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10話

Penulis: 東雲桃矢
last update Tanggal publikasi: 2026-06-02 21:15:00

 炎天下の中、やたら上機嫌な金髪の不良青年と、陰鬱な表情を浮かべたスーツ姿の小柄な女性が歩いている。

(どうしてこんなことに……)

 スーツ姿の女性、本条千夏は大きなため息をつく。

「どうしたの? 暑さにやられちゃった?」

 長身の彼は少しかがみながら千夏の顔を覗き込む。千夏はため息の原因である成也を睨みつけた。

「なんで私があなたのスーツ選びに付き合わなければいけないんですか」

「所長命令でしょ」

 成也が即答すると、千夏はガックリと肩を落とした。

 事の始まりはほんの15分前のこと。

「あなたが梨花経由でここに辿り着き、働き始めたのはよくないことだけどこの際よしとして、その髪色と服装どうにかしてください。いくら雑用係だからってそのような格好では困ります」

「髪色は自分だけでもどうにかなるけどさ、スーツはよく分かんないんだよね。ダブルだとかなんとかあるみたいだけど。先生一緒に選んでよ。てか今から買いに行こ」

「ちゃんと敬語も使ってください。それと、スーツくらいひとりで買いなさい」

 ピシャリと言い放つと、成也はすねた子供のように唇を尖らせ、じぃっと千夏を見つめる。

 千夏が何か言い
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  • Asymmetry   51話

     店から出る途中、成也が足を止めた。「先生、すぐに終わるから買い物していい?」「いいですけど、買い過ぎないでくださいよ。これから塾にも行くんですから」「分かってるって」「では、外で待ってますからね」 千夏は成也を残し、外へ出る。秋特有の哀愁に満ちた風が、千夏の頬を撫でる。「確か……あの辺に……。あった」 上を見回すと、雨よけについてる監視カメラを見つける。栄作が将馬を店内に連れ戻すのをとらえたカメラだ。「んー、場所的にここら辺、かな?」 数歩進んで立ち止まると、再び監視カメラを見上げる。普段は気にも留めないが、こうしてまじまじと見ると、大きな目に見えて少し気味が悪い。それも単なる単眼ではなく、映像を記録する機能まであるのだから尚更だ。こうしてじっと見ている千夏の姿も、淡々と記録されていると思うと居心地の悪さを覚える。(有益な情報くれてるのに、こんなこと思うなんてね) 自分の思考に内心苦笑すると、店先にある銀杏木《いちょうのき》の元へ行き、監視カメラの死角へ行く。あの大きな目の視界から外れたと思うと、少しほっとする。「先生、おまたせ」 茶色の紙袋を小脇に抱えた成也は、千夏を見つけると小走りで駆け寄る。その様は無邪気な子供のようで微笑ましい。「何買ったんですか?」「弁護士助手の教科書だよ」 気になりはしたが、しつこく聞くのも躊躇われる。そうですかと答えると、スマホで地図アプリを起動し、ふたりが通っていた塾へのルートを出した。「次は塾に行きましょうか」「うん。きっと同じ学校に通ってる子もいるだろうから、事故死のことも聞けるかもね」「そう、ですね……」 二十歳にすらならずに亡くなった正孝のことを考えると、心が痛み、自然と俯いてしまう。「先生って優しいね」「え?」「だって、若いのに死んじゃった正孝くんが可哀想とか考えてたんでしょ」 図星を突かれ、千夏は丸くした目を成也に向ける。成也は苦笑しながらその顔を見つめる。「本当に分かりやすいね、先生は。そういうとこ、好きだよ」「からかわないでください!」「はははっ、ごめんって。ほら、行くよ」 千夏が顔を真っ赤にして言うと、成也は先に歩き出す。千夏は隣に並んで歩くと、成也の横腹を突いた。驚いた成也が妙な悲鳴をあげ、千夏は笑う。

