アンケート

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last updateÚltima atualização : 2026-07-08
Por:  菊池まりなAtualizado agora
Idioma: Japanese
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フリーターの三枝美佳は、謝礼に惹かれて軽い気持ちでオンラインアンケートに回答する。しかし最後の設問で「消えてほしい人の名前」を書いた直後、その人物が謎の死を遂げる。 やがて「次の質問」が届き、美佳は逃れられない“選択”を迫られていく。やがて判明するのは、自分だけではなく他にも同じように“選ばされた”者たちが存在するという事実。 答えれば誰かが消え、拒めば自分が狙われる── 繰り返される悪意の連鎖と操作された運命の果てに、美佳がたどり着くのは…。

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Capítulo 1

第1話  アンケート依頼

午後の光が差し込む、六畳一間のアパート。外では子どもたちの笑い声がかすかに響いているが、室内は薄暗く、カーテンは半分だけ閉ざされている。

三枝美佳さえぐさみかは、ノートパソコンの画面をぼんやりと眺めていた。指にはスナック菓子の粉がつき、ペットボトルの烏龍茶はぬるくなっている。

「今日も、面接落ちか……」

メールを確認すると、午前中に受けたコンビニの面接の不採用通知が届いていた。「また明日探せばいいや」と美佳は呟き、ため息まじりに椅子を回転させる。

スマホが震えた。

──【新着メール:アンケート協力のお願い(謝礼あり)】

差出人は聞いたことのない「LAPIS DATA」なる会社。タイトルに「謝礼あり」とあるのが目に留まり、反射的にタップする。

> 平素よりお世話になっております。

簡単なアンケートにご協力いただくだけで、謝礼として現金5,000円をお送りします。

ご興味のある方は、下記のリンクからご参加ください。

(怪しい……けど、まぁ、見るだけなら)

美佳はアンケートのURLをクリックした。開かれた画面は意外なほど洗練されていて、いかにも“それっぽい”アンケートフォームが表示される。

質問は最初こそ軽いものだった。

「あなたの性別を教えてください」

「今のご職業は?」

「普段感じるストレスの大きさはどれくらいですか?」

(ありがちな質問ばっかじゃん……)

そう思いながらも、美佳はぽちぽちと選択肢を選んでいった。進むにつれ、質問はやや深くなる。

「これまでに人を強く憎んだことはありますか?」

「あなたがいなくなれば楽になると思ったことはありますか?」

「誰かに“消えてほしい”と思ったことはありますか?」

(……ちょっと気持ち悪いな)

引き返そうかと一瞬思ったが、すでに途中まで進めてしまっている。しかも、最下部には「この設問までに進んだ方には謝礼を確約いたします」の文字。

──そうして、美佳は気づけば最後の設問まで到達していた。

> Q.25(最終質問):

「あなたがこの世から消えてほしいと本気で願う人物がいれば、その名前をフルネームでご記入ください。

※該当者がいない場合は空欄でも構いません。」

画面の下部には「※回答は匿名であり、プライバシーは完全に保護されます」と書かれていた。

美佳はしばらく無言で画面を見つめた。

記憶の底から、ある男の顔が浮かんできた。三年前、派遣先で彼女を見下し、人格を踏みにじり、理不尽な言葉で辞職へ追い込んだ男──田代誠たしろまこと

(……書いたって、どうせ何も起きない)

美佳は小さく笑って、名前を入力した。

田代誠

「……これが最後の質問か…。よし、送信っと……」

画面が切り替わり、確認の文章が表示された。

> ご協力ありがとうございました。

あなたの回答は正常に送信されました。

なお、送信後のキャンセルは如何なる場合でも出来ません。

謝礼は必ずお受け取りください。

美佳は首を傾げた。

「え、キャンセルできないって、そんな……。まぁ、いいか」

彼女はPCを閉じ、スマホを手にベッドに転がる。

──そのとき、彼女の手元でまた通知が震えた。

【発送完了のお知らせ:ご協力への謝礼について】

(行動早っ……)

