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第1095話

Author: 似水
「いいよ」

加奈子は気軽に頷き、写真を全部舞子に送ったあと、片手で頬杖をついてニコッと笑った。

「いやー、今夜はほんとに不意打ちだったね。ご両親、さぞビックリしたでしょ?私、その場にいなかったのが残念でならないわ。録画しておけばよかった!」

舞子はスマホの画面を何度も見返しながら言った。

「うん、驚いてた。でも、表向きは冷静を装ってて、あまり突っ込んだことは言わなかったわ」

スマホを置いて、加奈子の方を見やる。

「でもね……長年見てきて、あの人たちがあそこまで動揺するのは初めてで。正直、すごくスカッとした」

加奈子は親指を立てて応えると、目を細めて聞いてきた。

「で、紀彦くんとはこれからどうするつもり?女側の家族にはもう会わせたし、次は男側の家族と顔合わせって流れになるでしょ?」

舞子は小さくため息をつきながら、首を振った。

「そんなに簡単な話じゃないの」

「え、どういうこと?」

加奈子はきょとんとした表情を浮かべる。「宮本家って悪くないじゃない。ご両親、まだ納得してないの?」

舞子は真剣な眼差しで彼女を見て、低い声で言った。

「あの人たちが本当に狙ってる相手、誰だと思う?」

加奈子は一瞬まばたきをしてから、ハッとしたように口を手で押さえた。

「まさか……瀬名賢司?」

名前を口にする時、思わず声を潜める加奈子。

「そう。ドンピシャよ」

舞子は静かに頷いた。

「うわぁ……」

加奈子は心底驚いたように叫び、体を乗り出してきた。

「瀬名賢司って、あの瀬名家の!?錦山の若手の中でも別格でしょ!?ご両親、いったい何考えてるの……」

彼女は少し間をおき、勢いよく続けた。

「いや、舞子の家が悪いってわけじゃないけど、正直、格が違いすぎるよ。あっちは財閥の本家中の本家、こっちはせいぜい名士レベル。釣り合い取れるわけないじゃん。

しかも、瀬名家にとって得になるどころか、むしろリスクよ。そんな縁談、普通に考えてあり得ないわ」

そう言いながら、加奈子は興味津々な顔で身を乗り出し、声をひそめて続けた。

「それにね、瀬名賢司って、相当クセのある人らしいのよ。若くしてグループを継いで、さらに事業拡大させたっていうじゃない?超優秀なのに、性格は氷みたいに冷たくて、人付き合いも極端に少ないって……で、噂によると――」

加奈子はちょっと間を置い
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