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36話 人の皮を被ったナニか

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-12 07:34:14

「自転車に追いつく程足が速いその子は誰だろうなーって思ってその子の方を向いたんだよ。それでね……」

温泉に入り終わってテントの中。私達はランプを囲い各々好きな飲み物を持ってきて怪談話を始める。

ここに居るのは私と波風ちゃんと健さんだ。今は彼の番であり中学の頃、スイミングスクールに通っていた頃の話をしてくれる。

「顔がなかったんだよ……目も口も鼻も耳もなぁんにも」

「そ、それって本当にあったんですか?」

「あぁ本当さ。水で濡れた髪が凍りついたよ」

「じゃあその次はどうなったのよ? 本当に体験したことならすぐに言えるわよね?」

波風ちゃんはあまり信じておらず、揶揄う時の口調でヤジを飛ばす。

「もちろんさ。その後異常な速さで俺を抜かして十字路の左側に立ったんだよ。それでこちらに手招きし始めるんだよ。『こっちに来なよ』って言わんばかりにね!」

「ひ、ひぃ〜!!」

私は怖くなりつい波風ちゃんに抱きついてしまう。

「暑苦しいって高嶺」

しかし引き剥がされ私はまた震えながら健さんの話の続きを聞く。

「それでね……その後……」

「その後どうなったんですか?」

「お腹が空いてたから無視してそのまま家に帰っちゃった」

「……え?」

「いやーだってスイミングって凄い体力使うからやった後いつも腹ペコでしょうがなかったんだよ」

物語としてはとても雑な締めだが、それが逆に現実さを増させている。それに健さんならそういう行動をする。

「まぁたけ兄ならそうするでしょうね。幽霊相手にもどけ! 邪魔だ! とか言いそうだし」

「うーん否定できないね……あっ、気付けばもうこんな時間か。じゃあ俺は自分のとこに帰らせてもらうよ。夜遅くまで居るわけにはいかないしね。

じゃ、君達も遅くまで起きずに寝るようにね!」

「はい! おやすみなさい!」

「おやすみたけ兄」

健さんがテントから出て行き二人っきりになる。少し話すが時間も時間で眠気が襲ってき始め限界が訪れる。

「ふぁぁ……そろそろ寝よっか」

「そうね……でももしかしたら橙子さんからの呼び出しがあるかもしれないからブローチはすぐ取れるようにしといてっと……」

念の為私達はブローチを枕元に置いて眠りにつくのだった。

☆☆☆

「うーん……ん?」

私は何かの要因で目を覚ます。しかしそれが何
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