望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

last updateDernière mise à jour : 2026-02-27
Par:  結城 芙由奈Complété
Langue: Japanese
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男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。 けれど、ある事件によりジェニファーは少年に別れを告げることも出来ずに避暑地を去ることになった。 10数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚した知らせを受ける。しかし2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが、残酷な現実が待っていた――

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Chapitre 1

プロローグ

カチコチカチコチ……

静まり返った応接間に、秒針の音が聞こえてくる。

重厚なカーペットが敷かれた室内はとても広く、調度品はどれも高級なものばかりだ。

しかし、それもそのはず。

ここは『ドレイク』王国の中でも屈指の財力を持つテイラー侯爵家だからだ。

「……」

先程から緊張した面持ちで、1人の女性がソファに座っている。

彼女は見事なプラチナブロンドの長い髪に、宝石のような緑の瞳の女性だった。

そして彼女の正面に座る男性は、真剣な眼差しで書類を見つめていた。彼はシルバーブロンドに琥珀色の瞳が特徴の美しい青年である。

27歳の彼は、この屋敷の当主であるニコラス・テイラー侯爵その人だ。

これから、2人は重要な取り決めをすることになっている。

「ジェニファー・ブルック。これが、君の全ての釣書か?」

不意に声をかけられた女性――ジェニファーは顔を上げると、丁度ニコラスが書類をテーブルに置いたところだった。

「はい、そうです」

「そうか……現在、25歳。完全に行き遅れだな」

行き遅れ……その言葉にジェニファーの顔がカッと熱くなる。

「今まで何故結婚しなかった? ずっと家で家事手伝いだけをしていたようだが……それで出会いが無かったのか?」

ズケズケと尋ねてくるニコラスの目はとても冷たいものだった。

「家事手伝いだけをしていたわけではありません。シッターの仕事もしていました。ただ、殆どボランティアのようなものでしたので、釣書には書きませんでした。結婚しなかった……いえ、出来なかったのは……貧しくて持参金を用意……出来なかったからです……」

持参金を用意できないということは、致命的な問題だった。

「君は、仮にもブルック男爵家の長女なのだろう? それなのに持参金を用意できなかったのか?」

「釣書にもありますが、私は両親を8歳のときに亡くしています。そして叔父夫婦が私の後見人として、3人の子供たちを連れてブルック家に来ました。全員私よりも年下です……今では人数が増えて5人になっています」

「なるほど、ブルック家を食い潰されてしまったというわけか? それだけじゃなく家事手伝いまでさせられているということだな?」

「そ、それは……」

確かにニコラスの言う通りではあったが、肯定する訳にはいかなかった。そんなことが叔父夫婦の耳に入れば、大変なことになってしまう。

「まぁいい。そのお陰で亡き妻の遺言通り、君と結婚することが出来るからな。尤も、こちらとしては少しも望んではいないが……持参金は用意する必要は無い。どうせお互い望まない結婚だろうから」

ニコラスはため息をついた。

「お互い望まない、結婚……?」

その言葉にジェニファーは疑問符を投げかける。

「そうだ、俺は亡き妻の遺言を守る為。そして君はブルック家の財政難を立て直すためなの結婚なのだから、当然持参金など用意出来るはずも無い。違うか?」

「いえ……その通り、です……」

「そういう訳で、結婚式はしない。何しろ、こちらは妻が亡くなってまだ1年。君にしたって彼女は従姉妹にあたるのだからな。……それにしても何故妻は自分が亡くなった後の後妻に君を指名したのだ? まさか、君の差し金か?」

うんざりした様子でニコラスが尋ねてきた。

「いいえ! そんなはずはありません! だ、第一……私は……」

そこでジェニファーは言葉を切った。

(言えないわ……結婚式にも葬儀にも呼ばれていないなんて、そんなこと。言えばきっともっとニコラスを怒らせてしまうことになる……)

