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第400話

Author: 月影
凌央は今になってようやく気づいた。

乃亜と結婚してからの3年間、彼は本当に「家」の温かさを感じていた。

だが、そのことに気づいたのはあまりにも遅すぎた。

山本が入ってきて、食器を片付けながら言った。

「料理、ほとんど手を付けていないようですが、こちらの料理が口に合わなかったのでしょうか?明日、別の店に変えてもいいですが」

凌央は、普段はここでランチをテイクアウトしても特に不満を言わなかった。

凌央は淡々と答えた。「これからはテイクアウトはしないで、会社の食堂で食べる」

山本は驚きながら尋ねた。「明日から会社の食堂ですか?」

会社の食堂は悪くないが、凌央はいつもミシュランのシェフの料理しか食べないことで有名だ。

凌央は冷静に言った。「うん、料理を片付けて」

山本は片付けをしながら、何度も凌央をちらっと見た。

見た目には特に問題はない。けれど、何かが違うように感じる。

蓮見社長は一体どうしたのだろう?

山本はその理由がわからなかった。凌央も自分がどうしたのか分かっていなかった。

午後の会議中、凌央は集中できていなかった。

役員たちは一斉に山本に目を向け、問いかけるような目をしていた。

山本はどうしていいのかわからず、答えを出せなかった。

結局、凌央がどうしているのか、彼にも分からなかった。

仕事が終わった後、凌央は辰巳に電話をかけた。

「凌央、すまないが、お前の元妻の通話履歴は調べられなかった。最後の行動もすべて消されて、まるで彼女がこの世界に存在しなかったかのようだ」

辰巳は少し興奮している様子だった。「もしこれがお前の元妻の仕業だとしたら、彼女は本当にすごい人物だよ!凌央、お前彼女と長年一緒にいたのに、全然気づかなかったのか?」

凌央は一瞬驚いた。

以前、技術部の新人が言っていたことを思い出す。

会社のセキュリティがずっと守られていて、ウイルスの侵入を防いでいた。もしそれが本当なら、乃亜が関わっていたのかもしれない。

でも、乃亜がそんなことをするはずがない!彼女はただの弁護士だ。

絶対にハッカーではない。

「本当に、お前の元妻が死んだのは残念だ」

辰巳の声が少し沈んだ。「もし彼女が生きていたら、俺は本当に追いかけていただろうな」

凌央は顔をしかめ、電話を切った。

辰巳が乃亜に対して興味を持っていることに腹が立
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