Share

元夫、ナニが終わった日
元夫、ナニが終わった日
Author: 雪吹(ふぶき)ルリ

第1話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
池本真夕(いけもとまゆ)は、夫の堀田司(ほったつかさ)の浮気に気づいた。

彼はある女子大学生と浮気していたのだった。

今日は司の誕生日で、真夕は早めに料理の準備をしていた。その時、「ピンッ」と音がし、司が家に置き忘れたスマホが鳴った。真夕はある女子大学生からのメッセージを読んでしまった。

【ケーキを取る時にぶつけちゃった、痛いよぉ……うぅぅ】

その下には一枚の自撮り写真が添付されていた。

写真は顔を写しておらず、脚だけが写っていた。

写真の中の女の子は引き上げた白いソックスと黒い丸いつま先の革靴を履いていた。女子大学生の青と白のスカートが押し上げられ、引き締まった細長く美しい脚があらわになっていた。

その白い膝は本当に赤くなっていて、若く瑞々しい肉体と甘えたメッセージは、禁断の誘惑を漂わせていた。

よく聞く話では、成功した社長たちはこういうタイプの愛人を特に好むらしい。

真夕はスマホを握りしめ、指先が白くなるほど力が入っていた。

ピンッ。

女子大学生からまたメッセージが届いた。

【堀田社長、クラウディアホテルで会おうね。今夜はお誕生日をお祝いしたいの】

今日は司の誕生日で、その愛人が、彼の誕生日を祝おうとしていたのだった。

真夕はバッグを手に取り、まっすぐクラウディアホテルへ向かった。

彼女は自分の目で確かめたかった。

その女子大学生が誰なのか見届けたかった。

……

真夕がクラウディアホテルに到着し、中に入ろうとしたその時だった。

彼女は両親である池本平祐(いけもとへいすけ)と池本藍(いけもとあい)の姿を見つけ、驚いて近づいた。「お父さん、お母さん、どうしてここに?」

平祐と藍は一瞬戸惑い、視線を交わしながら目をそらして言った。「真夕、君の妹が帰国したから、ここまで送りに来たんだ」

池本彩(いけもとあや)?

真夕はピカピカのガラス窓越しに中を覗いた。そこにいる彩を見たら、真夕はその場で固まった。

中にいる彩は、あの女子大学生とまったく同じ青と白のスカートを身に着けていた。

そう、あの女子大学生は彼女の妹だったのだ。

彩は生まれながらの美人で、「浜島市の赤いバラ」と呼ばれていた。特に、彼女の脚は「浜島市随一の美脚」と評され、多くの男性がその脚にひれ伏してきた。

今、真夕の「完璧な妹」が、その脚で自分の夫を誘惑していたのだ。

真夕は可笑しくなった。そして平祐と藍に向かって言った。「どうやら、私が一番最後に知ったみたいね」

平祐はバツが悪そうに言った。「真夕、堀田社長は最初から君のことなんか好きじゃなかったんだよ」

藍も続けて言った。「そうよ真夕、浜島市中の女性が堀田社長を狙っているのよ。他の女に取られるくらいなら、妹に譲った方がマシでしょ?」

真夕は拳を握りしめた。「お父さん、お母さん、私もあなたたちの娘なのに!」

真夕はその場を去ろうとした。

その時、藍が背後から問いかけた。「真夕、教えて。堀田社長はあなたに触れたことあるの?」

真夕は立ち止まった。

平祐が鋭く言った。「真夕、俺たちが君に酷いことをしたと思わないでくれ。当初、堀田社長と彩は、公認のお似合いカップルだった。堀田社長が事故で植物状態になったから、君が代わりに嫁いだだけなんだ」

藍は真夕を見下すように眺めた。「真夕、自分の姿を見てごらん。結婚してから三年間、ずっと夫の世話しかしてない主婦だよ。でも彩は、今やバレエ団のプリマなんだよ。白鳥と醜いアヒルの子ってことよ。あなたがどうやって彩に勝ているの?さっさと堀田社長を彩に返してあげなさい!」

