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第559話

Aвтор: 白羽
九条薫も女としてのプライドがあったから、彼から求めて来なければ、自分からなんていうこともできなかった......その夜、彼女は彼の腕の中で、彼の鼓動を聞きながら眠りについた。

「何を考えているんだ?」

藤堂沢は彼女を強く抱きしめ、その声は夜の闇に溶けるほど優く「今夜のお前は、いつもと違うな」と言った。

九条薫はごまかした。「この街が、名残惜しいだけかもしれない。ここは素敵なところだ」

藤堂沢は静かに笑った。「気に入ったのなら、今度またゆっくり来ればいい......言と群も連れて、どうだ?」

九条薫は何も言わず、彼の首に顔を埋めた。

自分は、彼から離れると決意をしていたのだった。

藤堂沢はきっと不機嫌になるだろう。でも、あんなプライドの高い彼が、女性を引き留めるはずがない。

彼にとって自分はそれほど大事でもないはずだ。

自分が側にいなくても、清水晶がいる。

別れると決めていても、いざその時が来ると名残惜しかった。彼女はほとんど眠れず、夜明けまで窓の外を眺め続けていた。

B市に戻った後、九条薫は藤堂グループには行かなかった。

彼女は本社に退職願を郵送した。受取人は田中秘書で、彼女はそれを見て、しばらく理解できなかった――

九条薫は辞職したのだ。

田中秘書は瞬きをしながら、不思議に思った。1週間もあったのに、社長は九条薫を落とせなかったのか?

彼女は手紙を持って社長室のドアをノックした。

社長室の中、藤堂沢は機嫌が悪かった。九条薫は会社に来ないし、携帯も電源が切れたままだ......何度かけても繋がらない。

ちょうど車の鍵を取って探しに行こうとした時、ノックの音が聞こえた。

田中秘書が社長室に入ると、苦笑いを浮かべながら退職願を差し出した。「九条さん、辞めちゃいましたよ。H市で何かやらかしたんですか?」

藤堂沢は退職願を開封し、苛立った様子で言った。「そんなわけないだろう!」

手紙の内容は簡潔で、特に見るべきところはなかった。

藤堂沢は手紙をざっと見て机に置くと、コートと車の鍵を持って部屋を出て行った。

田中秘書は彼の背中に声をかけた。

「藤堂社長、彼女との関係において、もう少し安心感を与えてあげるべきだったのではないでしょうか?男性にとっては、禁断の愛は刺激的かもしれません。でも、女性にとっては苦しい葛藤なのです。彼女が社長
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