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第235話
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社長夫人はずっと離婚を考えていた 第259話
しかし、正雄たちはすでに階上へ上がっていたため、車から降りたばかりの礼二には気づかなかった。礼二は視線を戻し、急いで重野社長に挨拶に向かった。重野社長と一通り挨拶を終え、一行が階へ上がろうとしたところで、智昭が到着した。ちょうど車から降りたところで、重野社長が彼を見て驚きながら声をかけた。「藤田社長！」智昭は玲奈と礼二の姿を見ても表情を変えず、重野社長に微笑みながら握手を交わした。「重野社長、首都にはいつ来られたのですか？」「今しがたです」重野社長は笑いながら言った。「前に藤田社長がお時間ある時に一緒に食事をと仰ってましたよね？どうです？今日なんてどうでしょう？」「今日は予定が詰まってますので、また後日でお願いします」「なるほど、ではまたの機会に」智昭と重野社長のやり取りを見ながら、礼二は小声で唇を引き、ぼそりと呟いた。「やっと平和になったと思ったのに、また会っちゃうとはな」玲奈は黙っていた。そういえば、智昭と会うのはもう半月ぶりだった。先週末、藤田おばあさんを見舞いに病院へ行ったときも、彼には会っていない。ここ10日ほどの間に、茜から何度か電話がかかってきていた。特にこの2、3日。たぶん冬休みに入って、智昭と優里が忙しくて構ってもらえず、退屈になって電話をかけてきたのだろう。だが、彼女は一度も出なかった。それでも、智昭は約束を守ったのか、彼女が出なかったにもかかわらず、茜は青木家に押しかけて来なかった。その分だけでも、少しは気が楽だった。そんなことを思っていたとき、智昭と重野社長の挨拶が終わった。彼らは連れ立ってエレベーターへ向かった。礼二と玲奈があまり智昭と話さない様子を見て、重野社長はようやく三人の間に何らかの溝があることに気づいた。重野社長の笑顔は途端に気まずそうなものに変わった。玲奈は智昭が自分を見ているような気配を感じた。唇を引き結び、顔を上げると、ちょうど智昭の深く暗い眼差しと目が合った。智昭は突然、口を開いた。「最近、いつなら時間が取れる？」玲奈は視線を逸らし、彼を見ずに冷たく答えた。「いつも空いてない」彼がこの質問をする理由なんて、考えるまでもなく分かっていた。それが茜に関することだというのは明らかだった。最後に茜に会ってから、まだ半月しか経って
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第258話
彼女がちょうど迎えに行こうとした時、取引相手の後ろに、見覚えのある姿が現れた。正雄の姿を見ても、玲奈の表情は変わらなかった。正雄は彼女に気づかなかったが、彼の隣にいた十七、八歳くらいの少年が嬉しそうに出口の反対側に手を振った。「お母さん、お姉ちゃん、お父さんと一緒にこっちにいるよ」その言葉を聞いた瞬間、玲奈はぴたりと足を止めた。彼が誰なのか、ようやくわかったのだった。横を向くと、案の定、佳子と優里の姿が目に入った。佳子と優里は微笑んでいて、大森徹（おおもりとおる）はそのまま駆け寄っていった。ちょうどその時、長墨ソフトの取引相手である重野社長が笑顔で近づいてきて声をかけた。「青木さん」玲奈は握りしめていた手をゆるめ、視線を戻して笑顔で握手した。「重野社長、こんにちは」その頃、佳子と正雄たちもようやく玲奈に気づいた。正雄は眉をひそめた。佳子の笑顔もやや薄れた。優里は無表情で、何とも思っていないようだった。自分の家族が何を見ているのかわからない徹は、正雄らの視線をたどり、玲奈を見つけた瞬間、目を輝かせた。彼は玲奈のことを見たことがなかったが、思わず口をついて出た。「めっちゃ綺麗なお姉さんだ！」優里は眉をひそめて彼を一瞥した。正雄は一瞬動きを止め、徹の肩を軽く叩いて視線を外し、「先に車に乗ろう」と言った。徹は視線を戻しながらも、ふと思い出したように文句を言った。「僕の未来の義兄さんは？僕とお父さんを迎えに来ないのか？こんな態度でうちの美人で優秀なお姉ちゃんを娶ろうなんて。ふん、僕が一番に反対するからな」優里はくすっと笑い、彼の後頭部を軽く叩いた。「智昭は重要な会議があって抜けられないの。でもあなたが首都に来るって聞いて、予定を一つキャンセルして、おもてなしのために席も予約してくれたのよ。それで満足？」「まあまあかな」徹は優里の方を見て、少し鼻を鳴らしながら言った。「僕の姉ちゃんはこんなに綺麗で優秀なんだから、彼女を嫁にするなら、どれだけ尽くしても足りないよな」徹の言葉に、優里も佳子も思わず笑った。ちょうどその頃、玲奈と重野社長の挨拶も終わった。一行は車に乗り込んだ。乗り込む直前、玲奈は誰かの声が聞こえた。「美男美女の家族四人って感じ、有名人かな？」「わかんないけど、家族の雰囲気す
