LOGIN王都から田舎に追放された廃嫡王太子夫妻が自然の中で生きる力を取り戻していく物語。 わがままな侯爵令嬢シャーロットは、婚約者である王太子エゼルが政争に敗れたために一緒に田舎村に追放されてしまう。 王都に比べて何もかもが不便な田舎村で、かんしゃくを起こすシャーロット。エゼルは無気力。 王都への返り咲きを諦めないシャーロットは、行動を起こそうとするが…… これは、都会の温室育ちだった2人の若者が自然の中で生きる力を取り戻す物語。
View Moreシャーロットがシリト村にやってきてから、3度目の春を迎えようとしている。 1度目の春は、王都を追放された失意で八つ当たりをしてばかりいた。 2度目の春は、村人たちと協力しながら農業と農村の暮らしへの学びを深めた。彼らのありようをより深く知り、最適な作物を共に考え、暮らしに足りないものを観察して補うように行動した。農閑期の学校開催などもその1つである。 そして今。3度目の春、エゼルとシャーロットはシリト村を旅立とうとしていた。 2人とも悩んだ末の決断だった。けれども農民たちのより豊かな生活、より幸せな暮らしを幅広く実現するために、王都へ戻って政治に携わる決意をしたのだ。 シリト村を始めとした不正な税の搾取を告発したことで、エゼルの名声は多少の挽回をしていた。かつての「無能王太子」から、少しは見る目のある若者に変わった。 それをもって、エゼル夫妻の王都追放と立入禁止は解かれた。ただし政界へ復帰するには、臣籍降下が条件だった。 以前のように王太子どころか、一貴族からの再出発になる。 それでも彼らは帰還を決めた。 ――自分たちにできる最大限のことを。 あの冬の日に宣言した想いは、今なおエゼルとシャーロットの心に刻まれている。「ご領主様と奥様がいなくなったら、寂しいよ」「オーウェンとメリッサも行っちゃうんでしょ?」 フェイリムとティララの兄妹が、そんなことを言う。この2年で彼らはずいぶん大きくなった。特にフェイリムは、そろそろ子供から若者に変わっていく時期だ。 シャーロットは笑って、兄妹の頭を順に撫でた。フェイリムはもう背丈がシャーロットより高いけれど、照れくさそうに撫でさせてくれる。「また戻ってくるわ。シリト村は、私とエゼル様の第二の故郷だもの。私、王都で頑張ってくる。王都でしか出来ないことを、精一杯やるの」「うん」 うなずいた彼らに、今度はエゼルが言う。「だから、フェイリムとティララもここでしっかりやってくれ。お前たちや他の村人が農村で暮らしているからこそ、僕たちもよりよい未来を描けるんだ
荒れ狂う雪の中に一点、雪よりも白い純白の光が灯った。 それはみるみるうちに大きくなって、やがて一角獣の形を取った。 彼は蹄で空を駆ける。分厚い雪雲を切り裂いて。 彼が足を一蹴りする度に、雪崩が割れた。 彼がたてがみを振る度に、雪が消えた。 雪崩に飲まれて流されかけた人らを、彼はまとめて掬い上げ背に乗せる。 高くいなないて地を蹴れば、雪崩は完全に勢いを失った。 ユニコーンは一度空高く舞い上がると、森に向かって急降下をした。 降り立つのは、あの泉のほとり。 けれど泉に水はなく、枯れて底を晒している。「助かった……の、か……?」 エゼルが呆然として言った。 その声を聞いたユニコーンは、ぶるっと体を震わせて人々をふるい落とした。「ユニコーン様が、本当にいらっしゃったなんて」 村長が地面に伏して拝んでいる。オーウェンとメリッサはまだ自失から戻っていない。 シャーロットはティララを抱きしめながら、ユニコーンに向き直った。「ありがとう、ユニコーン。また助けてもらって……!?」 言葉の途中で絶句した。 久方ぶりに見た純白の獣は、その象徴である一角を失っていたのである。「あなた、どうして?」 するとユニコーンだった獣は、ふんっと鼻を鳴らした。『そりゃあそうだろう。乙女ではないもののために、あんなに力を使えば、魔力がなくなって当然さ』「そんな。守り神であるあなたから、力を奪ってしまったというの?」 守り手を失ったシリト村は、これからどうなってしまうのだろう。 信仰の柱をなくしてしまえば、この村は立ち行かなくなるのではないか。 そんな心配がシャーロットの心に生まれた。 そんな彼女を見つめながら、ユニコーンが言う。『僕は長らく村を見守ってきた。でも、シャーロットが来てから少し考えを変えたんだ。精霊や神様が人
