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第1445話 番外編九十三

Author: 花崎紬
「そうよ、すごいでしょ?」

ゆみは頷いた。

「閻魔様って、見た目どんな感じだった?」

臨が目を輝かせて尋ねた。

「寿命を迎えたら会えるわよ。今聞いてどうするの?」

ゆみは呆れたように弟を見た。

「だって気になるじゃん?」

臨は唇を尖らせた。

「そんなことはあまり聞かない方がいいよ」

「ところでこの数日、何か変なものは来なかった?」

ゆみは思い出したように尋ねた。

「来てたけど……」

臨は紗子の方を見た。

「中までは入って来なかったわ。外から覗いてただけ」

紗子が説明を続けた。

「でも死に方が酷いのがいて、臨くんは驚いて何度も気絶しそうになってたわ」

「しょうがないね。彼は紗子ちゃんほどの度胸がないんだから」

ゆみは顔をしかめ、恥ずかしそうに頬を赤らめる臨を見た。

「紗子姉さんは本当に強いよ。幽霊たちと話すことまでできたんだ」

臨は頭を掻きながら苦笑した。

「よし、用事がもう全部済んだし、そろそろ帰ろう」

「お二人とも、今回はずっと付き合ってくれてありがとう。おかげでうまくいったわ」

「いいのよ。無事に帰って来れて良かった」

夜明け前、三人は家に戻った。

森川家の大人たちはまだ起きていた。

家中の明かりがついていて、彼女たちの帰りを待っていたようだった。

「ただいま!」

臨が真っ先に駆け込んで叫んだ。

それを聞いて皆が立ち上がった。

「どうだった?ゆみは無事なの?」

紀美子が慌てて聞いた。

「自分たちで確認して」

そう言って臨が道を空けると、ゆみと紗子がちょうど靴を脱いで入ってきた。

たちまち全員でゆみたちを取り囲んで状況を尋ねた。

約1時間後、ゆみはようやく解放され、2階の自分の部屋に戻った。

ゆみがお風呂に入ったため、紗子は紀美子が準備する夜食を運びに1階に降りようとした。

ちょうどドアを閉めた瞬間、向かいの部屋のドアが開いた。

佑樹だった。

佑樹が顔を上げると、紗子と視線が合った。

「まだ起きてたの?」

紗子はどぎまぎしながら下を向いた。

「ああ」

佑樹はドアを閉め、少し躊躇ってから返事をした。

「ゆみの件、苦労をかけたな」

「いいえ」

紗子は慌てて笑顔を作った。

「だって親友だもの。怖いからって逃げ出すようじゃ、話にならないわ」

佑樹はうなずいた。

「明日、一緒に食
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