「まぁいい。お互い、嫌なことはさっさと終わらせてしまおう。結婚式を挙げるつもりは無い。この書類にサインしてくれ。俺の名前はもう記してある」

テーブルの上には婚姻届とペンが置かれている。

ジェニファーはペンを手にすると、早速自分の名前を記入した。

「……書きました」

「よし、これで結婚手続きは終わりだ。用が済んだなら、出ていってくれ。後で執事を部屋に寄越すから、必要な話は彼から聞くように」

これ以上、ここにいてもニコラスの機嫌を損ねてしまうだけだろう。ジェニファーはおとなしく従うことにした。

「分かりました、失礼致します」

席を立ち、部屋を出ていこうとした時。ニコラスのつぶやきが耳に届いた。

「……全く。名前だけではなく、外見まで……妻と似ているんだな」

その言葉に一瞬ジェニファーの肩がピクリと跳ねるも、無言で部屋を後にした。

――パタン

扉を閉じ、廊下に出るとため息をついた。

「ニコラス……本当に、貴方は変わってしまったのね……。子供の頃はとても優しかったのに……」

思わず目頭が熱くなりそうになる。

ジェニファーは泣きたい気持ちを必死で我慢し……ニコラスと始めて出会った頃を思い返した――

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プロローグ
カチコチカチコチ……静まり返った応接間に、秒針の音が聞こえてくる。重厚なカーペットが敷かれた室内はとても広く、調度品はどれも高級なものばかりだ。しかし、それもそのはず。ここは『ドレイク』王国の中でも屈指の財力を持つテイラー侯爵家だからだ。「……」先程から緊張した面持ちで、1人の女性がソファに座っている。彼女は見事なプラチナブロンドの長い髪に、宝石のような緑の瞳の女性だった。そして彼女の正面に座る男性は、真剣な眼差しで書類を見つめていた。彼はシルバーブロンドに琥珀色の瞳が特徴の美しい青年である。27歳の彼は、この屋敷の当主であるニコラス・テイラー侯爵その人だ。これから、2人は重要な取り決めをすることになっている。「ジェニファー・ブルック。これが、君の全ての釣書か?」不意に声をかけられた女性――ジェニファーは顔を上げると、丁度ニコラスが書類をテーブルに置いたところだった。「はい、そうです」「そうか……現在、25歳。完全に行き遅れだな」行き遅れ……その言葉にジェニファーの顔がカッと熱くなる。「今まで何故結婚しなかった? ずっと家で家事手伝いだけをしていたようだが……それで出会いが無かったのか?」ズケズケと尋ねてくるニコラスの目はとても冷たいものだった。「家事手伝いだけをしていたわけではありません。シッターの仕事もしていました。ただ、殆どボランティアのようなものでしたので、釣書には書きませんでした。結婚しなかった……いえ、出来なかったのは……貧しくて持参金を用意……出来なかったからです……」持参金を用意できないということは、致命的な問題だった。「君は、仮にもブルック男爵家の長女なのだろう? それなのに持参金を用意できなかったのか?」「釣書にもありますが、私は両親を8歳のときに亡くしています。そして叔父夫婦が私の後見人として、3人の子供たちを連れてブルック家に来ました。全員私よりも年下です……今では人数が増えて5人になっています」「なるほど、ブルック家を食い潰されてしまったというわけか? それだけじゃなく家事手伝いまでさせられているということだな?」「そ、それは……」確かにニコラスの言う通りではあったが、肯定する訳にはいかなかった。そんなことが叔父夫婦の耳に入れば、大変なことになってしまう。「まぁいい。そのお陰で亡き妻の遺言
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第1部 1−1 少女、ジェニファー
