気が付くと見知らぬ場所に居た。 突然現れた観音様によると元の世界で俺は死んでしまったが、予定外のことらしく望めば別の世界で復活できるらしい。 突然のことで何が何やらだが、まだ死にたくはないし異世界で人生の続きを頑張ってみるか。 ・・・え?俺商人なのに金銭NGって冗談だろ?
View More目が覚めると一面が真っ白な世界だった。
「なんだここは?俺は何でこんなところに?」 明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。 目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。 自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。 大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。 分からないのは直近の記憶だけのようだ。「そこの人間」
そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。
「誰だ?」
「こっちだ」声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。
そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」
「お前を呼んだのは私だ」 「し、しゃべった!?」再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。
誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。「納得したか。では、本題に入ろう」
「本題?」 「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」 「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」 「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。
「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」
「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」 「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」 「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」 「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。
「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」
「輪廻の均衡ってなんだ?」 「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡を保つようにしている。お前も選ばれた者の一人だ。」説明を聞いても良く分からないが、たぶん生と死のバランスを取ろうとしているとかそういうことなのだろうか。
何にしろその話が本当なら俺には別の世界で生きるチャンスがあるらしい。「なるほど。その異世界っていうのはどういうところなんだ?」
「お前の世界とは全く異なる成長を遂げた世界だ。科学技術ではなく魔法やスキルの力で発展している。」 「ま、魔法?」またすごい単語が出てきた。いい大人ならとても信じられないだろう。
最近の一部の若者の間ではそういう話が流行っているらしいが俺は詳しくなかった。「魔法やスキルって、その世界は安全なのか?」
「難しい話だな。お前の住んでいた日本という国を基準にすれば安全ではないだろう。その世界では街道を外れれば魔物に襲われることもあるようだ」 「魔物って、、熊とかライオンみたいなものか?いやいや、とてもじゃないけどそんなのと戦うなんてできないぞ」 「人里に現れる可能性は低いだろう。交通事故などに合う可能性とさほど変わらないと思うが」そんなことはないと言いかけて思わず口を噤む。自分自身がその交通事故で死んでいるのである。
「それに町や村には門番や冒険者なども居る。旅をするなら護衛を雇うのも良いだろう。世界に適応させるため、お前の元の世界での知識、経験が異世界のものに変換されるので、有用な能力を身に着けられる可能性もあるだろう。」