どこか薄ら寒さを感じながらも、美佳はそのまま目を閉じた。

まだ、この一通のアンケートが、彼女の人生を狂わせる“最初の引き金”になるとは、想像もしていなかった。

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第1話  アンケート依頼
午後の光が差し込む、六畳一間のアパート。外では子どもたちの笑い声がかすかに響いているが、室内は薄暗く、カーテンは半分だけ閉ざされている。三枝美佳は、ノートパソコンの画面をぼんやりと眺めていた。指にはスナック菓子の粉がつき、ペットボトルの烏龍茶はぬるくなっている。「今日も、面接落ちか……」メールを確認すると、午前中に受けたコンビニの面接の不採用通知が届いていた。「また明日探せばいいや」と美佳は呟き、ため息まじりに椅子を回転させる。スマホが震えた。──【新着メール:アンケート協力のお願い(謝礼あり)】差出人は聞いたことのない「LAPIS DATA」なる会社。タイトルに「謝礼あり」とあるのが目に留まり、反射的にタップする。> 平素よりお世話になっております。簡単なアンケートにご協力いただくだけで、謝礼として現金5,000円をお送りします。ご興味のある方は、下記のリンクからご参加ください。(怪しい……けど、まぁ、見るだけなら)美佳はアンケートのURLをクリックした。開かれた画面は意外なほど洗練されていて、いかにも“それっぽい”アンケートフォームが表示される。質問は最初こそ軽いものだった。「あなたの性別を教えてください」「今のご職業は?」「普段感じるストレスの大きさはどれくらいですか?」(ありがちな質問ばっかじゃん……)そう思いながらも、美佳はぽちぽちと選択肢を選んでいった。進むにつれ、質問はやや深くなる。「これまでに人を強く憎んだことはありますか?」「あなたがいなくなれば楽になると思ったことはありますか?」「誰かに“消えてほしい”と思ったことはありますか?」(……ちょっと気持ち悪いな)引き返そうかと一瞬思ったが、すでに途中まで進めてしまっている。しかも、最下部には「この設問までに進んだ方には謝礼を確約いたします」の文字。──そうして、美佳は気づけば最後の設問まで到達していた。> Q.25(最終質問):「あなたがこの世から消えてほしいと本気で願う人物がいれば、その名前をフルネームでご記入ください。※該当者がいない場合は空欄でも構いません。」画面の下部には「※回答は匿名であり、プライバシーは完全に保護されます」と書かれていた。美佳はしばらく無言で画面を見つめた。記憶の底から、ある男の顔が浮かんできた。
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第2話  静かなる崩壊
翌朝、インターホンの音で美佳は目を覚ました。「──郵便でーす!」眠気眼のままドアを開けると、小さな白い封筒が手渡された。差出人には「LAPIS DATA調査部」とだけ書かれている。(昨日の……もう来たの? 早すぎ)部屋に戻って封を開けると、折りたたまれた現金五千円と、印刷された簡素な手紙が入っていた。> ご協力ありがとうございました。あなたのご回答は、大変貴重なものとして記録されました。どうか、今後も変わらぬご協力をよろしくお願いいたします。(協力って……もう送っちゃったし、終わりでしょ?)そのとき、ふと違和感を覚える。──手紙の裏面。印刷ではなく、手書きでこう書かれていた。「次の質問も、すぐに届きます。」鳥肌が立った。遊び心だろうか、あるいは偶然だろうか。それでも、美佳はポケットの五千円札を見つめると、いつものように財布に押し込んだ。貧しさには現実が勝る。怖さは、あとで考えればいい。それから数日後。雨の降る朝、美佳はスマホでニュースを眺めていた。暇つぶしのルーティンだった。> 【速報】都内の会社員、田代誠さん(42)が自宅マンションから転落死。現場の状況などから、警察は自殺と事件の両面で調査を進めています。指が止まる。