その言葉はナイフのように真夕の心に突き刺さり、涙目のままその場を去った。

……

真夕は別荘に戻った。外はすっかり暗くなっていた。彼女は家政婦の美濃(みの)に休みを与えていたため、家には誰もおらず、電気もついておらず、真っ暗で寂しかった。

真夕は暗闇の中、一人で食卓の前に座った。

料理はすでに冷めきっており、自作のケーキもあった。そこには「旦那様、お誕生日おめでとう」と書かれていた。

真夕はそれを見て目が痛くなった。それら全てが、彼女自身と同じように、ただの笑い話のようだった。

司と彩は、社交界で公認されたお似合いカップルだった。誰もが、浜島市の赤いバラである彩が司の心の中の女神だったことを知っていた。しかし三年前、突然の事故で司は植物状態となり、彩は姿を消した。

その時、池本家は真夕を田舎から呼び戻し、代理で植物状態の司と結婚させた。

結婚相手を彼女が愛してきた司だと知って、真夕は心から望んで嫁いだ。

結婚後、司は三年間植物状態が続いた。その間、真夕は寝食を忘れて彼の世話をし、外出もせず、社交も断ち、必死に彼の治療に尽くし、彼のために完全な家庭主婦になり、最終的に彼を目覚めさせた。

真夕はライターを取り出し、ケーキのろうそくに火をつけた。

薄暗い光が投射され、真夕は鏡の中に家庭主婦としての自分を見た。地味な白黒のワンピース、古臭く、色気もない。

一方で、彩はすでにバレエ団のプリマとして、若々しく、生き生きと、美しく輝いている。

彼女は「醜いアヒルの子」で、

彩は「白鳥」だった。

目覚めた司は、再び白鳥のような妹の手を取り、醜いアヒルの子を捨てたのだった。

ふっ、三年間の努力は、ただの独りよがりだった。

司は彼女を愛していない。けれど、彼女は司を愛していた。

人は恋愛において、先に好きになった方が負けだという。今日、司は彼女を完全な敗北させたのだった。

真夕の目に涙が浮かび、ろうそくの火を吹き消した。

別荘は再び真っ暗になった。

その時、外から突然ヘッドライトの光が注ぎ込み、司の高級外国車が芝生に滑り込んできた。

真夕のまつげが震えた。彼が帰ってきたのだ。

彼女は、彼が今夜は帰ってこないと思っていた。

すぐに別荘の扉が開かれ、冷たい夜露を纏った高貴で整った男性の姿が視界に入った。司が帰宅したのだった。

堀田家は浜島市の名門である。司はその跡継ぎとして、幼い頃から非凡な商才を持ち、16歳で海外の名門大学で修士号を2つも取得し、後にアメリカで初の企業を上場させて一躍有名になった。帰国後、彼は堀田グループを引き継ぎ、浜島市随一の富豪となった。

司は長い脚を踏み入れ、低くて艶のある声で言った。「なんで電気つけないの?」

パチッ。

彼は手を伸ばして壁のライトを点けた。

明るい光が真夕の目を刺し、彼女は一瞬目を閉じたが、再び司を見つめた。

司はオーダーメイドの黒いスーツを纏い、端正な顔立ちと抜群のスタイル、生まれつきの冷たく高貴なオーラを放っていた。彼は多くの女性たちの夢に登場する存在だった。

真夕は言った。「今日は、あなたの誕生日でしょ?」

司の表情は無感情で、目だけでテーブルに一瞥を送った。「次からは無駄なことをするな。俺はこういうのが嫌いだ」

真夕は赤い唇をわずかに上げ、問い返した。「こういうのが嫌い?それとも私と過ごすのが嫌いなの?」

司は彼女を見たが、その眼差しは冷たく、まるで時間を無駄にしたくないというようだった。「勝手にしろ」

そう言って、階段を上り始めた。

彼はずっと彼女にこうだった。

どうしても彼の心を温められなかった。

真夕は立ち上がり、彼の冷たい背中に向かって言った。「今日は誕生日だから、プレゼントをあげたいと思って」

司は足を止めず、振り向きもしなかった。「いらない」

真夕は笑った。赤い唇をゆっくりと引き上げて言った。「司、離婚しよう」

階段に足をかけていた司は、急に動きを止め、振り返った。深い黒い瞳が、真夕をじっと見据えていた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 元夫、ナニが終わった日   第100話