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第257話
そう思っていたところに、辰也が彼女の車を見つけ、こちらに歩いてきた。玲奈はゆっくりと窓を下ろした。「辰也さん」「おはよう」玲奈はうなずいた。「おはよう」そう言ってから問いかけた。「辰也さん、こちらにご用か？」辰也がここへ来たのは、実のところ用事があったわけではなかった。ふと思い出したのだ。あの夜の、自分の中のある仮説を。「先週の土曜の夜、レストランの前で、あなたと湊さん、それに真田教授の姿を見かけた」玲奈は聞いていたが、なぜ彼がそれを突然言うのか分からず反応できなかった。すると辰也が言った。「あなたも真田教授の弟子なんだろう？」玲奈は一瞬、動きを止め、眉をひそめて彼を見た。「あなた……」その反応だけで、辰也にはもう確信が得られた。「じゃあ、長墨ソフトのあの二つのプロジェクトも、あなたが主導して作ったってことか？」玲奈は唇を引き結びながら言った。「いったい何が言いたい——」「最後の質問だ」辰也は言った。「長墨ソフトのcuapプログラミング言語も、あなたの手によるものなんだろう？」彼はプログラミングには詳しくないが、自社でも関連事業があるため、cuapがどれだけ優れたものかはよく分かっていた。聞く限りでは、cuapは長墨ソフト創設当初から存在していたものだ。もしその推測が正しいのなら。玲奈は十七歳で、あのプログラムを開発したということになる。彼女がまだ十代のうちにそれを作り上げた一方で、優里はいまだにcuapにすら触れられていない。この分野における玲奈の実力がどれほど圧倒的なのかが、これで分かる。今、世間では長墨ソフトの技術が凄いと評判になっている。でも、実際に凄いのは礼二じゃない。本当にすごいのは、玲奈だ。玲奈は何も言わなかった。だが、辰也の中ではすでに答えが出ていた。答えが分かっていたとしても。それが事実として確定した瞬間、彼の心は強く揺さぶられた。彼は玲奈を見つめながら、過去の出来事や最近のことを思い出していた。その時ふと気づいた。自分は彼女のことを、本当に何も分かっていなかったと。玲奈は唇を引き結び、ようやく口を開いた。「朝から来て、話したかったのはそれだけ？」「驚いたんだ。ただ、それだけだ。どうしても答えが欲しかった」彼は今朝ここに現れはした
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第256話
礼二はこめかみを揉みながら、ほとんど目も開けられない状態で言った。「やっぱり君もまだ寝てないと思ったよ」「今から朝ご飯食べるけど、あとで少し話せる？」目がしょぼしょぼの礼二は、椅子にもたれかかりながらも、興奮気味に答えた。「話すに決まってるだろ！」インスピレーションってのは一瞬で消えるものだ。だからこそ、熱いうちに打たなきゃな。「うん、分かった」朝食を済ませた玲奈が、礼二とビデオ通話しようとした矢先、智希から電話がかかってきた。「さっき藤田智昭の弁護士から連絡があって、前に彼が多めに分けてくれた別荘三軒分の権利証がもう出来たそうです。あとで私が受け取ってきますが、いつお渡しすればいいですか？もしお時間なければ、こちらからお届けに伺います」玲奈はその件をすっかり忘れていた。今はそんなことを考える余裕がなかった。智希の言葉を聞いて、彼女は言った。「それじゃ、直江弁護士にお願いしてもいいですか？」電話を切った後、彼女と礼二はすぐに本題に取りかかった。昼ごろまで、二人は頭を酷使しすぎて、まるで脳が爆発しそうなほどだった。玲奈が最後に藤田おばあさんを訪ねたのは、先週の日曜日だった。今日の午後、玲奈が青木おばあさんと一緒に藤田おばあさんを見舞う予定だった。だが、昨夜からずっと作業づめで、玲奈はまだ一睡もしていなかった。昼食のとき、玲奈は「見舞いは夜にずらそう」と青木おばあさんに提案した。青木おばあさんは彼女の顔色の悪さを見て答えた。「分かった、じゃあ夕食後に行きましょう」玲奈はベッドで少し仮眠をとり、午後六時ごろにようやく起きた。夕食を食べた後、彼女は青木おばあさんと一緒に病院へ向かった。彼女たちが病院に着いたとき、智昭はまだいなかった。玲奈と青木おばあさんは、病室で藤田おばあさんとほぼ二時間ほど一緒に過ごした。彼女たちがちょうど帰ろうとした頃、智昭が戻ってきた。智昭は彼女たちを見ても驚かず、まるで来るのを知っていたかのような顔だった。そして帰り支度をしていた二人に、「おばあさんを見舞ってくれてありがとう」と丁寧に言った。玲奈も青木おばあさんも、彼に返事をする気はなかった。それでも智昭は彼女たちをエレベーターまで見送ろうとし、玲奈に尋ねた。「権利証、もう受け取った？」「まだ」