 「ジェニファー! ジェニファー! 一体どこにいるの!?」ダークブロンドの髪を結い上げた女が、火の着いたように泣き叫ぶ赤子をあやしている。「オギャアッ!! オギャアッ!!」「あぁ! 全く、お願いだから泣き止んで頂戴! ジェニファー! 何してるのよ!早く来なさい!」「はい! 叔母様!」そこへエプロン姿の少女がほうきを手に、部屋の中へ駆け足でやってきた。「全く、呼ばれたらすぐに来なさい! 本当に愚図なんだから! さぁ、早くニックの子守をして頂戴!」女性は1歳にも満たない赤子をジェニファーに押し付けてきた。すると、すぐに赤子は泣き止む。「叔母様! 私、今屋敷の掃除をしていたのですけよ? 子守なんて無理です!」赤子のニックを抱きかかえながら、ジェニファーは訴えた。「何言ってるの? おんぶ紐があるでしょう? 両手が空いていれば掃除くらい出来るじゃないの! 私は授乳で疲れているのよ。あなたは子供たちの中で一番お姉さんなのだから、子守位できるでしょう? 大体、私達がいるから貴女はここで暮らしていけるのよ? それを忘れたの!?」ジェニファーの叔母、アンはベッドサイドに置かれたおんぶ紐を指さした。「……いえ。忘れていません。分かりました、叔母様」ジェニファーはため息をつくと、ニックをおんぶ紐で背負った。「それじゃ、掃除の続きをしてきなさい。私はこれから少し仮眠を取るわ。15時になったら子供たちにオヤツをあげるのよ」「はい、叔母様」アンはカウチソファに横になると、すぐに寝息を立て始めた。「……おやすみなさい、叔母様」傍らにあったブランケットをそっと掛けてあげると、ジェニファーはほうきを持って掃除へ向かった――**** 赤子を押し付けられ、まるで使用人のように働かされているジェニファー。現在10歳で、正式なブルック家の男爵令嬢である。ジェニファーは不運な娘だった。彼女の母親はジェニファーを出産してすぐに亡くなってしまった為、父親によって育てられた。しかし、その父親も彼女が8歳のときに病気で亡くなってしまった。そこへジェニファーの後見人を名乗る、母親の妹が家族を連れてブルック家に上がり込んできたのだ。そこから、ジェニファーの苦労が始まった。叔母と叔父はとんでもない浪費家だった。ブルック家は叔母家族によって散在され、あっという間に財産
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1−2 夫婦の口論
――17時ジェニファーは厨房で1人の女性と一緒に料理を作っていた。「そうそう、その調子よジェニファー。大分、料理の腕が上がったじゃないの」「ありがとう、ケイトおばさん」料理を教えているのは、夫と2人暮らしをしている近所の女性だった。彼女はたった1人で家事をさせられているジェニファーを気の毒に思い、料理や洗濯の手伝いをしてあげていたのだ「この分なら、今年中には1人で料理を作れるようになるかもね」「あ……そうですよね。いつまでもケイトおばさんに頼ってばかりじゃ駄目ですよね」その言葉にジェニファーの顔が曇る。「あ! 違うわよ。勘違いさせるような言い方してごめんね。ただ、私は料理の腕が上がったことを褒めただけなのよ。大丈夫、この先もジェニファーのお手伝いに来るから心配しないで」ケイトは慌てて否定した。「でも、ケイトおばさんにあまり迷惑かけるわけには……」叔母はケイトがジェニファーの家事を手伝ってあげていることを知っている。知っている上で、1度も礼を述べたことはない。何故ならそんなことをすれば、ケイトに賃金を支払わなければならないと考えていたからだ。「いいのよ、息子たちも手を離れて暇を持て余していたのだから。これから先もいくらでも私を頼って頂戴?」「ありがとう、ケイトおばさん」「さて、それじゃ料理の仕上げをしちゃいましょう?」「はい!」ジェニファーは笑顔で返事をした――****――19時 家族全員揃って、ジェニファーが作った料理を口にしていた。「また今夜も安っぽい料理ね。たまには肉料理でも作ってみたらどうなの?」アンが、じろりとジェニファーを睨みつけた。「でも叔母様……お肉を買うお金が無くて……」「だったら、せめてハムくらいは買えるでしょう?」「……ハムを買ったら、パンを焼けません……」「な、何ですって……?」ジェニファーの言葉に、アンは夫のザックを怒鳴りつけた。「あなた! もっとお金を稼いできなさいよ! これじゃ、栄養失調になってしまうわ!」「黙れ! 俺は一生懸命働いている! 第一、お前が無駄遣いばかりするからこの屋敷の財産を食いつぶして貧しくなってしまったのだろう!?」「何ですって!? 誰のお陰でこの屋敷に住めるようになったと思っているのよ!」夫婦はこの屋敷の正当な持ち主のジェニファーの前で口論を始めてしま
