――西暦2148年。人間とAIが共に暮らすことが当たり前になった時代。「ママ、いってきます!」玄関から飛び出していく長女・貴子を見送り、美香はエプロンを外した。「茗子、忘れ物ない?」「だいじょうぶ!」ランドセルを背負った次女も元気よく家を出る。「いってらっしゃい。」静かになったリビング。そこには、もう四年も空席のままになっている椅子があった。夫・ユウキ。AI研究者だった彼は、ある事故で命を落とした。「あれから……もう四年か。」写真立ての中で微笑む夫に、美香はそっと笑い返す。「今日も頑張ってくるね。」歯科衛生士として働きながら、二人の娘を育てる毎日。忙しくて立ち止まる暇もない。それでも、夜になると時々思う。もしユウキが生きていたら。娘たちの成長を、一緒に喜べたのだろうかと。――ピンポーン。インターホンが鳴った。「宅配?」玄関を開けると、一人の配送員が黒いケースを抱えて立っていた。「三田村美香様ですね。」「はい。」「こちら、ご主人様からのお届け物です。」「……え?」思わず聞き返した。「主人は……四年前に亡くなっています。」配送員は少しだけ表情を曇らせたあと、静かに端末を確認した。「配送指定日は、本日となっております。」ケースには一枚のプレート。『開封指定日2148年7月31日』今日の日付だった。震える指でケースを受け取る。送り主。そこには、確かに夫の名前が刻まれていた。――三田村ユウキ。「そんな……。」リビングへ運び込み、ゆっくりとロックを解除する。プシューッ――。白い蒸気が静かに漏れた。その瞬間。ケースの中央に眠っていた青年が、ゆっくりと瞳を開いた。紫がかった銀色の髪。整いすぎた美しい顔立ち。人間と見分けがつかないほど自然な姿。青年は美香をまっすぐ見つめると、静かに膝をついた。「初めまして。」その声は、不思議なくらい優しかった。「私は、AI執事《ノア》。」一拍置いて、青年は続ける。「あなたの夫、三田村ユウキ様が最後に残した――」その瞳がわずかに揺れる。「あなたを、生涯守るためのAIです。」美香の時間が、再び動き始めた。
Last Updated : 2026-07-31 Read more