「知識や経験を変換?それってどうなるんだ?」 「分りやすいもので言えば言語だ。異世界では言語が異なるがお前が送られる地域の標準語に変換される。複数の言語に精通していれば他の地域の言語も理解できるだろう。」なるほど。確かに言葉が分からないのは致命的だ。ということは知識としてあるものは異世界で同様のものに置き換わると考えて良さそうか。
「一応聞くけど、向こうの世界の金銭価値とかも分かるようになるんだよな?」
「同様だ。お前が送られる地域を基準として日本の知識がその地域の知識に置き換わるはずだ」 「分かった。あとその世界って旅商人とかはいるのか?」 「あぁ、存在している」良かった。それなら俺の職業知識も生かせそうだ。
「心は決まったか?」
俺の考えを見透かしたかのように観音菩薩が聞いてきた。
「その前にあと一つだけ聞いても良いか?」
「なんだ?」 「あんた、いや貴方は神様なんですか?」今まで混乱したまま流れで色々聞いてしまったが、よく考えるとすごく失礼な対応をしてしまっていたかもしれない。
「お前達の世界の考えからすると近い存在かもしれないな。態度についてなら気にすることはない。突然死んだと聞かされたのだ。無理もないことだろう」
「やっぱり心が読めるんですか?混乱していたとはいえ申し訳ありませんでした」 「構わない。ではどうする?」 「異世界へ行きます」 「分かった。最後に、ここでの記憶はしばらくすると忘れるだろう。生きる上では不要なものだからな。では、さらばだ」次の瞬間、俺の意識を失った。
昼食を終えて少しゆっくりした後は、再び街中を適当に散策していた。 すると町の一角に市場のような場所があった。 近くの人に尋ねてみると、ここはフリーマーケットとして開放されている広場で誰でも自由に取引ができるようになっているようだ。冷やかしや珍品目当てなど目的は様々だが、観光客も多く結構な人で賑わっていた。 商人としては、こんな光景を見てしまうとどうしても気になってしまう。 一通り見て回ったところで俺は二人に断りを入れて、自分も露店を開くことにした。「せっかくの骨休めでしたのに。でも、やっぱりアキツグさんはそういう姿が似合いますね」 『最近は色々あったけれど、やっぱり根は商人ってことよね』 「そ、そうか?まぁなんだかんだで歴は長いからな。二人は気にせず楽しんできてくれ」 「分かりました。ロシェさん行きましょうか」 『えぇ。アキツグ、さっきも言ったけど一応気を付けてね』 「あぁ、分かってるよ。そっちもな」取引を終えて宿に戻ろうとしたところで、違和感に気づいた。 ロシェの気配がしばらく前からずっと同じところに留まっているのだ。 少しくらいなら景色を眺めていたり、軽食を摂っていたりということもあるだろうが、そう考えるには時間が経ち過ぎていた。 気になった俺はロシェの気配の方へ向かうことにした。 気配を追っていくと辿り着いたのは建物の隙間にできた小道の様な場所だった。 ロシェの気配は、未だにその十字路になっているあたりに留まっている。近づいてもこちらに気づく様子もなく、近くにカサネさんの姿もなかった。(おいおい。嘘だろ?あの二人も警戒はしていたはずなのに、一体何があったんだ?)一応俺は警戒しながらロシェに近づいて行った。当たりに人の気配はなかったが、二人に何かをした存在がまだ隠れている可能性もあったからだ。 しかし、そんな警戒も空しく何事もなくロシェの側まで行くことができた。 ロシェは姿隠状態のまま気を失っているようだった。揺り起こすと少しして目を覚ました。『う、くっ、ここ・・・は?』 「大丈夫か?何があったんだ?」
「コゲンジさん、お久しぶりですね」 「えぇ本当に、エレンジアである日から急に姿を見かけなくなったので、心配していたんですよ。今まではどちらに?」 「レインディア大陸の方に渡っていました。冒険者ですから、他の街に移るのも別に珍しいことではないですよ」 「それは…そうかもしれませんが、友人が急に居なくなったら寂しいじゃないですか。せめて一言教えてくだされば良かったのに」 「それはどうもすみません。少し急いでいたものですから」パッと見る限りでは知り合いが再会の会話を交わしているだけにも見えるが、 二人の温度差には明らかに違いがあった。カサネさんの口調も普段とは異なり硬いものだ。恐らくはこの人物が以前にカサネさんが言っていた面倒な人なのだろう。相手の様子からもこのままだと面倒な展開になりそうだ。ここは割って入るべきだろう。 俺は灯り石を購入すると、敢えて今の会話に気づいていなかった素振りでカサネさんに声を掛けた。「カサネさんお待たせ。石も良いのが買えたしそろそろ昼食にでもいこうか」 「あ、はい。コゲンジさんすみません、連れも戻ってきたので私はこれで」 「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい。連れってこの人がですか?