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1−3 薄幸な少女
「ブルックさん。お手紙が届いていますよ」ジェニファーが庭掃除をしていると、郵便配達員が手紙を持って現れた。「どうもありがとうございます」受け取ると、配達員は「それでは」と言って笑顔で帰っていった。「誰からかしら……?」受け取った手紙は3通。いつも宛先は叔父の名前ばかりで手紙が届く度に叔父はイライラし、「くそっ! また督促状か」と呟いていた。「督促状」と言うものが、何か分からないジェニファー。字の読み書きは出来るものの、叔父家族は少女に満足な教育の場を与えてくれなかったので難しい単語は理解できなかったのだ。「また叔父様の機嫌が悪くなりそうね……」ため息をついて手紙を改めると、1通はジェニファー宛になっている。「え? 私宛の手紙……?」今まで自分に手紙が一度も届いたことが無かったジェニファーは首を傾げた。「一体誰からなのかしら?」手紙を返してみると、差出人はセオドア・フォルクマンとなっていた。「セオドア……フォルクマン……?」ジェニファーは記憶を手繰ってみた。何処かで聞き覚えのある名前のような気がする。「でも、手紙を読めば分かるわよね」手紙を開封しようとした矢先。「ジェニファー! こんなところで何をしているの? さっきから呼んでいたのが分からないの?」背後で叔母のヒステリックな声が聞こえた。「あ……ご、ごめんなさい。外で庭掃除をしていたもので……」本能的に叔母の目から手紙を隠そうとエプロンのポケットに入れたものの、見つかってしまった。「ちょっと、今ポケットに何を隠したの? もしかしてお金でも盗んだのじゃないでしょうね!?」「そんな! お金なんて盗んだことありません!」「だったら、今隠したものを見せてみなさいよ」叔母は右手を広げて、ジェニファーの前に突き出した。「はい……」こうなると、もうジェニファーには逆らえない。震えながら、ポケットにしまった手紙を差し出す。「何? 手紙? 何で隠すのよ」サッと叔母は手紙を奪ってしまった。「叔母様! その手紙を返して下さい! それは私宛なんです!」「はぁ? あんた宛に手紙? そんな物来るはず……あら? 本当ね」ジェニファー宛に届いた手紙ということに気付くと、叔母は勝手に開封してしまった。「やめてください! 私の手紙なんです! 返して下さい!」必死に訴えるジェニファー
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1−4 意地悪な叔母
 夕暮れ時、ようやく薪割りを終えたジェニファーは屋敷の中に入ることを許された。「全く、薪割りに何時まで時間を掛ければ気が済むのよ! さっさと夕食の準備をしなさい!」アンはイライラしながら厨房に立つジェニファーを怒鳴りつけた。「は、はい……でも、叔母様。私の手……豆が潰れて血が出ていますけど。こんな手で料理してもいいのですか?」ジェニファー両手の平を叔母に見せた。少女の小さな手の平は幾つもの豆が出来て潰れて血がにじみ出ている。「うっ! な、何なのよ! その手は! 斧の握り方が悪いからそんなことになったんじゃないの!? それとも家事をしたくなくてわざと怪我をしたのかしら?」「そんなことするはずありません!」あまりのアンの言い方に、ジェニファーの目に涙が浮かぶ。そのとき。――コンコン屋敷にノックの音が響いた。「全く、誰かしら? こんな忙しいときに……ジェニファー! 早く応対しなさい!」アンは来客の応対までジェニファーにさせていた。貴族生活に憧れていた彼女は使用人がするような仕事は一切する気は無かったのだ。「はい……」小さく呟くと、ジェニファーは扉へ向かった。「どちらさまでしょうか?」『私よ、ケイトよ』「え? ケイトおばさん?」扉越しに聞こえた声に驚き、ジェニファーは扉を開けた。すると、鍋とバスケットを手にしたケイトが現れた。「ケイトおばさん……」「ジェニファー。可哀想に……今日、薪割りをさせられていたでしょう? 食事の準備が出来ないのではないかと思って鍋にシチューを作ってきたの。パンもあるから皆で食べるといいわ」「ありがとうございます、ケイトおばさん」ジェニファーが鍋を受け取ろうとしたとき、ケイトは手の平の豆に気づいた。「どうしたの!? ジェニファー! ひどい怪我をしているじゃない!?」「あ……これは……」両手を後ろに隠しても、もう遅かった。「薪割りのせいで、豆が出来たのね……? その手じゃ何も持てないでしょう。いいわ、私が運んであげる」ケイトは屋敷の中に入ってきた。「え? ケイトおばさん?」ジェニファーは慌てた。何故なら叔母はケイトが屋敷に上がり込んでくるのを良く思っていなかったからだ。「ジェニファー! 遅いじゃない! 一体何を……あら?」厨房に戻ってきたジェニファーを怒鳴りつけた叔母は、ケイトの姿を見