  • Asymmetry   50話

    「俺が知ってるのは、3年生の男子生徒が何日か前に事故で死んだってだけだ。生徒の顔も名前も知らん。ついでにどんな事故かもな」「事故ですか……。ありがとうございます」「まぁ俺が聞いたのは噂だがな。しかしなんでわざわざそんなこと聞くんだ? その事故死と万引きが関係あるわけじゃあるまいし」 栄作が疑問を口にすると、ふたりは顔を見合わせ、千夏は緑茶をひと口飲んで口を湿らせた。「実は、亡くなったのはさっき映像で叩かれてた子かもしれないんです」「どういうことだ?」「常陰くんは親友の正孝くんが亡くなったショックで、万引きをしたと言っていました。この本屋にはふたりで何度も来たから色々思い出して、気づいたら本を持ったまま外へ出てしまったと」「へぇ。で、姉ちゃんはそれを信じるってのかい?」 栄作は挑発的な目で千夏を見る。今度はたじろぐことなく、首を横に振った。「信じるためにここへ来ましたが、証拠によっては信じません」「弁護士ってのは、無条件に信じて罪人を無実にするろくでもない連中だと思っていたが、考えを改めなきゃいけねーな」 栄作は優しい笑みを見せながら言うと、気持ちを切り替えるように短く息を吐いた。「どうもその話は嘘臭いな。俺が知ってるこのガキンチョは、そんな優男じゃねーよ。アイツに「勉強熱心だな」って声をかけたことがあるんだが、「今のうちに勉強しとかないと安定した将来はありませんから。自営業もいいだろうけど、埃まみれの本に囲まれて暮らすなんてまっぴらごめんですから」なんて言いやがったんだ。他でどう振る舞ってるのか知らんが、人間としては落第生だね、あれは」 当時のことを思い出したのか、栄作は緑茶をひと口飲んで舌打ちをする。「なるほど、確かに褒められた人間じゃありませんね。ところで、万引きした時の映像って見られますか?」 成也は顔を上げず、手帳に何か書き込みながら質問をする。「あぁ、本題はそっちだったな。ちょっと待ってろ」 栄作は再びパソコンを操作してふたりに画面を見せる。参考書売り場で落ち込んだ様子の将馬が本を2冊手に取ると、フラフラした足取りで画面から消える。画面が切り替わり、外から映した店の出入り口。本を抱えた将馬は絶望したような顔で店を出るが、追いかけてきた店主に腕を掴まれて店内へ引っ張られた。「うーん、一応行動と証言は一致してますね……」

  • Asymmetry   49話

    「倉田さんがいなかったということは、当時はさっきの佳子さんが店番をしてたんですか?」「いや、せがれの俊二だ。その日は有給消化で休んでたからな、病院に行ってる時だけ店番を頼んだんだ。そうだ、証拠だってあるぞ」 栄作は立ち上がると、店からりんごのマークがついた黒いノートパソコンを持ってきた。栄作は気難しそうな顔をしてパソコンを操作する。「お、あった。これを見てくれ」 栄作がノートパソコンをふたりに向ける。参考書売り場の防犯カメラの映像だ。女子中学生を連れた父親が何冊か本を持って画面から消えるのと同時に、将馬と背の低い少年が参考書の前に来た。彼が正孝だろう。カメラに背を向けて顔は分からないが、将馬に怯えているのは不自然なほどの猫背から伝わってくる。『お前レベルのバカは中学生の過去問をやり直さないとダメ。今の学力じゃ大学受験の勉強しても分かんないだろうから、まずは基礎から始めないと。分かったか? おバカさん』 将馬は嘲笑いながら、分厚い過去問集で正孝の頭を何度も叩く。『いたっ、う、うん、そうだね……。これを買うよ』 正孝がビクビクしながら過去問集を受け取ろうとすると、今度は頬を叩き、押し付けるように手渡した。将馬が画面から消えるのとほぼ同時に、30代の男性が駆け寄ってくる。そこまで見ると栄作がパソコン画面を自分の方へ戻した。「なんて酷い……」「そういやこいつらが通ってる学校で、男子生徒がひとり死んだな。このチビじゃなきゃいいんだが……」 栄作はしかめっ面で画面を見つめる。『気をつけろよ。俺はここに異動してきてそんなに経ってないけど、それなりに経験は積んできた。あの優等生は何か隠してる。色々調べておけよ』「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」 ふと弘泰の言葉を思い出し、千夏は前のめりになる。「いやぁ、詳しくって言っても、大したことは知らないぞ?」 栄作は千夏に少したじろぎながら言うと、咳払いをする。成也はそんな千夏を横目で見ながら、手帳を開いた。