(……田代?)記事に載った顔写真を見て、美佳は息を呑んだ。三年前に派遣先で彼女を罵倒した、あの男──田代誠だった。「……そんなバカな……」スマホを握る手が汗ばんでいた。画面の裏側から、誰かが自分を見ている気がする。(関係ない……偶然よ。こんな偶然、いくらでもある)美佳は頭を振って立ち上がる。窓の外は重たい雨。しとしとと降りしきる音が、心の中にじわじわと染み込んでいく。机の上のパソコンが、ふいに起動音を鳴らした。「え……?」触っていないのに、画面が勝手に立ち上がる。昨日まではスリープ状態だったはずなのに。──画面の中央に、ひとつのメッセージが浮かび上がる。> 【第2回アンケートに進むには、以下をクリックしてください】※ご協力は義務ではありません。ただし、1回目の回答内容との整合性を維持するため、ご参加を強く推奨いたします。画面の隅には、前回と同じ会社ロゴ──「LAPIS DATA」。(どういうこと……なんで……?)混乱の中で、美佳は、これが単なる悪ふざけでも偶然でもないことを、肌で
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第3話  選ばされた者たち
「……行くしか、ないのか」美佳は椅子の背に寄りかかりながら、目の前の画面とにらめっこしていた。「第2回アンケートに進むには、以下をクリックしてください」シンプルなボタンが、まるで命令のように画面の中央で光っている。(でも……本当に、私が書いたから……?)気づけば美佳は、田代の死因を何度も検索していた。ニュース記事には“高層階のマンションからの転落死”“自殺の可能性”“目撃情報なし”と書かれているだけで、決定的な情報はない。“偶然”というには、タイミングが出来すぎていた。恐る恐る画面に指を伸ばしかけたそのとき。ふと、あることを思いついた。(私だけじゃない……かもしれない)半信半疑のまま、ネットで「アンケート 謝礼 LAPIS DATA」と検索してみる。すると、いくつかの書き込みがヒットした。【匿名掲示板】No.731:昨日、LAPISって会社からアンケート来た。回答したら金が送られてきたけど、内容が不気味すぎ。最後の質問「消えてほしい人の名前」って、何だったんだよ。 No.734:↑あれ俺もやったわ。送信後に「キャンセル不可」って出てビビった。しかも、数日後にそいつ……まさかってなった。No.738:同じく。俺も“書いた名前の人”が、交通事故で死んだ。ほんとに偶然か? これ。誰か他にもいる?美佳の心臓が、跳ねた。──自分だけじゃない。──あのアンケートに、他にも“答えた者たち”がいた。(本当なの……?)怖くて、でも確かめずにはいられなかった。そのままスレッドを追っていくと、一つの投稿が目に留まる。 【No.749:A.K】俺は名前を書かなかった。「該当なし」って送った。……そしたら、数日後に俺の家族が事故に遭った。LAPISからまた連絡が来た。「選択は自由だが、代償は等しい」と。お前ら、本気で気をつけろ。これは“アンケート”なんかじゃない。画面を読む美佳の手が、震えていた。──書かなければ、奪われる。──書けば、奪う側になる。何が正解なのか。何が“善”で、何が“罰”なのか。誰がこの仕組みを作ったのか──。そのとき、ふいにスマホが震えた。非通知の番号。一度ためらいながらも、美佳は通話ボタンを押した。「……はい?」「──あなたも、書いたのね」若い女性の声だった。どこか、やつれたよう
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第4話  答えた代償
