LOGIN生真面目な女性弁護士・千夏は、叔母に頼まれ、彼女の娘であり、千夏の従姉妹でもある梨花を調べることに。 尾行してみると、梨花は金髪の怪しげな男と密会をしていて……。 梨花の事件が解決したのも束の間。なんと、その金髪男が職場の弁護士事務所に現れ、千夏の助手に……!?
View More店から出る途中、成也が足を止めた。「先生、すぐに終わるから買い物していい?」「いいですけど、買い過ぎないでくださいよ。これから塾にも行くんですから」「分かってるって」「では、外で待ってますからね」 千夏は成也を残し、外へ出る。秋特有の哀愁に満ちた風が、千夏の頬を撫でる。「確か……あの辺に……。あった」 上を見回すと、雨よけについてる監視カメラを見つける。栄作が将馬を店内に連れ戻すのをとらえたカメラだ。「んー、場所的にここら辺、かな?」 数歩進んで立ち止まると、再び監視カメラを見上げる。普段は気にも留めないが、こうしてまじまじと見ると、大きな目に見えて少し気味が悪い。それも単なる単眼ではなく、映像を記録する機能まであるのだから尚更だ。こうしてじっと見ている千夏の姿も、淡々と記録されていると思うと居心地の悪さを覚える。(有益な情報くれてるのに、こんなこと思うなんてね) 自分の思考に内心苦笑すると、店先にある銀杏木《いちょうのき》の元へ行き、監視カメラの死角へ行く。あの大きな目の視界から外れたと思うと、少しほっとする。「先生、おまたせ」 茶色の紙袋を小脇に抱えた成也は、千夏を見つけると小走りで駆け寄る。その様は無邪気な子供のようで微笑ましい。「何買ったんですか?」「弁護士助手の教科書だよ」 気になりはしたが、しつこく聞くのも躊躇われる。そうですかと答えると、スマホで地図アプリを起動し、ふたりが通っていた塾へのルートを出した。「次は塾に行きましょうか」「うん。きっと同じ学校に通ってる子もいるだろうから、事故死のことも聞けるかもね」「そう、ですね……」 二十歳にすらならずに亡くなった正孝のことを考えると、心が痛み、自然と俯いてしまう。「先生って優しいね」「え?」「だって、若いのに死んじゃった正孝くんが可哀想とか考えてたんでしょ」 図星を突かれ、千夏は丸くした目を成也に向ける。成也は苦笑しながらその顔を見つめる。「本当に分かりやすいね、先生は。そういうとこ、好きだよ」「からかわないでください!」「はははっ、ごめんって。ほら、行くよ」 千夏が顔を真っ赤にして言うと、成也は先に歩き出す。千夏は隣に並んで歩くと、成也の横腹を突いた。驚いた成也が妙な悲鳴をあげ、千夏は笑う。
「俺が知ってるのは、3年生の男子生徒が何日か前に事故で死んだってだけだ。生徒の顔も名前も知らん。ついでにどんな事故かもな」「事故ですか……。ありがとうございます」「まぁ俺が聞いたのは噂だがな。しかしなんでわざわざそんなこと聞くんだ? その事故死と万引きが関係あるわけじゃあるまいし」 栄作が疑問を口にすると、ふたりは顔を見合わせ、千夏は緑茶をひと口飲んで口を湿らせた。「実は、亡くなったのはさっき映像で叩かれてた子かもしれないんです」「どういうことだ?」「常陰くんは親友の正孝くんが亡くなったショックで、万引きをしたと言っていました。この本屋にはふたりで何度も来たから色々思い出して、気づいたら本を持ったまま外へ出てしまったと」「へぇ。で、姉ちゃんはそれを信じるってのかい?」 栄作は挑発的な目で千夏を見る。今度はたじろぐことなく、首を横に振った。「信じるためにここへ来ましたが、証拠によっては信じません」「弁護士ってのは、無条件に信じて罪人を無実にするろくでもない連中だと思っていたが、考えを改めなきゃいけねーな」 栄作は優しい笑みを見せながら言うと、気持ちを切り替えるように短く息を吐いた。「どうもその話は嘘臭いな。俺が知ってるこのガキンチョは、そんな優男じゃねーよ。アイツに「勉強熱心だな」って声をかけたことがあるんだが、「今のうちに勉強しとかないと安定した将来はありませんから。自営業もいいだろうけど、埃まみれの本に囲まれて暮らすなんてまっぴらごめんですから」なんて言いやがったんだ。他でどう振る舞ってるのか知らんが、人間としては落第生だね、あれは」 当時のことを思い出したのか、栄作は緑茶をひと口飲んで舌打ちをする。「なるほど、確かに褒められた人間じゃありませんね。ところで、万引きした時の映像って見られますか?」 成也は顔を上げず、手帳に何か書き込みながら質問をする。「あぁ、本題はそっちだったな。ちょっと待ってろ」 栄作は再びパソコンを操作してふたりに画面を見せる。参考書売り場で落ち込んだ様子の将馬が本を2冊手に取ると、フラフラした足取りで画面から消える。画面が切り替わり、外から映した店の出入り口。本を抱えた将馬は絶望したような顔で店を出るが、追いかけてきた店主に腕を掴まれて店内へ引っ張られた。「うーん、一応行動と証言は一致してますね……」
