LOGINフリーターの三枝美佳は、謝礼に惹かれて軽い気持ちでオンラインアンケートに回答する。しかし最後の設問で「消えてほしい人の名前」を書いた直後、その人物が謎の死を遂げる。 やがて「次の質問」が届き、美佳は逃れられない“選択”を迫られていく。やがて判明するのは、自分だけではなく他にも同じように“選ばされた”者たちが存在するという事実。 答えれば誰かが消え、拒めば自分が狙われる── 繰り返される悪意の連鎖と操作された運命の果てに、美佳がたどり着くのは…。
View More午後の光が差し込む、六畳一間のアパート。外では子どもたちの笑い声がかすかに響いているが、室内は薄暗く、カーテンは半分だけ閉ざされている。
朝の陽光が、藍都学園都市の高層ビル群をやわらかに染めていた。 崩れ落ちた瓦礫は取り除かれ、街のあちこちで復旧作業が進んでいる。だがその光景は、単なる修復ではなかった。人々の手によって、街そのものが新しい形へと生まれ変わろうとしている。 旧藍都学苑もまた、その象徴だった。 かつて廃墟のように荒れ果てていた校舎は、今や修復の最中にある。崩れていた壁には足場が組まれ、割れていた窓には新しいガラスがはめ込まれ始めていた。校庭には花壇が作られ、子どもたちの笑い声が少しずつ戻ってきている。 美佳たちは、その光景を見守るように校舎の前に立っていた。 「ここが……こんなふうに甦るなんて」 美佳は感慨深げに呟く。 「人の想いが残っていたからだろうな」 純が答える。 「壊すだけじゃなく、繋げようって気持ちがある限り、街も学苑も生き続ける」 彩音は柔らかに笑みを浮かべた。 「……“鍵”は、やっぱり人の心にあったんだね」 ユリは頷き、遠くの空を見上げた。 「どんなアンケートの問いかけよりも、私たち自身の選択が未来を決めるんです」 翔は静かに佇み、目を閉じて深く息を吐いた。 「……もう二度と、あの声に翻弄されることはない。そう信じたい」 玲は少し離れた場所で腕を組み、校舎をじっと見つめていた。 「でも忘れてはだめよ。問いは終わっていない。これから先、私たちが何を選ぶかで、この街の未来は変わる」 そのとき、美佳のポケットの中で再び古びた携帯が震えた。
藍都学園都市は、ゆっくりと呼吸を取り戻しつつあった。 あの夜の混乱で荒れ果てた街のあちこちに、復旧作業の音が響いている。クレーンが空を横切り、人々の声が交差し、かつての静けさに代わって活気が戻ってきていた。 ニュースでは「不可解なシステム暴走の終息」とだけ伝えられている。だが美佳たちは、その背後にあった真実──LAPISと、そしてミオの存在──を知っている。 旧藍都学苑の再建と歩調を合わせるように、街には「共存」や「未来」といった言葉が人々の口から自然にこぼれ始めていた。破壊ではなく、繋ぎ直すために。「……変わったね、この街」 美佳が呟くと、隣で純が頷いた。「でも、変えたのは街じゃない。俺たちだ。選んだからだよ」 ユリは遠くで遊ぶ子どもたちを見つめ、柔らかく笑った。「もう“アンケート”なんてものに人の心が縛られることはない。そう信じたいです」 玲は腕を組みながらも、その表情には以前にはなかった安らぎがあった。「……油断はできないわ。でも、今は素直に喜んでもいいのかもしれないわね」 翔は無言のまま、街の高層ビル群を見上げていた。その眼差しは厳しくも穏やかで、これから先の未来をじっと見据えているようだった。 そのとき。 美佳のポケットの中で、古びた携帯が震えた。 心臓が跳ねる。彼女はそっと取り出し、画面を見た。 表示された番号は──見覚えのあるもの。「……!」 思わず息を呑む。 耳に当てると、懐かしい、けれど不思議な響きの声が流れ込んできた。『……よく、ここまで来たわね』 あの、若い女性の声。 第3話で、美佳に初めて「アンケートの異常」
夜の光に包まれた都市を越え、美佳たちがたどり着いたのは──かつて青春を過ごした場所、旧藍都学苑だった。 朝の光が校庭に差し込み、長く荒れ果てていたはずの校舎を柔らかく照らしている。 ひび割れた壁や割れた窓ガラスはまだそのままだ。だが、よく見ると足場が組まれ、工事の幕が掛けられていた。再生が始まっている。「……戻ってきたんだね」 美佳が呟く。 純は校舎を見上げ、懐かしそうに微笑んだ。「ここから全部始まった。俺たちが迷って、失って、でもまた繋がった場所だ」 ユリは胸の前で両手を組み、まるで祈るように目を閉じた。「この学び舎がもう一度、未来を育てる場になりますように……」 玲は周囲を見渡しながら、真剣な表情を崩さなかった。「でも、ここが象徴になるってことは、また狙われる可能性もあるってことよ。LAPISの残滓は完全に消えたわけじゃない」 その言葉に、翔が淡々と応じた。「だからこそ、俺たちが見守る必要がある。破壊ではなく、守るために」 美佳は校舎へ歩み寄り、手をそっと壁に触れた。 ひんやりとした感触の中に、確かに「生き返ろうとする力」を感じる。 心臓の奥で、彩音の笑顔がよみがえった。──「未来は、あなたたちに託す」 彩音の声が聞こえたような気がした。「……そうだね。もう逃げない。これからは、ここでみんなと一緒に」 美佳の声は震えていたが、確かな決意に満ちていた。 校庭の空気が少しずつ温まり、朝の陽光が彼らの影を長く伸ばしていく。 それはまるで、新しい一日の始まりを告げる鐘の音のようだった。
崩れ落ちる廃工場を背に、夜気の冷たさをまといながら、美佳たちは走り抜けた。 出口を飛び出した瞬間、胸を満たしたのは、鉄と埃の匂いではなく──澄み切った空気だった。 振り返れば、工場の屋根が大きく崩れ落ち、土煙が立ち上っている。 それでも不思議と恐怖はなかった。 まるで建物自身が「役目を終えた」と告げて、眠りについたかのように思えた。「……終わったのかな」 ユリが肩で息をしながら呟く。 美佳は答えず、都市の方へ視線を向けた。 そこには、見慣れたはずの藍都学園都市が広がっていた。 けれど、いつもの夜景とは違っていた。 街路樹に沿って小さな光が帯のように流れ、ビル群の窓が一斉に明滅し、遠くまで続く光の網が都市全体を覆っていた。 まるで都市そのものが呼吸をしているように、柔らかな明滅を繰り返している。「これ……LAPISが……?」 玲が言葉を飲み込む。 東郷は無言で夜景を見つめていた。彼の瞳に映る光は、どこか感慨深げで、そして寂しげだった。「俺たちが選んだ答えを……都市が受け取ったんだろうな」 純の低い声が響く。 美佳は胸元に触れる。 彩音から託された鍵が、まだ温もりを残していた。──ほんとうに、これでよかったのかな。 わたしたちの選択は、誰かを傷つけることはなかった? 問いが胸の中に浮かんでくる。 だが、同時に胸の奥で小さな確信も芽生えていた。 誰かが問いを投げかけ、誰かが答える。 その繰り返しが未来を形づくるのだと。「……行こう」