のある弟君でもあった。かつて、御上様がまだ皇太子であった頃、皇座の争いによって数えきれないほどの皇子が命を落とし、最終的に無事に成人できたのは、御上様を含めてわずか七人だった。その後、御上様が即位すると、残りの六人はそれぞれ王に封じられたが、思いもよらず、そのうちの五人が密かに結託し、謀反を企てた。平陽王がただ一人の力で、その五人の皇子を誅殺したのだ。しかし、五王の乱の後、平陽王もまた奇妙
三年後、侯爵家全員、私に土下座 第329話
屋敷に戻っても、喬念の心から怒りと悲しみは消え去らなかった。きっと前世で林華に何か大きな借りでもあるのだろう、と彼女は思った。そうでなければ、なぜ人生に転機が訪れると感じるたびに、林華の一言で全てが崩れ去るのだろうか？明王の時もそうだった。荊岩に至っては、なおさらだ！だが、もし本当に前世で林華に借りがあったのだとしても、それは彼女一人で返せばいい。なぜ、荊岩まで巻き添えにする必要があったのか？喬念の涙はどうしても止まらなかった。凝霜は傍らで見ていて心を痛めたが、ふと何かを思い出し、卓上の物を指差して言った。「お嬢様、あれが何かご覧になってくださいませ」凝霜が指差す方を見ると、喬念は一通の書状を目にした。封には、ただ四文字、「章何親展」と大書されているのみ。彼女宛てではなかった。喬念の目に、そっと失望の色が浮かんだ。「何故、書状が一通きりなの？荊柔は彼がわたくしに何か残されたと申したのに！」まさか、章何に渡すべきこの書状だけなのだろうか？喬念の涙が再び溢れ出したが、思いがけず凝霜が何かを思い出し、言った。「二日前、荊お嬢さんは、荊副将がお亡くなりになったと知るや、わたくしを連れて酔香楼の裏手の厨へ赴き、李料理長に、臓物の料理を教わるよう仰いました！」「それに、荊お嬢さんはわたくしを城の東の森へも連れて行き、毎年十月から十二月にかけて、そこには野山査の実がたくさんなると仰いました。そしてわたくしに、山査を干して保存する方法を教えてくださいました」「荊副将は確かに、お嬢様に置き土産を残されたのでございます。この世でお嬢様に良くしてくださる方々を、お嬢様に残してくださったのです！」凝霜は本来、喬念を慰めるつもりだったが、思いがけずこの言葉を聞いた後、喬念はもはや悲痛な気持ちを抑えきれなくなり、凝霜と抱き合って、わんわんと泣き崩れた。祖母上は亡くなり、荊岩も亡くなった。これからの日々、この世で、自分に良くしてくれる人は、もう凝霜しかいないのだ！凝霜はひどく心を痛め、喬念と一緒になって涙を流し、何度も呼びかけた。「お嬢様、わたくしはいつまでも、お嬢様のお側におります。決して、お嬢様から離れたりは致しませぬ」永遠にそばにいってくれるの？喬念は凝霜の首筋に顔を埋めた。小さく首を横に振った。
三年後、侯爵家全員、私に土下座 第328話
喬念には、林夫人が自分を慰めに来たのだと分かっていた。ただ、その慰めの言葉は実に耳に障るものだった。人には各々定めがあるとはどういうことか？荊岩は死んで当然だとでも言うのか？喬念は眉をきつく寄せたが、今さらはもう言い争う気力がなかった。深く息を吸い込み、ため息をついて言った。「わたくしは既に侯爵家とは縁を切っております。今後何事が起ころうと侯爵家には関わりなきこと。願わくばお二方には、これより先、二度とお越しにならぬよう」そう言うと、喬念は屋敷に入ろうとした。案の定、背後から林華の怒鳴り声が聞こえてきた。「喬念！人の好意を無にするな！母上は普段、滅多にお出にならぬお方だ。お前を案じて、わざわざここまで足を運んでくださったのだぞ！」喬念は足を止めた。拳を軽く握りしめ、尋ねた。「では、そなたは？」その言葉に、林華ははっとし、喬念が何を言いたいのか、すぐには理解できなかった。しかし、喬念が不意に振り返って彼を見つめるのが見えた。その両目には探るような、そして問い詰めるような色が浮かんでいた。「では、そなたは一体何故ここへ？わたくしを案じてか、それとも、後ろめたいことがあるからですか？」