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1−5 素直な子供たち
「わぁ〜美味しそうな匂い!」「ケイトおばさんだ!」ダンとサーシャは意地悪な母親よりも、優しいケイトが好きだった。そのことが、余計にアンを苛立たせていたのだ。「こんにちは、ダン、サーシャ。皆にシチューを作ってきたわよ」ケイトは途端に笑顔になる。「ありがとう、 ケイトおばさん」「私、シチュー大好き!」「こ、こら! ダン! サーシャ!! あなたたち、何言ってるの!? こんな物食べちゃだめよ! 今から食事はジェニファーに用意させるのだから!」「イヤ! だってお腹ペコペコ! もう待てないもの!」アンが怒りで顔を真っ赤にさせると、サーシャは激しく首を振る。「あ! お姉ちゃん! その手、どうしたんだよ!」そこへダンがジェニファーの手の平に出来た傷に気づいた。「可哀想に、ジェニファーはあなたたちのお母さんから1人で薪割りをするように命じられて、それで豆が潰れて怪我をしてしまったんだよ」ケイトが嫌味たっぷりに教えた。「え? そうだったの?」「薪割りは大人の仕事だって言ったじゃないか!」サーシャは首を傾げ、ダンが母親のアンを睨みつける。「そ、そうよ! ジェニファーは、あんたたちより大人だから薪割りをさせたのよ!」「ジェニファーはまだ10歳の子供ですよ!」ケイトが言い返した。「そうだよ! だったら俺だって薪割り位手伝うさ!」ダンの言葉にアンは青ざめる。「何言ってるの!? 駄目よ! 薪割りで怪我でもしたらどうするの?」「だったら、お姉ちゃんは怪我してもいいっていうの?」今度はサーシャが母親に問いかけた。「うっ……!」(な、何なの? この女といい、ダンにサーシャまで……ジェニファーに丸め込まれたっていうの!?)アンは悔し紛れにジェニファーを睨みつけた。「あ……」(どうしよう、叔母様を怒らせてしまったわ……また叩かれてしまうかも……)ジェニファーの顔に怯えが走り、そのことに気づいたケイトがアンの前に立ちふさがった。「さぁ、どうします? 子供たちは皆シチューとパンを欲しがっています。夫人は欲しくないのでしょう? ご安心下さい、無理に夫人に食べてもらおうとは思っていませんから。さ、それじゃジェニファー、私の家に来なさい」ケイトがジェニファーに声をかけた。「え? ケイトおばさん?」「ちょっと! ジェニファーをどうするつもりなの!?
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1−6 傷の手当
「はい、これでもう大丈夫よ」ケイトがジェニファーの傷の手当を終えた。「ケイトおばさん、ありがとうございます。でも……折角手当してもらえたけれど、これでは家の仕事が出来ないわ」じっとジェニファーは自分の手のひらを見つめた。両手はしっかりと包帯が巻かれていてる。「何言ってるの? そんな手で家事が出来ると思っているの? 食器洗いなら他の誰かにやってもらいなさい。……まぁ、あの夫人ならやりそうにないけれど、少なくともあの子達なら手伝ってくれそうじゃない」「だけど、料理や洗濯が……」「料理は私が作って運んであげる。洗濯だって、やらせればいいのよ。誰もやる人がいなければ、流石に夫人だって家事をしなければならないって自覚が湧くわよ」「そうでしょうか……?」けれど、ジェニファーには叔母が素直に家事をするとは到底思えなかった。「いい? ジェニファー。あなたはまだ10歳、本当なら学校へ通って勉強している年なのよ? なのにあの夫婦は学校へ通わせることもせず、使用人のように仕事ばかりさせているじゃない。こんなこと間違えているのよ?」ケイトはジェニファーの肩に手を置き、瞳を覗き込んだ。