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第375話

Author: 雲間探
「ほんとそれ」

淳一や清司たちもいた。

彼らは玲奈と大森家、遠山家の確執を知らず、大森おばあさんが賓客たちが人違いをしたと言うのを聞いても、特に反応はなかった。

正雄と律子はその場にいたが、誰一人として玲奈のために口を開こうとはしなかった。

結菜はその様子を目にし、内心とても痛快だった。

沙耶香はそれを見て何か言いたげだったが、あまりに人が多くて声を出せず、うつむいた。

その時、青木おばあさんと千尋、それに真紀もエレベーターから姿を現した。

「姉ちゃん?」

エレベーターを出た瞬間、大勢の人だかりに気づいた千尋と真紀は、反応する間もなく少し離れた場所にいる玲奈の姿を見つけた。

玲奈は真紀の声を聞いて振り返り、祖母と弟妹たちの姿を目にした。

すぐに真紀と青木おばあさんたちも智昭の姿に気づいた。

だが青木おばあさんの目には同時に正雄、佳子、そして大森おばあさんの姿も映っていた。

玲奈は唇を引き結び、くるりと方向を変えて青木おばあさんのもとへ戻り、そっと支えながら言った。「おばあちゃん、結婚式の宴席はあっちだよ」

今回の大森おばあさんの誕生日には、Y市の親戚や権力者たちも一部招待されていた。

その中には、大森家と青木家の間に確執があることを知っている者もいた。

彼らは青木おばあさんの姿を見るのは久しぶりだったが、その姿を見た瞬間に彼女だとすぐに気づいた。

玲奈が青木おばあさんを「おばあちゃん」と呼び、年の頃も二十五、六に見えることから、すぐに彼女が大森おばあさんのもう一人の孫娘であると察した。

ただ、その孫娘は、大森おばあさんの息子が最初の妻と離婚して以来、大森家には一切姿を見せていなかった。

以前から、大森おばあさんは息子が二人目の妻と再婚した際、以前の孫娘を見捨てたという話を聞いていた。

当時はそれをただの噂だと思っていた。

だが先ほど、大森おばあさんがあの若い女性に対して見せた冷たく無関心な表情を見て、それがどうやら本当のことだったと悟った。

それに、正雄という実の父親もその場にいながら、まったく口を開こうとしなかった。

どうやら、この娘を認めるつもりはないらしい。

当時、正雄が身分の釣り合う青木家の令嬢と離婚し、家柄の貧しい女性を妻に迎えると主張した時、彼のことを正気じゃないと思った者は少なくなかった。

だが年月が経つ
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