実はずっと、腑に落ちないことがあった。あの日、荊岩が屋敷まで送ってくれた時は何ともなかったし、かつて、軍功のことなど口にしたこともなかったのに、どうして突然、彼女のために軍功を立てると言い出し、夜中に都を発つことを厭わず、一言の伝言さえ残さなかったのか？きっと誰かが荊岩に何かを言ったのだ、と彼女は思った。章衡と林華ぐらいしか思い当たらないのだ。そして今、林華のうろたえた眼差しが、彼女に答えを与えた。喬念は拳をぐっと握りしめ、憎しみが込み上げてきた。「やはりそなたでしたか！」林華は確かに後ろめたさはあったが、あの時は完全に善意からだった。喬念がどうしても荊岩と一緒になりたがったからこそ、この二人のためにこの策を考え出したのだ！そう考えると、林華の声もますます怒気を帯びた。「われが何だと言うんだ？われはお前が父上と縁を切る決意を固めているのを見て、彼のために道を拓いてやろうとしたに過ぎぬ！お前らのためを思ってのこと、疚しいことなどあろうはずがない！責めるなら、あやつ自身の薄命と不運をこそ責めるがよい！」「林華！」喬念は鋭
三年後、侯爵家全員、私に土下座 第327話
静かに帰る、ただ家族四人だけで。章衡もいない。喬念もいない......これから先、都の貴き方々とは、もう何の関係もないのだ。章衡はわずかに頷いた。荊父の心中を察すれば、当然、無理強いはしなかった。喬念もその意を悟っている。彼女は深く息を吸い込んで前に進み、すでに泣き疲れて力の抜けた荊母のそばへ寄り、手首の玉の腕輪を外した。「この腕輪は、わたくしにはふさわしく......」しかし、思いがけず、彼女が言い終わらないうちに、荊母がその手を抑えた。疲れきった顔でありながらも、荊母は喬念に向かって苦渋の笑みを浮かべた。「これをそなたにあげたのだから、そなたのものよ。もしわたくしに返したら、それこそ岩が悲しむわ」喬念は呆然と荊母を見つめた。この玉の腕輪を持たせてくれるということは、荊一族がなおも彼女を身内と認めていることを意味する。まさかここまで来て、荊家がまだ彼女を受け入れてくれるとは！胸の奥から切ない悲しみが込み上げ、喬念は荊母を強く抱きしめた。それは感謝であり、また、自責の念でもあった。荊母は優しく喬念の背中を叩いた。それは慰めであり、しかし、どうしようもない諦めでもあったのではないか？この光景を目の当たりにし、荊父はそっと長いため息をつき、しばしの後、ようやく口を開いた。「よし、もう時分も遅い。我らは参らねば」その言葉を聞いて、喬念はようやく荊母から体を離し、凝霜が前に出て、彼女を支えて傍らへと下がった。一方、老夫婦は二人揃って馬車に乗り込み、荊岩と共に家路についた。荊柔もそれに続いたが、喬念のそばを通り過ぎる時、低い声で一言告げた。「そなたの部屋に兄上が何か残されております」喬念ははっとし、さらに何か尋ねようとしたが、荊柔はすでに小走りで前へ進み、二度と振り返らなかった。やがて、その隊列が視界の中でほんの小さな点になるまで見送り、喬念はようやく視線を戻した。振り返ると、なんと章衡がまだ城門のところに立っていた。喬念が振り返るのを見て、章衡は眉をひそめ、低い声で言った。「屋敷まで送ろう」喬念は手を上げて顔の乾いていない涙の跡を拭い、それから言った。「お構いなく。凝霜がおりますれば、それで十分でございます」言い終えると、喬念は章衡に向かって礼をし、大股で歩み去った。荊柔が言って
三年後、侯爵家全員、私に土下座 第326話
