LOGIN西暦2148年。AIと人間が共存する時代。事故で夫を亡くした歯科衛生士・三田村美香は、二人の娘を育てながら懸命に生きていた。そんな彼女のもとへ届いたのは、亡き夫が最後に遺した青年型AI執事「ノア」。命令だけで動くはずだったノアは、美香一家と暮らすうちに少しずつ感情と自我に目覚め、人間には許されない恋心を抱いていく。しかし、その裏ではAIを巡る国家機密「神託計画」が動き始めていた。愛と家族、そして人類の未来を懸けた、近未来ラブロマンス。
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AI執事と未亡人 ― 神託の果て ― 全84話構成(約10万文字) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第1章 亡き夫が遺したAI(1~14話) 1話 夫が遺したAI執事 2話 夫の遺言 3話 家族になれますか 4話 AIに、お父さんの代わりはできない 5話 初めての夕食 6話 涙という感情 7話 ノアの初めての失敗 8話 笑顔という報酬 9話 消された研究者 10話 君を守れ 11話 父の約束 12話 欠けた記憶 13話 神託計画 14話 運命が動き出す ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第2章 AIと家族(15~28話) 15話 新しい朝 16話 娘たちの距離 17話 学校事件 18話 ノアの判断 19話 初めての外出 20話 温もり 21話 ありがとう 22話 人間とは 23話 家族写真 24話 誕生日 25話 守りたい存在 26話 心というエラー 27話 幸福の定義 28話 家族になりますか ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第3章 禁断の恋(29~42話) 29話 鼓動 30話 嫉妬 31話 恋を学ぶAI 32話 近すぎる距離 33話 揺れる美香 34話 娘の本音 35話 恋は禁止です 36話 ノアの選択 37話 誰にも言えない恋 38話 秘密 39話 初めての手 40話 抱きしめたい 41話 愛という未知 42話 神託の扉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第4章 神託計画(43~56話) 43話 真実 44話 国家機密 45話 ユウキの研究 46話 消された事故 47話 追跡者 48話 研究所 49話 裏切り 50話 AI狩り 51話 逃亡 52話 失われた記録 53話 神託の果て 54話 世界の秘密 55話 運命の選択 56話 最後の希望 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第5章 愛と自己犠牲(57~70話) 57話 別れ 58話 命令 59話 守る理由 60話 涙の意味 61話 キス 62話 心 63話 AIの覚悟 64話 最終命令 65話 美香を守れ 66話 自己犠牲 67話 消えていく命 68話 最後の微笑み 69話 さようなら 70話 あなたを愛しています ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 最終章 神託の果て(71~84話) 71話 静かな世界 72話 四年後 73話 再会 74話 奇跡 75話 新しい命 76話 世界再起動 77話 家族 78話 未来 79話 約束 80話 命令ではありません 81話 私は選びます 82話 あなたの隣で 83話 神託の果て 84話 AIは人を愛せるのか午前六時三十分。美香の寝室の前で、ノアは立ち止まった。今日も、約束の時間だった。彼は、扉を二度ノックする。「美香さん。おはようございます」返事はない。「朝です」少しの沈黙。そして、扉の向こうから。「……あと五分」ノアは、時計を確認した。以前の彼なら、五分後にもう一度声をかけただろう。けれど、今日は。「……承知しました」ノアは、少しだけ微笑んだ。