    「違う!」真夕はすぐに否定した。「昨夜、司と一緒じゃなかったよ!」その否定の声を聞いた司は、心の中で冷たく鼻で笑った。そんなに和也にバレるのが怖いのか。本当に嘘が上手い女だ。この嘘つき!和也は司に目を向けた。「司、なんで黙ってるんだ?」司は気高い顔立ちを崩すことなく、淡々と言った。「彼女がそう言ってるなら、それでいいだろ」真夕は少し気まずそうに笑った。「司、和也、お二人でゆっくり話してね。私はこれで失礼」真夕はその場を離れた。和也は司のそばに寄り、不満げに言った。「君ももっと空気読めよ」司はわけがわからないというように、目を上げて和也を見た。「これから俺と真夕が一緒にいるときは、ちゃんと理由つけて席を外してくれ。二人きりの時間を作ってくれよ、分かるだろ?」司「……」ここは俺のオフィスなんだけど?俺が邪魔者に?司は不機嫌な声で返した。「じゃあ、君たちが出て行けよ」「なんだよ、その態度は。俺は君の一番の親友だぞ。親友が恋に落ちてるなら、協力するのが筋だろ?前は君も、俺が真夕を追いかけるのに賛成してたじゃないか」司「……」真夕はまだ法律上に司の妻だし、司はそう簡単に男としてのプライドを捨てられるほど、器の大きい人間でもなかった。司は唇を開き、気怠そうに言った。「君、恋愛の達人だろ?落とせない女なんているのか?」「真夕は違うんだ。あの子、純粋すぎる。俺が強引にしたら、怖がらせちゃいそうで」司の動きが一瞬止まった。純粋だと?真夕の顔は、手のひらほどの大きさで、まるで天女のように清らかで整った美しい骨格をしていた。しかし、彼の胸に顔を埋め、唇を重ねたのも彼女だった。そして、自らの手を彼の服の中に滑り込ませたのも、また彼女だった。司は昨夜のことを思い出した。あの痺れるような感覚が再び脊髄から全身へとじわじわ広がっていき、最後には脳内で花火が弾けた。眩く、惑わされ、そして沈んでいくように。少しでも思い出すだけで、司の心は乱れていった。ベッドの上の彼女は、まったく純粋じゃなかった。彼女がうまかった。顔だけでなく、ベッドの上でも男を虜にする術を、彼女は心得ている。外見は清楚で、中身は妖艶な女を、嫌う男なんているわけがない。司は、和也の言葉には応じなかった。その時、清が静かに部屋へ入っ