画面に並ぶ三つの選択肢を前に、美佳はただ呆然と座り込んでいた。> A. 代わりに自分を差し出すB. 誰か別の人間の名前を書くC. 何もしない(結果を受け入れる)(なんなのよこれ……)これが本当に「アンケート」だというのなら、あまりにも異常だ。質問はすでに感情を試すようなものになっていて、もはや統計調査とは呼べなかった。(選んだら……また、誰かが……)前回、名前を書いた田代誠は、あの通り死亡した。──書いたから、死んだ。──なら、次も?それとも、書かなくても何かが起こるのか。答えの出ない思考の渦に飲み込まれそうになったそのとき、スマホが震えた。LINEの通知だった。差出人は──母親。> 【母】「最近、変な夢を見るの。何かあったの? 元気してる?」「あんた、小さい頃からすぐ顔に出るから」「困ってることがあれば言いなさい。いつでも聞くから」美佳の指が止まる。(お母さん……)田代のことを思い出した時のような、身体の奥から湧き上がる“後悔”のような感情が、胸を締めつける。あの人を憎んでいた。名前を書いたときも、怒りと悔しさでいっぱいだった。でも、まさか本当に──。今、もし何かを選んだら、次に失われるのは誰か。「家族」「友人」──それとも、(誰かを守るために誰かを差し出す……?)画面の選択肢は、じわじわと彼女を追い詰めていく。そのとき、ふいにパソコンの画面がピクリと揺れた。選択肢の下に、新たな文字列が追加されていた。> ※重要なお知らせ:■あなたのご回答に関連する事象は、すでに始まっています。■以下の人物の状況が進行中です:「三枝静江(62)」■対応には猶予がありません。回答は【12分以内】に送信してください。「お母さん……!」画面の名前を見た瞬間、美佳は息をのんだ。身体が凍りつくような冷たさに包まれた。(……まさか)まさか、本当に“選ばれた”のか。まさか、今これが現実として進行しているのか。選択肢は変わらない。ただ時間だけが、上からカウントダウンのように赤字で減っていく。11分23秒。母を守るには、「A」を選ぶ──自分が代わりになる。でも、本当にそれで済むのか?本当に“それだけ”で許されるのか?(……選ばなきゃ、間に合わない)美佳は震える手でマウスを動かし、「A.
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第5話  鍵
その日、美佳のスマホには新しい通知が届いていた。 差出人は「R-000」、差出時刻は未明の3時33分。眠っていた時間帯だったはずなのに、スマホの通知履歴には“既読済”と表示されていた。 表示されたメッセージは、たった一文。 > 『次の扉は、あなたの記憶の中にあります。』 美佳は息を呑んだ。ふと、脳裏に浮かんだのは、あの──黒い扉の夢だった。 重く冷たい鉄の扉。無数の手が伸びてくる。壁に刻まれた、無機質な数字の羅列。 (……何なの、これ) 震える手でスマホを伏せ、ベッドに深く沈み込む。 それでも背筋に這い寄るような感覚が、じっとりと汗になって背中を濡らしていた。 午後、美佳は街へ出た。 繁華街の片隅に、旧校舎を模した建物がある。ガラス張りのアーチと白い壁が特徴的な複合施設──そこに設置された案内板が目に止まった。 > 《藍都学苑 OB/OG 同窓会 ー 特設フロア ご案内》 その下には、美佳の通っていた進学校「藍都学苑」の旧ロゴがあった。 (……偶然? それとも……) 通りすがりの視線に追われるように、美佳は自販機の影に身を隠した。 と、そのとき、ふいに後ろから声がした。 「……やっぱり、美佳じゃん」 振り返ると、そこには懐かしい顔──七海彩音が立っていた。 柔らかな笑み。短めのボブカット。 高校時代、よく昼休みに一緒にパンを分け合った友人だった。 「えっ、彩音……? 本当に?」 「まさかこんなとこで会えるなんて。あ、同窓会……来るんでしょ?」 「う、うん……うん、そう、たまたま見つけて……」 答えながらも、美佳の脳裏には警戒の灯がともっていた。 (彩音も“あのアンケート”に──?) 答え合わせは、もうすぐだった。 同窓会という名の再会が、美佳を“かつての記憶”と、“失われた真実”の扉へと導いていく。
last updateÚltima atualização : 2026-07-07
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第6話  記憶の継ぎ目