「でも、叔母様達が来てくれていなければ私は一人ぼっちで……」「それは違うわ。あの大人たちはジェニファーを利用して乗り込んできたのよ。保護者面して、そのくせ一切の養育義務を果たしていないのよ。元々あの屋敷はジェニファーの物なの。……と言っても、まだあなたは子供だからどうすることも出来ないわよね……他に頼れるような親戚はいないのかしら?」ケイトの言葉に、ジェニファーは叔母に取られた手紙のことを思い出した。「そう言えば、今日私宛に手紙が届いたんです。送り主はセオドア・フォルクマンという方で、叔母さんの話だと伯爵様だったみたいなのですが……手紙を取られてしまいました」「何ですって!? 自分宛の手紙を夫人に取られてしまったのですって!?」その言葉に、ケイトは目を見開いた。「はい」「まるで泥棒と一緒ね。それで、ジェニファーは手紙を読んだのかしら?」「いえ、読む前に取られてしまいました」「まぁ! 何処まで酷い人なのかしら……人の手紙を盗むなんて、許されないことよ! それでは内容が分からないというわけね? 当然住所も分からない……わよね?」ケイトの言葉にジェニファーは頷く。「はい、
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1−7 勝手な言い分
 この日の夕食は結局、ケイトが用意したシチューとパンになった。「全く、大げさに包帯なんか巻いて帰ってきて。それは私に対する当てつけかしら?」アンはシチューを口にしながら、ニックをおんぶしているジェニファーを睨みつけた。「違います。ケイトおばさんが手当してくれたんです。それよりも叔母様、私に届いた手紙を返して下さい!」何としてもジェニファーは手紙を返して欲しくて懇願した。「駄目よ。あなたの保護者は私なのよ。だからあなたの持ち物は全て私が管理するわ」「手紙だと? ジェニファーに手紙が届いたのか?」2人の会話を聞いた叔父のザックがアンに尋ねた。「ええ、そうよ。私が預かっているわ」「私はまだ、手紙も読んでいません!」「え? お姉ちゃん、お母さんに手紙を取られたのか?」その話にダンが驚いて目を見張る。「ええ、そうなの」「ジェニファー! 余計なことを言うんじゃないの!」アンが目を吊り上げると、ザックが止めた。「よさないか! それより手紙を俺にも見せろ。一体誰から届いたのだ?」「あ、あなたには関係無いことでしょう? これはジェニファーと血の繋がりがある私との問題なのだから」こんな時にだけ、血の繋がりを持ち出すアン。「妙に怪しいな……ひょっとすると手紙にはお前にとってフリなことが書かれているんじゃないか? だから手紙を取り上げたのだろう?」「そんなこと……あなたには関係ないでしょう!?」「いいや、関係あるな。俺はこの家の主だ。誰がお前たちを養ってやっていると思っている? 早く手紙を見せるんだ!」「いやよ!!」あろうことか、夫婦はジェニファーの眼の前で手紙の取り合いを始めた。その様子を呆然と見つめるジェニファー。(そんな……手紙は私宛なのに、何故叔母様と叔父様が取り合っているの……?)「フギャアアアアアッ!」この騒ぎのせいで、ジェニファーの背中でニックが泣き出してしまった。「ああっ! ごめんね、ニック。よしよし、いい子ね……」慌てて立ち上がると、ジェニファーはニックをあやし始めた。「2人とも、やめろよ! ニックが泣いてるだろう!」「そうだよ! やめてよ!」ダンとサーシャが両親の喧嘩を止めに入るも、2人は聞く耳を持たない。「アンッ! 手紙を出せ! もし返事を出さなければならない手紙だったらどうする! 先方から怪しまれるだ
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1−8 夫婦の企み