  • 元夫、ナニが終わった日   第99話

    司は整った眉をひそめ、書類から目を上げて清を見た。「どこへ?」「剛は池本家に向かいました。それと、辰巳様が浜島市の三十六社のメディアを招き、記者会見を開こうとしています。会見では、奥様が養父を虐待し捨てたと告発する予定です」司は唇を引き締めた。辰巳、いったい何を考えてるんだ?「君たち、何をやっている?剛はもう半身麻痺同然だったはずなのに、どうして逃げられたんだ?」社長の怒りを感じた清の額には冷や汗が滲んだ。「社長、それは……」「それは、私が命じたことだ」真夕の澄んだ声が、不意に響いた。司は彼女を見つめた。「君が?」真夕は頷いた。「ええ。私が清に、わざと剛を逃がすよう指示した」司の視線は深く沈んでいた。「どうしてそんなことを?あいつらはもう記者会見を開こうとしてるぞ。あのクズは一生君にまとわりつくつもりだ。俺が人を派遣して池本家から剛を連れ戻すから、記者会見も中止にさせる。何もかも、なかったことにする。君が誰にも知られたくないことは、永遠に闇の中に葬られるべきだ」司の手にかかれば、どんなことでも覆し、すべての痕跡を消し去ることができると、真夕は知っていた。かつては、真夕は司が自分の過去を知ったらどう思うのかと、何度も考えた。だが彼は、何も言わなかった。むしろ、彼女を守ろうとしてくれた。彼女の心の奥にある、荒れ果てた傷が誰にも知られないように。彼女が二度と傷つかないように。真夕は彼の言葉を遮った。「司、もういい。これからは何もしなくていいよ。この件は、私が自分で処理するから」自分で処理する?彼女に何ができるっていうんだ?司は信じられない様子だった。「真夕、君……」「司」と、真夕は紅い唇をわずかに上げ、彼に向かってウィンクした。「あなたにはもう一度助けてもらった。これ以上はいいんだ。私、どうお返しすればいいのか分からなくて」その言葉を口にした途端、空気が少し変わった。真夕は、昨夜の「恩返し」を思い出した。司も彼女の「恩返し」を思い出し、書類に目を落とし、冷たく言った。「勝手にしろ」真夕は彼を見つめた。あのホテルを出てからというもの、彼はまたいつものように冷ややかな表情に戻っていた。約束通り、昨夜のことは彼と真夕だけの秘密で、誰にも知られない二人だけの出来事だった。その時、聞き覚えのある声が

  • 元夫、ナニが終わった日   第98話

    「お願いだ、助けて!堀田に監禁されてて、やっと逃げ出したんだ。もしまた彼に捕まったら、俺はもう終わりだ!」剛は司に対して恐怖心を抱いており、藍に助けを求めた。藍にとって、剛はまだ使える切り札だった。この切り札を無駄にするなんて、絶対にあり得なかった。「お母さん、これからどうすればいいの?」彩が不安げに尋ねた。平祐は不満そうな顔をした。せっかく藍がうまくやってくれたと思ったのに、また面倒なことになった。「藍、どうするつもりなんだ?」藍は平祐を見ながら言った。「そんなに怒らないで。まだ手が残ってるわ」彩の目がぱっと輝いた。「何かいい考えがあるの?」「今すぐ小山に電話して。辰巳は彩が一番好きで、言うことなら何でも聞くでしょ?今こそ、彼を利用する時よ」辰巳は彩に惚れており、本気で彼女を兄嫁として大切に思っていた。彩は頷いた。「わかった。今すぐ辰巳に電話するわ」三十分後、辰巳がやって来た。「そんなに急いで呼び出して、どうしたの?」彩は彼の手を引き、「ある人に会ってほしいの」と言った。剛は「ドサッ」と音を立てて辰巳の前にひざまずいた。「どうか、助けてください!」辰巳は不思議そうに尋ねた。「真夕の養父だったよな?一体どうした?」剛は涙ながらに訴えた。「真夕は俺が田舎出身だってことを嫌がって、俺のことを父として認めようとしないんだ。彼女は俺のことを自分の汚点だと思ってて、人を使って俺を殴らせたのよ。見て、この傷……全部彼女にやられたのだ。あの人、本気で俺を殺そうとしてたんだよ!」藍は隣でため息をついた。「まさか真夕が、こんなに冷酷で情のない子だったなんて」その言葉を聞いた辰巳は怒りで顔を真っ赤にし、怒鳴った。「真夕のやつ、クソみたいな人間だな!自分の養父を殴るなんて、信じられねぇ!」「辰巳、このまま彼女を放っておいていいの?」「彩、どうすればいいか、教えてくれ」「辰巳、メディア記者会見を開いて。浜島市の主要メディアを全部招待して、皆の前で真夕の本性を暴いてやるの!」と彩が提案した。辰巳はすぐに頷いた。「今すぐ手配する。ちょうどいい。兄貴と和也にも真夕の本当の姿を見せてやる」彩と藍は目を合わせ、にんまりと笑った。彼女たちは、真夕が養父の剛に猥褻されたことを口にするはずがないと分かっていた。そんなことを