同窓会の会場は、複合施設の中でも最上階に位置する展望ラウンジだった。藍都市街を一望できる広々とした空間に、懐かしい制服の写真や当時の卒業アルバムが展示されている。 「こんなに来てるんだ……」 美佳は小さくつぶやいた。 見覚えのある顔ぶれがちらほら。かつての教室で過ごした記憶が断片的によみがえる。 だが、どうしても繋がらない。自分が卒業式で誰と話したのか、いつ彩音と最後に会ったのか、記憶にぽっかりと穴が空いていた。 「美佳?どうしたの、顔色悪いよ?」 彩音が心配そうに覗き込む。 その視線に応えようと、美佳は笑顔を作った……が、唐突に会場の照明がチカチカと明滅した。 ピピッ、ピピピ…… 場違いな電子音。誰かのスマホかと思ったが、誰も取り出していない。 次の瞬間、展示されていた卒業アルバムのデジタルパネルに、見覚えのある画面が浮かび上がった。 > 【アンケート:第0区画データが検出されました】 【回答者ID:M-319A】【感情データ同期完了】 「……!」 美佳の背筋が凍りついた。 (これ……私の、ID!?) 慌ててスマホを確認しようとした瞬間、横からスッと差し出された手が彼女の手首をとらえた。 「久しぶりだね、三枝さん」 低く、落ち着いた声。 そこに立っていたのは、長身の青年。黒縁眼鏡に整った顔立ち。制服の頃から目立っていた朝倉純だった。 「……朝倉くん?」 「僕は、こうなることを少しだけ予期していたよ。君も、もう気づいたはずだ。“記憶”が改ざんされている」 声をひそめる彼の口調は、冷静ながらも焦りを含んでいた。 美佳はわずかにうなずいた。 「アンケート……何かがおかしい。でも、私には何も分からなくて──」 「分かってる。だから、教えるよ。 “あのアンケート”はただの質問じゃない。 それは記憶のプロトコルを“書き換えるための鍵”なんだ」 「記憶の……?」 「君は何かを答えた。選択肢を、文末を、思考を……そうしてLAPISは“君という存在”の輪郭を上書きしていく」 その言葉が意味するものの恐ろしさに、美佳は一歩引いた。 (私……自分の記憶を、自分の意思で、書き換えられてたってこと?) 「──でも、なぜ私に?」 「……君は“第0区画”の出身だか
last updateÚltima atualização : 2026-07-07
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第7話  旧校舎
夜の学園都市には、妙な静けさが漂っていた。 人工光が整然と整備された歩道を照らしているはずなのに、どこか影が濃い。空気が重い。 美佳は旧校舎へと続く小道を歩きながら、何度も後ろを振り返っていた。 「……なんでこんなことに」 制服姿の自分を思い出せない。 彩音の笑顔も、朝倉の声も、どこか映像のように平坦で、手触りがなかった。 ──カツ、カツ、カツ…… 誰かの足音が背後から近づいてくる。 美佳は振り返り、ほっとしたように声をかけた。 「朝倉くん……!」 「……違うよ」 現れたのは、宮下ユリ《みやしたゆり》だった。高校時代、同じクラスだったはずの少女。いつも冷静で、誰とも群れないタイプだった。彼女もまた、この“同窓会”に来ていたのだ。 「君も来たんだ」 「あなたも……気づいてたのね、“あの事件”のこと」 「事件?」 美佳は首を傾げる。 ユリはため息をついた後、小さなタブレットを取り出して美佳に渡した。 そこには、5年前の記録が映っていた。 記録映像: > 「LAPIS試験区域、0-αクラス対象:記憶感情パターン収集実験」 「実験開始──被験者、三枝美佳、状態異常なし」 「アンケート送信完了。記憶同期開始」 「これは……私……?」 「そう、あなたは“LAPIS”の第一期被験者。私も、朝倉くんも」 映像に映る自分は、どこか虚ろだった。 目の焦点が合わず、笑顔だけが浮いていた。 「あなたの“記憶”はね、他人の感情で構成されてるの。 