カサネさん、ずっとソロで活動していて特定のパーティには参加していなかったのに」前までがそうだったとして、何でパーティを組んだくらいで問い質されなきゃならいないのだろうか。そんなことまで知っているのも含めて本当に面倒そうな人だ。「今まではパーティを組みたいと思う人が居なかっただけですよ。連れを待たせるのは悪いのでこれで失礼します。行きましょう、アキツグさん」そういうとカサネさんは俺の腕を掴んでさっさと歩きだした。腕を引かれた俺もその後に続いたが、振り返る前に一瞬目が合った彼は俺のことを憎々しげに睨みつけていた。 しばらく歩いて近くにコゲンジの気配がないことを確認した辺りで、カサネさんが一息ついてこちらに謝罪してきた。「さっきはすみませんでした。まさかこんなところで会うなんて。あの人が以前話していたコゲンジさんです」 「やっぱりか。知り合いみたいなのにあんな風に接してたか
カランダルさんに紹介して貰った宿屋で部屋を取った俺達は、さっそく温泉に入りに来た。観光地だけあってペット同伴で来る人も多いらしく、専用のエリアも用意されているため、ロシェも問題なく入れるようだった。 なおロシェにはカサネさんと一緒に女湯の方に行って貰っている。気にする必要もないとは思うが、まぁ気分的なものだ。 体を洗って温泉に入ると、温泉の温度もちょうどよく、蓄積された疲れがゆっくりと温泉に溶けていく様だった。「あ~やっぱりこれだよなぁ。景色も良いしカランダルさんがお勧めしてくれたのも納得だな」紹介された宿は街の端にあり、温泉からは周囲の山々が見渡せるようになっていた。温泉もいくつか種類があり、泉質も異なっているようだった。 前日の件で睡眠時間が少なかったのもあり、うっかり湯の中で寝てしまいそうになったが、何とか耐えて部屋まで戻ってきた。 少し休んでいると仲居さんが夕食を持ってきてくれた。それらも豪勢でどれも美味しいものだった。ただ、こんなところでもライアン果樹園の果物が出てくるのは流石というべきか。きっと提携しているということなのだろう。 そして、驚いたことに寝具に布団一式まで用意されていた。ここにも前の世界の住人が何か知ら関わっていたのかもしれないが、睡魔に負けた俺はそこまで考えることもなくその日は早々に眠りについたのだった。翌日、俺達は三人で温泉街を見て回ることにした。 昨日カランダルさんに聞いた話によると、ヤミネラさんと属性付与とカランダルさんの特性付与については素材さえ揃っていれば、付与自体はそれほど時間の掛かるものではないらしく、数日もあれば終わるだろうとの話だった。 なので、それまではこの温泉郷で骨休めというわけである。やはり観光地だけあって町並みは美しく、街の中央には温泉饅頭や温泉卵、湯豆腐など温泉街ならではといった食べ物や土産物屋が立ち並んでいる。各温泉を巡るスタンプラリーまであるようだ。街の奥は山道まで続いており、山中には秘湯のようなものまであるらしい。 一応冒険者ギルドや商人ギルド、武具や道具屋などもあるのだが、そのような店舗は街の一角に目立たない感じで存在していた。「なんか今まで
「ま、まさか?!こ、これも黒真鉄だ。あれだけ探しても見つからなかったというのに・・・あなた達は一体?」 「えぇっと、まぁ色々ありまして。ともかくこれがあれば刀を鍛えることができるんですよね?」 「それはそうなんですが・・・もともと自分で見つけるつもりでしたので、あなた方からこれを買い取れるような資産を私は持ち合わせていないのです」言われて気づいた。正直俺から見ればあの本を見つけた時の副産物程度の認識だったのだが、希少品であるならば相応の価値で取引するのが当然ではある。 とはいえ、ハクシンさん、ヤミネラさんと繋がれてきたバトンの結果が完成しませんでしたとなって欲しくはない。さて、どうしたものか。。 カサネさんの方を見ても同じように困ったような視線が返ってくる。「それじゃぁ、支払いは一旦保留にして、刀ができてから考えるというのは?」 「・・・それは借金ということかい?確かに現状それを譲り受ける方法としてはそれくらいしかないかもしれない。しかし、返せる当てもないのに借金をするのはちょっとね。ヤミネラが信じた君達を信じないわけではないけれど」う~ん。まぁカランダルさんの言うことももっともだ。俺だって逆の立場だったら躊躇するだろう。でも、これもダメとなるともうタダで譲るくらいしか・・・「一つ確認したいのだけれど、そのような提案をしてくれるということは君達にとっては黒真鉄は条件次第で渡しても良いものという認識であっているかい?」 「そうですね。今のところ使い道もありませんし。カサネさんも良いよな?」 「はい。アキツグさんと同じですね」 「そうか・・・であれば、一つ提案があるんだけどそのためには私の秘密も話さなければならない。だから、これから話すことは口外しないと約束して欲しい」問われて俺とカサネさんは顔を見合わせた。この状況を変えられるのであれば是非聞きたいところである。二人でカランダルさんに頷いた。「分かりました。口外しないことを約束します」 「ありがとう。これは私の仕事にも関わることなんだけどね。ヤミネラが属性付与師なのは知っているだろう?それじゃ、ヤミネラが属性付与した刀に私は何をす
