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第111話 新魔法の試し撃ち(後編)

Author: 黒蓬
last update Last Updated: 2025-06-10 06:00:44

テントにカサネさんを寝かせてから少し先ほどのことを思い返してみたが、

やはり何も分かりそうになかった。あの魔法についてはカサネさんが起きたら

聞いてみるしかないだろう。

一先ずはそう結論付けて朝食の準備をしていると、少しして二人が起きてきた。

「二人ともおはよう。カサネさんは大丈夫か?」

『おはよう。あのあと何かあったの?』

「おはよう・・・ございます。っ!大丈夫とは言い難いですね。頭痛が酷いです。

魔法を発動させた以降の記憶がないんですけど、あのあとどうなりました?」

やっぱり、魔法を発動させた瞬間に気を失っていたのか。

結果論になってしまうが、あの時無理にでも止めるべきだったな。

「魔法は発動していたよ。突き出した手の先にあった竹の間に黒い球が現れて、次の瞬間には黒い球ごとそこにあった幹も消失してた」

「そうですか、、一応発動はしたんですね。制御しきれずに気を失ってしまったみたいですけど、大惨事にはならなかったみたいで良かったです」

「危険な魔法かもしれないと分かっていたんだし、万全の状態で使ったほうが良いんじゃないかと止めるべきだったよ。ごめん」

謝る俺に対して、カサネさんは被りを振って返してきた。

「いえ、精神状態もそうですけど、あの時の私はちょっと忠告されたくらいでは止まれなかったと思います。だから、あの結果は自業自得です。アキツグさんが謝ることじゃないですよ。こちらこそすみませんでした」

そういってカサネさんは深々と頭を下げた。だいぶ参っている様子だ。

「いやまぁ、あんな特別な魔法を覚えたら誰だって興奮するだろうし、早く

試してみたくなっても仕方ないさ。今回は大事にはならなかったわけだし、

お互い次回から気を付けるようにしよう」

「はい。ありがとうございます」

『反省して次回に行かせるなら良いんじゃない?その時寝ていた私は正直何とも言いづらいけれど』

その後三人で朝食を取っている間もカサネさんは少し気落ちしていたが、

気を取り直したのか食べ終わる頃には一先ずいつもの様子に戻っていた。

落ち着
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