  • 元夫、ナニが終わった日   第97話

    布団の中で、真夕のみずみずしい瞳がきらきらと輝き、ふいにくすくすと笑い出した。司はかすれた声で尋ねた。「何が可笑しい?」真夕は彼を見つめながら言った。「疲れたって言うべきなの?それとも、疲れてないって言うべきかな?」心をくすぐるような曖昧なやり取りだった。司も笑い、再び彼女の唇を優しく奪った。翌日、池本家にて。寝室では、藍が満足げに平祐の胸に抱かれて横たわっていた。彼女は平祐の首に腕を回し、甘えるように言った。「さっき、ちょっと痛かったわよ」平祐は彼女の顎をつまみ、悪戯っぽく笑った。「これで満足しただろ?」「もう、イヤ」彩からの電話を受けた平祐はすぐに家へ戻り、長らく欲求不満だった藍をしっかり満たしたのだった。平祐は藍を抱きしめながら言った。「小川ってやつ、本当に真夕を連れて行ったのか?」「そうよ。真夕はようやく消えるわ。これで彩はすぐに堀田家の奥様になれるよ。あなたも浜島市一の富豪の義父になるわよ」平祐は大笑いし、大喜びだった。「今回はよくやった!」藍は心地よさそうに目を細めた。一晩も経ったのだから、真夕はもう剛のおもちゃになっているに違いない。これでもう彼女の幸せを邪魔する者はいなかった。藍は、無邪気に喜ぶ平祐を見ながら、心の中で冷たく笑った。この男は、真夕が一体誰の娘なのか、永遠に知らないだろう。二人が寝室から出ると、リビングで彩を見た。彼女はソファに座り、手元のスマホをいじりながら浮かない表情をしていた。「どうしたの?」「お母さん、司と連絡が取れないの。昨夜から電話も出てくれないし、こんなこと、今までなかったの」女の鋭い直感が働いた。彩には、司が何か変わったような気がしてならなかった。藍は気に留めずに言った。「堀田さんは忙しいのよ。彩ももっと思いやりを持って、あまり縛りつけないようにしなきゃ。真夕なんてもう剛に連れて行かれたのよ。心配する必要がないよ」その話題になると、彩はすぐに笑顔になった。彼女は藍の腕を抱きながら、甘えるように言った。「真夕がようやく消えてくれたんだね。やっぱりお母さんが一番私のことをわかってくれるね」そう言ってから、彩は平祐に目を向けた。「お父さん、あの秘書、クビにしてよ。これからはお母さんだけを大事にしてくれなきゃ」平祐は彩の隣に腰を下ろし、彼女の