  • Asymmetry   48話

    「ついてきな」「はい」 栄作の案内で、母屋の居間へ行く。そこでは薄緑のエプロンをつけた30代の女性が、針仕事をしている。素朴な美を湛えた顔は、見ているだけで癒やされる。どうやらシャツのボタンをつけ直しているようで、手には真っ白なワイシャツが握られている。「お客様ですか。今お茶を淹れますね」「それならこの前彼岸でもらったお茶があったろう。それでいい。佳子さん、悪いが少し店番を頼むよ」「はい、分かりました」 佳子はにこやかに返事をすると裁縫箱に道具をしまい、丁寧にたたんだワイシャツと共に部屋の隅に置いた。千夏達に笑いかけると、台所へ行く。「綺麗な方ですね。息子さんの奥様ですか?」 成也が質問すると、栄作は目を細め、嬉しそうに何度も頷く。「あぁ、そうだ。器用で気立てが良くてね。不器用な息子にも、気難しい俺にも、勿体無い嫁だ」「あら、それこそ勿体無いお言葉ですよ」 戻ってきた佳子は、頬をほんのり染めながら言うと、ペットボトルの緑茶3本と茶菓子を置いて店へ出た。 栄作は緑茶をひと口飲んで咳払いをすると、真顔になってふたりの前に参考書を並べる。ほとんど東大対策の参考書で、1冊だけ高校受験の過去問集だ。他の参考書は2,3センチほどの厚さで表紙もシンプルだが、過去問集だけが、桁違いの厚さとカラフルな表紙で浮いている。「あのボンボンは、よくうちで参考書を買っていくんだ。主に、こんなのをな。ちなみにこの本は、あのボンボンが盗んでいったのと同じ本だ」 栄作は東大対策の参考書を指先で軽く叩いた。そして過去問集を見て複雑そうな顔をする。「そちらの過去問集は、常陰くんとどんな関係があるのですか? 調書のように優等生なら、必要ないように思えますが……」 千夏が遠慮がちに聞くと、栄作は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。「あのガキンチョ、確か3ヶ月くらい前からだったか? 大人しそうな子を連れてくるようになったんだ。背がちっこくて、いつも俯いてたっけな。離れてるから何言ってたから知らねーが、馬鹿にしてるように見えたな。んで、半月前の木曜日、俺は病院に薬もらいに行ってていなかったんだが、あのガキンチョがこれ買って、おとなしい子の頭を叩いてたんだとよ」 栄作はイラ立ちを隠さず、過去問集の表紙を軽く叩いた。テレビすらついていないせいか、その音はいやに大きく聞こえ、千夏は