本当の自分じゃなく、アンケートで“他人が想像した三枝美佳”が、あなたの中に書き込まれていったのよ」 美佳は言葉を失った。 (じゃあ、私の思い出は──私のじゃない?) 「あなたがこの実験の“鍵”だった。だから記憶を書き換えられたまま放置されてた。でも、同窓会でLAPISのネットワークに近づいたことで、“回収プロセス”が動き出したの」 「回収……?」 「ええ。“あなたの記憶”と、“私たちの記憶”を照合して、 本来の人格を選び取る。 でも、誰か一人が選ばれたら、他は消えるわ──記憶ごと」 突如、旧校舎の扉が開いた。 中から、朝倉が現れる。顔に静かな緊張をたたえていた。 「始まったようだね。LAPISの“審問”が」
last updateÚltima atualização : 2026-07-07
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第8話  選ばれし記憶
旧校舎の扉が閉まると同時に、足元の床がわずかに震えた。 冷たい空気が一気に満ち、どこかからノイズ混じりの音声が響き渡る。 > 「ID:M-319A──認証完了」 「記憶審問プログラム、開始」 突如、校舎内の壁がせり上がり、光の柱が天井へと伸びていく。 そこには、過去の記憶を映し出すホログラムが現れていた。 「ここが……LAPISの“審問室”……?」 ユリがつぶやく。朝倉は黙って前へ進み、床に浮かび上がる円形のパネルに立った。 > 「回答者:三枝美佳の記憶と人格パターン、相互照合を開始します」 「選択肢A:現行人格」 「選択肢B:補完人格“石原ミカ”」 「選択肢C:観測人格“無記名コードβ-7”」 美佳は戦慄した。 「現行人格」とは、今の自分。 だが“石原ミカ”?“無記名”?そんな人物は知らない。……なのに、どこか胸がざわつく。 「これは……どういうこと?」 「君は、複数の人格を記憶によって生成されている」 朝倉が口を開いた。 「“本当の自分”が、今この場で選ばれるんだ」 「選ばれるって……じゃあ、選ばれなかった私は?」 「消去される。“人格抹消”って名のもとに」 美佳の背筋に氷柱が走った。 ユリが眉をひそめ、言葉を継ぐ。 「でも、それを止める方法がひとつある。 “記憶の継ぎ目”──書き換えられていない断片を、あなた自身の意思で証明するの」 突然、ホログラムが切り替わる。 中学生のころの教室。制服の自分。そして──友達の笑顔。 「この子は……誰?」 「思い出して。あの日、教室の隅で泣いてた子に、あなたは何て言った?」 (わたしは──わたしは……) 「……泣かないで、わたしがいるから」 ぽつりとつぶやいたその瞬間、ホログラムがまばゆい光を放ち、パターンBとCの人格が一斉にフェードアウトする。 > 「照合完了──ID:M-319Aの主人格を“認証”」 「記憶選定、完了」 「本プログラムは一時終了します」 光が消える。 その場にいた三人は、同時に息を吐いた。 「……これで、終わったの?」 美佳の問いに、朝倉はかすかに首を振った。 「いいや、これは“始まり”だよ。 LAPISはまだ都市全体に拡散してる。今もなお、誰かの“心”を統計の数字
last updateÚltima atualização : 2026-07-07
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第9話  静かなる召集
同窓会の会場は、かつて学び舎だった私立藍都学苑の記念ホールだった。 連絡メールには《当日、学園都市内にある旧藍都学苑本部棟へお越しください》とだけ書かれていた。 誰が主催しているのか、どこから名簿が流れたのか、その説明はなかった。けれど、美佳には直感的にわかった。 ──これも、あのアンケートの続きだ。 朝倉純の表情も曇っていた。 七海彩音は何も言わず、スマホの画面を見つめていたが、しばらくして一言だけつぶやいた。 「……あたし、行くよ。確認しないと、もう何が嘘で本当か、わかんないから」 彼女の声は震えていた。 彩音もまた“何か”を失っていた。