近くで野営をしていたこともあり、午前中にはバーセルドに着くことができた。 バーセルドは泉源都市とも呼ばれており、文字通り、街の内外を問わずあちこちに源泉が存在していた。そのためまさに温泉郷といった感じで、様々な泉質を売りにした温泉施設や温泉付きの宿泊施設が立ち並んでおり、街中には無料の足湯場まで作られている。フォレストサイドが近いためだろう、建物は木造建築のものが多くそれがまた和風の雰囲気を漂わせていた。「これはまた・・・なんていうか、初めてきたのになんか懐かしさを感じるな」 「ですよね。私も初めて来た時は同じような感想を持ちました」 『今まで立ち寄った街とはまた雰囲気が違うわね』思わずそのまま近くの温泉に入りに行きたくなったが、そこはぐっと我慢してまずは目的を果たすことにする。代わりに足湯場でのんびりしている人達に混ざりつつ、カランダルさんの鍛冶屋について聞き込みをすると目的の場所は簡単に教えて貰うことができた。 礼を言ってその人達と別れ、教えられた鍛冶屋の前までやってくると一人の男性が店の前で掃除をしていた。俺達が近づくとその男性もこちらに気づいた。「こんにちは。こちらにカランダルさんはいらっしゃいますか?」 「カランダルは私ですが。何か御用でしょうか?」 「ヤミネラさんから手紙と伝言を預かってきました」俺がそういうと、カランダルさんの表情が少し真剣なものに変わった気がした。「なるほど。こんな温泉街で私の店を訪れる人は珍しいので、どういった御用かと思ったのですが。とりあえず中へどうぞ」カランダルさんはそう言うと店の扉を開けて俺達を中へ招き入れた。 店の中はきれいに整理整頓されていた。数日前に見たヤミネラさんの店はもっとごちゃごちゃしていて雑多に物が置かれていたので、なおさら印象深かった。 それに店主のカランダルさんも口では言い表せないのだが、なんだか不思議な雰囲気を持った人物に見えた。「綺麗なお店ですね」 「そうですか?・・・あぁ、ヤミネラの店を見たんですね。あの子は片付けが苦手ですからねぇ。逆に私は片付いていないと落ち着かないもので、あの子とはよく言い合い
テントにカサネさんを寝かせてから少し先ほどのことを思い返してみたが、 やはり何も分かりそうになかった。あの魔法についてはカサネさんが起きたら 聞いてみるしかないだろう。 一先ずはそう結論付けて朝食の準備をしていると、少しして二人が起きてきた。「二人ともおはよう。カサネさんは大丈夫か?」 『おはよう。あのあと何かあったの?』 「おはよう・・・ございます。っ!大丈夫とは言い難いですね。頭痛が酷いです。 魔法を発動させた以降の記憶がないんですけど、あのあとどうなりました?」やっぱり、魔法を発動させた瞬間に気を失っていたのか。 結果論になってしまうが、あの時無理にでも止めるべきだったな。「魔法は発動していたよ。突き出した手の先にあった竹の間に黒い球が現れて、次の瞬間には黒い球ごとそこにあった幹も消失してた」 「そうですか、、一応発動はしたんですね。制御しきれずに気を失ってしまったみたいですけど、大惨事にはならなかったみたいで良かったです」 「危険な魔法かもしれないと分かっていたんだし、万全の状態で使ったほうが良いんじゃないかと止めるべきだったよ。ごめん」謝る俺に対して、カサネさんは被りを振って返してきた。「いえ、精神状態もそうですけど、あの時の私はちょっと忠告されたくらいでは止まれなかったと思います。だから、あの結果は自業自得です。アキツグさんが謝ることじゃないですよ。こちらこそすみませんでした」そういってカサネさんは深々と頭を下げた。だいぶ参っている様子だ。「いやまぁ、あんな特別な魔法を覚えたら誰だって興奮するだろうし、早く 試してみたくなっても仕方ないさ。今回は大事にはならなかったわけだし、 お互い次回から気を付けるようにしよう」 「はい。ありがとうございます」 『反省して次回に行かせるなら良いんじゃない?その時寝ていた私は正直何とも言いづらいけれど』その後三人で朝食を取っている間もカサネさんは少し気落ちしていたが、 気を取り直したのか食べ終わる頃には一先ずいつもの様子に戻っていた。 落ち着
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