  • 元夫、ナニが終わった日   第96話

    彼女は彼の唇にキスを落とした。司の目尻は真っ赤に染まり、すぐに彼女を突き放した。「真夕!」真夕は小さな顔を上げ、彼を見つめた。澄んだ瞳に、ほのかに初々しい色気が浮かんでいた。「彼女からの電話だけど、出ないの?」司は身をかがめ、彼女の唇を奪うようにキスした。バイブ音は止まらなかった。彩はまだ電話をかけてきている。真夕はまた、不倫しているような感覚を覚えた。彼女と司は法律的に夫婦なのに、まるで彩に隠れて不倫しているかのようだった。司のキスは荒々しく、まるで罰するように彼女の柔らかい唇を噛み、そして一気に攻め込んできた。まるで嵐のように彼女の呼吸をすべて奪っていた。この小悪魔は、彼を誘惑するのが大好きなんだ。剛が言っていたことは本当だった。彼女は男を惹きつけるのが好きなんだ。あんなに若いのに、もうクズ男に目をつけられるくらいなんだから。その時、真夕の柔らかな手が彼の体に触れ、シャツの襟元へと忍び込んだ。司は荒く息を吐き、すぐに彼女を離した。「真夕……本気か?」真夕の顔はまるで紅をさしたかのように赤く染まった。「あなた、好きなんでしょ?」あの夜、西庭の別荘で、彼は彼女を壁に押し付けた。あの夜のことは、誰も口にしなかったけれど、決して忘れてはいなかった。司はかすれた声で尋ねた。「なぜ?」真夕は彼を見つめて言った。「今日、助けてくれてありがとう。お礼がしたいの。これでおあいこね」彼女はこういう方法でお礼をしたかった。彼に借りを作りたくなかったのだった。司は真っ赤に染まった目で彼女を見つめた。真夕はさらに続けた。「何も気にしなくていいわ。これは私たちだけの秘密。彩には言わないよ」その言葉に、司の瞳はまた一層沈んだ。すると真夕はそっと彼の唇にキスをし、いたずらっぽく彼を見つめながら言った。「司、私、得意なの……んっ」彼女は自分が得意だと言った。医学の勉強をしていた彼女は、男性の敏感な場所をよく知っていた。しかし、その言葉はまるで火に油を注ぐように司の耳に届いた。彼は荒々しく彼女の赤い唇にキスを落とした。もう理性など吹き飛んでいた。欲望の波に、彼は身を任せた。長い時間が過ぎたあと、司は真夕の肩を抱き寄せ、彼女を胸に抱いていた。真夕は頬を赤らめたまま、彼の胸に顔を埋めた。二人はしばらく黙

  • 元夫、ナニが終わった日   第95話

    真夕は彼の名前を何度も呼んでいた。その美しい声に惹かれ、さっきの若い男も思わず振り返った。誰もがつい目を向けたくなるような声と顔つきだった。司はただ険しい顔で部屋へ戻るしかなかった。真夕はすでにベッドに戻っていた。司は不機嫌そうに彼女を睨みつけた。「しつこく呼んでどうする?幽霊か」真夕は何も言わなかった。彼女は善意で呼んだのに!「冷水シャワー浴びてくる」と言いながら、司はシャワールームへ入り、冷水を浴びた。数分後、彼は出てきて布団をめくり、ベッドに戻った。二人は無言のまま横になった。隣の部屋からはまだ音がしていた。それに、男女のくすくす笑うような、低く抑えた声だった。小さいながらも、彼らの耳にははっきりと届いた。司はもう一度冷水を浴びようかと、布団をめくろうとした。しかしその時、隣にいる真夕が動いた。彼女は最初、ベッドの端に寄って寝ていたのに、突然身体を動かしてきて、細く柔らかな体が彼にぴたりと寄り添った。香りと柔らかさが一瞬で彼の身を包んだ。司は一瞬動きを止めた。お互い大人だし、この空気の中で彼女が自分から寄ってくる意味は、言うまでもない。司は彼女を見下ろしながら低く尋ねた。「どういうつもりだ?」真夕は潤んだ瞳で彼を見つめて言った。「どう思う?」司の喉仏が上下にごくりと動いた。その時、突然バイブ音が響いた。彼のスマホが鳴っていた。画面を見ると、それは彩からの電話だった。司は通話ボタンを押した。すると、彩の甘ったるくわがままな声が聞こえた。「司、なんでラインに返事くれないの?」さっき彼女が幼い頃の写真を送ったのに、彼は返信するのを忘れていたのだった。「ずっと忙しくて……」しかし、司の低く魅力的な声がふいに途切れた。なぜなら、真夕が彼に抱きつき、彼の喉仏に唇を落としたからだ。司の体が一瞬で強張り、細長い目尻が一気に赤く染まった。彼は手を伸ばし、彼女の華奢な肩をつかみ、やめるように制した。通話中にそんなことをするなんて。明らかにわざとだった。彼女はわざとだ。いつも彩の電話で彼がその場を離れてしまうから、今回は、彼女は彼の我慢強さを試しているのだ。真夕の赤い唇は彼の喉元を這い、鋭く立体的なラインをなぞった。その形は彼の端正で気高い顔立ちにそっくりで、どこまでも惹

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status