それは記憶なのか、関係性なのか。答えはわからない。ただ、全員に共通するのは、あのアンケートに最後まで答えたということだけだった。 当日。 都市の外れにある旧校舎跡にたどり着いた美佳たちは、意外な人影に気づく。 「宮下……ユリ?」 そこにいたのは、同じクラスでほとんど話したことのなかった女子だった。 けれどその瞳は、美佳を見て、はっきりと言った。 「三枝美佳。ようやく、来てくれたんだね。ここはただの“同窓会”じゃない。LAPISの観測地点でもある」 「え……?」 言葉の意味が、理解できなかった。 「私たちはもう選ばれてるの。“答えた人間”という枠で。あの日、アンケートに“最終項目まで”答えた時点で、あなたも、私も、もう……」 その瞬間、学園ホールの天井がわずかに軋んだような音を立てた。 まるで巨大な装置が起動する前触れのように。 どこか遠くで、サイレンのような音も聴こえた気がした。 「──LAPISは、都市ごと再編するつもりなの」 ユリの言葉に、背筋が冷たくなる。 冗談ではなかった。視線の先には、かつて教師たちが使っていた事務棟がある。そこがLAPISの本部になっていることを、誰もが直感で察していた。 「……あんた、本当に“味方”なんだよな?」 純がユリに問いかけた。 ユリはうっすらと笑っただけだった。 「正義とか悪とか、そんな単純な話じゃないよ。選んだのは──あの時、あなたたち自身でしょ?」
last updateÚltima atualização : 2026-07-07
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第10話  記録の部屋
旧藍都学苑の事務棟──現在はLAPISの監視本部とされる場所に、三枝美佳たちは足を踏み入れた。 建物は外観こそ古びているが、内部は驚くほど整備されていた。白く光る無機質な壁面に、動作音もなく動く自動扉。まるで病院と研究所をかけ合わせたような空間だった。 「こんな場所、学苑にあったなんて……」 純が眉をひそめてつぶやく。 「なかったよ。表向きはね」 そう答えたのは宮下ユリだった。彼女の口調はあくまでも冷静で、もはや同級生というより、別の“何か”に属している印象すらあった。 廊下を進み、彼女が導いたのは、「記録室」と書かれたドアの前。 壁には小さなプレートが貼られていた。 > LAPIS:分類管理セクション第3保管ユニット ユリは立ち止まり、振り返る。 「ここには、あなたたち──アンケート最終項目に“YES”と答えた者たちの記録があるの」 「“記録”? どういう……?」 美佳が尋ねると、ユリは無言でドアに指を添えた。 開かれた瞬間、冷たい空気とともに、ホログラムの映像が壁一面に浮かび上がった。 そこに映っていたのは── 「……わたし?」 美佳自身の姿。スマホを操作しながら、アンケートに答えていた、あの夜の様子だ。 画面右下には、こう表示されていた。 > 被験者No.0331:三枝美佳 > 選択項目:最終項目「許可する」→YES > ステータス:観測対象・“再編済” 「再編済」──その意味が、理解できなかった。 同時に、純や彩音、そして東郷翔や有栖川玲の映像までもが連続して表示されていく。 それぞれがアンケートに答える瞬間、無防備で、何も知らないまま。 「LAPISは、都市の“構成因子”を収集しているの」 ユリの声が、冷たく響いた。 「記憶、感情、選択、直感──そういった“非物質的な情報”をね。あのアンケートは、無作為に選ばれた市民の意識を取得する“鍵”だった」 「……私たちは、そのデータの一部ってこと?」 彩音が食い入るようにホログラムを見つめた。 「一部であり、起爆剤でもある」 ユリは端末に触れ、さらに別の画面を呼び出した。 そこに映っていたのは──都市の全体地図と、赤く光る複数のポイント。 「何、これ……?」 東
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