山の崖下にティララはいた。崖の途中にへばりつくように木が生えていて、彼女はその枝に引っかかるような格好で泣いている。 木の枝には、冬にふさわしくない鮮やかな緑の葉。不思議なまでに瑞々しい葉。ティララはそれを握りしめて、離すまいとしている。「ティララ!」 村長が叫ぶと、幼子は彼らに気づいた。「おじいちゃん!」「今、助けてやるからな。動くなよ」 村長が崖を降りようとするが、足元の雪がずるりと崩れた。オーウェンが慌てて引き上げる。「かなり足場が脆い。なるべく体重が軽い者が行ったほうがいいだろう」 エゼルが言って、シャーロットがうなずいた。「それじゃあ私ね。一番背丈が小さくて、痩せているもの」「奥様、無茶です」「いいえ、私が一番ちょうどいいの」 メリッサは女性としては上背があり、護衛という職業柄、かなり体を鍛えている。重量という意味ではシャーロットが最適だった。 皆で協力して、シャーロットの胴体にロープを結わえる。ロープの端は残った者たちがしっかりと持った。 シャーロットは慎重に崖に近づいた。村長ならば崩れた雪の足場も、彼女の体重であれば支えてくれた。 凍って滑る崖を少しずつ降りて行く。 時間はかかったが、彼女はついにティララの元へたどり着いた。「ティララ! 怪我はない?」「だいじょうぶ。でも、怖かったよお」 泣きじゃくっていたティララの頬は、涙の跡が凍ってしまっている。シャーロットは頬にそっと手を当ててから、小さい体を抱きしめた。「こんなに無茶をして、皆心配したのよ」「ごめんなさい……。でも、でも、ユニコーン様の薬草を見つけたの!」 ティララの手には輝くような緑の葉がある。この冬の寒さの中で、ひときわ輝くようなグリーンだった。本当に何かの効能がある薬草なのかもしれない。「じゃあそれをしっかり持って。ロープで引き上げてもらいますからね」「うん」 シャーロットは自
彼らは手早く話し合って、森をこのまま探す組と山へ捜索の手を伸ばす組を決めた。 フェイリムと村人は森を、村長とシャーロット、エゼル、使用人2人は山を探すことになる。「捜索者が遭難してはいけません。安全第一でお願いします」 オーウェンが念を押した。皆でうなずいて、散って行く。「ティララみたいな小さい子が、そんなに距離を進んでいると思えないが」 エゼルが言って、メリッサが首を振った。「そうとも言えません。体重が軽ければ、大人なら雪に沈んでしまう場所でも、歩いて行けるケースがありますから」 山へ近づくと雪がだんだんと激しさを増してくる。「これはいけない。エゼル様、シャーロット様、お2人はお戻り下さい」「嫌よ!」 オーウェンの言葉に、シャーロットは強く言い返した。「ティララはきっと、1人で寒い思いをしているわ。大人の私が見捨ててどうするの」「しかし、この雪です。ご領主夫妻に万が一のことがあったら……」 村長の顔には苦悩が見えた。「村長、薬草が生えているという言い伝えの場所に心当たりはないか?」「どうでしょうか。おとぎ話ですので、具体的にどことは……あ」 エゼルの言葉に何かを思いついた村長が、目を上げる。「あの子の母親が言い聞かせていたのを聞いたことがあります。西の崖で、晴れた日には我が家からよく見える場所」「それは、どちらの方角だ?」「あちらです!」 村長が指をさす。「よし。じゃあそちらを重点的に探そう。皆、気をつけて、くれぐれも無理をせずに。雪が激しくなったら、戻るのも決断しなければならない」 エゼルが言って、シャーロットも不承不承、うなずいた。「ティララ、待っていなさい。必ず私が見つけて、家に帰してあげるから」 シャーロットの呟きは、山から吹き下ろす雪風にかき消されて消えていった。
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