「倉田さんがいなかったということは、当時はさっきの佳子さんが店番をしてたんですか?」「いや、せがれの俊二だ。その日は有給消化で休んでたからな、病院に行ってる時だけ店番を頼んだんだ。そうだ、証拠だってあるぞ」 栄作は立ち上がると、店からりんごのマークがついた黒いノートパソコンを持ってきた。栄作は気難しそうな顔をしてパソコンを操作する。「お、あった。これを見てくれ」 栄作がノートパソコンをふたりに向ける。参考書売り場の防犯カメラの映像だ。女子中学生を連れた父親が何冊か本を持って画面から消えるのと同時に、将馬と背の低い少年が参考書の前に来た。彼が正孝だろう。カメラに背を向けて顔は分からないが、将馬に怯えているのは不自然なほどの猫背から伝わってくる。『お前レベルのバカは中学生の過去問をやり直さないとダメ。今の学力じゃ大学受験の勉強しても分かんないだろうから、まずは基礎から始めないと。分かったか? おバカさん』 将馬は嘲笑いながら、分厚い過去問集で正孝の頭を何度も叩く。『いたっ、う、うん、そうだね……。これを買うよ』 正孝がビクビクしながら過去問集を受け取ろうとすると、今度は頬を叩き、押し付けるように手渡した。将馬が画面から消えるのとほぼ同時に、30代の男性が駆け寄ってくる。そこまで見ると栄作がパソコン画面を自分の方へ戻した。「なんて酷い……」「そういやこいつらが通ってる学校で、男子生徒がひとり死んだな。このチビじゃなきゃいいんだが……」 栄作はしかめっ面で画面を見つめる。『気をつけろよ。俺はここに異動してきてそんなに経ってないけど、それなりに経験は積んできた。あの優等生は何か隠してる。色々調べておけよ』「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」 ふと弘泰の言葉を思い出し、千夏は前のめりになる。「いやぁ、詳しくって言っても、大したことは知らないぞ?」 栄作は千夏に少したじろぎながら言うと、咳払いをする。成也はそんな千夏を横目で見ながら、手帳を開いた。
「ついてきな」「はい」 栄作の案内で、母屋の居間へ行く。そこでは薄緑のエプロンをつけた30代の女性が、針仕事をしている。素朴な美を湛えた顔は、見ているだけで癒やされる。どうやらシャツのボタンをつけ直しているようで、手には真っ白なワイシャツが握られている。「お客様ですか。今お茶を淹れますね」「それならこの前彼岸でもらったお茶があったろう。それでいい。佳子さん、悪いが少し店番を頼むよ」「はい、分かりました」 佳子はにこやかに返事をすると裁縫箱に道具をしまい、丁寧にたたんだワイシャツと共に部屋の隅に置いた。千夏達に笑いかけると、台所へ行く。「綺麗な方ですね。息子さんの奥様ですか?」 成也が質問すると、栄作は目を細め、嬉しそうに何度も頷く。「あぁ、そうだ。器用で気立てが良くてね。不器用な息子にも、気難しい俺にも、勿体無い嫁だ」「あら、それこそ勿体無いお言葉ですよ」 戻ってきた佳子は、頬をほんのり染めながら言うと、ペットボトルの緑茶3本と茶菓子を置いて店へ出た。 栄作は緑茶をひと口飲んで咳払いをすると、真顔になってふたりの前に参考書を並べる。ほとんど東大対策の参考書で、1冊だけ高校受験の過去問集だ。他の参考書は2,3センチほどの厚さで表紙もシンプルだが、過去問集だけが、桁違いの厚さとカラフルな表紙で浮いている。「あのボンボンは、よくうちで参考書を買っていくんだ。主に、こんなのをな。ちなみにこの本は、あのボンボンが盗んでいったのと同じ本だ」 栄作は東大対策の参考書を指先で軽く叩いた。そして過去問集を見て複雑そうな顔をする。「そちらの過去問集は、常陰くんとどんな関係があるのですか? 調書のように優等生なら、必要ないように思えますが……」 千夏が遠慮がちに聞くと、栄作は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。「あのガキンチョ、確か3ヶ月くらい前からだったか? 大人しそうな子を連れてくるようになったんだ。背がちっこくて、いつも俯いてたっけな。離れてるから何言ってたから知らねーが、馬鹿にしてるように見えたな。んで、半月前の木曜日、俺は病院に薬もらいに行ってていなかったんだが、あのガキンチョがこれ買って、おとなしい子の頭を叩いてたんだとよ」 栄作はイラ立ちを隠さず、過去問集の表紙を軽く叩いた。テレビすらついていないせいか、その音はいやに大きく聞こえ、千夏は