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第255話
「辰也？」智昭や清司たちは、彼が突然立ち上がったのを見て、一様に驚いた。彼の表情が少し変だったため、「何かあったのか？」と尋ねた。辰也ははっと我に返ると、視線を智昭と優里に向け、ゆっくりと首を振った。「何でもない」そう言って、彼はまた席に戻った。結菜が声を上げた。「辰也さん、あのね——」辰也はまるで聞こえなかったかのように、有美の方に顔を向け、穏やかな声で言った。「有美ちゃん、喉乾いてない？お水飲む？」「うん」有美は辰也の差し出す水を数口飲んだ後、また茜のもとに戻り、おしゃべりを続けた。彼女たちは茜が持ってきた小さな玩具について話していた。水を飲み終えた有美は、茜に手渡した。「これは元旦に映画観に行ったときに買ったんだ。あげる」茜は大喜びで受け取った。「元旦にも映画観たの？」「うん、おじさんとお姉さんが連れてってくれたの」有美は楽しそうに言った。「映画観たあと、ゲームもしたよ。お姉さんすっごく上手なの。でも私とおじさんは用事があって、すぐ帰っちゃったの」「私もその日の朝、おじさんと映画行ったけど、おじさん急いでて、終わったらすぐ帰ったの。フィギュア売ってたなんて知らなかった」フィギュアを買い損ねたことに少し落ち込んだ茜は、有美がお姉さんを褒めるのを聞いて、ぽつりと言った。「うちのママもゲームすごく上手なんだよ」「じゃあ、今度はうちのお姉さんと、そっちはママ連れて一緒に遊ぼうね」有美がそう言ったとき、ちょうど智昭がこちらを見ていることに気づいた。茜も気づいて、尋ねた。「パパ、どうしたの？」智昭は微笑みながら、「何でもないよ、続けて」と答えた。「うん……」注文が終わったところで、清司がふと思い出したように尋ねた。「そうだ辰也、お前の会社と長墨ソフトの提携、順調か？」辰也は「まあ、順調だよ」と答えた。清司は眉を上げ、興味ありげに続けた。「へえ？なんかトラブルとか起きてないの？」優里は集中して本を読んでいたが、その言葉にページをめくる手がふと止まった。長年の付き合いから、辰也には分かっていた。清司の言う「トラブル」とは、玲奈が何か問題を起こしたか、失敗したかということだった。辰也は智昭も視線を向けてきたのに気づいた。どうやら彼もこの話題に関心があるようだった。辰也は伏
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第254話
正式に投稿を終えたその夜、彼らは真田教授を食事に招待した。今回は、真田教授も断らなかった。店に着くと、玲奈は真田教授たちと一緒に車を降りてそのまま階上へ向かった。近くに辰也の車が停まっていることには気づかなかった。一方、辰也は玲奈たちの姿を見かけ、ドアを開けかけた手を一瞬止めた。二、三分ほど待ってから、眠そうにしていた有美を抱きかかえ、ようやく車を降りた。清司が一番乗りだった。彼の姿を見て声をかけた。「来たのか？」辰也はうなずいた。「ああ」数分後、有美が目を覚まし、智昭、優里、茜、そして結菜もやってきた。結菜の姿を見て、辰也は視線を落とした。だが結菜は嬉しそうに小走りで近づき、甘えた声で挨拶した。「辰也さん」辰也は淡々と彼女を見つめるだけで、何も言わなかった。結菜は気まずさを感じた。そのとき茜が近づき、有美の様子が優れないのを見て尋ねた。「有美ちゃん、大丈夫？」「ううん……」茜を見た辰也は、ようやく柔らかな笑みを浮かべた。「有美ちゃんは大丈夫、さっきまで寝てただけだから」有美は茜の姿を見ると、辰也の腕から降りて、茜と一緒にソファの隅に腰掛け、話し始めた。優里は到着すると智昭の隣に座り、智昭から差し出された水をひと口飲んだ後、バッグから本を取り出して辰也たちに言った。「私はちょっと本読むから、みんなは気にせず話してて」優里が一平の下で学んでいることは、清司も知っていた。ここまで努力している姿を見て、彼は思わず言った。「外で食事するのに本持ってくるって？ちょっとやりすぎじゃない？」結菜は辰也の隣に腰を下ろし、言った。「うちの姉ちゃん、ここ数日ずっとこんな感じ。超がんばってるのよ」優里が真田教授の弟子になりたいと望んでいることは、辰也も知っていた。そして今、真田教授は彼らの個室からそう遠くない場所で食事をしていた。だが、それを口に出すことはなかった。そう思った瞬間、彼はふと動きを止めた。というのも、さっき階下で玲奈たちを見たとき、玲奈と礼二がそれぞれ真田教授の左右に立っていたのを思い出したからだ。そのときは、玲奈が礼二のおかげで真田教授と一緒に食事をしているのだと思っていた。でも、もし本当にそうなら、玲奈は礼二の隣に立っているはずだった。玲奈はもともと社交的ではない