荊父と荊母から息子を奪い、荊柔から兄を奪ったのだ。喬念は全てが自分のせいだと思っている。しかし、思いがけず、荊柔の泣き声はますます悲痛になった。「されど、もしわたくしがそなたを責めれば、兄上はきっと、わたくしに腹を立てましょう......」その言葉は、刃のように、容赦なく喬念の心臓に突き刺さった。喬念はどうしていいか分からずに荊柔を見上げると、荊柔はすでに声を上げて泣きじゃくっていた。それでも、荊柔は懸命に言葉を紡いだ。「兄上は、兄上は発たれる前に、わたくしに申した。生涯において、これほどまでに心を寄せた女子はおらぬ、と。ただそなたに、無事で、幸せであって欲しい、たとえ己が命を差し出すことになろうとも、本望だと」「喬念、兄上は真に命を差し出された。ゆえに、そなたはわたくしのためと思って、必ず無事で、幸せでいなければならぬ！さもなくば、さもなくば、決してそなたを許さぬぞ！」なぜなら、それが兄上の最後の願いだったからだ。荊柔はそう言い終えると、もはや一言も発せられぬほどに泣き崩れた。荊柔には理解できなかった。なぜこの世に、命と引き換えに、誰かの無事と幸せを願うような愚かな人がいるのだろうか？だが、これは兄上が言ったことだ。ならば、彼女はそれに逆らうことはできなかった。凝霜が慌てて駆け寄り荊柔を抱きしめると、荊柔は彼女にすがりつき、泣き叫んだ。そしてこの言葉は、喬念をも打ちのめしたかのようで、彼女は力が抜かれたように荊柔から離れた。なぜあの日、荊柔が泣いていたのか、ようやく分かった気がした。では、荊岩は出発する前に、すでに最悪の事態を覚悟していたのだろうか？彼は、あの山賊どもがどれほど凶悪で、この度の任務がどれほど危険かを知りながら、それでも迷うことなく向かったというのか？なぜ？なぜそんなに愚かなの？たとえ彼が何の功績も立てられなくても、彼女はずっと彼のそばにいるつもりだったのに！彼女が大切に思っていたのは、彼がどれほどの功績を立てたか、どれほどの栄誉を得たかでは決してなかった。大切に思っていたのは、ただ彼自身だったのに！果てしない悲しみが、瞬時に喬念の体から全ての力を奪い去った。ついに後ろへ倒れそうになったが、荊父にしっかりと支えられた。喬念ははっとし、ゆっくりと荊父に顔を向け、
三年後、侯爵家全員、私に土下座 第325話
喬念ははっと息を呑んだ。昨夜、あの山賊が、もし章衡が人を付けていなければ、棺の中身が荊岩だと気づきもしなかっただろう、と話すのを、確かにこの耳で聞いたのだ。昨夜、あのような斬り合いは起こらなかったはずだ。もしかしたら今頃、彼女たちはもう泳北を出ていたかもしれない。章衡を責めるべきだろうか？理性では、責めるべきではないと分かっていた。章衡の意図は彼女の安全を守るためであり、昨夜山賊が現れることなど誰も予想できなかった。ましてや、今回の件は結局のところ、山賊があまりにも凶悪で、村一つを皆殺しにし、むつきの中の赤子さえ見逃さなかったことが原因なのだ。そうでなければ、御上様が夜通し兵を派遣することも、この全ての出来事が起こることもなかっただろう。しかし......現実に起こってしまった。荊岩は死に、多くの人々が死んだ。彼女は冷静にに「責めない」と言うことはできなかった。本当は心の奥底でこの件に関わった全ての人を責めていた。だがそれ以上に、自分自身を責めていた......だから、喬念は何も言わなかった。ただ俯き、静かに座っていた。再び山賊が襲ってくることを心配し、二人は羅上が援軍を送ってくるまで待ってから、ようやく再び出発した。丸一日遅れ、夜になるまで、一行は再び前進を始めなかった。そしてこの道中、喬念と章衡は、もう一言も言葉を交わさなかった。荊岩が亡くなってから十二日目の午前、一行はようやく都に到着した。しかし、まだ城門をくぐる前に、喬念はすでに城門の下に立つ数人の人影を目にしていた。心臓がどきりと跳ねた。荊岩の家族だ。章衡はとっくに荊岩の戦死の知らせを都に送っていたのだ。だから今、荊家の者たちは城門で、荊岩を迎えるのを待っていた。隊列は止まらなかった。喬念は馬車に乗りながら、どうしていいか分からなくなっていた。この道中、彼女はずっと考えていた。もし老夫婦に会ったら、どう説明すればいいのか、と。しかし、これほど考え続けても、喬念はやはり、どう切り出せばいいのか全く分からなかった。他人の息子が死んだ！自分のせいで死んだのだ！自分に口を開く資格などあるだろうか？袖の下で両拳を固く握りしめ、喬念の体は心と共に微かに震えていた。一瞬、馬車から飛び降りて、ここから逃げ出