  • Asymmetry   47話

    「本屋の次は、学校の前に塾に行ったほうが良さそうだね」「そうですね、そのルートで行きましょうか」 千夏は資料をしまうと、成也と共に警察署を後にした。 倉田書店は警察署から歩いて15分のところにある。こじんまりした小さな木造建築で、”倉田書店”と書かれた手書きの看板がかけてある。店内に入ると客はまばらで、初老の男性が奥にあるレジカウンターの向こうで座っている。彼が店主の倉田栄作だろう。千夏達に気づくと、店主はゆっくり立ち上がってこちらへ来る。近くに来ると背が高く、175センチの成也とほとんど変わらない。「あなた方は……」「初めまして、笹塚法律事務所の本条千夏と申します。こちらは助手の末安さんです」「弁護人ねぇ……。あの盗人を無罪にしにきたってわけか」 千夏の自己紹介を聞くなり、栄作は軽蔑の目を彼女に向け、鼻で笑った。「いえ、違います。ちゃんと罪を償わせるために、彼がどんな犯罪をどんな風にしたのか聞きに来たんです」 成也は1歩前に出ると、真顔で栄作を見つめながら言う。すると栄作は品定めをするような目で、成也をじぃっと見据える。(ここは末安さんに任せたほうが良さそうね) 加害者の弁護士というと、被害者は栄作のように警戒して何も話さないことがよくある。千夏は彼らを説得するのが苦手で、どう言っていいのか未だに分かっていない。「へぇ、じゃあ例えばあのガキンチョが万引き以外にも犯罪をしてたって言ったら信じるのかい?」「すぐには信じません。調査をして証拠が出たら信じます。もし仮に、常陰くんが人を殺したというのなら、調査します。証拠が出たら信じるし、出なかったら骨折り損だったと笑うだけです」 挑発的に言う栄作に、成也は淡々と答える。栄作はそんな成也を再び見据えると、急に笑いだした。「はははっ、兄ちゃんなかなか肝が据わってるな。どれ、信じて話してみるとするかな。そこの姉ちゃんにも聞いとくが、あのガキンチョを無罪にする気はねえんだな?」「はい、もちろんです。罪を犯した者は裁かれなければいけません」 急に話を振られて驚いたが、千夏は力強く答える。それを見た栄作は満足げに何度も首を縦に振ると、参考書売り場に行って何冊か手に取って振り返る。

  • Asymmetry   46話

    「へぇ、万年筆なんて使ってるのか」「先生がプレゼントしてくれたんです。書き心地もいいから、気に入ってるんですよ。何より、本条千夏先生からのプレゼントですしね」 成也は万年筆を唇にあて、例の完璧な笑顔を見せた。その笑みで、弘泰は笑顔の意味と成也の気持ちを悟った。(あぁ、この笑顔は威嚇みたいなものか。んで、こいつも千夏が好きなんだな……) 手強そうなライバルの出現に、弘泰は顔をしかめる。「へぇ、千夏からのプレゼントか。どおりで安っぽいわけだ」 弘泰が精一杯の強がりを言った途端、成也は険しい表情に変わった。「あんたさ、本当に先生の同級生? 俺より年下に見えるけど」「なんだよ、急にデカい態度取りやがって」 氷のように冷たい声にゾッとするも、それを表に出さないように強気で言い返す。「俺先生より3つ下なんだけどさ、子供っぽすぎるよ、あんた」「うっせ、童顔なの気にしてんだからあんま言うな!」 コンプレックスの指摘を非難をすると、成也はうんざりするような、この場が重苦しくなるようなため息を吐いた。「顔もそうだけどさ、俺が言ってるのは中身のことね。鮫島さんさ、先生のこと好きでしょ?」「はぁっ!? ば、馬鹿じゃねーの! 俺が千夏のこと好きとか、あ、ありえねーからっ!」 図星を突かれ、ついどもってしまう。成也はそんな弘泰を見て、冷笑を浮かべる。「わっかりやすいなー。言っとくけど、そんな態度じゃ先生に嫌われるよ? 女の子のことをお前呼ばわりとか論外だから。じゃあね、童貞童顔くん」「んだとぉ!?」 顔を真っ赤にする弘泰を気にすることなく、成也はお騒がせしましたと言って生活安全課から出ていった。 廊下に出ると、千夏が長椅子に座って資料を読んでいる。真剣な顔で資料に目を通す千夏の姿に、成也の頬が緩む。「待っててくれたんだね、先生」「忘れ物はありましたか?」「うん、あったよ。この後どこ行く?」「常陰さんについてもっと知る必要があります。まずは被害にあった倉田書店へ行きましょう。その後は正孝くんという生徒について調べます」 千夏は資料を指先でなぞりながら、予定を話す。成也は隣に座り、資料をのぞき込んだ。資料には簡易的な地図も書かれており、学校と倉田書店の間には塾があった。その塾には将馬と正孝も通っていたようだ。

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