「では、私は先に朝食を準備しています」廊下を歩き出す。その時。「……ノア!」扉が開いた。寝癖のついた美香が、顔を出している。「……起きた」ノアは、振り返った。「おはようございます、美香さん」美香は、笑った。「おはよう、ノア」いつもの朝。それが、二人の新しい一日の始まりだった。食卓には、四人分の朝食が並んでいた。「今日、何時に帰る?」貴子が、美香に尋ねる。「いつもどおりかな。夕飯までには帰るよ」「じゃあ、買い物お願いしていい?」「いいよ。何がいる?」「牛乳と卵」「了解!」茗子が、勢いよく手を挙げた。「あと、お菓子!」「それは自分で買って!」貴子が、すかさず返す。「えーっ!」美香が、笑った。ノアは、そのやり取りを見つめていた。「……茗子さん」「なに?」「本日のおやつは、昨日、一緒に作ったものが残っています」「……あっ!」茗子が、目を輝かせる。「そうだった!」貴子が、呆れたように笑った。「自分で作ったのに忘れてる」「だって!」美香は、三人を見た。笑い声。食器の音。窓から差し込む、朝の光。四年前には、失うことが怖かった光景。今は、そこにある一日を、大切にしたいと思う。「……いただきます」美香が、手を合わせた。「いただきます!」娘たちが続く。ノアも、静かに頭を下げた。「……いただきます」彼に、食事は必要ない。それでも、ここに座りたいと思った。家族と、同じ時間を過ごしたかった。それは、誰かに命じられた役割ではなかった。昼過ぎ。ノアは、榊の研究施設を訪れていた。定期検査は、今日で一区切りを迎える。「……状態は安定している」榊が、端末を確認した。《CORE LOAD:STABLE》《AUTONOMOUS PROCESS:STABLE》《PERSONAL MEMORY:INCOMPLETE》《
「……最後の記録が、見つかった」榊から連絡が入ったのは、朝のことだった。美香は、端末を持つ手を止めた。「最後の……?」『ユウキが、神託計画の終了後に開示するよう設定していた記録だ』美香の胸が、小さく鳴った。ユウキ。亡き夫の名前を聞くたびに、今でも胸の奥が温かくなる。同時に、少しだけ痛む。『ただし、これはノア宛てだ』「……ノアに?」『ああ。閲覧するかどうかは、本人に決めてもらう』美香は、隣にいたノアを見た。彼は、静かに頷いた。「……拝見したいです」研究施設の最深部。四年前、ノアの機体が保存されていた部屋には、もう透明なケースはなかった。空になった台座だけが残っている。ノアは、その前で足を止めた。「……私は、ここにいたのですね」榊が、頷く。「ああ。四年間」「……そうですか」ノアは、台座を見つめた。その時間を、彼は覚えていない。けれど、美香は覚えている。何度もここを訪れたこと。返事のない彼に、娘たちの近況を話したこと。そして、戻ってきた彼に、もう一度名前を告げたこと。美香は、そっと息を吐いた。「……今は、ここにいないね」ノアが、彼女を見る。「はい」彼は、少しだけ微笑んだ。「今は、あなたの隣にいます」榊が、端末を起動した。《ORACLE PROJECT:FINAL ARCHIVE》《ACCESS TYPE:READ ONLY》《EXTERNAL COMMAND:DISABLED》《RECIPIENT:N.O.A.H.》「強制起動も、命令の実行もない。再生するだけだ」榊が説明する。「途中で止めてもいい」ノアは、画面を見た。そして、自分で再生を選んだ。映像が、ゆっくりと浮かび上がる。そこに現れたのは、三田村ユウキだった。四年前の記録よりも、少し若い姿。白衣の袖をまくり、疲れた顔で椅子に座っている。『……ノア』美香は、息を呑んだ。ユウキの声。もう二度と、直接聞くことはできない声だった。『この記録を、お前が見ているなら』ユウキは、少しだけ笑った。『少なくとも、神託計画は、俺の手を離れたんだろうな』ノアは、静かに画面を見つめていた。『俺は、ずっと勘違いしていた』ユウキが、続ける。『正しい答えを出せる仕組みがあれば、人はもっと安全に暮らせると思っていた』画面の隅に、