「何だと、アン。お前はそんなくだらない理由で手紙を隠そうとしたのか!?」怒りで身体を震わせながら、ザックが怒鳴りつけた。「くだらなくないわ! 私にとっては深刻な話なのよ! あなたはいいわよね、自分は男だから家事をする必要がないと思っているのだから!」「当然だ! 誰がお前たちを養っていると思っているんだ! 俺は外で朝から夕方までずっと働いている! 家事は女の仕事だ!」「だけど、時間まで働けばそれで仕事は終わりでしょう!? でもねぇ、家事には終わりがないのよ! 朝から晩まで働いても誰も褒めてやくれないし、無給で働かなければならないのだから!」夫婦の口喧嘩はエスカレートするばかりだ。そして、2人の様子をジェニファーは唖然とした様子で見つめていた。しかし、それは当然のことだろう。アンはこの屋敷に乗り込んでから、1度たりとも働いたことがない。全て使用人にやらせ、お金が無くなり全員解雇した後はジェニファー1人に押し付けているのだから。「黙れ、アン!! お前はこの屋敷に来てから一度でも家事をしたことがあるのか?無いだろう!! それなのに偉そうな口を叩くな!!」ザックはジェニファーが思っていたことを口にした。「当然でしょう! 私は働きたくないからこの屋敷に来たのだから! 貴族の優雅な暮らしが出来るかと思っていたのに……こんな貧しい暮らしをするなんて思いもしなかったわ! これもあんたの稼ぎが悪いからでしょう!?」「何を言うか!! お前が贅沢な暮らしをしていたから、このような結果になったのだ! 俺のせいにするな!」夫婦の口喧嘩を尻目に、子供たちは食事をしている。「あ〜あ。また始まったよ」「いや〜ね〜」ダンもサーシャも、すっかりこの異常な生活に慣れきってしまっていた。増々夫婦の口喧嘩は激しさを増す。「贅沢な暮らしを望んで何が悪いのよ! ただの平民だった姉が貴族と結婚したのよ? 誰だって、羨ましいと思うのは当然よ! だから姉夫婦が亡くなって、この家に入って貴族の生活が出来ると思っていたのに……もう私は二度と家事なんかやりたくないわ! 大体、誰のおかげでこんな大きな屋敷に住めると思っているのよ!」呆れたことに、アンは既にこの屋敷が自分の物だと勘違いしていたのだ。「ぐ……」この言葉に、さすがのザックも返す言葉が見つからない。(確かにそうだ。アンがジェ
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1−9 叔母の命令
――騒がしい夕食後。ジェニファーはアンの部屋に呼び出されていた。「叔母様。何の御用でしょうか?」「ほら、手紙を返してあげるわ」アンはジェニファーに手紙を差し出した。「ありがとうございます!」まさか手紙を返してもらえると思わなかったので喜んで手紙を受取り、部屋を出ようとした矢先。「待ちなさい、ジェニファー。一体何処へ行くつもりなの?」「え? あの……部屋で手紙を読もうかと……」「手紙なら今ここで読みなさい。その後、私の言う通りに伯爵に手紙を書くのよ」「今、ここでですか?」部屋でゆっくり手紙を読みたかったのに、まさかここで読むように言われるとは思いもしなかった。しかも、手紙の返事を叔母の言う通りに書けとは。あまりに理不尽な話だった。けれどまだ子供のジェニファーは逆らえるはずも無い。「分かりました……」「なら、ここにお座り」夫人に言われるままに椅子に座ると、早速ジェニファーは手紙を読み始めた。『ジェニファー。元気にしているかい? 私のことを覚えているだろうか……』手紙の内容によるとジェニファーと同い年のセオドアの娘が病気で療養中の為、何処にも出ることが出来ずに寂しい思いをさせているので、話し相手として屋敷に来てくれないだろうかという内容の手紙だった。もし、承諾してくれるなら迎えの者を寄越すとも書かれていた。(そうだったわ、確か伯爵様には私と同じ年の女の子がいたわ。小さい頃一緒に遊んだことがあったっけ……)「ジェニファー」不意にアンに声をかけられ、我に返った。「はい、叔母様」顔を上げるとアンは向かい側の席に座り、ジェニファーをじっと見つめている。「あなた、どうして伯爵家と親戚だったことを黙っていたの? 大体、あなたの父親の兄とはどういうことかしら?」腕組みをしたアンは冷たい視線を向けてくる。「あの……お父様に聞いたのですが、まだ子供だった頃に子供に恵まれなかった伯爵家にお兄様が養子に貰われていったそうです」「お兄様が貰われていったの? 長男だったのに?」(何故、逆じゃなかったのかしら! だとしたら、私は今頃伯爵家と親戚関係だったかもしれないのに!)アンは自分があまりにも身勝手な考えを持っていることに気づいていない。「お父様とお兄様は双子で、お兄様の方が伯爵家の方々に良く懐いていたそうです。それで、貰われていった
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