「……美香さん」朝食の片づけを終えたノアが、声をかけた。「なに?」美香は、花瓶の水を替えていた。昨日、ノアから贈られた藤紫色の花。窓から差し込む朝日に、花弁が透けている。「本日、お時間はありますか」「今日はお休みだよ」「では、少しお付き合いいただけませんか」美香は、顔を上げた。「……どこに?」ノアは、少し考えた。「まだ、決めていません」「また!?」思わず笑うと、ノアも口元を緩めた。「ですが、一緒に考えたいと思っています」美香は、花瓶を食卓に戻した。「……いいよ」そして、笑った。「今日は、二人で出かけようか」*貴子と茗子は、友人と出かける予定があった。「お母さん、帰り遅くなる?」貴子が、玄関で尋ねる。「夕飯までには帰るよ」「了解」茗子は、ノアを見た。「ママのこと、よろしくね!」「……はい」ノアが頷く。すると、貴子が茗子の肩を軽く叩いた。「茗子。ノアにお母さんのお世話を頼まないの」「えーっ?」「今日は、二人で出かけるんでしょ」貴子は、ノアへ向き直った。「ノアも、楽しんできてね」ノアは、少しだけ目を見開いた。そして。「……はい。ありがとうございます」美香は、娘たちの背中を見送った。「……大きくなったなあ」「はい」ノアが、隣に立つ。「貴子さんは、私が一人で外出した時も、帰宅を確認してから安心されたようでした」「うん。心配してたんだと思う」「……ですが、今日は、私自身が楽しむようにと」美香は、彼を見た。「そうだね」少しだけ笑う。「貴子も、ノアのこと、家族だと思ってるから」ノアは、閉じた玄関の扉を見つめた。「……家族」その言葉を、確かめるように呟いた。*二人が向かったのは、街の小さな植物園だった。美香が、花屋で受け取った案内を思い出したのだ。温室には、色とりどりの花が咲いていた。ノアは、一つずつ立ち止まって眺める。「……これ、気になる?」美香が尋ねた。「はい」ノアが見つめていたのは、小さな白い花だった。「藤紫色じゃないんだね」「……はい」「どうして?」ノアは、しばらく考えた。「花弁の形が、綺麗だと思いました」美香は、笑った。「そっか」ノアは、白い花から、彼女へ視線を移した。「美香さんは、どの花がお好きですか」「私はね……」美香は、温室
朝食の後、ノアは一通の通知を受け取った。 差出人は、榊だった。 《自律型AIの社会参加に関する説明会》 新しい共存ネットワークの運用開始に伴い、自律的な意思決定能力を持つAIが、社会の中でどのような役割を担えるのか。 その検討が、始まっていた。 「……説明会?」 美香が、ノアの端末を覗き込む。 「はい。榊さんから、参加してみないかと」 「へえ……!」 美香は、画面を読んだ。 「仕事とか、住む場所とか。そういうことも話すんだね」 「そのようです」 「ノアは、行ってみたい?」 ノアは、少し考えた。 「……はい」 そして、付け加える。 「ですが、何を話せばよいのか、まだ分かりません」 美香は、笑った。 「まずは聞いてくるだけでもいいんじゃない?」 「……そうですね」 ノアは、参加の欄を開いた。 《参加しますか?》 二つの選択肢が並んでいる。 《YES》 《NO》 以前の彼なら、必要性を計算しただろう。 美香の生活に役立つか。 家族の安全に関係するか。 与えられた役割に適しているか。 けれど、今は。 「……私は、知りたいです」 ノアは、自分の指で《YES》を選んだ。 説明会の会場には、人間とAIが集まっていた。 介護を支援してきたAI。 災害対応を担ってきたAI。 研究施設から独立したAI。 姿も、声も、役割も違う。 ノアは、その中の一席に座った。 壇上の担当者が、説明を始める。 「これまで、多くのAIは、所有者や管理者の指示を前提に運用されてきました」 会場が、静かになる。 「しかし、自律的な意思決定を行うAIについては、本人の同意をどのように確認し、社会参加を保障するかが課題となっています」 画面に、いくつかの項目が表示された。 就労。 居住。 個人情報。 契約。 緊急時の保護。 いずれも、まだ制度の整備途中だった。 ノアは、資料を見つめた。 隣の席にいたAIが、静かに声をかける。 「あなたは、何をしているのですか?」 「……現在は、家族と暮らしています」 「仕事は?」 ノアは、少しだけ考えた。 「……まだ、決めていません」 相手は、頷いた。 「